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お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

――隣人がおかしな件について――<15>

 リビングの横を抜けると、広いキッチンとダイニングが見える。
 ダイニングテーブルには、彩が鮮やかな洋食が置かれていた。
 トーストしたパンの香りや、スクランブルエッグにはバターが使用されているのだろう、その香が漂うと食欲がそそられる。
 サラダは瑞々しく、シャキっと歯応えがありそうだ。
 青葉は海里に席を促すと、向かい側に座る。
「じゃ、食べようか? 頂きます」
 手を合わせ、挨拶をする青葉が新鮮に映る。
 海里もそれに合わせ「頂きます」と、手を合わせた。
 食事も中ほどを過ぎた頃、黙々と食べているのもどうかと思い、海里は口を開く。
「あのさ……やっぱ一人でも食事前って、手を合わせる?」
「ん? ああ、そうだけど?」
「そっか、俺、忘れてた。うちの婆ちゃん、結構厳しかったのに」
「なら、思い出せて良かったな? 食べ物に対する礼儀だからね」
「うん、まぁね。婆ちゃんも同じ事言ってた」
 海里はふと、今まで思っていたことを訊こうと思い
「アンタさ……」
「うん、その『アンタ』って言うの、実はあんまり気分良くないんだよね。名前で呼んでくれる?」
 確かに世話になりっぱなしの人に、アンタも無いかと思い
「じゃあ、青葉さんは……」
「その、『青葉さん』っても嫌だな」
「アンタ我侭だな! じゃあ何て呼べば良いんだよ!?」
「大成でいいよ」
「いきなり呼び捨てるわけに行かないだろ? それに年上の人を……」
「いや? 別に構わないけど?」
「分ったよ、もう……。これじゃ話出来ないから、呼び捨てるからな?」
「どうぞ?」
 青葉は、機嫌が良さそうに微笑んだ。
 海里はそれが何故か分らないまま、話を続ける。
「んじゃあ、まずはさっきの話の続きで、大成が使ってる洗濯洗剤って市販のやつ?」
「ああ……? ごく普通の……アチョップだけど?」
「柔軟剤は?」
「…………そんなの訊いて、どうするんだ?」
「いや、なんかいつもア……大成から好い匂いするから、何使ってるのかと思って」
「……ふーん?」
 青葉は首を横に向けると、自分の腕の辺りをクンクンと嗅ぐ。
「柔軟剤は、確か……モアモア~だったかな?」
 ……あれ? 俺と全く同じじゃね?
 あ、そっか。洗剤はともかく、柔軟剤は色々香があるからな。
 きっとその種類が違うんだな。今度、探してみよう。
「そっか。今度、探してみるよ」
 海里はそれに納得すると、箸を運ぶ。
「でさ、もう一つ。大成は大家の婆ちゃんに育てられたんだよな?」
「ああ。それが?」
「で、弟は生まれてすぐ……亡くなってしまったって聞いた」
 青葉は首を捻り、海里が言わんとする事を考えている様子だ。
「俺が言いたいのは、俺の事、弟みたいに思ってるかって事」
「そうか、なるほどね……」
「いや、答えになってないから! どうなのよ、実際。大成は、婆ちゃんにはそう言ったんだろ? ゲイを装って、俺をからかって楽しんでるだけじゃないのか? 愛梨さんの事、気にしてたみたいだし……」
「――そうだ、と、答えたら?」

