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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――扉を開けて――<23> R-15

 時が経つのは早いもので、カールさんが帰国してから、一ヶ月が過ぎようとしていた。
 それからの俺達はギクシャクした感じも取れて、恋人として過ごすようになった。
 だが、恋人とは言っても、手を繋いだり、軽くキスを交わす程度だ。
 それ以上を望もうと思っても、なかなか思うようには行かない。深い仲になりたいとは思うのだが、チャンスがあってもなぜか罪悪感が押し寄せてしまって、うまく行かないのだ。それに、蓬田さんの思い出の中の俺は、圧倒的に今の俺よりも勝っているようだ。
 時に遠くを見るような眼差しを向けられると、自分の事なのにそれに嫉妬してしまう。
 俺は記憶を取り戻したいと思うようになっていた。
 それに伴い暫くの間治まっていた頭痛と、吉岡による怪現象が再び俺を襲った。
 夜中に何度も魘されるようになり、心配した蓬田さんは俺に添い寝をしてくれるようになった。
 その日も魘されて目を覚ますと、蓬田さんが心配そうに顔を覗き込んでいた。
「大丈夫か? また吉岡の夢を?」
「ええ……。だけど、今日は少し違ってて……」
「どんな風に?」
「あなたによく似た……晴くんが、ママが消えちゃうって泣いていて……」
「……え?」
 蓬田さんは俺の言葉に、深刻な顔つきで問い掛けて来た。
「……それは、本当に夢なんだろうか?」
「分らないです。前は幻覚のように姿を現していた吉岡ですが、今は寝ている時にしか……、夢を見ているような感じですし、俺には何とも言えないです」
「そうか……。ちょっと俺に心当たりがあるんだ。夜が明けたら悪いけれど、付き合ってくれないか?」
「あ、はい。それは構いません」
「それじゃもう一眠りしよう? このまま起きていたら体力も持たなくなるだろうから」
 蓬田さんは俺の額に唇を落とし、横へと潜り込んで手を繋いでくれた。
 くすぐったくなるような嬉しいような、そんな気分になり、落ち着いた俺はまた深い眠りへと導かれた。

