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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――時空を超えて――<14>

 会社に一旦戻り報告書を提出してから、尚史は帰路に着いた。
 電車の中で昨日からの出来事を思い出すと、めまぐるしく変化する日常が信じ難かった。
 虹輝とのいざこざも、今日は富田の突然の告白のお陰で、あまり考えないで済んでいた。
 ずるい考えなのだろうと思う。好きな人を忘れるために、富田と付き合う事にしたのは――。
 でも、尚史は他に手段が思い浮かばなかった。今はまだ愛おしいとまで感じないけれど、付き合って行くうちに、本当に掛け替えの無い相手になるかも知れない。
 虹輝の事を早く忘れる為にも、富田をもっと知っておく必要があるかもしれない。
 明日から休みに入るし、早速デートの約束でもしてみようかと思い立ち、携帯を取り出そうとしたら、家のテーブルに置きっぱなしだった事に気が付いた。
 家に帰ってからメールなり、電話をしようと考えて、ふと虹輝のメールの内容を思い出す。
(墓参り、あったんだっけ……。どんな顔して会えばいいんだよ……)
 それを思うと憂鬱になった。電車を降りてからトボトボとアパートまでの道程を歩く。
 途中で黒猫が自分の前を横切り、昼間の出来事を思い出した。
(そう言えばあの山の動物……これくらいだったか? いや、待てよ。ハッキリした姿、見たか? 何だった? 猫? いや、今みたいじゃなかったような……。山だから狸、狐の類だったか?)
 思い出そうと必死に動物の姿を想像してみた。だが当てはまるものが思い浮かばない。 
(僕が見た事も無い動物……? いや……ただの黒い影だったんじゃないか――)
 そう思った途端、背筋に氷水を浴びせられたようになり、その場に立ち尽くした。
 もしかしたら崖下に落ちそうになったのも、今までの動物が関係してるのかと思ったら、恐怖で身震いがして来た。
 ――怖い。
 部屋に独りでいるのが怖い……。
 ガクガクと膝が震え出し、立っているのも儘ならない状態に陥る。
 かといって実家に行く気にもなれない。何より虹輝と今は会いたくない。
 迷った結果、尚史はどこか人の集まる場所で過ごそうと決めた。
 その場から逃げるように駆け出し、震える手足を必死に動かした。
 アパートに着くと急いで着替えを済ませて、テーブルに置き放しの携帯を持ち、直ぐに部屋を出た。
 それにしても、こういう時はどうして良いのかさっぱり分らない。
 取り合えず、二十四時間営業している店を調べようと携帯の電源を入れる。
 と、また着信があった事を知らせるランプが点滅していた。
 携帯を開けて見ると、それは虹輝からだった。メールも届いている。
 複雑な気持ちになりつつ、そのメールに目を通した。
『話がしたい。頼むから電話に出て』
 短く何度も同じ内容のメールが届いていた。
 尚史は罪悪感に苛まれた。でももう、後戻りは出来ない――。
(もう、忘れよう……。来週も母さんには悪いけど、墓参りは行かないで、この気持ちに整理が付いたら会いに行こう。僕はこれでも虹輝の兄だから、こんな情けない姿は見せたくない……)
 虹輝宛に短く『来週、用事出来た。行けなくなってごめん』と、打ち込み送信する。
 途端に着信音が鳴り、画面を開くと虹輝からの電話だった。震える指で着信拒否をして、パタンと携帯を閉じた。
 トボトボと宛ても無く歩き出すと、違う着信音が鳴る。画面を確認してみると、富田からだった。出るかどうか迷ったが、通話ボタンを押すと、重低音な声が耳元を擽る。
『おう、何してた? 今、大丈夫か?』
「うん、大丈夫。とみ……京迩こそ、どうした?」
『……声が聞きたくなったんだよ、悪いか?』
 照れているのか、富田は口篭らせながらモソモソと話す。そんな富田が可愛く思えてしまって、尚史はクスクスと笑った。
『な、なんだよ』
「いや、京迩がそんなしおらしいと、調子狂うよ」
『仕方ないだろう、惚れた弱みって奴だ……って、今、外なのか? なんか車の通る音聞こえたけどさ』
「うん……ちょっと出かけてる」
『そうか……なんか悪かったな、大した用じゃないのに』
 やけにしおらしい富田に、尚史はまた胸が少し高鳴った。と同時に、虹輝の顔が頭を掠める。虹輝は今、どうしているだろう、きっと心配しているに違いない――。
 そう思うと胸の奥が鉄線で縛られるように、ギリギリと痛み出す。 
 自分のしている事は正しいのか? 虹輝は好きだと言ってくれているのに?
 自分を責める声が頭に響く。尚史は罪悪感で押し潰されそうになった。
『どうした? 都合悪かったら切るぞ?』
 富田の心配そうな声にハッと我に返り、携帯を握り締めた。
「あ、いや。ごめん、考え事してた。大丈夫だよ」
『そうか。……なぁ、用事済んだら、家に飲みに来ないか?』
「用事って特に無いけど……今から?」
『あ、いや! 他意は無いから!! その、純粋に飲みたいなーと思っただけで……』
 富田の慌てぶりに下心があったと確信すると、クスクスと笑う。