 その答を聞いた途端、胸の奥に重い石を投じられた感覚に陥る。
 なぜか涙が零れ落ちそうになり、海里は混乱した。
 何だよ、やっぱそうじゃん! 
 って、何で俺、泣きそうになってるんだよ!?
 愛梨さんの事、取られそうだからか……? 
 そうだ、そうだよ、じゃなかったらこんなに哀しい気持ちになったりなんかしないって!!
 だったらもう、逢わせない様にすれば良いじゃん……。
 でも、今度は、愛梨さんを狙って、付いてくるかも……?
 そしたら俺は……この人には敵わない……。
 地位や財産もそうだし、見た目だってずっと俺の方が劣ってるし……。
 海里は落ち込み、押し黙ってしまった。
 すると青葉はクスクスと笑う。
「な、何だよ! 人が泣きそうになってるって言うのにっ!!」
「どうして泣きそうになるの?」
「そりゃ、アンタに敵わないからに決まってるだろ!!」
「ふーん。何が?」
「地位も、財産も!! 男としての技量だって……」
「そんなに自信ないんだ?」
「当たり前だろう!! 俺はチビだし、金だって持ってない……まだ駆け出しのサラリーマンだし、愛梨さんを幸せにする自信なんか……」
「――……そんなに彼女の事が……好きなのか?」
 青葉が眉を寄せたのに気が付かず、海里は自分に言い聞かせるように言い放った。
「ああ、好きだよ!! 悪いかよ!!」
「…………ふーん」
「ふーんって! アンタにとっちゃ大した事無いかもしれないけど、俺にとっては一大事なんだよ!!」
「じゃあ、違うと答えたら?」
「は? 何言ってるんだよ? アンタも愛梨さん狙いなんだろ?」
「また……アンタに戻ったな」
 青葉は眉根を寄せると、口の端だけ上げて笑みを作る。
 そして、大きな溜息をついた後に続けて
「俺は前から……ずっと君が好きだと言ってるだろう? まだ信じないわけ?」
「んなの、信じられるかよ!! だってアンタ、婆ちゃんに弟みたいでって言ったんだろ! 第一、俺、男だけど? 普通の恋愛対象は、男は女だろが!」
「全く君には困ったもんだ……。それは昔の考えの妙子さんに本当の事言って、脅かせたくなかったから、そう言ったまでで……。どうして常識で物事を考える?」
「そりゃ当然だろう!? だって普通は……」
「普通は……ねぇ。それ、君の口癖だよね?」
「え?」
「そう、君は気が付いていない事が多すぎる。その普通という常識に囚われ過ぎてね」
 海里は青葉の言葉を反芻する。
「常識に囚われすぎて……?」
「そう。男は皆、女性が好きだと思い込んでいる。と言うか、君に関しては思い込もうとしてるように見えるが?」
「思い込もうとなんかしてない! 実際、そうだろ? 女の身体見たらムラムラするし!!」
「それが真実を見えなくさせてしまっている原因だという事にも、気が付いていない。それはただの本能だ」
「な……? どういう事だよ?」
 青葉は海里の腕を引き、顔を寄せた。
 青葉からあの好い香が漂ってくると、途端に心臓が高鳴り、顔面に熱が篭もる。
「な、何するんだよ!? 放せよ!!」
「そんなに可愛い顔して言われてもね? このまま鏡の前に連れて行ってあげようか?」
 そう言うと青葉は海里の腕を引き、パウダールームへと移動する。
「やめろ、放せ!!」
 手を振り解こうと試みるが、青葉はぎゅっと掴んだまま離さない。
 それはまるで、怒っているようにも思えた。
「真実を知るのが怖いのか?」
 振り向きもしないまま、ズカズカと歩く。
「だから何だよ、真実って!!」
「見てみるといい、今の自分の姿を」
 鏡の前に突き出され、海里は自分の姿を見た。
 顔面は耳までも赤く染め、今にも泣き出しそうな自分がそこにいる。
 ……何だよ、これ?
 俺、コイツの前で、こんな顔してたのかよ!?
 これじゃまるで…………。
 呆気に取られながら鏡を見ていると、不意に顎を捉えられ、じっと見据えられる。
「な、なんだよっ! 放せよっ!!」
「放さない」
 青葉は眉を顰めながら顔を寄せると、その唇が海里の唇に触れる。
 途端に全身に血が駆け巡り、フラフラと脱力してしまった。
「そんな顔されて、そんな反応されて、俺が勘違いしないとでも?」
「勘違いって……」
「君も、俺が好きなんじゃないかってね、期待してたよ」
「え……でも、弟みたいに思ってるって……」
「俺はそう答えたら、と訊いただけだ。弟のように思ってる訳じゃない。でも君は、あの娘が好きなんだろう?」
 青葉は海里の手を放すと、ズボンのポケットを弄り、車の鍵を取り出すと手渡す。
「……悪かったな。鍵、返すよ。車は地下の駐車場に置いてある」
「……え?」
「食事、途中で悪いが……帰ってくれ」
 青葉は踵を返すと、振り返りもせずにリビングへと姿を消した。



