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お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――扉を開けて――<28>

 目が覚めると、カーテンの隙間から心地良い日差しが差し込んでいた。
 まだ早朝なのだろうか、鳥達の鳴く声がひっきりなしに聞こえる。まだ寝息を立てている蓬田さんの寝顔を眺めつつ、俺は幸福に包まれていた。
 蓬田さんと結ばれて、初めて迎える朝。正確に言えば、前の俺なら何度も迎えていただろう。だけど、記憶を失くした俺にとっては、初めての朝だ。
 蓬田さんもきっと、以前の俺ではない俺に身を任せてくれた。
 今の俺を認めてくれた。そう思うと俺の心は満たされて行く。
 それから少し、ウトウトとしていたのだろう、アラーム音で目が覚めた。
 隣を見てみると蓬田さんの姿は無く、シャワーの水音が聞こえる。蓬田さんのその姿を眺めたい欲望に駆られるが、そんなに欲情していたら嫌われてしまうだろう。
 俺は気分を落ち着かせるために、何か飲もうかとベットを出た。パジャマを羽織ろうとし周りを見渡してみると、ふと衣類の感触がある事に気が付いた。
 俺は昨日、脱ぎっぱなしだったはずのパジャマを着ていたのだ。
 蓬田さんが風邪を引かないようにと着せてくれたのだろう、その心遣いが嬉しかった。
 冷蔵庫までの短い距離を移動して、扉を開けるとペットボトルの茶があった。
 それに手を伸ばしてみるものの、もし料金が追加にでもなったら蓬田さんに迷惑が掛かるだろうと思った。
 親父に生活費を送ってもらうのだって、気が引けるだろう。多分、蓬田さんの事だ、それには一切、手をつけていないだろうと予感がした。
 早く働き口を見つけて安心させないと、いつまでも蓬田さんを縛り付ける事になる。
 車が好きで整備士になったと言うのに、その仕事にも就けないのは、さぞ心苦しいことだろう。
 そう考えながら冷蔵庫の扉を閉め、グラスを探し、小さな棚からそれを取り出すとパウダールームに向かった。水色の蛇口を捻ると、すぐに蛇口に水滴が付き冷水が溢れ出す。
 本州とは全く違う水の冷たさに驚きつつも、グラスに注いでそれを飲んだ。
 ……水が、うまい。こんなに水がうまいだなんて思ったのは初めてだ。
 俺は感激して、もう一杯注ぐと口に含む。その瞬間、バスルームの扉が開いた。
 湯煙の中、姿を現した全裸の蓬田さんに見とれてしまい、ダラダラと水を零していると
「は、隼人!? どうしたんだ、何かあったのか!?」
 心配して自分が裸なのも忘れてしまっているのだろう、俺に駆け寄った。
「い、いえ……! あ、あのっ……服……」
「えっ? あっ、ああ!」
 蓬田さんは顔を真っ赤にして、慌ててバスタオルを巻いた。
「す、すみません……。見るつもりは無かったんですが……」
 結果、覗き見をしてしまった自分が、恥ずかしくなる。
「い、いや……。あ、隼人もシャワー使うんだろ? ごめん、占領してて」
「あ、いえ……いや、はい……、えっと、あれ? どっちだ、これ?」
 混乱してしまい、どちらとも取れる返事をすると、蓬田さんは吹き出して笑った。
 初めて見る蓬田さんの心から楽しそうな笑顔につられ、俺も声を上げて笑った。

 その後、俺達は朝食を摂るとホテルをチェックアウトし、レンタカーへと乗り込んだ。
 蓬田さんは行く先を、カーナビへと入力する。
「よし、ここから少し走るけど、昨日よりは全然距離が短いから、一時間もしないうちに着くと思う。今日は休日だから居るとは思うけど、もし波多に会えなかったら吉岡の墓を探してみよう」
 俺は蓬田さんの提案に頷いた。いよいよ吉岡の幼馴染に会うのかと思うと、緊張で身が引き締まる。
 占いのお婆さんの所で、蓬田さんはその幼馴染が俺に似ていると言った。
 だとしたら、吉岡は果たせなかった恋心を、俺に向けていたんじゃないだろうか?
 そしてお婆さんは、その人が墓で泣いてると言っていた。
 それも合わせて考えてみると、二人は何らかの行き違いをし、互いに惹かれ合っていたとしても、その思いを貫徹出来なかったのではないだろうか?
 そう考えると俄然、納得がいく。
 吉岡はきっと、その幼馴染の事がまだ好きなのだろう。
 しかし、振られたか、あるいは無理矢理引き剥がされたか、それとも告白出来ないでいたのか、いずれにしてもその幼馴染とは距離を置く事になってしまった。
 そして俺と出会い、今度は失敗したくないとか、またはもう傷付きたくないとか、そんな思いから俺が拒否できない状況に追い込み、執着していたと考えられる。
 もしその波多という人物が、吉岡の事を今でも好きだとしたら――。
 吉岡の目を覚ましてくれる事が出来たなら、俺は奴から解放され麻里ももう俺を護らなくても済むから、消滅は避けられるだろう。
 そして運が良ければ、俺は記憶を取り戻し、全てが丸く収まる。
 車窓から流れる広大な大地の景色を眺めながら、俺は、どうかその幼馴染が今でも吉岡を好きであって欲しい、と祈るばかりだった。



               ――to be continued――
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