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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――時空を超えて――<9>

 駅に到着すると、そのまま実家に向かう方面の電車に乗り込んだ。
 尚史には、どうしても気になる事があった。
 昨日の虹輝の後ろ姿。どうしてあの時間にあの場所に居たのか?
 金縛りに遭って急に解けた後の残り香も、もしかしたら虹輝が何かしたのじゃないか?
 だが、虹輝は至って普通の子だった。小さい頃は、ホラーの映画などテレビでやっていると、チャンネルを変えるような、そんな臆病な所もあった。
 それに義母や、虹輝本人から、そんな心霊体験みたいな事をしたことがあるとは、今まで一度も聞いたことが無い。
 あれは自分の幻であって欲しいと願いつつ、車窓から流れる景色を眺めていた。
 実家の近くの駅に着くと、もう一度、電話を掛けてみる。
 呼び出し音が二、三回鳴ると、低めの透る声が聞こえた。
「はい、管野です」
 心臓がトクンと脈打つ。それを悟られないように平静を装った。
「ああ、虹輝か? 僕だけど」
「兄貴? どうした? 墓参りは来週だよ?」
 虹輝の声のトーンが変わり柔らかな雰囲気が漂うと、益々胸が苦しくなる。
「いや、ちょっと用事あって……。父さんとお義母さんは?」
「今日は帰らないよ? 商店街のクジに当たってね、温泉旅行に行った」
 父親の不在に実家に行くか迷ったが、昨日、虹輝がどこに居たのか、直接聞いてみようと思った。これなら虹輝に逢う口実も出来ると思った途端、そんな邪な考えを持ってしまった事に自責の念を抱く。
 尚史は首を軽く振りその考えを払いのけると、兄として精一杯に振舞う。
「……そっか。今からそっち行くけど、お前、飯は? って、あれ? バイトは?」
「バイトは今日は休み。ん~、冷蔵庫のもの漁って適当に食ったけど、腹減った」
 まだまだ食べ盛りなのだと思い、尚史は微笑んだ。
「分った。んじゃ、もうちょっとで着くから、待ってろな?」
「何? もうそんな近くなんだ?」
「うん。それじゃ後で」
 通話を終えると、胸が締め付けられるような、苦しく、切ない感情が支配する。
 ただ、昨日の事を聞こうと思ってるだけなのに、声を聞くと、どうしても胸が高鳴る。
 こんな感情を悟られては、これから兄弟としてやって行く自信が無い。
 尚史は大きく深呼吸すると、駅から歩き出し、途中のスーパーに寄って食材を買い込み、袋を提げながら、実家へと足を運んだ。

