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お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――時空を超えて――<12>

 電車を降りるといつもの町並みが目前に広がる。
 迂回路にされた道は、相変わらず車の列で歩きにくかった。
 尚史はぼんやりとしながら、帰路への道をただ黙々と歩く。
 アパートに着き外階段を上って、ポケットの中の鍵を弄った。カツンと音がして視線を向けると、鍵は床に落ちていた。
 それを拾い上げ、玄関の扉を開ると、カーテンを開けっ放しにしていた窓からは、月明かりが僅かに部屋を照らし出していた。
 照明も点けないまま尚史は床に転がった。
 一時間くらい前の出来事が、ずっと前にあった事のように感じる程に、尚史の頭の中は混乱してた。
(虹輝に言うんじゃなかった……こんな惨めな思いをする位だったら、いっそ幻のままで済ませておけば良かった……)
 ゴロンと寝返りを打ち、身を屈め膝を抱えた。下にした脇腹に違和感を覚え、ポケットを探ると携帯電話を取り出す。
 それをテーブルの上に置こうとしたら、着信ランプが点滅しているのに気が付いた。
 画面を開くと、虹輝からの着信履歴が数件あった。溜息をつき電源を落とすと、テーブルの上に放った。
 今、虹輝の声をまともに聞けるほど、尚史は図太い神経の持ち主ではない。
(あ……上着、忘れて来た)
 走っていたせいで体温が上がり、すっかり忘れていた。
 汗で少し湿ったシャツを着替えようと、のそのそと起き上がる。
 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、ペットボトルに直に口を付けたら虹輝に触れられた感触が蘇り、全身が熱くなる。
 だが、すぐに自分の言ったセリフが脳裏を過ぎると同時に、冷たい水の感触が喉元を過ぎると、途端に熱は冷めて背筋が寒くなった。
(もう、虹輝に嫌われたよな……。でも、これで良かったんだ、これで――)
 想いとは裏腹に涙が頬を伝う。
 尚史はベットに潜り込むと、そのまま眠れぬ夜を過ごした。


 翌朝、いつものように会社に出勤してデスクに腰を下ろすと、富田が作業場から現れて無精髭を撫ぜながら尚史に声を掛けた。
「はよ! ん? 何だ、酷い顔してるな……。どうした?」
 重低音の声が響き、富田は屈んで尚史の顔を覗き込む。心配そうにじっと見られて尚史は慌てて顔を背向けた。泣き腫らした瞼を見られるのは恥ずかしい。
「え……ああ、昨日ちょっと怖い映画のリメイク見たからかな?」
 適当に思いついた事を言った。まさか本当の事など言える訳がない。
「怖い映画ねぇ……。何、ホラーとか好きなんだ?」
 ホラーなんか好きな訳ないだろう、映画なんかよりもっと怖い目にあってるからね、とは言った所で信じて貰えそうもない。もし信じてくれたとしても根掘り葉掘り聞かれたら困る。
「いや、そう言う訳じゃない。たまたまやってた深夜番組見てただけだよ」
「ふーん……。そういや、ホラーで思い出したけど、あそこのリゾート計画地もなんかそんな感じだよな。よくある祟りってやつ? まぁ俺はそんなの信じないけど」
 確かに富田は、非現実的なものは受け入れ無さそうではある。
 厳ついがっしりとした身体つきで、頭皮から真直ぐに伸びた短めの硬そうな剛毛は、強健なイメージだ。
 だが、今回の事故で何か思う節でもあるのか、今日はどことなく落ち着かない様子だった。
 尚史と目が合うと、何故か視線を泳がせている。
 それが気になって尚史は、なおもじっと富田を見つめた。その視線に居た堪れなくなったのか、富田は何か思いついたように
「あ、そうそう、散らばった工具、今日探しに行くんだけどお前も行くか?」
 頭をポリポリと掻きながら、視線を逸らした。
「祟りとか言っておいて、よく連れて行く気になるな、お前も」
「何だ、怖いのか? 菅野は可愛いなぁ」
「お前なぁ、馬鹿にしてんのか?」
 無精髭を撫ぜながらニッと笑われ、尚史はムッとした。あからさまに馬鹿にされてると思うと、自然に表情も険しくなる。それに富田はいい奴だとは思うが、その無精髭はだらしないように思えて好きじゃない。
「いや、そんな怖い顔すンなって! 冗談だよ」
 富田は慌てた様子で否定し、居心地が悪そうにそわそわと手にしていた工具を玩んでいた。
「あ、いや……。なんか最近お前、元気ないみたいだったからさ、ちょっと元気になるかなって誘ってみただけだからさ」
 悪気が無かったのに気が付くと、尚史は吊り上げていた眉根を下げて、フッと微笑んで見せた。
 だが、冨田にはそれが苦笑いしているように見えたのだろう。相変わらずそわそわとしている。
 正直、昨日の事を思い出すと仕事に身が入りそうもない。ここは富田の提案に乗った方が良いかもしれないと思い「ん~、許可貰えるんなら行っても良いけど……」と、答える。
「よし、決まり。んじゃ行くか!」
 尚史の返答を聞くなり、富田は声を弾ませる。
「え、課長に許可は?」
「もう取ってある」
「随分と用意が良いんだな。さては、独りで行くのが怖かったんじゃ?」
 クスクスと笑い富田を見上げると、顔を赤くし視線を泳がせていた。
「ば、馬鹿言うなよ! 誰がそんな! 俺はお前が工具が無いと不便だと思ってだな……」
「はいはい、そう言うことにしておくよ」
「……あのなぁ、さっきのお返しか?」
 やっぱり図星だったと思い、尚史は富田に微笑みかける。
「そう言うこと! じゃ、出かけよう」
 尚史が立ち上がると、富田は先陣を切って歩き出した。きっと言い当てられて恥ずかしかったに違いない。大の男がお化けが怖いなんて言えないだろ、とそのその背中が語っているように思えて、尚史はまたクスクスと笑った。

