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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――時空を超えて――<20>

 それから数日後、工事は中止になった。
 機械の事故の多発や怪我人病人の続出も重なったのもあるが、地上調査がちゃんと行なわれていなかった為に土砂崩れが発生し、工事自体が続行不可能となったのだ。
 後に山の祟りだと、マスコミに騒がれたりもしたが、その噂も今はすっかり風化してしまっていた。山も静けさを取り戻し、今は白い雪に覆われている。

 尚史は息を白くしながら、この場所に立っていた。
 事件が起きたのが昨日のようにも思えるが、それからもう一年と言う歳月が流れていた。
 あの時、尚史は命を落とさずに済んだ。それと言うのも虹輝が例の如く、時空を超えて助けに来てくれたからだ。
 作業員達と富田がその様子を呆然と眺めていた。見知らぬ人間が現れ、尚史を抱えていた。それだけならまだしも、虹輝が金色に包まれて幾重にも分かれた尻尾を揺らしているとなれば、驚愕しないものは居ないだろう。
 その場にいたものは更にパニックに陥り、全員逃げ出した。
 富田だけがぽつんとそこに残され、安堵し切った表情で腰を抜かしたように座り込んでいた。
 
 事件が起きて間もなく、尚史はその会社を辞めた。事故の時の事をリゾート計画に携わっていた作業員が、尚史が狐付きだと妙な噂を立てて、原因はあいつだなどと言われたため、肩身の狭い思いをしていたのもある。だが、富田と同じ職場にいるのは精神的にきつかったと言うのも、正直な気持ちではあったからだ。
 今は違う会社で同じような仕事をしている。新しい職場にも慣れて、今日は久しぶりにあの温泉宿で休養しようと思い、足を運んだのだった。
 家族で過ごし、虹輝と初めて出合った場所であり、富田に想いを告げられたこの山。
 嫌な思い出ばかりじゃない、と、一人、車に乗り込み、ハンドルを握って旅館を目指した。

 旅館に着くと、看板が掲げられていて尚史は目を瞠った。
 虹輝の通っている大学の名前が目に付いた。でも、そんな偶然などあるわけ無いと首を横に振り、受付を済ませて廊下を歩いていると、途中から旧館への古い木造の廊下になり、尚史の中で思い出が鮮やかに蘇る。仲居に案内された部屋は、家族で過ごしたあの部屋だった。
「ここ、まだ残ってたんですか?」
「お客様は、こちらは初めてじゃないんですか?」
「あ、はい。小さい頃、何度かお邪魔させて貰いました」
「それはご贔屓にしていただいてありがとう御座います。ええ、こちらは見晴らしが良いのと、お客さんの評判が良いので残したみたいですよ」
「そうなんですか。ここからは山が綺麗に見えますから、僕もこの部屋が好きです」
 仲居は機嫌を良くしたのか更に愛想を良くして、茶菓子を勧めながら茶を淹れると「それではごゆっくり」と、ニッコリと微笑んで部屋を後にした。
 尚史は部屋を見渡し、懐かしさに浸った。ここで虹輝に会わなかったら自分は今頃、どんな人生を歩んでいたのだろう。もしかしたら陰陽師みたいな仕事をしていたのかもと思い、ふと虹輝の姿を思い出す。
 あれから山の主の怒りも収まったようで、怪現象は無くなっていた。
 助け出された時、虹輝に礼を言おうと思って振り返った時には、もうその姿は無く、連絡をしてみるが虹輝は尚史を避けるように、電話にもメールにも出なかった。
 だが、虹輝は『護る』と言った事は実行しているらしく、時々似たような姿を目にすることもあったが、すぐに姿を消すので確証は持てずにいたのだった。
 虹輝にはもう完全に嫌われしまったかも知れない……。ただ、藤吉だった頃の恩があるから、自分の言った責任を果たそうとしているだけだろう。そう思うと心にぽっかりと穴が開いたように、寂しさで押し潰されそうになる。
 尚史はもう考えないようにしようと首を振り、浴衣に着替えて大浴場へと足を運んだ。

