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お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――扉を開けて――<13>

 親父が帰った後、何を話していいものか分らないで戸惑っていると、その人はこちらを窺うように視線を投げながら、意を決したように口を開いた。
「あ、あのさ、隼人。疲れただろう? 今、住んでいる所、結構遠かったみたいだし。あ、それとも腹が減ったか? 何か食うか?」
「いえ……別に。移動しながら食事は摂っていたので」
「それじゃ煙草は? 灰皿ならあるからリビングで」
「……煙草? 俺は煙草を吸っていたんですか?」
「そ、そっか。ああ、うん。気にしないでくれ。え、と……、それじゃ風呂は?」
 色々聞いてみたい事もあったが、急に真相を尋ねるのもためらわれる。取りあえず、その提案に乗り、様子を見てからと思った。
「ああ、そうですね……。入りたい……かも」
「ん、分った。今、お湯を張るから、ちょっと待っててくれな?」
親父がいる時とは違い、言葉使いが親しげだ。しかし、相手が俺の事を知っているとしても俺には分らない。それに吉岡の言葉が頭の隅にこびりつき、もやもやとしながらその人を見下ろす。
「あの……。呼ぶ時は名前で呼んだほうが良いですか? それとも苗字で?」
 途端に顔を強張らせるその人に、俺は胸が酷く締め付けられた。
 なぜ、こんなにも心が痛くなるのだろう。もし、吉岡の言う通りだったとしたら、俺は記憶が定かじゃないにしろ、この人に対して憤りのような気持ちを抱くと思う。だけど、そんな感情は全然湧いて来ない。むしろ吉岡の方に嫌悪感がある。そんな事を考えていたらその人は幾分、戸惑った様子で口を開いた。
「あ、ああ。そうだな……。ごめん、隼……桜井さんにしてみれば、俺は知らない人同然だ……ですよね。いきなり名前で呼ぶのは抵抗があると思うので、蓬田で……」
「じゃあ蓬田さん、俺はそれまでどこにいれば……?」
「……桜井さんの部屋、そのままですけど……良かったら」
「え? 俺の部屋なんてあるんですか?」
 蓬田さんは一瞬、ハッと驚いたようにした後、繕ったような表情で俺を見る。
「あっ、あの……。会社の寮が狭いとかで、荷物預かってくれないかって。それで……」
「そうだったんですか。何か……俺って図々しかったんですね……」
「い、いえ! そんな事は……。俺も広くて持て余していたので……。よく泊まってくれて、助かりましたよ。独りでいるとどうしても、気落ちしますから……」
 そう言いながら俯き加減で、部屋まで案内してくれた。
 八畳ほどの広さだろうか、そこにベットと机があり、弓道の道具が置いてあった。
「お、こんな所にあったんだ。てっきり引越しの時に処分したかと思ってた」
 俺は独り言を呟き、懐かしい道具に触れる。
 蓬田さんは微笑んで「良かったですね。それじゃ準備してきますから」と、部屋を出て行った。返事もせずに悪かったかな、とは思ったが、俺は道具の点検に夢中になった。
 一通り弓と矢の確認を終えると、道着が入った袋が側に置いてあった。
 取り出してみると綺麗に洗濯されていて、柔軟剤の香が漂っている。袴もアイロンをかけたと思われるような、きっちりと折り目があった。
 蓬田さんがこうして手入れしてくれたのだろうか……?
 友達だったとしても、俺だったらここまでしないと思うんだけど……。
 そう思い、机やベットも確認してみる。ベットは布団が定期的に干されているのだろう、日向の匂いがする。机は綺麗に整頓されていて、埃一つ無い。おまけにクローゼットまで置いてある。これでは泊まりに来ていたと言うよりは、一緒に住んでいたみたいだ。
 以前の俺は、相当厚かましかったのだろうか。妹夫婦の家に、こんなに荷物を預けるなんて、どうかしてる。しかし、蓬田さんは『独りでいると』と言っていた。
 それは麻里が事故で亡くなった後……という事だろうか?
 それにしても……かなり無神経だろう。もし俺が反対の立場だったら、うちは物置じゃねぇって、相当、キレると思うんだが……。どうしてそんな俺と、友達でいてくれたのだろう?
 弱みを握って借金を背負わせるような人間が、ここまでしてくれるだろうか?
 そんな事を考えていると、ドアのノックする音が聞こえる。
「隼……、桜井さん。お風呂沸いたから、どうぞ。タオル類は用意しましたけど、着替えはそこのクローゼットに置いて行ったものが入ってますが……サイズがちょっと合わないかも知れないです」
「あ、ああ、すみません。今、行きますから」
 クローゼットを開けて見ると、以前の俺が着ていただろうと思われる服があった。
 一枚を取り出し身体に当ててみると、やはり蓬田さんの言う通り少し大きいようだ。
 薬の影響か、痩せてしまったのだろう。鞄から着替えを取り出しドアを開けると、部屋の前に蓬田さんは待機していた。
「あ、あの……。間取り分らないだろうから、説明しますね。こっちがトイレで、こっちの部屋は物置代わりに使ってます。俺の部屋は居間の隣なので、何かあったら声を掛けて下さい。……それじゃゆっくり入って来て下さい」
 蓬田さんはそう言うと、リビングへ向かおうとした。その後姿に声を掛ける。
「あ、あの……。ありがとうございます。その、なんか……話しにくそうだから、俺の事は名前でも良いですよ? すみません、気を遣わせちゃって……」
 考えてみれば相手は俺の事を知っているのだ。急に呼び名を変えるのも違和感があるだろう。
「え、いや、だけど……、桜井さんは……」
「俺は別に構わないですよ。あなたが今まで通りの呼び方をしても、不快には思いませんから」
「そう……ですか」
「ええ。何か話しにくそうですし……」
「え、と……、そうですね。じゃあ、俺は今まで通りに呼ばせてもらいます」
 蓬田さんは複雑そうな表情をしながら微笑んだ。
 友達同士だったらやはり『さん』付けもおかしいかと思い、問う。
「俺もやっぱり、名前で呼んだほうが良いですか? 考えてみれば同級生ですよね? 敬語もちょっと変かも知れないし。あなたさえ良かったら、俺も敬語は控えますが……」
「それは……、どちらでも」
「そうですか。もし、気に障ったら申し訳ないのですが、俺はまだあなたを思い出せていない……。だから……今は名前で呼ぶには少し抵抗があります」
「あ……、でしたら、苗字で構わないですよ。それに……敬語でも」
 蓬田さんの答えに、ホッと息をついた。
 俺は弓道を習っていた事もあり、礼儀を重んずる。初対面や目上には敬語を使わないとどうも落ち着かない。中学卒業程度の記憶しかない今の俺にとっては、同級生と言われてもいまいちピンと来ないのだ。
 それにしても、言葉を交わせば交わすほど、吉岡の言葉に疑問が募る。蓬田さんは悪い人じゃ無さそうだ。とても弱みを握って云々とか、出来そうもないタイプだと思う。
 その憂いを帯びた瞳が無理に微笑んでいるように見えて、これ以上そんな風に気を遣わせてしまっては悪いと思った俺は「え、と……それじゃ、お風呂借りますね」と、その場を後にした。



               ――to be continued――

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