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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――時空を超えて――<13>

 尚史と富田は切れたロープの間からすり抜けて、谷を降りて行った。
 丁度車が止まったと思われる場所に立つと、背の高い雑草の陰に隠れて黒い工具箱が蓋を開けたまま転がっているのが見えた。
 それを取ろうとして手を伸ばした瞬間、誰かに突き飛ばされたような感覚に襲われ、バランスを崩した尚史は、前のめりになった。
「あっ!?」
 緩やかだと思っていた谷は、崖壁をその豊かな恵みの草木で隠していた。目前に広がる急な角度の斜面に背筋が凍る。
 何とか踏み留ろうとしたが、足元の雑草と落ち葉の山に阻まれ足元が滑った瞬間に、逞しい腕が尚史の腹を捉えた。反動で眼鏡が顔面から外れて、崖下へと吸い込まれる。
「危ない!! だからさっき言ったじゃないか!!」
 富田が血相を変えて、尚史をぐっと抱き寄せる。
「え……?」
「そこから急になってるから気を付けろって……なのにお前フラフラ吸い込まれれるように行くから焦ったよ。聞いてなかったのか?」
「あ? ああ、ごめん……」
 尚史には全く聞こえていなかった。すぐ近くに居たから聞こえない筈がない。
 富田は「はぁー」と、大きく深い溜息をつき「……大丈夫か? お前、最近本当におかしいぞ?」と、心配そうに問い掛ける。
 自分の周りだけバリアが張られたようになっていたとでも言うのか、またの怪現象に背筋がザワザワと粟立つ。
 崖下が目前で、尚史は息を呑んだ。しかし、がっしりと支えられた腕に安堵の息を漏らす。
「ごめん、もう大丈夫だから。ありがとう、富田」
 しかし、何故か富田は放してくれなかった。
「……富田?」
「心臓が止まるかと思った……。お前が居なくなると思ったら俺――」
 富田の声は震えていた。訳が分からず尚史は呆然とその場に立ち尽くす。
 ふと首筋辺りに暖かいものが触れると、ビクリと身体を竦ませた。驚き横を向くと、富田は尚史の肩に顔を埋めていた。
「ごめん、俺もう限界だわ……」
「ああ、そうだよな、事故現場だもんな。気が動転するのも分るよ。今度は注意するし、もう大丈夫だから……」
「いや、そうじゃなくて。管野、お前が好きだ」
「え……? えぇ!?」
 突然の富田の告白に、尚史は戸惑った。
「な、なんだよ? いきなり……。あ、そっか! 最近、僕の様子が変だから、またからかっただけだろ?」
「そンなんじゃねぇよ」
「じ、じゃあ、人が落ちそうになったから、気が動転して、それで……」
「……それもあるけど、違う。もう、ずっと前から好きだった」
 急に体の向きを変えられたかと思うと、抱きすくめられて身動きが取れなくなる。
「ちょ、富田! 冗談はそれくらいにして……」
「誰がこんなこと冗談で言えるか!」
 顎を捉えられて目を合わされると、富田の切れ長の一重の眼差しは真剣そのものだった。
「……好きだ。管野」
「でも……僕は男で――」
「そんなの知ってる」
「……富田は、その……、ゲイなのか?」
 尚史は前に興味本位で、同性同士の出会い系サイトを見たことがあった。
 確かに富田のように男らしい男は、大人しい感じが好きなような傾向ではあったように思う。
 同じゲイなら話は分るが、そうじゃないなら何故自分なんかと思う。
 尚史が疑念を抱いているのを見抜いたのだろうか、富田は真っ直ぐに見つめたまま情熱的な視線を送り続ける。
「俺は別に男が好きって訳じゃないが……。管野尚史っていう人間に惚れただけだ」
 直球過ぎるほどの告白に、尚史は揺らいだ。虹輝の顔が一瞬、浮かんで消えた。
「でも、ゲイじゃないんだろ? だったら、どうして僕なんか――。平凡だし、これといってたいした感じじゃないし、今までだってそんな……付き合ってくれなんて言われた事ないし、好きになった男の人には振り向いても貰えな……」
