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お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――隣人がおかしな件について――<9>

 デートの約束を取り付けた海里は、その後、怒涛のように仕事をこなす。
 終業時間までの間が、あっという間に過ぎて行った。
 よし! 今日は集中できたお陰で、定時に上がれそうだ!
 海里が鼻歌交じりで帰る用意をしていると、携帯の振動がポケットから伝わる。
 ん? 誰だ? 
 また田中の冷やかしメールか?
 そう思い田中の姿を探すが、まだ仕事が残っているようで、机に齧りついていた。
 ポケットから携帯を取り出し、開けると愛梨からメールが届いている。
 相手が分った途端に、頬が緩んだ。
『明日、楽しみにしてます。それじゃ、お疲れ様でした』
 ハートマークが語尾に付いていて、海里はデレデレとしながら返信をする。
『俺も楽しみにしてるから! 明日は思いっきり遊ぼうね。お疲れ様~』
 普段はあまり使わない、顔文字をふんだんに使い返信をすると、愛梨と目が合う。
「それじゃお先に失礼します、お疲れ様でした」
 愛梨は、海里と視線を合わせたままニッコリと微笑み、事務所を後にする。
 やっぱ、可愛いなよな、愛梨さんは! 
 朝、苦手って言ってたのに、弁当まで作ってくたし、明日も作ってくれるって!!
 そうだ、帰りに新しい服でも買って行こう。
 お気に入りのは、アイツにあげちゃったし。
 話を聞くまでは、只単にイタズラで着てたのかと思ったけど、そんな状況じゃ仕方なかったんだよな……。
 確かに上半身裸で居られたら、通報する所だったもんな。
 そしたらアイツ、慌てただろうなぁ。
 その図を想像すると、笑いが込上げてくる。が、今朝の青葉の顔を思い出すと、なぜか今までの浮かれた気持ちが薄れて行った。
 まただ……。
 さっきから何だって言うんだよ?
 明日はせっかくのデートなのに、こんなにモヤモヤしてたら、楽しめる事も、楽しめないじゃん。アイツ、暫くは居るって言ってたよな?
 ついでにアイツの所に何か、侘びの品でも買って行くか。
 タイヤの事も礼言って、金、渡そうか?
 ん~でも、どれくらい掛かったか分らないから、まずは金額聞いてからだな。 
 そうすりゃきっと、この気持ちもスッキリするしな。
 あ、そう言えば、婆ちゃんに家賃払わないと。で、アイツがちゃんと話してくれたか、確認したら、全て終わる。
 これで、アイツが出て行けば、何もかも今まで通りだ。もう、引っ掻き回される事も無くなるんだ、良かったじゃないか!
 モヤモヤとする気持ちを無理に振り払い、帰り支度を終えると海里は皆に挨拶して、事務所を後にした。

 途中で銀行に寄り、現金を引き出すと、残高の金額に溜息をつく。
 ……あー、しがないサラリーマンだよなぁ、俺。
 まだ二年目だから仕方ないけど、貯金出来るのかなぁ?
 これじゃ結婚なんて、夢の夢だよな……。
 ふと、遺産相続の話を思い出し、首を横に振る。
 馬鹿な事考えるな! もし、受け取ったりしたら、ずっと婆ちゃんの親族を敵に回す事になるし、第一、あんな理由でそんな大金、受け取れないだろ!
 それにもし受け取ったりしたら、俺は、アイツを縛り付ける事になるんじゃないか?
