FC2ブログ

お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

このページのトップへ

――扉を開けて――<22>

 少ししてから蓬田さんがリビングに戻ってくる。顔が少し赤いように見えた。
「あ、あの……すみません、なんだか出遅れちゃって……」
 俺がそう言うと、蓬田さんは
「あ、いえ。俺もちょっとカールと話がしたかったので、すみません、気を遣わせちゃって……」
 なんとなくギクシャクとした空気が流れる。
 もしかしてカールさん、俺が蓬田さんの事を好きだと言った事をバラしたのだろうか?
 そう思った途端、心臓が早鐘を打つ。煩く鳴り響く心音に戸惑い、棒立ちになっていると、蓬田さんは声を掛けて来た。
「あ、あの」
「は、はい!?」
 素っ頓狂な声を上げてしまい、慌てふためくと蓬田さんはクスッと笑う。
「明日なんですけど、カールを見送りに行きたいんですが、一緒に行って貰えませんか?」
 違う話でホッとするものの、カールさんが帰ってしまうと思うと、寂しさを覚えた。
 カールさんは蓬田さんの言う通り、気さくでとても感じが良い人だった。
 短時間の間ではあるが、接してみてそう思った。俺はカールさんに親近感を覚えていた。
「そうですね、俺もお礼が言いたいので、連れて行ってくれますか?」
「はい、そう言って貰えると、とても嬉しいです」
 伏目がちに話す蓬田さんに、心臓は高鳴るばかりだ。いじらしいと言うか、奥ゆかしいと言うか……。決して女性的ではないのに、俺の心は乱される。
 気が付けば俺は蓬田さんの頬に、手を添えていた。
 蓬田さんは驚いたように、俺を見上げる。
「え……、あの?」
 もうカールさんから聞いているはずだ。ならいっそ告白してしまおうと思った。
「好きです、蓬田さん。もし記憶が戻らなくても……側にいて良いですか?」
「……え、え?」
 蓬田さんは混乱したように瞳を泳がしている。
「まだ会ってから日にちも経っていなくて、こんな事を言うのもおかしいのかも知れませんが……。どうやら俺は、蓬田さんの事を好きになったみたいです」
「……でも、昨日は――」
 そう言って不安そうに俺を見つめる蓬田さんに、胸の内を明かした。
「昨日は……確かに驚きました。だけど、それを思い出せない自分の方が、もっとショックでした。そして……あなたが好きなのは今の俺じゃなくて、過去の俺――ということにも」
 蓬田さんは俺をじっと見上げたまま、そっと俺の手に自分の手を添えた。
「隼人は……何も変わってない。少し幼くなって礼儀正しくなった印象はあるけれど、それは記憶がそこで途切れてるから……」
 その言葉に、俺の心は深く沈んで行きそうになった。
「それは……、やっぱり今の俺では……」
 やはり頼りない存在なのだろう。そう思うと記憶が戻らない自分が恨めしくて仕方がなくなる。
 この告白は、蓬田さんにとっては迷惑だったのかも知れない。
 だが俺の思いとは裏腹に、蓬田さんは首を振る。
「だから、何も変わってない。俺と出会う前の隼人に戻っただけ。また一から二人で……」
 言いかけてポロポロと涙を零す蓬田さんに戸惑う。
 オロオロと俺がしていると、首に腕を回された。顔を引き寄せられ、柔らかい感触が俺の唇を塞ぐと、その触れ合った部分が熱を持ったようになる。
 触れただけのキスなのに、心が揺さぶられる。少ししてその熱が遠ざかると、名残惜しい気持ちになった。
「これからまた一緒に、築いて行こう?」
 嬉し泣きだと気が付いたのは蓬田さんがそう言って、顔をほころばせて微笑んだからだった。

 次の日、カールさんを見送った俺達は、気分転換も兼ねてドライブに出掛けた。
 俺がよく走り込んでいたと言う峠道を、蓬田さんの車は軽快に走り抜けて行く。
「こんなうねった道、よく走っていたんですか?」
「ええ、隼人は俺よりもっと凄かったけど。あのセンスは、俺には真似できないな」
 ハンドルを握り締めたまま、慎重に道を進む蓬田さんが凛々しく見えた。
 自分の記憶が止まっているせいなのか、どうしても年上な感じが拭えない。
 そんな事を思っているうち、車は頂上に着いていた。
 梅雨の空に広がった雲の隙間から、薄明かりが射していた。その景色はどこか神秘的に見える。雲が流れる様子を目で追っていると、蓬田さんも空を見上げていた。
 同じ景色を眺めるその横顔が、何となく寂しげだった。



               ――to be continued――
スポンサーサイト
[PR]

[PR]

このページのトップへ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。