 海里は、ナビが案内する道順を辿り、帰路へと向かう。
 ナビの音声だけが、車内に流れていた。
 アパートに到着いたのは、夕方に近い時間だった。
 ぼんやりとしながら玄関を開け、中に入るとそのままベットに雪崩れ込んだ。
 ……俺、アイツの前で、ずっとあんな顔してたんだ?
 あれじゃまるで…………恋する乙女みたいだ。
 好きだって言う人にあんな顔されたら、勘違いだってするよな?
 俺も愛梨さんにそうされたら、脈ありと思うし……。
 愛梨さんがちょっと赤くなっただけで、実際そうだったし……。
 海里はふと、青葉の言葉を思い出す。
『君は常識に囚われすぎて、真実が見えないんじゃないか?』
 真実……? 何だよ、それ。
 それじゃまるで、俺がアイツの事好きみたいじゃん?
 そんな訳あるか! 誰があんな鬼みたいな奴……。
 いつも、からかってばかりいて、俺で遊んでるだけじゃん!
 でも……飯、作ってくれたり、体調気にしてくれたり……。
 大家の婆ちゃんの親戚から、付け狙われてるのを護ってくれたり……。
 海里の脳裏に青葉との思い出が巡ると、なぜか心がゆらゆらと揺れる。
 ――――そんな訳、あるかっての……。
 ……なんで、あんな事するんだよっ!! だから余計に混乱するんだ!!
 海里は思考を纏められないまま、枕に顔を埋めた。

