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――いつまでも ずっと――<29>

 隼人の痩せて肋骨が浮き上がった腹が、せわしく上下しているかと思った瞬間、それはゆっくりとなり、やがて止まってしまった。
「隼人っ!!」
 吉岡が悲鳴にも似た声を上げる。
 室内にチャイムが鳴り響く。坂上は慌てふためき、おろおろと部屋中を歩き回っていた。
 俺は心臓が破れそうな位、胸が苦しくなるのを堪え、急いで駆け寄った。
「吉岡、どけろっ!!」
「煩いっ!! 隼人に触るなっ!!」
 吉岡は隼人を抱きかかえ、俺の手が隼人に触れるのを阻止する。
 まるで取られそうになったおもちゃを、ひったくるように。
「今はそんな事を言ってる場合じゃないっ!! 早く心臓マッサージをしないとっ!!」
 俺の言葉にハッとなり、吉岡は隼人をその場に寝かせると、慌てて心臓マッサージを始める。俺はそれに合わせて人工呼吸を開始した。
「蓬田!! 俺の隼人に何をするっ!!」
 吉岡はまた俺を突き飛ばそうとした。しかし、寸前の所でかわす。
「だからっ!! そんな事言っている場合じゃないっ!!」
 吉岡はまるで小さな子供のようだった。
 人が生死の境を彷徨っていると言うのに、嫉妬心剥き出しだ。
 しかし、これが奴の本当の姿なのだろう。
 海外に監禁していた隼人と共有の時間を得るためには、労働しなければ成り立たない。
 例え貯金があったとしても、吉岡は贅沢志向だ。すぐに底をつくだろう。
 捩れて歪んでしまった精神を、労働する事で必死に保っていたに違いない。
「隼人……隼人……」
 髪を振り乱し、隼人の名を呼び続ける吉岡に、以前の姿を思い浮かべる事など出来なかった。
 そこに居るのは、ただ、恋に溺れた狂人――。

 その時、部屋の鍵が開き、支配人らしき人が入ってきた。
「こ、これはっ!!」
 パニックを起こした坂上は「ひぃぃー」と、情けない悲鳴を上げながらその横をすり抜け、逃げ出してしまった。
 リチャードが拘束されているのを目にして、支配人らしき人は慌ててそれを外す。
「大丈夫か!? リチャード!! なぜ……」
「話は後だ!! 父さん、大至急館内放送をっ!! ドクターを!!」
「分かった! 今、そうさせる」
 リチャードは走って部屋を出て行った。
 支配人が電話をすると、間もなく館内放送が流れた。

「――だめだ……戻ってこない……」
 涙をぼろぼろと零しながら吉岡が呟いた。
「隼人……隼人……お願いだ、俺を独りにしないでくれ……」
 愛おしそうにその身体を抱きしめた。
「諦めるなっ!! 今はそんな事をしている場合じゃないだろう!!」
 俺は吉岡の幼稚な行動に憤りを感じつつ、一向に回復の兆しを見せない隼人に焦燥感を募らせていた。
 吉岡は隼人の胸元に頬を寄せ、涙を溢れさせた。
「だめだ、鼓動が……鼓動が聞こえない」
 俺は吉岡の言葉で更に焦燥し、隼人の耳元で大きな声を出した。
「――隼人っ!! 何してる!! お前はこんな事位で逝くほどヤワじゃないだろう!! 戻って来いっ!!」
 俺は必死に人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す。
 すると吉岡は、隼人の手を握り締め、ぼんやりと天を仰いだ。
「もうだめだ……もう何しても、彼は戻ってこないよ……指先がほら、こんなに冷たい」
 掌を包むように握りながら、吉岡は力なく笑った。
「諦めたらそこで終わりだっ!! 吉岡、お前それでも隼人を愛してると言えるのか!! お前だって隼人が愛しいんだろう!?」
 俺の言葉など届いていないようだった。
 吉岡は脱力して微笑むと、虚ろな瞳で隼人の耳元で囁く。
「隼人……愛してるよ、ずっと……。俺もすぐに逝くよ、独りでなんて逝かせやしないから。寂しくなんて無いよ、ね? だけどせめて、一度だけでも名前で呼んで欲しかったな。そっちに逝ったら『晃』って、呼んでくれるよな?」
 吉岡は傍に置いてあった銃を自分のこめかみに突きつけ、引き金に指を伸ばした。
「なっ!? 早まるな、吉岡!!」
「もう、何も心配は要らない。お前に奪われるんじゃないかと、肝を冷やす事もね。だって隼人と俺は、これからはずっと……永遠に一緒に居るんだから。最期の情けだ……この抜け殻だけは返してやるよ」
 ふっと微笑み、吉岡は引き金を引いた。パン、と、鈍い銃声が部屋中に轟く。
 止める隙など無く、あっけなく吉岡はその場に倒れこんだ。
「――――っ、どうして……」
 俺は呆然としながら転がる吉岡を見下ろした。幸せそうに微笑み、事切れている。
 最初に、協力してくれていたと見せ掛けていた頃とは違う、本当に満足したような、穏やかな笑みを湛えながら……。
 次第に生暖かい血液が俺の膝元を濡らしていった。

