FC2ブログ

お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

このページのトップへ

――扉を開けて――<24>

 梅雨が明けて、真夏の日差しがアスファルトを照らす。蝉たちが恋の歌を煩いくらいに奏でていた。
 連れて来られた場所は街中だったが、街路樹にへばりついた蝉を見ていると街中である
事すら忘れてしまいそうだった。
 滴る汗をハンカチで拭っていると、蓬田さんは「もう少しだから」と気を利かせて、俺を木陰へと導いた。 
 高いビルが立ち並ぶ中、古ぼけたビルの横に占いの看板を見つけた。
「もしかして、あそこですか?」
 俺がその方向を指すと
「そう、あそこだよ」
 蓬田さんは若い女性の長蛇の列に割って入り、ドアをノックした。怪訝そうに見つめる女性達の視線が痛く感じる。蓬田さんもそれを察したのだろう「すみません、予約の時間なものですから」と、周りの女性達に頭を下げる。
 途端に笑顔を向ける女性達に、俺はホッと安堵の息をつく。
 そんなやり取りをしているうちに、その古ぼけた扉が開いた。
「ああ、待っていたよ、お兄さん。久し振りだねぇ。ああ、隣のお兄さん! アンタ良かったねぇ、無事だったんだねぇ」
 扉の奥から現れた老婆は背が低く、一瞬どこから声がするのかと思ったくらいだ。
「さ、見ての通り後がつかえてるから、中に入っておくれ」
 俺達は周りの連中に頭を下げ、その中へと入る。ちょこちょことよちよち歩きをしながら、全身ド紫のシースルーの生地をあしらった派手な服装でスカートを引きずる姿は、まるで中世の物語に出てくる魔女のようだ。部屋の中も占いの道具だろうか、怪しい感じの小度具が所狭しに飾られている。
 俺はその奇妙な出で立ちに、不信感を覚えた。
 するとそのお婆さんは、それを悟ったようにホッホと笑う。
「怪しい婆さんだと思ったろ? 今の時代、見た目も大事だからね。アタシゃ、この姿で何十年も占い家業をしていたもんでね、今更、変える訳にもイカンのよ」
 老婆はそう言いながら俺達にアイスコーヒーを出してくれた。蓬田さんはそれを受けて礼を言う。
「これは占いとセットだから、気にせんでおくれ。さてと……今日はあの天使ちゃんについて聞きに来たんだろう?」
「……天使?」
 俺が呟くとお婆さんは「アンタが無事でいられたのはそこのお兄さんと、今から話す天使ちゃんのお陰だよ。感謝なさい」
 俺は訳が分らないまま「はぁ……」と、生返事をする。
 蓬田さんは「その節はお世話になりました」と、深々と頭を下げた。
「いえいえ、アタシも役に立てたみたいで良かったよ。でも……見たところ記憶を失くしているようだね、お義兄さんは」
「はい……実はそうなんです。それで義兄がよく夢で魘されていまして、何かヒントになればと思って訪ねたんです」
「そうかい、そうかい。それじゃ早速視てみようとするかねぇ……」
 老婆は真剣な表情をすると、目の前に置いてある巨大な水晶玉を覗き込んだ。
 俺にはその水晶に何が映し出されているのか分らない。ただ老婆の顔が魚眼レンズに映し出されたようになっているだけだ。
 暫くすると老婆は曇った表情になり「こりゃイカンな……」と呟いた。
 老婆は俺に目を向けると
「アンタ、相当厄介な悪霊に取り憑かれているね。その男の名前は吉岡晃。あっちで死んだ男だろう。アンタにエライ執着している。それを護るためアンタの妹、麻里ちゃんは必死に結界を張って身を粉にしているんだよ。アンタから貰った羽で天使になった麻里ちゃんだったけど、その力も使い果たし、今はただの魂でしかない。……このままだと消滅してしまうかも知れないねぇ……」
 俺は夢の中の出来事を言い当てられ、驚愕の眼差しで老婆を見つめた。