 脱衣所には数人の衣類が籠に納められていて、尚史も同様に浴衣を畳んで入れた。
 ガラガラと引き戸を開けると、懐かしい思い出が脳裏に浮かぶ。幾分、湯の花が増して貫禄がついたものの、父親が困る位、はしゃいで遊んだ温泉浴場は健在だった。
 思い出を巡らせながら、外の露天風呂へと足を運ぶ。外気との気温差であっという間に眼鏡が曇ってしまい、覚束ない足取りで歩いていると足を滑らせ、転びそうになって思わず「うわっ!」と、声を上げた。
 それと同時に、誰かに腕をつかまれ転ばずに済むと、眼鏡を外して曇りを拭きながら礼を言った。
「す、すいません……ありがとうござ……」
 見上げた瞬間、尚史は息を呑んだ。濡れた色素の薄い髪が揺れると、その亜麻色の瞳は優しく尚史を見下ろす。
「こ、虹輝!? どうして……」
「それはこっちが聞きたいな。兄貴こそどうしてここに?」
 後ろには数人の仲間だろうか「虹輝、先に出るから」と、声を掛けて浴場を後にする。
 二人はぽつんとそこに残された。
 真っ裸で情けない姿を晒していることに気が付くと、途端に恥ずかしくなり、あわあわとしながらタオルを手繰り寄せる。
「今日は大学のコンパでね、温泉に行こうって話しになって俺はいるんだけど」
「ぼ、僕は……会社が休みで……温泉に行こうと思っただけで……」
 運命の悪戯なのだろうか、確かに大学の名前が看板が掲げられていた時、少しも期待していなかったと言えば嘘になるが、この偶然に感謝した。
 避けられるようになってから、実家に行っても顔を合わせることは無く、尚史は今まで、助けられた時の礼が言えないでいたのだった。もごもごと口篭りながら
「あの時は……ありがとう、な」
 ポツリと口にして、尚史は虹輝を見上げた。虹輝はぶるっと身を震わせると
「やっぱ外は寒いな。身体冷えたみたいだから、もう一回入るよ。話はそこでしよう?」
 尚史の手を引くと、有無を言わさず乳白色に煙る湯船に身を置いた。それにつられて尚史も横に身を置くとちらりと虹輝を見る。
 虹輝はハァーと気持ち良さそうに息を吐き「いい湯だね、兄貴」と、声を掛けた。
 至って普通に接する虹輝に、尚史は少し寂しさを覚えた。しかし、避けられるよりはましだと思い直すと「そうだね」と、返事をする。
 虹輝にとってあの時の出来事は、やはり興味が先行して、行き過ぎた行動だったのかも知れない。そう思うと尚史は寂しさが残るものの、兄として接しようと思い虹輝を見て咳払いをすると、思い切って声を掛けてみた。
「お前、大学はちゃんと行ってるのか? まさか遊び呆けてるとか?」
「なんだよ、いきなり。別に遊び呆けてなんかいないよ」
尚史は話を切り出すことが出来て、ホッと息を吐く。そして気になっていた事を聞くことにした。
「あ、あのさ……、また護りに来てくれてたんだ?」
「約束しただろ? 俺は義理堅~い人間なんだ」
 そう言って、虹輝は悪戯な瞳を尚史に向けると続けて
「だけど、あの主は結構手強かったな。御狐の説得も聞きゃしないし、御狐が他のやつ抑えてる間に、尚史狙うし。仕方ないから俺が土砂崩れ起こした」
「え……ええぇ!?」
「だってあいつ、ストーカ並みにしつこくてさ、かと言って主だから山の存続を考えると、そう簡単に消滅させる訳にも行かないし、他に思い浮かばなかったんだ、仕方ないだろ? 今は雑魚ばっかりだから楽になったし、結果オーライって事で」
驚愕の事実を知らされ、尚史は驚きを隠せなかった。
「確かに夜中で誰も怪我しなかったけど……。護ってくれるのは嬉しいんだけど、お義母さんに心配かけるなよ?」
「……そういう尚史こそ、お義父さんに心配かけてるじゃないか」
『兄貴』から『尚史』と名を呼び変えられ、一瞬、胸がツキンと痛んだ。
「……それは、仕方ないだろう。お前だって知ってるんだから……」
 もそもそと口篭らせながら言うと、虹輝はクスッと笑う。
「そう言えば、あの人、元気にしてる?」
 虹輝は天を仰ぎながら問い掛けて来た。それに返答せずにいると
「あの時は悪かったって伝えてくれないかな? すぐに主を引き離す事は出来たんだけどさ、頭に血が上っちゃって……。今も付き合ってるんだろ? 今日は休みが合わなかった?」
 尚史はどう答えていいか迷った。あの後、すぐに富田から別れを切り出されてしまったからだ。脳裏に富田の言葉が蘇る。
『俺、やっぱお前の弟には敵わないわ……。目の前で事故が起きたとき、俺にはどうする事も出来なかった。尚史、素直になれ。俺の事は気にするな。お前より幸せになってやるから――』
 無理に作った笑顔を思い出すと、じわりと涙が浮かぶ。
「どうしたの? 喧嘩でもした?」
 虹輝はそんな尚史の様子を気にしている様子だった。尚史は悟られまいと首を横に振り、微笑んで見せた。
