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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――扉を開けて――<9>

 母が病院に搬送された後、親父が連絡を受けて駆けつける。
「どうしたんだ、隼人……。母さんは?」
「今、そこの処置室に……」
 俺はそれ以上言えないまま、俯いた。
「……そうか。それじゃ父さんは母さんの様子を見てくるから、ここで待っていなさい」
 俺が頷くと親父は厳しい面持ちのまま、処置室の扉をノックし中へと入っていった。
 数分が経過しただろうか、親父はドアの前で頭を下げて扉を閉めた。俺の許まで来ると、沈んだ顔つきになる。
「隼人、母さんは入院する事になったよ」
「そんなに……、体調が思わしくなかったのか?」
「そうだな、あまり調子が良いとは言えなかったな」
「何か重たい病気なのか? まさか、癌……とか」
「いや、その心配は無い。ただ……、少し疲れが溜まっているようなんだ」
 重い病気ではないと知り安堵するものの、精神的に相当疲れさせてしまっていたのだろうと思うと、胸が痛んだ。
 考えてみたら、おかしなことを口走る息子に、絶望したのかも知れない。
 退院できたとしても、やはりこの病気は一生治らないのかも知れないと――。
 それでショックを受けた母は、倒れてしまったのだろう。
「それは……俺のせい、なんだろう?」
 親父は肯定も否定もせずただ黙っていたが、母の容態が悪いのはやはり俺のせいだと思い、罪悪感に囚われる。
 俺は親不孝ものだ。望まなかったにしろ、こんな病気になってしまった。
 自分を責めることしか出来ずに、ただじっと座っていた。会話も無いまま、一時間くらい経過しただろうか。
 処置室の扉が開き、母は車椅子に乗って点滴を吊るしたまま、ナースにその後ろを押されて出てきた。今は意識がしっかりしているようだった。
 俺は側に寄り母の顔色を見ると、先程よりは血の気が戻っていた。
 だが、目の下に隈があって、相当体力を消耗させていた事が窺えた。
「母さん、大丈夫か?」
「ええ……。心配させちゃってごめんなさい、今日、あなたが退院したばかりだというのに、こんな事になってしまって……」
 母は悲しそうに俯いた。親父はそんな母を気遣い、笑みを浮かべる。
「紗江子、何も心配しなくていい。私が隼人の世話をするから、君はゆっくり療養するんだ、いいね?」
「でも……」
 心配そうに見上げる母に、親父は
「そりゃ、君のようには出来ないかも知れないけど、私だって家事くらい、少しは出来るんだけどな。信用ない?」
 おどけた風に話していた。
「でも、あなた……。仕事もあるのに、大変でしょう? やっぱり私、家に帰るわ」
 母は車椅子から降りようとして、バランスを崩した。
「危ない!」
 俺は咄嗟に、母を抱えた。
「桜井さん、無理をなさらない方が……」
 ナースは困惑した表情で母を見つめ、倒れそうになった点滴棒を支えている。
 親父は曇った表情で、母と目線を合わせる。
「そうだよ、紗江子。これ以上無理をしたら、今度は君の入院が長引くだろう? そうしたら、私も隼人も困ってしまうよ。だから今日は充分に休んで欲しいんだ」 
「……そうね、これじゃ返って迷惑を掛けてしまうわね……。分ったわ」
 俺は母を車椅子に座らせる。
「母さん……ごめんな。俺が頼りないばかりに……」
「いいのよ、仕方の無い事だったんですもの。あなたは何も悪くないの。お母さんこそ、頼りなくてごめんなさいね……」
 母は涙ぐみながら、俺の手を握り締める。情けない自分に居た堪れなくなり、俺は俯いた。会話が途切れるのを見計らったナースが声を掛ける。
「それじゃ、お部屋に案内しますね」
「あ、はい。よろしくお願いします……」
 俺は母から離れると、親父と共にその後を追従した。

 母が入院した時は過労と診断されていたようだが、検査をした時に肝機能の低下と貧血があると告げられた。容態は小康状態らしく、退院の目処が立たない。あれからもう既に、一ヶ月が経とうとしていた。その間、親父が代わりに仕事を休み、俺の側にいてくれた。
 そんなある日の事だった。親父は夕食時に俺に向かって
「隼人、言いにくいんだが……、父さん、そろそろ仕事に出ないといけなくなってな。学会の発表があって、その準備もあるんだ。一週間くらい泊り込みで出かけなくちゃいけないんだが、一人で家にいても大丈夫そうか?」
 親父は慣れない家事で疲れたのだろう、頬が少し扱けていた。
 ある程度手伝いはするものの、俺はどうやら家事が苦手のようだった。茶碗を洗おうとすると手を滑らせ落とし割る事もしばしばで、料理は材料が無駄になる。
 逆に迷惑を掛けてしまうので、親父に任せっきりになってしまっていた。
 親父は俺が寝たのを確認すると、夜中に持ち込んだ仕事もしている様子で、あまり休息を取っていないようだった。家事一つも出来ない、そんな自分を情けなく思う。
 だが、せめて心配させまいと
「ああ、大丈夫だよ。飯は適当に店屋物でも取るし、洗濯くらいなら出来るし」
 そう言って笑って見せた。すると親父も安心したように微笑む。
「そうだな。最近は以前のお前とあまり大差が無いように思えたから、大丈夫だろう。それじゃ明日から一人になるが、戸締り頼んだよ」
「ん、分った……って、俺ってこんな不器用だった?」
「まあ、そうだな。独り暮らしの時は分らないが、家を出るまではこんな調子だった」
 親父が久し振りに満面の笑顔を向けた。
「そっか。俺、随分、母さんに甘えてたんだな……」
「いや、母さんも何だかんだ言って、お前の世話をするのが生き甲斐みたいだったから、そこは気にしなくてもいい。まあ、店屋物ばかりというのも身体に悪いから、少しは簡単なものでも作る練習でもしてみると良いんじゃないかな」
「そうだよなぁ、確かに。やらないと上達しないらしいから」
「よし、その意気だ。帰って来た日の夕飯は、お前に任せた」
「え、そんなたった一週間じゃ無理だって!」
 親父と談笑し、その場は和やかに過ぎて行った。この時までは、自分はちゃんと出来ると思っていた。
 しかし親父が出張でいなくなると、あの幻覚が頻回に現れ、俺を悩ませる。
 何度も身体を持って行かれそうになり、俺は荒れ狂って行った。



               ――to be continued――

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