 夜が明けるといつものように朝食を摂り、各部屋の掃除を済ませた蓬田さんが携帯を手に取る。そして名刺だろうか、それをテーブルの上に置くとダイヤルしていた。
 俺はその動向を見守っていた。
「あ、私、蓬田と申しますが、予約を――。はい、ああ、よく覚えていて下さいましたね。
そうです。あの時の――……ええ、何とか……。え? あの、良いんですか? だって予約が詰まっていらっしゃるんじゃ……。あ、はい、分りました。それじゃよろしくお願いします」
 蓬田さんは通話を終えると、俺を見た。
「隼人。今日の午後、占いのお婆さんの所に行くから」
「え……、占い……ですか?」
 占いと聞くと胡散臭い。そう思って蓬田さんをじっと見つめる。
「俺も最初は占いなんて信じてなかった。だけどこのお婆さんは、麻里と話をしてくれて、君を見つけ出す切っ掛けを教えてくれた、凄腕の占い師さんなんだよ」
「そうなんですか。世の中には特異な体質の人も居るんですね」
「そうだね。俺みたいな凡人には、そういう人の能力に頼るしか……。このお婆さんは本物だけど、インチキも多いみたいだからね。麻里の事がなければ、俺だって占いなんか信じてなかったと思うよ」
「そうですよね。蓬田さんが変な宗教でも信仰してるのかと、ちょっと疑っちゃいました」
 俺の言葉に蓬田さんは、苦笑いを浮かべた。
「さ、予約の時間もぐずぐずしてると過ぎちゃうから、出掛けるとしよう? 今日はその前に、ランチにでも行こうか?」
「あ、はい。そうですね……」
 俺のコンプレックスからなのか、どうも蓬田さんは年下を扱っているような態度だ。
 朝方も俺を落ち着かせるために額にキスを落としてくれたが、よくよく考えてみれば子供にそうする父親のようにも思える。
 確かに俺も未だに蓬田さんの方が、年上のような感じは払拭できていない。
 しかし、実際は同じ年だし、対等でいたいと思う。
 俺は前から計画していた事を、蓬田さんに相談してみようと思った。
「あの、まだ時間ありますか?」
「ん、あるけど……どうした?」
「あ、はい。実は俺、働こうかと思っているんです」
「え、まだ早いんじゃないのか? 体調だって万全じゃないだろう?」
「確かに万全とは言い難いですが、薬の量も減っていますし、思い出そうとさえしなければ、頭痛も起きないですし……。最初は時間が選べるような、アルバイトと思っているんですが、どう思いますか?」
「確かに労働に慣らすのにはアルバイトの方が……。でも、他人の中にいても大丈夫なのか? ストレスとかでまた……頭痛が起こらないとも限らないし」
 まるで親父と話しているようだ。俺は幾分、機嫌を損ねてしまった。
「だったらもういいです。聞かなかったことにして下さい」
 蓬田さんは戸惑ったように視線を流し、深い溜息をついた。
「……隼人がそうしたいなら、俺は反対する事なんかなかったのに……ごめんな」
 その言葉でハッとした。蓬田さんは俺を心配してくれていたのだ。
 それなのに、子供染みた態度を取ってしまった自分が情けなくなる。
 こんなんだから、あのような態度を取られてしまうのだと落ち込んだ。
「いえ……こちらこそ、すみませんでした。俺、多分、焦っているんです」
「何に焦ってるんだ? 別に焦る事なんか……」
「そうやって蓬田さんに甘やかされれば、俺はどこまでも甘えてしまう。これでは過去の自分に勝てる気がしないんです。蓬田さんに好かれるような……そんな人間になりたいんです」
 蓬田さんはそれを聞いて、困ったような笑みを浮かべた。
「そっか、そんな風に考えていたんだ。確かにその気持ちは分るよ。俺もそうだったから」
「……え、蓬田さんが……ですか?」
「うん。以前の隼人は、俺なんか手の届かないくらい高いところに居たからね。そりゃ、コンプレックスに悩まされたよ。でも……今は対等って感じがしてるんだ」
「そう……なんですか?」
 やはり以前の俺は、逞しく雄々しかったのだろう。そう思うと情けなくなった。
「あ、でもちょっと違うかな……なんか、今の隼人は護ってあげたくなる」
 胸を抉られる思いだった。今の自分では、到底昔の自分には及ばないのだろう。
「……それって、やっぱり子供っぽいって事ですか?」
 俺が拗ねると蓬田さんは慌てた様子で
「い、いや。そうじゃなくて! 以前の俺は隼人に護られてばかりいた。だからやっと恩返しが出来るって言うか……」
 視線を泳がす蓬田さんは、やはり以前の俺の方が断然に好きなのだろう。
 そう思うと嫉妬で身が焦げそうになる。頭に血が上ってしまい、気が付けば蓬田さんを床に組み伏せていた。
「な……隼人?」
「今の俺じゃ、満足できないですか?」
「い、いや、だから! そうじゃなくて……」
「でも蓬田さんは、俺を見ているようで、以前の俺を見ている。違いますか?」
 図星だったのだろう、蓬田さんは視線を泳がした。
 自分なのに自分じゃない人を好いている蓬田さんに俺は堪らなく悔しくなり、蓬田さんの唇に噛み付くようにキスを落とした。
「ん、はや……ちょ、ま……」
 言葉を発した隙を突き、その口内へと舌を滑り込まさせる。
 以前の俺はどうやって蓬田さんを悦ばせたのか、そんな事を考えながら貪るように舌を絡ませると、その隙間から甘い吐息が零れ落ちる。愛しい人が見せる反応に、俺は溺れそうになった。
「ん……はや……と……や、め……」
 蓬田さんの声に色が混ざって来る。何度も角度を変え深い口付けを交わすうち、堪らなくなった俺はシャツを手繰り上げると、胸元に指先を這わせた。蓬田さんの身体がしなやかに、弓を描く。
「……は、ぁ……や……」
 胸の小さな尖りは硬さを増し、その可愛らしい粒を意地悪くきゅっと摘み上げると、蓬田さんの瞳が潤む。
「んあ! ……や、隼人……だめだ、こんなところで……」
「それじゃ、こんな所じゃなかったら良いんですね?」
 わざとあげ足を取ると、蓬田さんは困ったように
「い、いや……。俺も、その……心の準備が……。それに……予約に間に合わなかったら……麻里の事も心配だし……」
 しどろもどろに言われて、ハッと我に返った。
 そうだ、嫉妬に駆られている場合じゃない。あの子供の顔を思い出し、俺は頭を振った。
「そ、そうですよね……。すみませんでした……」
 俺が離れると、蓬田さんは安堵したように息をついた。
 それが何だか寂しくて、俺は蓬田さんから見えないようにそっと拳を握る。
 蓬田さんは乱れた衣服を整えると、洗面所の方へと姿を消した。
 きっと俺に触れられたことがショックだったのだろう。見た目は同じでも中身はまるで違う人間なのだから、仕方のない事だ。そう思いつつも、やはり気分は沈んで行く。
 以前の俺はきっとこんな事でウジウジと悩んだり、嫉妬したりするようなタイプじゃなかったに違いない。今の俺は、女々しいガキだ……。
 こんなんじゃ嫌われてしまうかも知れない。その恐怖が胸中を占める。
 蓬田さんが少しして戻ってくると、前髪辺りが濡れていた。どうやら顔を洗ったようだ。
 前後不覚に陥り理性を失ってしまった故に、それを見た途端、顔を洗うほど嫌われてしまったのではないかという不安が募った。
「あ、あの……。さっきは……すみませんでした。嫌だった……ですよね」
「い、いや、俺も悪かったよ……。確かに隼人の言う通りなのかも知れない。俺は君という人を通して、以前の隼人を見ていたんじゃないかと思う。だからその上せた頭を切り替えようと思ったんだ。気がつかなくて……ごめんな」
 蓬田さんはそっと俺にキスを落としてくれた。嫌われた訳じゃなかったと、安堵の息をついた。
「そんな……こちらこそ、変にいじけてしまって申し訳なかったです」
 蓬田さんも安堵の表情を浮かべた。互いの誤解が解けて良かった、そう思っていると蓬田さんは壁の時計に目を向けた。
「それじゃそろそろ出掛けようか? ランチは後になりそうだけど、大丈夫か?」
「あ、はい。蓬田さんが作ってくれた朝食、本当に美味しくて、食べ過ぎたくらいです」
「そっか。そう言ってもらえると、本当に嬉しいよ」
 蓬田さんは満面の笑みを向ける。やはりこの人が好きだと思いつつ、その後を追従した。



               ――to be continued――
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