 ふと気が付けば、あたり一面闇に包まれていた。
 むくりとベットから起き出し、冷蔵庫を開ける。
 ペットボトルを取り出し、底に少しだけ残った茶を飲み干す。
 ふと、青葉の感触を思い出すと、心臓が早鐘を打ち始める。
 ――なんで、こんなにドキドキすんだよ、ちくしょう!
 たかがキスじゃん!
 何をそんなに動揺する必要がある? 
 中学生じゃあるまいし、そんな事でいちいちこんなになるなんて、俺はおかしくなったのか?
 そんな事を考えていると、余計に喉が渇いてしまった。
 仕方なく財布を手にして外に出ると、隣の部屋は明かりが消えていた。
 アイツ……今日は帰って来なかったのかな?
 あ、あのマンションが本宅だっけ……。
 じゃあ、もうこっちに来る事もないのか……?
 そう思った途端、血の気が引いていくような感覚に陥り、地面が揺れるように感じる。
 ……何だ?
 どうして、こんな……?
 やっぱり……俺は…………?
 訳が分からないまま、その場に立ち尽くしてると不意に肩を叩かれ、ハッとして振り返る。
 一瞬、青葉かと思った。しかし、海里の予想はいとも簡単に外れる。
「今晩は、須藤さん。これからお出かけ?」
 この前の石山の親戚だった。後ろには十人ほどの、柄の悪そうな連中が控えている。
 前回はいとも簡単に青葉に伸されたからなのか、今度は人数を増やして来たようだ。
 海里は更に血の気が引いたように感じ、蒸し暑い筈なのに手足が冷たく感じた。
「な……! お前は確か婆ちゃんの……?」
「ああ、あの頑固ババァの娘の婿だが?」
 不敵に笑う娘婿が、憎らしく映る。
 大家の話では、ギャンブルに身を投じて遊び呆ける日々を送っている、ロクデナシだ。
 穀潰し……青葉の言葉、そのものだと思った。
「お前、婆ちゃん泣いてたぞ!! 娘さんの婿なら、どうしてそんな……」
「はぁ? ババァが泣こうが喚こうが、俺には関係ないんだよ。甘い顔してりゃ、いつまでも付け上がりやがって。挙句の果てには、こんなガキに財産譲るだと? 冗談じゃないんだよ!! 俺がどんな思いで長い間、媚び諂(へつら)って来たと思ってるんだよ? ああ!?」
「知るかよ、んな事!!」
「何粋がってんだ、小僧が! 青葉の若頭がバックに居るからって、調子こいてるんじゃねぇぞ!! そら、呼んでみろよ!! 助けてください、お願いしますぅ~ってな!!」
 周りに居た柄の悪い連中も、ニヤニヤとしながら海里を見下す。
「マジで、こんなチビで貧相なガキが相手なんすか、石山さん。俺ら物足りないっすよ?良いんですかい? こんなチビに大枚叩いて?」
「ああ、構わないさ。こいつが遺産の完全放棄すれば、そんな端下金なんぞ幾らでも回収出来る」
「じゃあ、思う存分、やらせて貰いますわ」
 ゲラゲラと下品に笑うそいつは、見るからに前の連中とは格が違う。鍛えられたような筋肉が、隆々と浮き出ていた。
 海里は、その気迫に押されそうになるのを、必死で堪えた。
 ビビるな! こんな奴等に負けるかっ!!
 脅しなんかに屈するもんかっ!!
 震える拳を握り締め、石山の娘婿に怒声を上げる。
「うるせぇ!! アイツは何も関係ねぇんだよっ!!」
「はぁ? 関係ないこと無いだろ? 金で雇ったんだろが!!」
「違う! アイツはもう来ない!!」 
「はぁーん、もう来ないねぇ。種切れって所か」
「だから! 雇ってなんか居ない! それに俺は、婆ちゃんに要らないって断ったし!!」
「ま、そりゃ利口なこった」
 石山の娘婿はニヤリと口の端を上げた。
 その顔が醜悪で、海里は顔を背ける。
「だからもう関係ないだろ!」
「だが、ババァはそんな気ぃ無いみたいだが?」
「知るかよ!! 俺は断った、もう関係ない!!」
 海里は掴まれた肩の手を振り解くと、ひと睨みして部屋に戻ろうとした。
 だが、数人のヤクザが、玄関の前に立ちはだかり、それを阻止する。
 しまった、車の鍵も部屋の中だ――。
 どうする? 走って逃げるか?
 だけど……この人数、振り切れるか?
 海里はへびに睨まれたカエルのように、身動きが取れずにいた。
 心音が耳にまで木霊し、恐怖心に押し潰されそうになる。
「……ったく、お前、頭弱いのか? はいそうですかって帰す訳には行かないんだよ。ちゃんと俺が受け取るまではなぁ!!」
 石山はそう言うと海里の腕を引き、後ろ手に捩じ上げる。
「っつ!! 痛ぇな、放せよっ!!」
「残念だったな。お前には少し居なくなって貰う」
「居なくなって貰うって……何する気だっ!!」
「あーもう、キャンキャン煩い犬だ。おい、こいつを車に押し込め」
 目配せで合図をすると、数人が海里を抑え付けてロープのようなもので縛り上げ、布で口枷をする。
「んーーーーーーっ!!」
 声を上げてみるが、ただ唸るようにしか出ない。
「いいザマだな、ガキが。生意気な口利いてるから、こういう目に遭うんだよ」
 石山の娘婿はそう言い放ち、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべる。
 焦燥し、バタバタと足掻くも、自分よりも大きい男達に適う訳もなく、海里はヤクザ二人に抱えられると、ワゴン車の中に押し込まれてしまった。



               ――to be continued――


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