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お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――扉を開けて――<25>

 俺達は急いで車の駐車場に向かう。
「隼人、ごめんな。ランチはまた別の機会にしよう」
「いえ、俺も麻里を早く助けてあげたいから……」
 蓬田さんはニッコリと微笑んだ。
「やっぱ隼人は、妹思いのいい兄貴だよ。さ、家に帰ったら地図でこの住所を調べて、早速行ってみよう」
「ええ、分りました」
 俺は助手席に身を置くと、シートベルトを締める。車はゆっくりと発進した後、家路を辿った。
 マンションに着くと蓬田さんは早速、パソコンを立ち上げる。
 俺は横でその様子を眺めていた。
 蓬田さんはメモに書かれている住所を、地図の検索へとかけた。
「あ、あった! でも……本当にこんな田舎に波多はいるんだろうか……?」
 見てみるとそこは、北の果ての地、北海道だった。
「どうしてこんな所に住んでいるんだろう……墓の前でってお婆さん言ってたよな? もしかしてここが吉岡の故郷なのかも……」
 蓬田さんは独り言を呟いた。だが、俺に視線を向け
「隼人、夢の中の吉岡は、どんな感じだった?」
「え、はい、いつも洒落た服を身に纏って……言葉使いにも訛りは無いです」
「……そうか。だとしたら、憧れの地だったのか、どちらにしてもここに波多はいる。すぐにでも出掛けよう」
「はい、それじゃ用意して来ますね」
「俺も準備するから。用意が出来たら声を掛けてくれ」
「はい、分りました」
 俺は部屋に戻ると、まずは親父に連絡を入れた。
 携帯を握り締め、コール音が途切れるのを待つ。仕事中だったら留守電に入れようかと考えていたら、三回くらいだろうか、呼び出し音が途切れ、親父の声が聞こえた。
『おお、隼人か。元気にしているか?』
「ん、蓬田さんのお陰で、すっかり元気になったよ」
『……そうか、それは良かった』
 親父の浮かない声に、俺は前から疑問に思っていたことを口にした。
「なあ、親父。親父は知っていたんだろ、俺と蓬田さんの関係」
『……ああ、そうだ』
 やはり、と思った。男同士で恋愛なんて、親父の時代では陰に潜む異端者だったろう。
 今もそれは変わらないだろうが、古い時代なら非難されていたかも知れない。
 しかし、俺は勇気を出して、親父に尋ねた。
「親父、怒らないで聞いてくれるか?」
『……何だ』
「俺はまた、蓬田さんに……恋をした。記憶は戻ってないけれど、再び彼を好きになったんだ。これからもずっと、彼と歩みたいと思っている。孫の顔は見せてはやれないけれど……許してくれないか?」
 親父は少しの間、沈黙をしていたが
『……好きにすると良い。麻里もそれを知っていて、お前を涼太君に託したのだろうから……。しかし隼人、同性とそういう関係でいると言う事は、世間の目は冷たいぞ。それにお前は耐えられるのか?』
「そんな世間の目なんか関係ないだろ。誰がどう言おうと、この気持ちは変わらない。俺が好きなのは、蓬田さんだけだから……」
『そうか……。それならどんな困難があっても、負けずに頑張ると良い』
 親父は半ば諦めたような口調で、俺に言った。やはり古い時代の人だ。理解を得られなくて当然だろうと思う。だが、それでも認めてくれた事が嬉しかった。
「ありがとう、親父……」
『……母さんとも話していたんだが、お前から連絡が無いのは、元気に暮らしているってことだろうと察しは付いていた。母さんもそれで落ち着いたみたいだし、近々退院する予定だ。母さんが戻って来たら、こちらにも顔を出しなさい』
「分った、そうする……。でも俺、今日から旅行に行って来るから」
『旅行? どこへ行くんだ?』
「北海道だよ。もしかしたらもう、吉岡の悪夢に魘されなくなるかも知れないんだ」
『そうなのか?』
「ああ、今の時点ではどうなるか分らないけど……。取り合えず行くだけ行って来る。また何かあったら連絡を入れるよ。母さんが退院したら教えてくれな」
『ああ、分った』
「それじゃまたな、親父」
 通話を終えようとボタンに指を置いた時だった。