 ハッとして口を噤んだ。自分の性癖を自分で吐露してしまった事に気が付いた尚史は、暫くの間、恥ずかしさのあまり俯いていた。
「菅野は元からそっちの方だったのか?」
 富田に質問されて、ぎゅっと胸が苦しくなる。
「……そうだよ、僕はゲイだ。だけど……誰とも付き合ったことは無いんだ」
「そっか。なら試しに俺と付き合ってみる、って言うのはどうだ?」
 ニッコリと微笑みながら、尚史に熱い眼差しを送る。
 富田の視線が、昨日の虹輝の視線と重なると、尚史は罪悪感に苛まれ視線をずらした。
(でも……虹輝は……虹輝には未来がある――。それを僕が潰しちゃいけない……)
 それを察したのか、富田が口を開く。
「――俺じゃ……駄目か? 今、好きな奴いるとか?」
 縋るような視線だった。尚史は胸の奥がズシリと重くなる。
(富田も同じだ……。僕が虹輝をずっと好きだったのと同じ……。好きだと言ってくれる富田となら、もしかしたら……)
 暫く沈黙が続いた。不安そうに見つめる富田に、尚史は意を決し微笑んだ。
「いや……。好きな人は居ない。ありがとう、嬉しいよ」
 途端に富田は瞳を輝かせる。
「え、それって――?」
「うん。僕でよかったら……」
 富田は嬉しそうに「いやった!!」と、声を上げて尚史をお姫様だっこすると、安全な場所まで移動した。
「うわ!! ちょ、富田!! お前、浮かれすぎ!!」
「これが喜ばずにいられるかって!! 今日こそ言うぞって決めてて、玉砕覚悟だったんだからな!!」
 富田が車内でずっと押し黙っていたのは、祟りを恐れていたのではないと、尚史はその言葉で気が付いた。
「最近お前、なんか落ち込んでるみたいだったし、絶対ダメだと思ってた。でも事故って、ここで死ぬかもって思った時、今まで言えなかった事を後悔したから」
 興奮が収まりきらない様子で、富田は満面の笑みを向ける。
 富田にこんな一面もあるのかと思って微笑ましくなった。しかし、その好意を利用した自分が、とてつもない卑怯者に思えて項垂れる。
「……どうした? やっぱりやめる……とか――?」
 途端にまた不安そうに見つめられて、尚史は首を横に振った。
「違う……そうじゃなくて」
 富田はゴクリと唾を飲み込み、尚史の言葉を待っているようだった。縋るような視線に居た堪れなくなった尚史は、付き合う人ができたら名前で呼び合いたいという、密かな願いを思い出し、咄嗟にそれを口にした。
「あ、あのさ……付き合うんだったら、名前で呼んでいいかな?」
「は? えっ? ああ! 勿論!! 俺も名前で呼んで良いか?」
 先程までの不安そうな表情は吹き飛び、富田は嬉しそうに何度も頷くと、恥ずかしそうに口を尖らせ「ひ、尚史」と、名を呼んだ。
 尚史は富田のその普段見られないような仕草が、可愛らしく可笑しくて、クスクスと笑いながらそれに答える。
「なんだよ、京迩(きょうじ)」
 すると富田は顔を真っ赤に染めて、尚史をぎゅっと抱きしめ頬を寄せると歓喜に満ちた雄叫びを上げる。
「うっわー、うわー!! 嘘みてぇ!!」
「ち、ちょ、は、恥ずかしいから!! 髭痛いし!!」
 そうは言いながらも、頼りがいのありそうな大の男が子供みたいにはしゃぐ姿が可愛らしく映り、微笑ましくなる。
 だが、やはり罪悪感は払拭できないでいた。
 富田はそんな尚史の様子には気が付かず、じっと見つめ、またも喉を鳴らした。
「あ、あのさ……キ……い、いや」
 モジモジとしながら、富田は口篭らせる。
 何が言いたいのかと見上げていたら、富田は意を決したように大きく息を吸ってから
「キ……スはまだ早いか?」
 視線を逸らし頬を紅潮させる富田が、本当に子供みたいで可愛く思えて、尚史はぷぷっと噴出した。
「それじゃ、その髭ちゃんと手入れしたらな」
 尚史が顎鬚を指差すと残念という顔をして肩を落とすが、何かを思いついたような顔つきになるとニッと口を大きく開けて笑ってみせる。
「うし、分った!! そん時は覚悟しとけよ? 濃厚なのお見舞いしてやる」
 尚史は途端に真っ赤になり「ば、ばか!」としか言い返せなかった。