「う、うん……ちょっと喧嘩しちゃって。伝えておくよ……」
 浮かない顔つきで答えると、虹輝は何か府に落ちないと言う顔をする。
「……本当に?」
「う、うん……」
 虹輝はじっと尚史の顔を覗き込むと「嘘だな」と、言い放つ。
「な、なんでそうなるんだよ!?」
「尚史、自分で気付いてないの? 困ってる時とか嘘付く時、目が泳ぐって」
「え……」
 言い当てられて恥ずかしくなり、湯に半分顔を沈めた。虹輝にじっと見据えられ、尚史は困り果て、なおも目を泳がせる。
「じゃあ、あの人とは?」
 尚史は観念すると、大きく息を吸った。
「……あの後、すぐ別れたんだ」
 すると虹輝は、身体をズルズルと湯船に深く沈め、額に手を当てていた。
「はぁー、何だよ? そうだって知ってれば遠慮する事無かったじゃん! 馬鹿みてぇ」
「え……?」
「あいつとまだ続いてると思ったから、わざとバイトのシフト多めに入れたり、ボランティア活動したりして避けてたのに……」
 口を尖らせボソリと呟く。
 そんな合間にも尚史を護りに来てくれていたのかと思うと、胸の中がジンと熱くなる。
 虹輝は、尚史にまたあの熱い眼差しを送る。
「で? 今、誰か付き合ってる奴、居るの? 居なかったら俺が立候補して良い?」
 尚史は戸惑った。虹輝がまだ自分を好いていてくれたという事実に嬉しくなるのと同時に、結果的には両天秤に掛けていたことを思い出すと、素直に頷けないでいた。
「でも……僕は……お前を傷付けた……」
「あの時は俺よりもあの人の方が好きだったんだから、それは仕方ないと思ってる。それに俺はまだ成人しても居ないし、尚史にとって頼りないと思うのは当然だと思うし……」
「い、いや! そんな事ない……。僕は……ずるい人間だから、お前の将来を潰したくないと言いつつ……、嫌われるのが怖くて……逃げていたんだ」
「え、それじゃ……尚史も俺の事……やっぱり好きだった?」
 尚史はおずおずと頷く。虹輝はそれを見て嬉しそうに微笑む。
「今度こそ……逃がさないから、覚悟して?」
 虹輝は尚史の顎を捉えると、返事を待つようにじっと見据えた。
 尚史の胸がドクンと脈を打ち、それが次第に速くなって行くと頬が朱に染まる。
「だ、だって……僕は虹輝よりもずっと歳が上だし……」
「そっか、まだ頼りないと思うんだったら諦める」
 虹輝は不安そうに見つめて来た。これではまた虹輝を傷つけてしまうと思った尚史は、慌てて首を振った。
「そういう意味じゃないんだ……。僕の方が年上だから、その……年を重ねるうちに虹輝が飽きるんじゃないかって……」
 虹輝は尚史の言葉に安堵の息を漏らすと、真剣な眼差しを向ける。
「歳がどうこうって、もうずっと前からそうだろ? そんな事より、今でも俺の事、好き?」
 尚史は虹輝の変わらぬ想いに、幸せで満ち溢れた。脳裏に富田が告げた言葉が浮かぶ。『素直になれ』と――。
 もうこれ以上、誰も傷付けたくない。虹輝の想いを受け入れる事が虹輝の幸せに繋がるのなら、甘んじてその想いに応えようと決意をした。早鐘のように鳴り響く胸の高鳴りを必死に抑え込み、震える声で
「こ、今度はもう逃げたりしない……。僕は……虹輝がす……」
 好きだと言おうとしたら、ガラガラと扉の開く音がして数人の声が浴室内に響いた。
 二人は慌てて離れると、世間話を始めた。
 わらわらと浴槽内に数人の若い連中が入ってくると
「おー、虹輝まだ入ってたのか?」
「なに? 知り合い?」
 わいわいと楽しそうに話しかけてくる。虹輝は困ったような表情をして
「あ、うん、兄貴なんだ。偶然ここで会って……」
 するとその中の一人が、屈託の無い笑顔を向ける。
「お兄さんかぁ! 初めまして~」
 繁々と眺められて、尚史は恥ずかしくなり「それじゃ、僕はこれで……」と、頭をペコリと下げて浴槽から上がる。
 虹輝は咳払いをすると、尚史を見上げて白々しく問う。
「そ、そう言えばさ、兄貴一人? 後で遊びに行っていいかな?」
「あ、うん、部屋は柊の間だから……。それじゃ後で」
 その会話を聞いていた一人が「それじゃ俺達もお邪魔しちゃおうか?」と、皆に同意を求めて、それに皆が相槌を打つと
「バカ!! 兄貴は疲れて療養しに来てるんだって!」
 慌てた様子で虹輝が言うものだから、可笑しくてついクスッと笑うと、虹輝は困ったような照れたような表情で、尚史に目を配らせた。
 その顔を見たらドキドキと心臓が早鐘を打ち、尚史はそそくさとその場を後にした。
 




              
               ――to be continued――


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