 いや……それは無いか。
 アイツだって俺が迷惑してるのは知ってるんだ。
 そのうち熱も冷めるだろう。そしたら自然に離れて行くに決まってる。
 それに歳も歳なんだし、さっさと次に好きな奴、見つけるんだろうな……。
 そう考えてると、胸の辺りがモヤモヤと重くなる。
 と、携帯がまた震え、ポケットに手を伸ばす。開けて見ると、迷惑メールだった。
 ――なんだ、また愛梨さんかと思ったのに……。
 っと、グズグズしてると日が暮れるな。
 あんまり遅くなると、婆ちゃんの迷惑になるから、とっとと買い物済ませよう。
 海里はキャシュコーナーを後にしてデパートに向かい、明日のための服と、青葉に高めの日本酒を買い、大家の住む家へと向かった。
 
 大家の住む家は、ごく普通の一軒家だ。強いて言えば庭が少し広いくらいで、そこでちょっとした野菜を栽培している。
 配偶者はかなり以前に亡くしていて、一人暮らしだ。
 娘が一人いると聞いた。だが他県に嫁いだので、娘のために用意した土地がもったいないから、アパートにして貸していると言っていた。
 だから海里は、大家がそんな大金持ちの人だとは、思っていなかったのだ。
 家の前の舗装された所に車を停め、鞄の中から通い帳を出し、家賃を挟み込むとインターホンを鳴らす。
「はい、どちら様ですか?」
「婆ちゃん、俺だよ、海里。家賃持って来た」
「ああ、海ちゃん? いつも有り難うね。今行くから、ちょっと待っててね」
 暫くしてからガチャリと音がして扉が開くと、白髪が綺麗で背の低い、可愛らしい顔立ちをした老婆が、ひょっこりと姿を現す。
「ごめんねぇ、いつも。本当は振込みとかの方が楽なんだろうけど、私はそう言うのが嫌いなものでねぇ。やっぱり住んでる人と、こうして顔合わせた方が安心するから……」
「そんなの大丈夫だよ! 俺も毎月、婆ちゃんがこうやって元気そうにしてたら安心するし」
「そうかい? そう言ってくれるのは、海ちゃんだけだねぇ」
 老婆は嬉しそうに目を細めると、通い帳を受け取り、判を押す。
 海里はそんな老婆の様子を眺めながら、意を決し問いかける。
「ところでさ……隣の奴から話は全部聞いた。婆ちゃん、どうして俺なんかに遺産渡そうとしたわけ?」
 老婆は頷いた後、通帳を返して、静かな口調で返事をする。
「そうだねぇ……。立ち話も何だから、中にお入り」
「それじゃ、お邪魔するね?」
「はいはい、どうぞ」
 海里は促されるままに、家の居間へと入る。老人の一人暮らしには丁度良いくらいの広さだ。
 ソファーに促され、そこに腰を下ろすと三毛猫が「ニャー」と鳴き、海里の足元に擦り寄って来る。
「あはは、ミケ。久し振りだなお前! 元気にしてたか?」
 海里はミケを抱き上げると、膝に抱え喉を撫でる。
 ゴロゴロと喉を鳴らし、頭を摺り寄せる仕草が、なんとも可愛らしい。
「ミケは海ちゃんの事、お気に入りだからねぇ。ヒロちゃんには近寄りもしないのに」
「へぇ、そうなの? 俺以外にも懐っこいかと思ってた」
「そうだねぇ、あの子はいつも緊張してるからねぇ。動物は勘が鋭いから」
 そう言いながら老婆は、ソファー前のテーブルに紅茶とクッキーを置いた。
「あ、婆ちゃん! そんな気ぃ使わなくても……」
「ヒロちゃんから聞いてたから、買い物に行くついでにね」
「そっか。じゃあ、もう俺の意思は聞いてるよね?」
「残念だけど、海ちゃんが迷惑するなら、仕方ないわよね?」
 哀しそうに表情を曇らせる老婆に、罪悪感が芽生えた海里は、言葉を濁す。
「……迷惑って言うか、婆ちゃんにそこまでして貰うなんて、幾らなんでも厚かましいし、それに、そんな大金、どうして良いか分らないよ」
 海里の言葉に、老婆はぱぁっと表情を明るくした。
「何、そんな理由だったの? だったらヒロちゃんに相談すれば良いわ。あの子、不動産の事なら、何でも知ってるから」
「いやいや、そうじゃなくて……。赤の他人の俺が、婆ちゃんからそんな大金は受け取れないよ。娘さんや青葉さんに譲るのが本筋だろう?」
 海里が困惑したような表情を見せたからだろうか、老婆は俯き
「娘はね……一昨年がんで亡くなったの。その亭主がロクデナシでね……。子供が居なかったものだから、ギャンブルに全部つぎ込んでしまって……」
「そう、だったんだ……」
「こんな事なら婿養子に貰うんじゃなかったよ。表面だけ繕っていた事に気が付けなかった私も、悪いんだけれど……。その上、あっちの親戚もロクデナシばかりで、皆、私の……先祖代々から続いてきたこの土地を、どうするかって話ばかりして来るし……」
 老婆は俯きながら、涙を溜め込んでいた。
「婆ちゃん……」
「そんな事に使われるくらいなら、海ちゃんに渡したほうが、私も安心して旅立てると思ってね」
「縁起でもない事言うなよ! まだ生きてて欲しいよ、俺は!」
「嬉しい事言ってくれるねぇ、海ちゃんは」
 そう言って老婆はハンカチを取り出し、涙を拭った。
