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――時空を超えて――<4>

 尚史には両目にはいつしか、今にも溢れて零れ落ちそうになるほどに涙が浮かんでいた。
 怖くて溢れる涙じゃなく、その子があまりにも可哀想だったから――。
 映像が最後の場面を映し終えたであろうと思われる所でフェードアウトし、また一面が暗く重い闇へと変わった。耳が痛くなるほどの静粛な空気を破り、その子はぽつりと涙声で言った。
『最後まで見てくれて……ありがとう』
 尚史は首を横に大きく振った。とは言っても実際には動けないので、心の中で大きく振っている事をイメージした。それが伝わったのか、その子の淡い色の瞳には涙が滲んでいた。
『……皆、僕(やつがれ)が出ただけで、お化けだって言って、怖がって……僕はただ、話を聞いて欲しいだけだったんだ。辛くて、悲しくて、それを知って欲しかっただけなのに、皆逃げた……。なのに、お前さんが初めてだよ、僕の為に泣いてくれたのは……』
(だって、こんなの酷いよ……どうして子供の君が、そんな目に遭わなきゃならなかったの?! 変だよ、おかしいよ……)
 尚史には到底、理解出来るものでは無かった。自分と同じ位の歳の子供が、時代が違うとは言え、過酷な運命を背負わなければいけなかった理由を。
 その子は両目を掌でこするように涙を拭うと、ぽつりと要点だけ話した。
『――仕方なかったんだ、僕は妾の子だったから……。僕の母様は町娘で、偉い武将が気まぐれで孕ませた……。その武将は跡継ぎが居なかったから、僕がお屋敷に連れて行かれて……。でも、正式なお世継ぎが生まれちゃったから、僕は用がなくなっちゃったんだ……。あとはお前さんが見た通りだよ』
 尚史は、その子が見せた映像で、その惨状はまるで自分の身に起きたように感じていたのだった。余韻で恐怖と切なさと寂しさが入り混じった複雑な感情を抱きつつ、もう一方ではその子への同情の念が強く現れていた。
 大人の都合のみでいざこざに巻き込まれた後、自分と同じ位の歳で命を落とし、長い間一人で彷徨っていたのかと思うと、哀れでならなかった。暫くの間二人は啜り泣くしか出来ないでいた。
 やがて、空が薄らと明るくなると、その子は腕で涙を拭って立ち上がった。
『……遅くまですまなかったね。お前さんの母様に怒られちゃうから、僕、もう戻るよ』
 フッと薄い笑みを零し、寂しそうに微笑んだ。その姿を見たら、ぎゅうと胸の奥が締め付けられた。
 薄れ行くその子の影に、尚史は瞳に涙を溜め込み、話しかけた。
(天国に行けたら良いのに……)
『無理だよ……母様も居ないし、行き方が分らないんだ……』
(それじゃ君は、ずっとこの場所に居なくちゃいけないの?)
『仕方ないよ、僕はこの場所しか知らないから……。でも僕、ずっと一人だったから、大丈夫だよ。ありがとう』
 無理に笑顔を作る、同い年位のその子に、尚史はすっかり情が移ってしまっていた。
 必死に、心で強く、強く念じた。
 どうかこの子がお母さんと会えて、天国に行けますようにと――。