 名前に関しては、蓬田さんが何か情報を与えたのかと思い、蓬田さんを見てみると同じように驚愕の眼差しで老婆を凝視していた。
「そ、それで麻里は? 消滅って一体……」
 蓬田さんは縋るような視線で、老婆を見つめる。
「言葉の意味通りだよ。消えてなくなってしまう……。信じるも信じないも勝手だけどね、人間ってのは肉体の死、魂の死っていうのがあるんだよ。魂は輪廻してまた生まれ変わる事も出来るけど、その魂自体が消滅してしまうと、二度と逢うことは叶わなくなってしまうんだよ」
 俺は老婆の言葉に、衝撃を受けた。
「それじゃ麻里は俺を護る為に、消滅しかかってるって事ですか?」
「そう言うことになるね……」
 俺は夢の中の出来事を思い出していた。
 あの子供があんなにも悲しそうにしていたのは、麻里がこの世からもあの世からも消えて無くなってしまう事実を、知っていたからだったのだ。
 俺はどうにも出来ない自分の非力さに、胸が締め付けられた。
「何か解決策は無いんですか? 俺は麻里を助けたい! 記憶が無くても俺は麻里に助けられたんだ、今度は俺が麻里を……」
「そうさねぇ、この吉岡の執着がアンタから離れれば……何とかなるかも知れないねぇ。この男、あんたに執着するあまり、周りが見えていないようだから……。麻里ちゃんも必死に説得してるみたいだけどねぇ。『アンタにはユウキがいるでしょ!』って……勇気がいるって何だろうねぇ?」
 蓬田さんはハッとして、老婆に視線を移す。
「あの、吉岡の幼馴染って、今、どこに居ます?」
「吉岡の幼馴染?」
 老婆はオウム返しをする。
「ええ。確か波多裕樹って名前だったと思います。左の目許に黒子があって、見た目は……義兄に似てると思います」
「ああ! ユウキって人の名前か、なるほど。それじゃ視てみるね。ああ、また海外だと困るから、メモを用意しないと」
 椅子から降りると、ちょこちょこと歩き出し、メモとペンを用意する。
 その間も惜しくて、俺は早くしてくれないかと、じっとその動作を眺めていた。
「これでよし。さぁ、今、視てみるから……」
 また水晶玉を覗き込み、何やらメモを取っていた。老婆は深い息をつくとそれを蓬田さんに手渡した。見てみると住所が書かれてある。
「今回は海外じゃなくて良かったよ。ただ漢字が読めなくてね。地方、独特のものだろうね」
「ここに波多さんは居るんですか?」
 蓬田さんは興奮した様子で、老婆に問いかけた。
「ああ、間違いない。その子も可哀想にね……墓の前でずっと泣いていたよ」
「そう……ですか」
 蓬田さんは複雑そうな表情を浮かべて、ポツリと呟いた。
 と、丁度、電話のベルだろうか、電子音が鳴る。
「おっと、申し訳ないね。そろそろ次の人を視ないと」
 老婆は困ったような表情をして、時計に目を向けた。蓬田さんは慌てて立ち上がると
「あ、はい。ありがとうございました。急に押しかけたのに快く視て下さって……本当にありがとうございました」
「いやいや……そこの子がね、事前に来てくれたから、アタシも事態が急を要すると思っってね」
 老婆は誰も居ない壁に向かって、視線を投げた。
「本当にお兄さんによく似た、可愛らしい子供だねぇ。もうちょっとでパパとおじちゃんが、ママを助けてくれるから頑張りなさい、晴ちゃん」
 俺はその老婆の言葉に、またも衝撃を受けた。確かにこのお婆さんは本物だ。
 俺も蓬田さんに倣い、老婆に向かって頭を下げ礼を言う。
「それじゃ二人とも、気を付けて行って来るんだよ。きっとうまく行くよ、頑張りなさい」
 再び頭を下げて、俺達はその占いのお婆さんの所を後にした。



               ――to be continued――
スポンサーサイト
[PR]

[PR]

このページのトップへ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。