「でもね海ちゃん、こればかりは私も予測が付かないから、いつどうなるか分らないし、あのロクデナシ共に、私が護ってきた財産を蕩尽されるかと思うと、悔しくてねぇ……。やっぱり受け取っては貰えないのかい?」
「そんな事、俺に言われても……。第一、俺だってそんな大金目にしたら、人が変わるかも知れないだろ?」
「海ちゃんなら大丈夫。きっと有効に活用してくれるって、信じてるから」
「有効たって……。そんなの分らないじゃないか。俺だって金に目が眩んで、何するか分らないよ? だから、俺じゃなくて青葉さんに……。それこそ、不動産関係なら尚更」
「ヒロちゃんはね、要らないって跳ね退けたんだよ。自分にこの遺産が来ると、色々面倒だからって……。確かにその通りかも知れないと、私も思ってね……」
「え……?」
「あの子も複雑な環境に育ってね……。話は聞いたかい?」
「うん、まぁ少し……。婆ちゃんに預けられたって言うのだけは……」
「……そう。あの子はね、亡くなった先妻さんの子供でね、とは言っても正式なお嫁さんじゃなかったから、青葉家に引き取られた時、後妻って言い方が正しいか分らないけど、そのお嫁さんに随分酷く扱われてね……」
「……そうだったんだ」
「ええ。それで雅真(まさただ)さん……ヒロちゃんのお爺さんに当たる人なんだけれどね、成人するまで預かってくれないかってね、連れて来たんだよ。青葉の親戚は皆、あの通りの堅気じゃなかったから、それに反抗した息子、幸也(ゆきや)さんて言うんだけど、代々の親戚達は快く思って無くてね。何処に預けても同じ目に遭うだろうって……」
「そんな……だって、前のお嫁さんは籍は入れてなかったとしても、アイツ……大成さんは、青葉家に引き取られたんだろう? って事は跡取りが居なかったからだろう? だったら」
「ヒロちゃんは確かに長男になってるけど、その後に男の子ばかり産まれてね。四人兄弟って話は聞かなかったのかい?」
「いや、詳しくは何も聞いてないから……」
「そう。幸也さんはね、ヒロちゃんの事を特に可愛がっていてね。やっぱり、忘れ形だからだと思うけれど、そりゃ、お嫁さんはいい気はしないだろうね。気が付いた時にはヒロちゃん、見えない所がアザだらけで、ろくに口も利かない子になってたよって、幸也さん落ち込んでしまってね。それで、仕事にも支障が出てしまったものだから、雅真さんが二人を心配して、私ならと……」
「そうだったんだ……」
 海里は青葉の生い立ちを聞き、胸が軋むほどの痛みを覚える。
 老婆は紅茶を一口含むと、話を続けた。
「今もあの子は、その中で揉まれてるんだろうね……」
「何で、そんな中に戻ってたんだよ? 普通だったらそんな嫌な思いしたら、戻ったりなんかしないんじゃ……」
「そうだねぇ……ヒロちゃんは人一倍、負けず嫌いだったからねぇ。幸也さんは少し、気が弱いところがあったから、母親譲りなのかも知れないねぇ。だから後妻さんも、気に入らなかったのかもしれないとは思うけれど、あんな小さな子を虐めるなんて……それで、私の子供にしようと思って、養子縁組の話をした時にね『妙子さん、僕はいつか青葉家に戻って、父さんの片腕になるから。あんな女の人の子供になんかに任せられない』って言って聞かなくてね。まだ小学校に上がったばかりの、小さな男の子がそう言うんだよ? それで、ヒロちゃんは勉強を必死に頑張って、大学も一流の中の一流を出てね。今の地位は、あの子が自分で勝ち取った地位なんだよ」
 海里は老婆の話を聞くと、深い溜息をついた。 
 ――そんな複雑だったのか、アイツ……。
 俺はてっきり、息子だから単純に跡取りなのかと思ってた……。
 それに、小さい頃に女の人に酷い扱いを受けたなら、女嫌いになっても仕方ないのかも知れないな……。
 海里が沈んだ表情をしていると、老婆は
「ヒロちゃんね、海ちゃんが弟みたいで、可愛いって言ってたよ」
「……弟?」
「そう。あの子の母親はね、二人目の子を出産する時に亡くなったらしいの。相当な難産で、生まれて来た子も息が無かったって、雅真さん言ってたわ。男の子だったらしいんだけどね、ヒロちゃん、義兄弟は居たけれど、随分と差別されていたし、ずっと一人だったから……」
「そう……だったんだ。でも、どうして先妻さんは、籍に入ってなかったの?」
「私も詳しくは知らないけど……そうさね、そのお嫁さん、私と同じだったのかも知れないねぇ……」
 老婆はそう言うと、天井を仰いだ。
 その瞳が哀しげに揺れているのが見えて、海里は何も言えなくなる。
 そう言えば婆ちゃん、アイツの爺さんに恋してたらしいって言ってたよな? それで想い合ってはいたものの、結局結ばれず終いだったって……。
 そうか、親父さんも同じようにどこかのお嬢さんに恋して、駆け落ちか何かしたんだろうな。それで親父さんはヤクザを辞めたかったから、事業を起こしたんだ。
 それにしても、そのお嫁さんが大切で、アイツを可愛がっていたなら、なんで再婚なんかしたんだろう?