 その子の姿が消えそうになった瞬間、尚史の頭の中にその子とは違う声が響いた。
『あなたの思いやりの心に、私も深く共感しました』
 どこからともなく聞こえる声は柔らかく、懐かしいような感じだった。
尚史はふと思い出す。怖いと感じる異世界の者が居る時は、必ずこの声がしていた。
近寄ってはいけません、今のあなたにでは、まだ手に負える相手ではありません――と。
 その声の主の正体が何なのか、気に掛かってはいたのだが、遊びに夢中になる内に忘れてしまっていたのだった。声の主を探してみるが、姿は見当たらない。
『その願いを叶えましょう。但し、私はもう、あなたにお仕えする事が出来なくなりますが……』
 不思議に思いながらも尚史は目だけでキョロキョロと辺りを見廻すが、頭の方から光が見えるだけで、未だに姿は見えない。こんな事は初めてだった。
(君は誰? ボクに仕えるって……どういう事?)
 その声はまた、尚史の疑問に答えるように頭の中で響いた。
『私は古の時代より、あなたに仕えて来た狐でございます』
(キツネ……さん? どうしてキツネさんがボクに仕えるの? それに仕えるってどんな意味?)
 尚史は疑問を全てぶつけてみた。狐はフッと優しげに息を漏らした後、
『仕えると言う事は、奉仕すると言う事です。現代の言葉で言えばボランティア、つまり見返りを求めないで、あなたを護って来た、と言うことですよ。ずっと以前のあなたは、身分の高い術師でした。術師とは、この世では見えない力を自在に操れる人の事です。私は奉っていた者たちに裏切られ、悪しき思いに駆られて暴走した。村全体に呪いをかけ、その村を滅ぼそうとしたのです。しかしあなたは、そんな私を封印するのではなく、正しき道へと導き、助けてくれた恩人です。転生されて記憶を失ってしまったようですが、その術の腕が衰えた訳ではありません。今はまだ眠っている状態なのです』
(なんだか難しくてよく分らないけど、ボクを今まで守ってくれてたの?)
『ええ。あなたが覚醒した時に、手伝いを務めようと、ずっとお傍に居りました。ですが、一度、あちらの世界に行ったら、私はもう、あなたの元へは戻る事が出来ないのです。過ちを犯した私は、神様からそう告げられてしまったのです。ですが、私が一緒に行かなければ、この子に母の姿を見せ、天の国に誘(いざな)うのは難しいのです……。私が離れてしまうと、今のあなたでは様々な邪気から、身を護る術を失くしてしまいますが、それで良いと言うのなら――』
 尚史はその意味を深く考えず、即答で答えた。
(よく分んないけど、この子が天国に行けるんだったら、ボクは構わないよ! お母さんに会わせてあげてよ! 連れて行ってあげてよ!!)
 その狐は少し間を置いてから
『――分りました。それでは心の目を封印します。このまま私がいれば、あなたは将来……。いえ、ここでそれを言った所で、あなたの気持ちは変わらないのでしょうね。あなたは昔から優しいお方でした。転生した今でも、それは変わっていないようですね。それでは、長い間お世話になりました』
 そう言い終えると、辺りが眩いばかりの光に包まれる。しかし、その光は不思議と眩しくは無く、暖かい柔らかな空気が辺り一面を覆った。
 その中から一匹の身体の大きな、尻尾が何本もある金に輝く狐が姿を現した。
『ご主人様、私の姿がお視えですか?』
(うん、見えるよ。綺麗なキツネさんだったんだね?)
 狐はなぜか寂しそうな瞳で見ていた。
『この姿が視える時、それはあなたが成長して私を従えたか、そうでない場合はお別れの時なのです……』
(そう……だったんだ)
 尚史はこれが別れの時だと知り、胸が痛んだ。しかし、そうしなければその子はずっと母親に逢えないのかと思うと、それよりもずっと胸が軋む。寂しい気持ちではあったが、狐に礼を言った。
(今までずっとありがとう、キツネさん。ボクはお父さんもお母さんも居るから大丈夫。だからその子を天国に連れて行ってあげて?)
『承知しました。それでは、ご主人様、長い間お世話になりました。この恩は決して忘れません。どうかご無事に成長されますよう――』
 狐がそう言ってペコリと頭を下げた後、漆黒の闇の中を駆けて行くと、そこからキラキラと光の粒子が降り注ぐ。
 
 時間にすれば数秒の出来事なのだが、幻想的な出来事に心を奪われた尚史とその子は、まるで踊るように舞う光を、ただ呆然と眺めていた。
 やがてその光の中から、ぼんやりとした人が狐の背に乗っているのが見えた。尚史は目を凝らした。 
 質素な着物を着た女の人だと認識が出来ると、その女の人は狐から降りて駆け出し、その子を抱きしめた。
『あ……、かぁ……様?』
 その子は事態が飲み込めない様子で呆然と突っ立ていたが、画像で見た母親と思しき人がしきりに頷いて、その子の顔を愛おしそうに掌で包む。その瞳からは涙が零れ落ちていた。
『ああ、藤吉……すまなかったね、ずっと寂しい想いをさせてしまって……』
 様子を把握した藤吉は、母の胸の中に飛び込んだ。
『母様!! 逢いたかった!!』
 親子は互いを抱きしめ合い、眩いほどの笑顔になる。それを見て尚史は、心から溢れ出す暖かな気持ちに包まれ、気が付けば頬に熱を帯びた雫が伝っていた。
 藤吉の母親は、藤吉の頭を優しく撫でながら、尚史に向かって何度も頭を下げて、礼をしていた。次第にその影が薄くなり母子が金色に輝く狐に導かれ、空に向かって上って行くのが見えた。
 と、同時に、尚史の頭の中に、藤吉の声が響いた。
『ありがとう! ありがとう!! この恩は絶対忘れない!! 今度は僕が、この狐に代わって君を護りに行くから、それまで待ってて!!』
 やがて母子と一匹は、空の彼方に吸い込まれるように姿を消して行った。
 尚史は夢見心地で、その景色を見ながら微笑んだ。
 いつの間にか動かなかった身体には自由が戻り、安心した尚史は、そこで意識を手放し、また深い眠りに就いた。
 その日、朝寝坊して母親に怒られたが、夜中の出来事は内緒にしていた。
 藤吉が天国に行けて良かったと、尚志の胸の内は清々しさで満たされていた。
 それから後の二日間は、何事もなく家族で過ごし、その温泉宿を後にしたのだった。



               ――to be continued――


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