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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――時空を超えて――<19>

 バイクの排気音が玄関の扉にビリビリと伝わると、鍵が掛かっていた筈のドアが「バン」と音を立てて、勢いよく開く。それと同時に、富田の厳つい身体が宙を舞い、部屋の奥の方まで吹っ飛ばされた。
 見るとヘルメットを被った長身の男は息を荒げながら、カツカツとブーツの踵を鳴らして近付いて行く。そして跪くとグローブを嵌めたままの手で、富田の短い頭髪を鷲掴みにした。
 ヘルメットを片手で脱ぎ捨てると、色素の薄い少し癖のある髪が揺れ、その見慣れたはずの優しい切れ上がった二重の薄い色素の瞳は、怒りを露にして紅く燃えていた。
「虹輝……!」
 虹輝は尚史にちらりと視線を落とすが、そのまま富田の顔面を殴打した。
『キサマ……マタ、ジャマシニキヤガッテ!!』
 低い唸り声を上げ、富田は虹輝に掴みかかろうとしたが、虹輝は俊敏に反応して立ち上がると、呆気なくかわされて床に叩きつけられる。虹輝はその頭部を容赦なく踏みつけた。そして無言のまま、もう一方の長い足で腹部を蹴り上げる。
『ガハッ!!』
 富田は左頬が腫れあがり、口の中を切ったのだろうか、端から出血していた。
 尚史は慌てて二人の許に駆け寄ると、富田に覆い被さり怒声を上げる。
「虹輝!! 止めろ!!」
「なんでこんな奴、庇うんだよ……」
 冷たい視線を富田に落としながら、虹輝はぼそりと呟いた。
「京迩は取り憑かれたんだ、お前なら見れば分るだろう!!」
「……ああ。どうせ嫉妬に駆られて取り憑かれたんだろうな。そんな心の狭い奴、主(ヌシ)と何にも変わらなねぇよ」
「主って? あの山のか?」
「そうだよ。散々尚史にストーキングしまくった、この馬鹿な山の主のことだ!!」
 虹輝はそう言うと富田の首元を鷲掴みにして、軽々とその厳つい身体を引き起こす。
 富田は唸り声を漏らした。宙吊にされ、手足をばたつかせて、苦しそうにもがいている。
次第に顔色が土気色に変色し始め、口から泡状の唾液を滴らせる。
「止めてくれ!! その主って獣が取り付いていたとしても、身体は京迩のものなんだっ!! 京迩が死んじゃうじゃないか!!」
 尚史は必死に虹輝の腕に縋り、懇願した。
 虹輝は深い溜息をつくと、富田を放った。ドサリと鈍い音がして、床に転がる。富田は気を失っているようだった。
 尚史は屈み込み、富田を庇うように抱えた。
「そんな事されても、まだコイツのこと、好きなのかよ?」
 虹輝は眉を顰めて、哀しみに満ちた瞳を尚史に向ける。
 尚史はハッとして我が身を見ると、慌てて破れた服の破片を手繰り寄せて俯いた。
「京迩は……こんな僕でも好きだって言ってくれた……」
「じゃあ、好きだって言えば、尚史は誰でもいいのかよ!!」
 虹輝は拳を握り締め、腕までもぶるぶると震わせていた。それ以上は何も言わずに俯くと、背を向けて歩き出した。
「俺だって……ずっと……好きだった」
 ぽつりと虹輝が呟いた。
 尚史は深い後悔の念に駆られ、止め処なく溢れる涙を止められずにいた。
 どうしてあの時、虹輝の言葉を信じる事が出来なかったのだろう。
 自分に勇気が無かったばかりに、二人とも深く傷付けてしまった。後悔した所で、時を巻き戻す事など不可能だ。
 押し潰されそうになりながら、尚史はその状況に耐えるしかなかった。
 虹輝が玄関前に着く手前で、意識を失っていた筈の富田は目をカッと見開くと急に立ち上がり、唸り声を上げながら虹輝の背に向かって殴りかかろうとする。
 黒い靄が爪の様に鋭く何本も見えて、尚史は危機感を抱いた。
「虹輝! 危ないっ!!」
 尚史が阻止しようと立ち上がるよりも早く、虹輝は振り返ると富田の身体をすり抜け、黒い塊を引きずり出すと、身体からオーラとでも言うのだろうか、陽炎のような赤黒い光が立ち込める。
 次の瞬間、それは辺り一体を取り囲み、じりじりと塊を締め付けた。
 黒い霧状のものが苦しそうな雄叫びを上げて、モヤモヤと霧散して行くと、富田はその場に倒れこんだ。
「京迩ぃ!!」
 尚史は富田に駆け寄り、その身体を抱き起こす。
「心配しなくてもいいよ……時期に目を覚ますだろう。でもまだ油断はするな。あいつは完全に消えた訳じゃない、どうやら山に逃げ帰っただけみたいだから……」
 虹輝は肩で呼吸するようにしていて、顔色は酷く悪いように感じた。
「だ、大丈夫か? お前、そんなに……」
「心配要らない……連日でちょっと力使っただけだから」
 そう言って床に転がるヘルメットを拾い「土足で入って悪かった」と玄関に向かう。
 昨日も虹輝は尚史を助けるために空間を越えてきた。推測するにそれだけでかなりの体力を消耗するのかも知れない。
 今日はもしかしたらその力を使う余力がなかったから、バイクで尚史の家まで来たのだろうか……。申し訳なく思い、尚史は俯いた。
「……ごめん、僕が頼りないから」
「別に。俺は尚史を護ると言っただろう? 例え好かれてなくても、あの時の恩は忘れてないから、これからも護り続けるだけだ。本当ならこの力は元々、尚史のものだったんだし」
 目を合わせようともせずに、虹輝は静かに言い放つ。
「もう……いいよ。僕はもう十分護ってもらったから……。虹輝は自分の人生を……」
「こんな事になるなら、肉体なんか持たなきゃ良かった――」
 ぽつりと呟き、虹輝は玄関の扉を閉めた。
 尚史は何も言えずにその背を眺めていた。溢れ落ちる涙を止める事が出来ずに、富田の身体を抱えながらバイクの排気音が遠くに響くと、肩を震わせていた。