 ただ単に、子供の世話が出来ないから、任せるために……とか?
 海里はふと疑問を口にする。
「それじゃ、どうして親父さん、え、と、幸也さんだっけ? 何で、その人は再婚したのかな? 前のお嫁さんが大切で、忘れ形見として引き取ったんなら、どうして人任せになんか」
「幸也さんはね、再婚したくてした訳じゃないの」
「……え?」
「お嫁さんと居ても、ずっとしつこく言い寄ってた人が居たらしいの。幸也さんはヒロちゃんを見れば分ると思うけど、えらい色男だったからねぇ。お嫁さんを失って幸也さん、周りで見ていても可哀想なほど落ち込んで……その時に、大きな失敗をしてしまってねぇ。その後妻さん、かなりお金持ちだったらしくて、資金援助する代わりに娶れって言い張って、強引に籍を入れさせたって聞いたけどね?」
「……そうだったんだ。でも、お爺さんには言わなかったのかな? 結構名の知れたヤクザだったんだろ? そしたら、そんな援助を受けなくても……」
「幸也さん、言えなかったらしいねぇ。自分で解決したかったんだと思うよ。あまり日を置かないで入籍したもんだから、雅真さんも不思議に思っていたらしいんだけど、後から訊いたら、そんな話だったらしいよ」
 海里の胸中は複雑だった。
 ただの変人だと思っていた隣人は、実は過酷な過去を背負っていた。
 今現在も、その組織で日々、戦い抜いているのだろう。
 なのに、そんな姿をおくびにも出さず、海里と接していた。その上、危ない目に遭うかも知れないと言うのに、好意だけで護ってくれていた。
 そう思うと、罪悪感で押し潰されそうになる。
 俯き、黙り込んでいると、老婆が紅茶を一口、ゆっくりと飲み込んでから口を開く。
「ねぇ、海ちゃん。ヒロちゃんのお友達にはなってくれないかしら?」
「は……? お友達って……」
「ヒロちゃんがね、海ちゃんの事、凄く気に入ってるからみたいだから。あの子があんなに楽しそうに話すのを見るのは、初めてだからねぇ。だから、仲良くなってくれないかしらって思ってるんだけど」
「はは……そう、ですねぇ……」
 海里は言葉を濁すと、紅茶を啜った。
 いや、婆ちゃん……。そういう意味で俺の事、気に入ってるって訳じゃないから。
 本当の事知ったら、天国の扉、開いちゃうからね?
 ……でも、本当はアイツ、弟みたいに思ってるんだろうか?
 だったら、考えなくも無いけど……。
 いや、でも……あの感じは、多分……違うんだろうな。
 ぼんやりと考え込んでいると「海ちゃん?」と、声を掛けられハッと我に返る。
「ああ、うん。そうだね、考えておくよ」
 海里の答えに、老婆は大きい瞳を更に大きくして顔の前で掌を合わせると、嬉しそうに微笑んだ。
「そう、それは良かったわ! ついでに私の遺産の事も考えておいてね?」
「いや……それは……」
 と、膝で大人しく寝ていたミケが大きな伸びをすると、海里の膝から降り、老婆に甘えた声で擦り寄る。
「あら、ミケちゃん、お腹すいたの? ちょっと待っててね?」
「あ、ごめん婆ちゃん! こんな遅くまで……」
「いえいえ、良いのよ? ゆっくりして行って?」
「いや、俺、これからまだ寄るところ有るから、帰るね」
「そう? それじゃまた遊びに来て頂戴ね?」
「うん。今週はちょっと予定入ったから来れないけど、来週だったら」
「そう、楽しみにしてるわ。それじゃ来週、お庭の手入れ、一緒にお願いしようかしら?」
「分ったよ。それじゃまた来週来るね?」
「ええ、待ってるわ」
 海里はソファーから立ち上がると、玄関に向かった。
 その後をミケを抱えながら、ちょこちょこと追って来る老婆に手を振ると、車に乗り込み家路へと向かう。



                ――to be continued――


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