 駐車場を出て暫く走ると、リゾート計画地へ向かう細い山道の手前のコンビニで、富田は車を停める。
「ちょっと休憩も兼ねて、飲み物でも買おう」
 そう言う運転席の富田の顔を見ると、心なしか緊張しているように見えた。
 いつもは陽気で、冗談交じりの話をするのに、今日はほとんど会話らしい会話も無い。
 やはり何だかんだ言っても、富田は祟りを恐れているかも知れないと思いつつ頷いた。
 店を出て車内に戻ると、手にしたペットボトルを傾けて、富田を見る。
 やはり同じように清涼飲料水を飲み干した後、浮かない顔つきをしていた。
「あのさ、運転代わろうか?」
 尚史がそう言うと、富田は一瞬ハッとしたような表情をして首を横に振った。
「いや、いい。管野、俺がひっくり返った場所、知らないだろ?」
「それは言ってくれれば良いだけの話だろ? なんか疲れてるみたいだし」
 すると富田は尚史に向かい大きな口を横に広げ、ニッと笑ってみせる。
「誰が疲れてるって? 会社一タフって言われてる俺が?」
「……そうだよな、大酒飲みだし。宴会三連チャンでも全然平気だったもんな」
 尚史は去年の社員旅行を思い出す。一泊二日の社員旅行で散々飲んだ暮れていた富田だったが、それでは足りないと三日三晩付き合わされて酷い目に遭った。二日酔いを起こして頭を抱える尚史の横で、ケロリとしていた富田が脳裏を掠める。
「でもさ、本当に大丈夫か? さっきから浮かない顔してるけど」
 ここで茶化すのも悪いと思い「怖いのか」とは口にしなかった。
「ん、いや。考え事してただけだ。悪かったな、心配させて」
「いや、だったら良いんだけど」
「んじゃ、行くか。もしかしたら見付かんないかも知れないけど……そん時は俺、弁償するからさ」
「いやいや、いいよ、気にするなって。探してみなきゃ分らないだろ?」
「だな。さて、こっから気合入れないと、また動物出てきてひっくり返ったら大変だ」
 富田はそう言うとシートベルトをきっちりとして、車を発進させた。
 暫くうねった坂道を登っていくと、舗装されていた道路は途中から砂利道へと変わる。
 慎重に運転しているのだろう、富田は真剣な眼差しでゆっくりと走っていた。
 ガタゴトと車が揺れるたび、ハンドルを巧く操り、絶妙なアクセルワークで体への負担を減らしているようだった。
 そんな富田が事故を起こすくらいだったのだから、よっぽど焦っていたのだろう。
「お、あそこだ。俺が転がった場所」
 不意に富田が口を開く。助手席側から見るとそこは車同士がすれ違うためのスペースが設けてある場所で、あまり見通しは良くなかった。
「……狭いな。もうちょっと行った所にパーキングあったよな、確か。そこに停めて降りてこよう?」
「そうだな、いくら車通りが少ないとは言っても、邪魔になるかも知れないしな」
 車をパーキングのある場所まで移動させて、そこから降りて来ると清々しい秋風が頬を撫でる。祟りとか無縁そうな場所なのに、と思っていると何か中型の動物らしいものが横切った。
 動きが速すぎて確認出来なかったが、大きさ的には猫くらいだった。
 横に並んでいた富田が「ほらな? 自然なのは良いんだけど、突然出てこられると困るんだよな」と、口を尖らせその動物が横切った方をじっと見つめる。
 道路の端にはロープが張られており、その先は谷になっている。
 見ると丁度、一部のロープが切れて、ワゴン車くらいの幅の車が落ちたのであろうと推測される、草が薙ぎ倒された跡があった。
「……富田、ここ落ちたのか?」
「ん、ああ。情けないけどな」
「いや、富田は運転巧いだろ? よっぽど焦ったんだろうし。でも、もうちょっと上だったら危なかったな……。崖だもんな、あそこ」
「だな。俺、死んでたかも」
「縁起でもないこと言うなよ! さ、降りるぞ」
 この箇所だけは、他の場所と比べて谷間が緩い感じがした。不幸中の幸いとは、こういうことを言うのだろう。山菜を採りに来る人でもいるのか、足跡のような痕跡もいくつかあった。

               

               ――to be continued――


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