「ん……? 痛ぇ……」
 富田は意識を取り戻した様子で腹の辺りを摩ると、尚史のあられもない姿を目の当たりにしてガバッと起き上がる。
「ど、どうした!? 誰がこんな事……」
 気が動転したのだろうか、声を大にして尚史を抱き締めた。
「あいつか? あいつがお前を……!? 許さねぇ、俺の大事な尚史を……」
 怒りに満ちた瞳で部屋をキョロキョロと見渡す。
「出て来いっ!! 隠れるなんて卑怯だぞ、ガキがっ!!」
「……違うんだ、京迩…………」
 ぽつりと尚史が呟くと、富田は尚史と少し離れて、その顔を覗き込む。
「覚えて……ないんだね」
 その言葉にハッとした様子で目を見開く。
「――――俺が?」
 何も言わず俯いていると、信じられないという様子で、富田は大きく首を振り頭を抱えた。
「気にしないで……京迩は悪くないんだ、僕が……全部悪いんだ……」
「……何が……どうなって……」
 富田は困惑しきった様子で独り言を呟く。
「俺は尚史と話をしていた……山の祟りって辺りから急に眠たくなって……」
 ブツブツと呟きながら必死に思い出そうとしている様子の富田に、尚史は首を横に振る。
「――だから、気にしないで欲しい……。京迩が悪いんじゃないから……」
 富田は深い溜息をつくと、尚史からそっと離れた。
「それは……俺がやったんだな?」
「京迩は操られたんだ、あの山の主に……だから……」
「……そうか、分った――」
 そう言って富田は立ち上がると、尚史を見下ろす。そしてベッドの毛布をそっと尚史に掛けると、その場から離れた。
「俺が傍にいたらまたお前を……俺はそんな自分が許せない。その山の祟りが収まるまで、お前に近寄らない事にするよ……」
 富田の頬に、一滴の水滴が零れ落ちた。
「京迩……」
「……いつ解決するか分らないけど、なるべく俺も協力する。上司にも話をして……笑われるかも知れないけど、それでも俺は俺なりにお前を護りたいんだ……」
 富田の言葉は尚史の胸に深く響いた。涙で霞んでしまい、富田の顔が歪んで見える。
「そんな顔するな」
 富田は尚史に触れようとしてその手を伸ばすが、拳を握ると背を向けて歩き出した。
「京迩、待って! 僕は……」
「頼む……これ以上煽らないでくれ。またお前を傷付けたくないから……」
 振り返りもせずに富田は、そのまま部屋を出て行った。