『隼人!』
「え、何? どうかした?」
『涼太君と……幸せにな』
 親父の精一杯の言葉だろう、俺は胸がジンと熱くなった。
「ありがとう親父……。親不孝者で……ごめんな」
『いや、お前の幸せが私たちの幸せだから、お前が元気に暮らしていればそれで良い――。それじゃ、涼太君にもよろしく伝えておいてくれ』
 そこで通話が途切れた。俺は親父の気持ちに感謝しつつ、携帯を畳んだ。
 鞄に適当な衣類を詰め込み、部屋を出る。
 キッチンで食材の整理をしていた蓬田さんに、声を掛けた。
「あの、準備が整いました」
「ん、俺もこれで終わるから。電車で移動になるけど、大丈夫そうか?」
「ええ、多分」
「そっか。まだ少し時間があるから、これを食べてから酔い止めの薬を飲むと良いよ」
 短時間の間におにぎりを握ってくれたようだ。俺はそれを受け取り、食卓の椅子に腰を下ろす。
「あの、蓬田さんは?」
「あ、ごめん。作ってる最中に放り込んじゃって……。悪いけど一人で食べてくれるか?」
「あ、はい。それじゃいただきます」
 おにぎりを一口齧ると、そこから香ばしい味噌の香りと紫蘇の味が広がる。
 その途端、俺の脳裏に何かが浮かび上がった。その光景を辿ると、俺はビールを片手にこのおにぎりを頬張っていた。
「あ……」
「ん? どうかした? もしかして好きじゃなかった?」
 蓬田さんは不安そうに見つめる。
「え、いえ……。以前にもこうして、このおにぎりを握ってくれましたよね?」
「ん? 隼人がこのマンションに来てからは……作ってないはずだけど……?」
「俺、ビールを片手に、これを食べていました」
 その言葉に蓬田さんはハッとした表情を浮かべる。
「……それならずっと前、夜食にと思って作った事はある……。もしかして記憶が戻りかけてるんじゃ……」
 俺はその言葉に、希望の光が見えた気がした。
「もしかして……吉岡が俺に執着するのを止めたとき、記憶が戻る可能性も……。あいつは俺の記憶の欠片を抱えていた。夢の中でそれを受け取ろうとしたら、麻里にここで受け取っては死ぬと言われました。だけど、あいつがそれを手放せば……」
「そうか、その可能性もあるんだな? 分った、とにかく波多に会ってみよう」
「そうですね」
 俺が急いでおにぎりを頬張ると、蓬田さんは
「あ、そんなに急いで食べなくても! 消化に悪いし、まだ時間はあるから」
「そ、そうですか……。なんか焦っちゃって」
 蓬田さんは俺の頬に指を伸ばし、ご飯粒をひとつ摘んでそれを口に運ぶ。
「そんな隼人も……大好きだよ」
 蓬田さんは照れたように頬を染めた。俺はそんな蓬田さんを見ていると堪らなく愛しさが溢れてくる。
「俺も……大好きです。さっき実家に電話を入れたんですが、親父にも認めてもらいました」
「えっ? 桜井……さんに?」
 蓬田さんはよほど驚いたのだろう、いつもより瞳が大きくなる。
「はい。だから……もし本当に記憶が戻らなくても……俺は蓬田さんと共に歩んで行きます。これからもずっと……側にいてくれますか?」
 蓬田さんは瞳を潤ませて、俺を見上げた。
「隼人が……嫌じゃなかったら……」
「嫌な事なんてある訳ないじゃないですか。俺は蓬田さんが好きです。愛しいと思っています」
 蓬田さんの頬をそっと寄せて、唇を重ねた。触れるだけのキスでもいい。
 こうして触れられるだけで、俺は満足だった。
 重ねた唇にほんの少し、塩味が混ざる。何かと思って目を開けると、それは蓬田さんの涙だった。胸が愛おしさで溢れ返り、このまま蓬田さんを放したくないと思った。
 蓬田さんもそれは同様みたいだったが、そわそわと落ち着かない様子だった。
 名残惜しさもあったが、時間も差し迫ってきたようだ。
 俺は蓬田さんから離れると、
「それじゃ薬を飲みますね。酔い止めの薬ってどこにありますか?」
「あ、うん。今、持ってくるよ」
 蓬田さんは顔も目も真っ赤で、耳までもが紅く染まっていた。俺は微笑むと、幸せをかみしめていた。



               ――to be continued――
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