『いや、だから……そんな今日告ったばっかで、すぐどうこうしようとしないから!! 約束するって』
「……ホントかな? 京迩、酒癖悪いからな」
 わざと意地悪く言うと、富田のテンションは下がってしまったようで黙ってしまった。
 さすがに悪いと思った尚史は、慌てて
「う、嘘だよ。京迩があんまり分りやすかったから、意地悪言ってみたくなったんだよ。行っていいのか?」
 それを聞いた富田は、嬉しそうに声を張り上げた。
『マジで? 来てくれるのか?』
「うん。丁度、今日は……」
 言いかけて尚史は口を噤んだ。確かに独りでいるのは怖い。だけどこれでは都合のいい相手にしてしまう。いくら好かれてるとは言え、そこまで言ってしまっては人間としてどうかと思うと、気が引けた。
『今日は? どうした?』
 富田は尚史の気持ちに気が付いていない様子で、どうやら尚史も自分に逢いたかったと思い込んだようだった。期待に満ちた声で聞いてくる。
「……いや、飲みたい気分だったんだ。だから買い物に出かけてて……」
 答えを聞いて、少しがっかりしたような『なんだ』と、小さく呟く声が聞こえる。
「ごめん、期待したような答えじゃなくて……」
『い、いや!! 来てくれるんなら何だって構わないさ。何ならそっちに行こうか?』
「いや、今アパートにいないから……」
『んじゃ迎えに行こうか?』
「そんな悪いし……。駅が近いから僕が行くよ」
『そっか、分った。駅前にサ店あったよな? そこで待ってろ。着いたら電話する。東口の方の広場な?』
「え? だから僕がそっちに……」
『迎えに行ったほうが早いだろ。遠慮すんなって』
 嬉しそうに弾んだ声は、そこで途切れた。尚史は携帯を閉じるとフッと微笑んだ。
(富田なら、本当に好きになれそうな気がする。今まで虹輝ばかり見てたから気が付かなかったけど、わりと好みのタイプかも知れない……。虹輝はただ僕に同情して、一時的な感情で言ってるだけなんだから……。あいつは真っ当な道を歩めば良い――)
 尚史は重くなった気持ちを振り払うように自分に言い聞かせ、そのまま駅を目指し歩いた。
 言われた喫茶店に行く前に、途中のスーパーで買い物を済ませる。
 手ぶらで行くのはあまりにも図々しいし、せめて酒の肴を作るくらいしてやりたかった。
 駅前に着くと、丁度、富田から連絡が入る。携帯に出ると簡単に返事をして、広場に向かい歩き出した。
 タクシーが並ぶ中、富田の黒いスポーツタイプの車が、後ろの方でハザードを上げていた。
 そこに駆け寄り、助手席に身を置く。
「悪かったな、わざわざ来てもらって……」
 尚史がそう言うと、富田は首をブンブンと大袈裟に振る。
「いや、まさか本当に来てくれるなんて思わなかったから、凄ぇ嬉しいよ」
 ニコニコと上機嫌で話す富田の顔を見ると、何か印象が違って見えた。
「あれ……髭剃った?」
「ま、まぁな。暫く剃ってなかったから変な感じだけど……」
 言われてみれば富田の顎鬚が無いのは入社して以来かも知れない。その後研修先が違って、同じ部署になった頃には既に生やしていた。
「京迩ってさ、ずっと髭生やしてたよね? ……もしかして僕に言われたから剃った?」
 尚史の言葉に、富田は目を泳がせる。うろたえている様子からすると、やはり下心があったのかと疑惑の目を向けた。
「い、いや……そろそろ歳相応にハクもついてきたし、剃ろうかと思ってただけで……」
「え? じゃあ今まではわざと生やしてたのか?」
「まぁな。入社した時に『ガキのくせに』って言われたのが悔しくてな」
 そう言う事情だったのかと納得した尚史は、無精髭を生やしている事から、だらしないと思い込んでいた自分を恥ずかしく思う。
「そうだったんだ……。ごめん、なんか悪い事言ったな。無理に剃らせちゃったみたいで……」
「いや、なんか最近俺もちょっとムサイかなと思ってたから、気にすンな。あ、今日はチュウしないから安心しろって!」
 クスクスと笑う尚史に、富田は頬を紅潮させてちらりと視線を落とす。
「――してほしいって言うんなら、別だけどな」
「今日は飲むんじゃなかったのか?」
 その答えを聞くと、ガクっと肩を落とす。しかしすぐに気を取り直した様子で
「な、飯、食ったか? 俺ンち何も無いから、どっかで食うか?」
「いや、無駄金使う事無いだろ? 簡単なものなら作るけど?」
 富田はその切れ上がった一重を瞠り、瞳を輝かせた。
「嘘? マジで作ってくれンの? 自炊してるんだ? 俺、面倒臭がりだから、そこら辺の弁当で済ませてたけど」
「それじゃ身体に良くないだろ。大したもん出来ないけど良かったら」
 先程買い物を済ませたスーパーの袋を掲げて見せると、富田は嬉しそうにして、尚史の頭を抱えた。
「うわ! ばか!! 人に見られたらどうするんだよ!?」
「ンなもん、見せ付けてやるよ! 嫌って言うほど」
 尚史は富田の言葉に呆れた振りをしつつも、内心嬉しかった。今までずっと憧れていた。
 誰かの温もりを感じる日など、自分には来ないと思っていたから――。



               
               ――to be continued――


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