 吉岡は、本当に隼人を愛していたのだろう。
 こんな形で会わなければ、もっと理解出来たかもしれない。
 正々堂々と来られたなら、正直、俺に勝ち目があったか……。
 だけど、吉岡は愛し方を間違った。人として、してはいけない事をしてしまった。
 俺は、そんな彼を哀れとは思っても、やはり許すことは出来ない……。
 しかし、横たわる吉岡に同情している暇は無かった。
 こうしてる間にも隼人の体温は下がっている。
 助かる可能性がある方を優先するのは、当然だと自分に言い聞かせながら心臓マッサージと人工呼吸を、必死に交互に繰り返す。
 俺の掻いた汗が、隼人の顔面に滴り落ちるが、ぴくりとも動かない。
 それでも繰り返し続ける。戻って来いと祈りながら……。

 すると見慣れない一人のアジア系の男が近寄ってきて、そしてもう一人、見覚えのある人物が、俺に声を掛けてきた。
「ギ……ギダさん!?」
「お前は、柳瀬!?」
 その男性は、柳瀬の方を怪訝そうに眺めながら
「隆、知り合いか?」
「え、うん……元、職場の先輩……。お願いだよ、直哉!! 助けてあげて」
「……そうか、手は尽くす。しかし、救急車は呼んでおけ」
 支配人は「もう呼びました」と、おろおろと俺達を見守っていた。
 そこにリチャードが勢い良く部屋に飛び込んできた。
 その腕には、AEDが抱えられている。
「父さん!! ドクターは?」
 息を切らしながら、支配人に詰め寄った。
「こちらの方が、ドクターだそうだ」
 支配人が目線で示すと、リチャードはAEDをその男性に預けた。
「お願いします、どうか……」
「分かった、君達は下がっていなさい」
 直哉という男性は、手早く準備すると「君も下がって」と、隼人の背中に板のような物を入れると、AEDのスイッチを入れてパットを隼人の胸に貼り付ける。
 キィーンと何かの高音が聞こえた。
 医者はAEDに付属している画面に目を遣り、スイッチを押した。
 バチッと音がして、隼人の身体が仰け反る。
 しかし、隼人はそれからピクリともしない。医者はまた画面に目を遣る。
「……まだだ、心臓マッサージ繰り返すぞ、君も協力したまえ」
「――はいっ!!」
 俺は必死にその人に合わせ、人工呼吸を繰り返す。
 細かく波形は出ているものの、医者は難しい顔をしている。
 どうやら、それだけでは駄目なようだ。
 頑張れ! 頑張れ!! と、心で唱える。
 AEDを使用してから何度目かの時だった。
 微かに隼人から呼気が吐き出される。と、同時に医者の声がした。
「……よし! 動き出したっ!!」
 汗だくになりながらその医者は、画面に映し出された波形を見ると笑顔になり、俺の肩を叩いた。
「良く頑張った。しかし、まだ油断は出来ない、何時止まってもおかしくない状態だ」
 ほっと息を吐き出すと、涙が滲んだ。
(隼人、良かった……でもまだ油断はできない。頼む、頑張ってくれ!!)
 祈るように隼人を抱き締めた。先程まで血の気を失っていた頬が血色を取り戻し、力強く胸を上下させ呼吸し、心音が規則正しく聞こえた。
 そこにタイミング良く、担架を持っった救急隊員が隼人に駆け寄り、医者の話を聞きながら、ばたばたと手早く準備すると、隼人は運ばれて行った。



                   ――to be continued――

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