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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――扉を開けて――<10>

 親父が学会の発表を終え、家に戻ってきた時には、部屋の中は俺が男に投げつけた様々なものが散乱していた。夜も眠れない日が続いたお陰で、それを片付ける気力も残っていなかった。親父は周りを見渡すと、呆然と立ち尽くす。
「どうしたんだ、隼人……。何があった?」
 俺は居間の壁に寄りかかり、蹲っていた。親父は目の前まで来て、俺と視線を合わせる。
「……何も」
 言った所で幻覚に向かって暴れたとなると、また正気を疑われる。それに親父まで心労するに違いない。だが、幻だと分っていても引っ張られると、身体がずれる感覚が襲い、恐怖でおかしくなってしまいそうだった。
「病院から貰った薬は飲まなかったのか?」
「……いや、ちゃんと飲んでた……けど」
「それならどうして……」
「……料理をしようとしたら、うまく行かなくて……。癇癪を起こした」
 それは嘘だったが、本当の事を言えば親父は、また病院へと連れて行くだろう。
 あんな所に入院するのは、もう懲り懲りだった。
「無理を言って……悪かったな」
 親父は深い溜息をつく。そして俺から視線を外すと、黙々と部屋を片付け始めた。
「……ごめんな、親父……」
 親父が帰ってきたら、家の中の空気が変わった。今まで凍て付いたように冷たかったが、暖房が効いてきたようだ。
 何度エアコンの温度を上げても温まらなかった室内が、急速に暖かくなる。梅雨の時期の湿った生暖かい風が、今の俺には心地いいくらいだった。
 冷え切った身体が温まると、一気に眠気が襲ってきた。
 俺はそのまま、重たくなった瞼を閉じた。

 気が付いた時には、居間のソファーで寝ていた。
 親父がここまで運んでくれたのだろう。仕事やら家の事やらで疲れているのに、申し訳ないと思いつつ起き上がろうとすると、隣の部屋から話し声が聞こえた。
「――という事なんだ……。君には本当に申し訳ないと思っている。だが……隼人を救えるのは……もう、君だけなんだ」
 親父の切なげな声が気になり、その内容に耳をそばだてた。
「実はね涼太君、麻里が私の枕元に立って、隼人を君に託して欲しいと訴えるんだ」
 麻里が? 親父の枕元に立つって一体……?
「……そうなんだよ。最初は私も夢だと思っていたんだが……。連続で現れると、夢じゃないような気がしてね……。そうか、引き受けてもらえるんだね? ……ありがとう、涼太君。本当に君には何と言って謝れば良いのか……。勝手な事ばかりで申し訳ないと、心から思っている。どうか……許して欲しい」
 親父の声は震えていた。時折、洟を啜る音が聞こえる。
「それじゃ明日にでも隼人を連れて行っても……、分った。それじゃ明日、また」
 会話を終えたのだろう、親父が動く気配がする。俺は気が付かれないように瞼を閉じ、寝たふりをする。親父の気配がすぐ側にあり、小さな溜息が聞こえた。
 それが遠ざかると、俺は会話の内容が気になり、記憶を辿ろうとする。その途端に酷い頭痛が襲った。割れそうになる頭を抱えているうちに、気を失ってしまったらしい。
 目を開けた時には、朝の光が居間を包んでいた。昨日、親父が誰かに話をしていた内容をぼんやりと考えながら、ソファーから身を起こす。

 朝の身支度を終え居間まで戻ると、親父は既に起きていたのだろう、朝食の用意をしていた。俺に気が付くと、声を掛ける。
「隼人、話があるんだ。食べながらで良いから、聞いて欲しい」
 食卓を掌で示し、座るように促す。俺はそれに従って、ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろした。
「親父……、昨日はごめんな」
 朝食が運ばれ、テーブルに並べ終えると、親父は向かい側の席に座った。
「まずは食べようか。ほら、そんな顔をしてないで」
 親父は朝食を促した後、目玉焼きに箸を運ぶ。それに倣い、俺も味噌汁を一口含む。
「……なあ、隼人。涼太君って覚えてるか?」
 俺は首を横に振る。
「名前はロスの病院で、母さんがそう言ってるのを聞いたけど……覚えてない。あの目の大きな人で、麻里の結婚相手だろ?」
「……そうだ。その涼太君だ」
「昨日、親父が話してるのを聞いてしまったけど……麻里が枕元に立つって、一体、どういう事なんだ?」
 俺の言葉に親父は、目を伏せて箸を置くと
「お前にまだ見せていないものがある。食事が終わったら私の部屋に来なさい」
 そう言って食事を早々に終えると、食器を片付ける。
 俺も早めに終わらせると、台所に食器を運んでから、親父の部屋へと足を運んだ。
 そこで目にしたものは、信じられない光景だった。
 大さな仏壇に麻里の写真と、その子供だろうか、涼太という人によく似た子供の写真が飾られてあった。仏壇の中には子供の好きそうな菓子やらおもちゃやら、所狭しと並べられていた。その両側には麻里が好きだった白い薔薇と、仏花も添えられている。
「…………」
 俺は言葉を失い、ただそれを眺めていると
「麻里は事故で亡くなったんだ。その時、お前もそこにいた。だが、記憶を失くしてしまっていたようだから、あえて口にはしなかったんだよ」
 親父は蝋燭と線香に火を灯し、それを供え手を合わせる。俺も無言のまま、同様にした。
 蝋燭の炎がゆらゆらと揺れていた。麻里がもう、この世にいないとは信じられないまま、それをじっと見つめていると
「涼太君とお前は、高校からの友達……だった」
 親父は伏目がちに俺に話しかけた。
「そっか……。それで麻里と知り合って、結婚したんだ?」
「……そうだ」
「でも母さんは……その人の事を良い感じには思っていないようだった。どうしてだ?」
 俺の問いに親父は、困惑の表情を浮かべる。そしてそのまま押し黙ってしまった。
 答が得られない事に疑問を感じた俺は、自分なりに解釈してみた事を質問してみた。
「麻里の事故の原因が……その人、なのか?」
「いや、それは関係ない……。麻里は飛び出してきた子供を避けようとして、事故を起こしてしまった。ただ……それだけ、だ」
 そう言ったきり、親父は天井を仰いだ。暫くの沈黙の後、その重い口を開いた。
「麻里が……私に必死に訴えるんだ。『涼ちゃんを許してあげて、お兄ちゃんに会わせてあげて』ってな。悲しそうに涙を流して……」
 親父は苦悩の表情を浮かべていた。
「どうして、麻里がそんな事を? 許してあげてって……やっぱりその人が、何か麻里にしたのか? でも俺を会わせろって、一体……?」
 疑問ばかりが頭に浮かび混乱すると、俺はまた頭痛に襲われ、その場に蹲る。
「どうした!? また頭が痛いのか?」
 俺は頷くしか出来ないでいた。
「薬を飲んだ方がいい。さあ向こうへ行こう」
 親父に肩を貸してもらい、覚束ない足取りでソファーに向かった。



               ――to be continued――

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