 住宅街の中に足を踏み入れると、似たような一軒家が並ぶ。
 その一角の小さな佇まいが尚史の実家だ。車が一台置けるのがやっとの狭い敷地に、シルバーのネイキッドタイプなバイクが置いてある。昨年、虹輝が買ったものだ。
 バイクは危ないから止めろと家族に言われたのだが、その反対もなんのそので、今ではかなり乗りこなせている様だ。もう少し排気量があるものが欲しいと言うあたりにそれが伺える。
 やはりどこまでも完璧な弟だと、苦笑いしながらその横を過ぎる。
 鍵を取り出して玄関の扉を開け中に入ると、虹輝がリビングのソファーに転がってテレビを見ていた。お笑い番組でも見ているのだろうか、アハハと笑い声が画面から聞こえる。
 高鳴る鼓動を抑え付けようと、大きく息を吸って落ち着付いたところで、上着を脱いでから声を掛けた。
「……ただいま」
「あ、兄貴、お帰り。早かったね?」
 振り返り、真直ぐに見つめる、二重の切れ上がった色素の薄い瞳に、また心臓が高鳴り始める。自分でも頬が紅潮するのが分る程だった。それを誤魔化すように俯いた。
「お前がお腹を空かして待ってると思ったから、早く来たんだよ」
 尚史は苦笑いしながら、手に提げていたスーパーの袋を持ち上げた。
「やりぃ! 何買ってきた? 弁当?」
 虹輝は目を輝かせ、ソファーから飛び起きると、尚史よりも大きい身体を寄せて、スーパーの袋を取り上げる。
「あっ、オイこら! これから作るんだよ! 焼きうどんで良いだろ?」
「やった!! 俺、好きなんだ、焼きうどん!!」
 尚史は『好き』という言葉に反応してしまい、胸の鼓動が速くなった。こんな事でいちいち、動揺する自分を情けなく思いつつも虚勢を張る。
「わ、分ったから。今、作るから大人しく待ってろ」
 上着をソファーに掛けて、そそくさと逃げるようにキッチンに向かい、料理の準備をした。 
 包丁のトントンと軽快なリズムが響くと、虹輝は待ちきれない様子で、横に並ぶ。
「もちろん肉、沢山入れるよね? あ、そこの椎茸とかキノコ入れないで?」
「お前、好き嫌いしてたら……」大きくなれないぞ、と言おうとして横を見上げる。
 自分よりも遥かに背が伸びた虹輝を見て、小さく溜息をつくと「……栄養のバランス悪いと、身体に良くないだろう?」と、返して苦笑いする。
「……じゃあ、少なく入れてよ?」
 ちょっとふて腐れたように言いながらも、虹輝は目をキラキラと輝かせ、まるで待てと言われた犬のように尚史をじっと見下ろす。
 こうして並んでいると、やたら緊張して挙動不審になり、見なくても良いような所に視線が泳いでしまう。手元が覚束なくなり、少し震え出した包丁はあっけなく食材を押さえている方の指に滑り込んで行った。
「あっ、痛て……」
「ちょ、大丈夫!? よそ見なんかしてるから」
 虹輝は尚史の怪我した方の手を取り上げると、切れた人差し指を、その程よく整った形の唇を開き、パクリと咥えた。
 柔らかい唇の感触と、湿った舌の熱が伝わり、今にも心臓が破裂しそうになる。
「ばばば、馬鹿っ!! 何してんだよ!!」
 慌てて手を引っ込めると、虹輝は驚き、戸惑った様子で見下ろした。
「あ、ごめん、つい癖で……。今、絆創膏持って来るよ」
 キッチンから離れる虹輝の後ろ姿を眺めながら、高鳴る鼓動を悟られはしなかったかと不安になる。と、同時に、昨日の出来事が脳裏を掠めた。
 昨日見た後姿は、虹輝のものと非常に類似している。それに近付いた時に微かに匂ったシャンプーの香り……。
 俄には信じ難いが、やはりそうとしか思えない。
 尚史は虹輝が咥えた指を眺めて、その場に呆然と立ち尽くしていた。そこに虹輝がキッチンに現れ、絆創膏を貼ってくれた。その指が、ジンと熱を帯びる。
 ハッと我に返り、耳まで赤くなっていないかと、ヒヤヒヤしながら忙しなく調理をしていると、虹輝はつまらなそうに眺めていた。
「……出来たら声掛けるから、テレビでも見てろよ?」
「それじゃ、俺、邪魔みたいだから、あっちで大人しく待ってるわ。あ、ソース味は嫌だから! 醤油にして?」
 尚史は虹輝がその場にいなくなると思うとホッとして「はいはい、分ってるよ」と、返事をする。リビングへと消える虹輝の後姿を、確認するようにまたじっと見つめた。
(取りあえず食事の支度を済ませて、話は後で聞こう。それにしても、相変わらず好き嫌い激しいな、アイツ……)
 怪我をした人差し指の絆創膏をじっと眺めると自然に笑みが零れる。
 ハッと我に返り、手早く調理を済ませると、出来上がった焼きうどんを皿に盛り、ダイニングに運ぶ。
 出来立ての焼きうどんを眺めながら、尚史は一人暮らしするようになってからの事を思い出していた。
 虹輝が尚史のアパートに遊びに来てる時は、いつも何か作ってやっていた。
 大したものは出来ないが、それでも虹輝は喜んでくれた。その笑顔を見るために自炊するようになったと言っても過言ではない。
 今日もこうして喜んでくれたかと思うと、つい気が緩んでニヤけ顔になってしまう。そこでまたハッと我に返り緩んだ頬を下げ、テーブルにそれを置くと、虹輝に声を掛けた。
 虹輝はすかさずソファーから離れ、ダイニングテーブルに置かれた皿に、鼻筋の通った形の良いその鼻頭を寄せて、出来上がった焼きうどんの香りを嗅ぐ。
「旨そう! 嫌いなの入れなかったんだ! やっぱ兄貴の作るやつ好きだな!!」
 またもその『好き』という言葉だけがクローズアップしたようになって聞こえ、尚史は否定するように頭を振った。
 それをキョトンとした表情で虹輝は見つめる。
「兄貴、何してんの?」
「い、いや、何でもない。ちょっとさっき考え事してて……」
「急に頭振ったりするからびっくりした……何か悩み事?」
 心配そうに顔を覗き込まれ、頬に熱を帯びるのが分って、尚志は誤魔化すように返す。
「いや、大した事じゃ……。それより、お義母さんの方が、数段旨いだろう?」
 話題を切り替えた事で虹輝が傍から離れると、ホッと小さく息をついた。
「ん~、でも母さんってば、何でも入れるから、よけるの大変なんだよ」
 虹輝の唯一の弱点と言えば、好き嫌いが結構ある事だ。
 野菜はあまり好まない。特にきのこ類が駄目らしい。
 その他は文句を言いながらでも食べるのだけど。
「お前、贅沢だな……『もったいないお化け』が出るぞ?」
 ふぅと溜息をつく尚史を見て、虹輝はクスクスと笑う。
「そんな『もったいないお化け』って居るなら、会ってみたいよ」
「ちょ、おま! 信じてないだろ?」
「いや、だってさ。どんなんかなーと思って。別にきのこなんか食べなくたって生きて行ける」
虹輝は不機嫌そうに答える。そう言えば怖い話が苦手だったかも、と思い
「……きっと居るんだよ。確かにそうかも知れないけど、きのこだって栄養あるんだよ?」
「分ってるけど、もしかしたら毒があるかもしれないじゃないか」
「そりゃ、山菜狩りして来た人が間違って採ったものにはあるかも知れないけど……」
 虹輝は拗ねたような表情をした。その顔と幼い時の影が重なると、尚史はくすっと笑った。
「さ、早く食わないと冷めるぞ。んじゃ、頂きます」
 尚史が両手を合わせると、虹輝もそれに合わせて手を合わせる。
「……まぁいいや。いただきます」
 ほくほくと湯気が立ち上る焼きうどんを頬張る虹輝に、尚史は目を細めながら箸を進めた。

               



              ――to be continued――


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