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お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――扉を開けて――<29>

 車が走る事およそ十数分、本州の感覚とは異なり距離数はあるものの車通りが少なく、信号も殆ど無いためか、予定よりずっと早く目的地に着いてしまった。
 俺は高まる期待に心を震わせながら、車を降りる。海沿いの閑散な風景に、ぽつりとその家は建っていた。まるで来る者を拒絶するような、そんな感じにも見て取れた。
 蓬田さんを見ると、やはり同じように緊張しているのだろう、その横顔は精悍さを増していた。
「……ここが波多の家らしい。もし違ったら近くを探してみよう」
 蓬田さんはそう言うと、玄関までの道程を歩き出した。俺もその後を追従する。
 そして玄関前に立つと表札を見た。『波多』の文字に、蓬田さんと顔見合わせ、唾をゴクリと飲み込む。
「あのお婆さん……、本当に凄いですね」
「……ああ。あの人が居なかったら、俺達はここに辿り着く事すら出来なかっただろうな」
 蓬田さんの顔に緊張が走る。俺が頷くとインターホンを鳴らした。
 だがそれに応える声がしなかった。もう一度、間を空けてから蓬田さんはボタンを押す。
 やはりそれにも応える様子が無い。どうやら留守のようだった。
 途端に緊張が解れ、肩が落ちる。
「いない……みたいですね」
「そうみたいだな……。じゃあ、吉岡の墓を探してみるか」
 蓬田さんも同様に落胆した様子でレンタカーに戻ると、カーナビを操作して墓地を探しているようだった。
 ポンと高めの機械音が鳴り『十九件、見つかりました』と女性のアナウンスが流れる。
「十九件か……そんなに数は多くないし、最悪一週間もあれば見つけられるとは思うけど……。それまで麻里が持ち応えられるかどうか、それが心配だ。早く見つけ出さないと」
 蓬田さんの顔色が曇り、焦燥の色が浮かび上がる。
 俺も同様の考えだった。何か手掛かりがないかとナビをじっと見つめていると、一箇所だけ気になるところがあった。もしかしたら晴くんがヒントをくれたのかと思い、そこを指差す。
「ん? 何かあった?」
「ここ……すごく気になるんです。もしかしたらここに吉岡の墓があるのかも知れないです。蓬田さん、行ってみましょう!」
「分った、じゃあここに設定をして、行ってみよう」
 蓬田さんはハンドルを握り、車を発進させた。
 そこから結構な距離があり、三十分ほど走っただろうか。目の前には漁港が広がる。
「……こんなところに墓地なんかあるんでしょうか?」
「そう、だね。土地勘がないから何とも言えないけれど、ナビが示した所はここなんだ」
 港に車を止めて降りてみると、潮風が心地良い。周りを歩いてみるがそれらしきものは見当たらず、蓬田さんは釣り人と思われる人に声を掛けていた。
「すみません、ちょっとお伺いしたいのですが……」
「ん~? なんだべ?」
「ここら辺に墓地ってありますか?」
「あ~、あそこの墓地だべか? なに、あんたらあの兄ちゃんの知り合いかい? 毎日、飽きもせず通ってるけど……。そういゃ、そこの兄ちゃん、顔が似てんなぁ。なに、兄弟かい?」
 釣り人の言葉に、それが波多だと確信した。
「あ、はい。兄を見かけませんでしたか?」
 俺は機転を利かし、弟に成りすまして質問してみた。
「あ~、あの人のほうが兄ちゃんかい。なんか細っこいから、あんたの方が兄ちゃんに見えるべさ。あんたの兄ちゃん、色々大変だったんだべ? 嫁さんには逃げられるわ、会社は潰れるわ。んで、噂になったあの男も海外で事件起こして死んじまって」
「……はぁ」
 俺が生返事をすると、釣り人は暇だったのだろうか、更に話を続ける。
「あれだべ? 高校生の時に学校でいちゃこらしてたんだべ? したっけ引っ越す羽目になったてのに、また舞い戻って来たんだっつー話だべ? あったら細っこい身体してんのに神経は図太ぇんだなぁ、案外。弟のあんたも大変だったべさ。まさか兄ちゃんがホモだなんて、びっくり仰天だったべよ? 俺ぁ、男同士でそうなるなんて、気持ち悪ぃって思うけどなぁ。身内にそんなんが居たんじゃ、恥ずかしくて表も歩けないべや。あんただってそれで離れてたんだべさ? 車もレンタみたいだべし、なに、仲直りしに来たんかい?」
「…………そうじゃないですけど」
 興味本位な上に偏見を持った言い草に、他人の事とは言えど腹が立つ。俺は釣り人を睨んだ。途端に釣り人は焦った様子で視線を外す。
「あ、いやいや、悪りかったな、余計な事までベラベラ……。あの兄ちゃんなら毎日遅くまで墓の前に居るから、行ってみるといいべ。そこの角を左に曲がって真直ぐ歩いた突き当たりが墓地なんだわ」
「……ありがとうございました」
 俺は釣り人に一応は礼を言うと、言われた通りの道を歩く。
 蓬田さんも横に並んで、何かを考えている様子だった。
「……田舎って、環境とか良いようだけれど……個人情報って、こんなにあっさり広がるものなのかな……」
 ぼつりと蓬田さんが零す。
「そうですね……。隣近所の絆が深い分、噂も広がり易いのかも知れません」
「だとしたら……吉岡と波多は相当、辛い思いをしたのかも知れないな……。さっきの人もあんな風だったし、噂話には尾ひれも付くから……。話題が無さそうな小さな町じゃ、面白おかしく語り継がれるのかも知れない。吉岡達が高校生だった時って、もうずっと前の事なのに……」
 俯きながら話す蓬田さんの横を歩きながら、俺も同じことを思っていた。
 こんな小さな町なら、噂はあっという間に広がるだろう。あの釣り人の態度からして相当、誹謗中傷を受けていたに違いない。
 俺は詳しくは分らないが、蓬田さんは何かを知っているのか、その横顔が憂いて翳っていた。



              ――to be continued――
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