 やがて日も落ちかけ、腕時計を見ると就業時間間近だったため、作業を切り上げて帰ることにした。
「結局、全部は見付からなかったな。でも尚史の工具だけでも見付かって良かった」
「ん。ありがとう、……京迩」
 互いの名を呼び合うのは、とても気恥ずかしい。六年も同じ会社にいたのに、今まではずっと苗字だけで呼んでいたからと言うのもあるが、これからは恋人として付き合うのかと思ったら、自然に頬が紅潮する。
「……あー、もう可愛いな、チクショウ! チュウしてぇなぁー。髭ちゃんと剃っておきゃ良かった」
 砂利道を上りながら、富田はふて腐れたように言う。髭の事を指摘されて、必死に我慢しているようだった。
「三十路近い男がチュウって」 
 クスクスと笑いながら、眼鏡を落としてしまった尚史は、ぼんやりとしたその姿を見る。
「し、仕方ないだろ! なんかお前相手だとこっちは調子狂うんだよ……」
 富田は頬を紅潮させながら、鼻頭をチョイと掻いた。その仕草がいつもの豪快な富田とは違って見えて、尚史は何だか不思議な感覚になる。
(富田って、こんな顔もするんだ……) 
 観察するように見ていたら砂利道に足を取られ、膝がカクンと折れた。寸前のところで支えられて、転倒は免れ
て、ホッと息を吐く。
 またもその逞しい腕に抱かれ視線を上げると、今まで見た事も無いような富田の穏やかで優しそうな笑みを目前にして、少しだけキュンと胸が鳴った。
(これはきっと、初めて告白されたからだ……。好きだって言われて、浮かれてる……のかな)
 自分に言い訳しているみたいで、罪悪感が押し寄せる。
 そんな様子を気にしてか、富田は優しく問いかける。
「尚史? 大丈夫か?」
「あ、うん、ありがとう。眼鏡落としたから、よく見えないんだ」
「だったら、ほら」
 指を絡ませて手を繋がれた。尚史は初めての恋人らしい、その繋ぎ方に戸惑った。
 しかし富田の大きな掌から伝わる温もりが、次第に心地良く感じる。尚史はそっと握り返してみた。
 それに気が付いて富田は嬉しそうに握り締めて微笑んだが、ふと視線を手に向ける。
「ん? 指……怪我してたのか?」
 言われてズキンと胸が痛くなる。昨日、虹輝に巻いてもらった絆創膏に視線を落とす。
 またそこだけが熱を持ったような感覚になり、尚史は頭を小さく振った。
「どうした?」
「い、いや何でもないよ……ちょっと昨日、手を滑らせて……」
「そっか。結構、部品で傷つけるんだよな、気をつけろよ?」
「……うん」
 尚史は本当の事が言えずに、俯いた。それを元気付けるように、富田は繋いだ方の手を、ブンブンと振ってみせると、ニカっと口を開く。
「こういうのも良いもんだな。眼鏡ずっと外してれば良いのに。その方が……いや、やっぱ眼鏡してろ。尚史がこんなに可愛いってバレたら、狙ってる奴追い払うのが大変だ」
「ちょ、朝も言われたけど、可愛いって……それ、あんま嬉しくないんだけど?」
「仕方ないだろ。可愛いものを可愛いと言って何が悪い? ってか自覚してないのか?」
「自覚も何も……。それに狙ってるって、一体何の話だ?」
 富田はふぅっと大きな溜息を吐く。
「あのなぁ、そんだけ目がくりっと大きくて、綺麗な髪の毛してて華奢で色白で……。今までよく無事でいれたと思うくらいだけど? 社員旅行の時なんか、誰がお前を落とすか賭けしてた位だったんだからな! 俺がいなかったら喰われてたぞ」
「そんな……僕は女じゃないし――」
「そこら辺の女よりずっとかわ……っと。可愛いってのが嫌なら、愛らしいって言ったほうが良いのか?」
「……それって似たようなの物だと思うけど」
「じゃあ、愛しいってのは?」
「ばっ!! どうしてそんな恥ずかしい事言えるかなぁ」
「好きだからに決まってんだろが」
 ストレートな発言に尚史は半ば呆れつつ、その反面、嬉しさが込上げる。
 富田のお陰で、虹輝の事は考えないようにする事が出来ていた。
 顔を見合わせてクスクスと笑う。二人の間には、初々しい空気が流れていた。

               


                 ――to be continued――


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