 怒涛のような祝日が終わり、尚史は会社に出勤するために準備をしていた。
 正直、この先、富田と顔を合わせるのは辛い。どっち着かずでいた自分を責めるしか出来ないでいた。泣き腫らした瞼を冷やし終えると、ふぅと溜息を漏らし出勤する。
 会社に着くなり、けたたましく電話が鳴り響いてるのが聞こえた。
 着替えを済ませて作業場に足を運び準備をしていると、課長が尚史の元を訪れた。
「管野、またあそこの機械、壊れたそうだ。悪いけど富田と現場に行ってくれないか?」
 課長は困り果てたと言うような表情をして、尚史を見る。
 昨日の今日で富田と顔を合わせるのは辛過ぎる。しかし、仕事を放棄(ほご)する訳にも行かず、尚史は「はい」と、頷いて返事をした。
 仕方なく作業場から工具を運び出し、準備を整え駐車場に向かい社用車に工具を積み込んでいると、後ろから富田が現れて「……よう」と、声をかける。
 浮かない顔をしていた。当然と言えば同然の反応と言えよう。視線をその顔面に向けると、左の頬がまだ少し腫れていた。
 尚史は言葉に詰まった。しかし、話題を仕事の話にすれば、まだ何か話せるかも知れない。
 勇気を振り絞り、声を出す。
「……また、壊れたらしいね」
「そう……だな。まだ話もしてないうちに現場に行くかと思うと気が重い……。今日帰ったら課長にお払いの話でも振っておくから……」
 そう言うと運転席に身を置き、ハンドルを握り締めた。そして俯くと息をつく。
「……今日はあんまり傍に寄らないでくれ。その主って奴のホームグランドだからな……。また取り憑かれて、お前に何かあったら俺は……」
 富田は尚史を見下ろすと、哀しそうに瞳を揺らした。
「――分った。なるべくそうするよ……」
 尚史は助手席に身を置く事はせず、荷物の置いてある後部席に乗り込んだ。
「……んじゃ、行くか」
 富田はそれっきり無言だった。
 懸念していた途中の峠道も今日は動物の気配もせず、無事に現場へと到着し、ホッと二人で息をつく。
 富田は安心したのだろうか、険しかった表情がほんの少しだけ和らいだのがルームミラー越しに見えて、尚史も硬かった表情を緩ませる。
「さて……機械、直さないとな」
 富田は誰に話す様子でもなく、独りで呟くのを尚史は黙って聞きながら、工具の準備をしていた。
 
 現場監督に壊れた機械の場所に案内してもらうと、散々厭味を言われた。
「困るんだよなぁ、アンタん所の機械ってこんな壊れやすいの? 全然作業進まなくて、こっちは大迷惑なんだよ」
「すみません……」
「大体さ、一台ならまだしも、一気に三台とか有り得ないんだけど? そのせいで怪我人も出るし、どうしてくれる?」
「申し訳ありません……。すぐに見てみますから……」
「まあ、あんたら下っ端に言った所で、どうこうなる訳じゃないけどさ、しっかり直してくれよ」
 尚史は何度も頭を下げた。その現場監督は一通り厭味を尚史にぶちまけ、ハァと大きな溜息を吐くと「本当に頼んだよ?」と、顔を顰めながら去って行った。そして作業員に指示を出すと、工事が開始された。
 富田といえば違う作業員に同じような事を言われているらしく、ペコペコと頭を下げている姿が違う機械の前で見えて、尚史は複雑な心境になる。 
 まさか山の主が邪魔しているとも言えず、新調した眼鏡を掛け直すと作業に取り掛かった。
 周りから機械の動く轟音が響き、それが山々に木霊していた。
 暫く黙々と原因を探っていると、電気系の配線が数本切れているのに気が付き、そこに手を伸ばした瞬間「危ないっ!!」と、誰かが叫ぶ声が木霊して振り返ると、巨大な影が見えて頭上を仰いだ。
「あっ!?」
 クレーン車がバランスを崩し、吊り上げていた太い幹の樹木ごと傾いて、尚史の頭上目前だった。尚史は機械の奥に入り込んでいた為、身動きが取れずにいた。
 富田が血相を変えて駆ける姿が、スローモーションのように映る。
「ひさしぃーーーっ!!」
 遠くにその叫び声が聞こえ、尚史は死を覚悟した。
(京迩……君には本当に申し訳ない事をした……)
 そして虹輝の事を思い出すと、涙が溢れて心が破裂しそうなほどに苦しくなった。
(虹輝、ごめんな。もっと……素直になっておけば良かったな……)
 尚史は静かに瞼を閉じた。
 ドォォンと言う轟音が響き渡り、尚史が手がけていた建機は、無残にもその原型を留めないほどに壊れ、土煙を上げていた。パニックに陥った作業員達が叫び声を上げる。
 わらわらと人だかりが出来る中、富田はクレーン車と尚史がいた建機の前に立ち、呆然としながらその光景を眺めていた。

              

               ――to be continued――


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