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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――扉を開けて――<6>

 それからの俺は、寝てるのか醒めてるのか、はっきりしない日が続いた。
 またフワフワと宙を彷徨う感覚に、今までの出来事が嘘の記憶ではないのかとさえ思える。霧の中では、またあの男が現れた。
 何度か話しかけてみるものの、男はただ黙って俺を見ている。そしてまだあの奇妙な塊を大事そうに抱えながら、霧の中に溶けて行く。
 それを何度か繰返した後、気が付いたら俺は両親に挟まれるように、リクライニングシートを倒した状態で、真ん中に座っていた。室内にはジェットの音だろうか、エンジン音が響いている。
「親……父?」
「ん、目が覚めたんだね。もう少しで日本に着くから……」
「……日本? ここは?」
「今は飛行機の中だ」
「飛行機? どうして俺はそれに乗っているんだ?」
 俺が質問を重ねると、親父は表情を曇らせた。どうしてか分らず、じっと見つめていると、親父は不意に
「……ああ、そうだ、喉が渇かないか?」
 話題を変えられたものの、確かに口渇はしていた俺は
「そう言えば……」
「それじゃ、これを飲むといい。冷たいものはまだ胃に悪いからって先生に言われていているんだ。腹も空いているだろうが、向こうではまだ食事も摂っていなかったから、急に食べ物を口にすると吐いてしまうからね。これで我慢してくれ」
「ん、分った」
 水だろうか、透明な液体が入ったペットボトルを受け取り、それを半分ほどほど飲む。
 確かに温かったが、乾いた喉を潤すには充分だった。
 一息ついて母親が座る側の、小さな窓を眺めていた。真っ白い雲が眼下に広がり、その上は澄みきった青空がどこまでも続いている。本当に今、俺は飛行機の中にいるようだ。
「隼人、気分はどう? 気持ち悪くない?」
 母が心配そうに問いかける。
「いや、別に……」
「そう、良かったわ」
 その笑顔が霞んでくる。重たくなった瞼を閉じたら、母だろうか、深い溜息が聞こえた。
 親父はもう少しで日本に着くと言っていた。なぜ移動しているのか疑念は残るが、俺はもう、あの病院で虫に襲われないかと思うと、安堵感に包まれそのまま意識を手放した。

 次に気がついた時は、見知らぬ空間だった。布団に寝かされていたのだろうか、ベットじゃないのは目線で分る。床が目前だ。だが、何か雰囲気がおかしい。
 そっと頭を起こし周りを見ると、剥き出しの便器が見えた。
 何だ……これ? トイレの一室? こんな場所で俺は寝ていたのか?
 さっきは飛行機に乗っていたはずなのに、と、混乱しながら、まだ鉛のように重い身体を無理矢理起こし、光の射す方へ目を向ける。
 それを見た途端、俺は驚愕した。
 狭い室内に鉄格子……まるでドラマで見た刑務所じゃないか!
 俺は何が起こったのか理解出来ずに、大声を上げる。
「おい! 誰か!! 誰か居ないのか!? 親父? 母さん!!」
 俺の声を聞きつけたのだろう、ドアの開く音が聞こえ、ジャラジャラと金属音がした後、扉を閉める音がした。カツカツと足音が近付いて来る。
 俺は看守だろうと思い、身構えた。なぜこんな所に留置されているのか、理由を聞こうと思っている矢先、予想に反して白衣の女性が姿を現した。
 呆然とその女性を眺めていると、作ったような笑顔を浮かべる。
「どうされましたか、桜井さん。気分が優れないですか?」
「いや……気分がどうこうじゃなくて、俺はどうしてこんな刑務所の独房みたいな所に? ここはどこなんですか? 父や母は?」
「そうですね、桜井さんはここに搬送された時には眠っていましたからね。ちょっと待ってて下さいね、先生を呼んできますから」
 そう言って白衣の女性は、廊下と思われる場所を歩いて行き、また金属音が擦れ合うような聞こえた後に、扉の閉まる音がした。どうやら鉄格子とは別に、扉があるようだ。
 俺は悪夢でも見ているんじゃないかと思った。しかし床に手を付いた感触や、消毒液の臭いと少しだけ吹き込んでいる風が、現実の事だと嫌でも認知してしまう。
 周りを落ち着きなく見ていると、再び金属音がした。鉄格子前に視線を向けたら、その女性と白衣を着た中肉中背の、初老だろうか、先生らしき人が視線の先に屈んで、俺と目線を合わせながら、人好きのするような笑顔を向ける。
「こんにちは、桜井さん。私があなたの担当の早川です。気分はいかがですか?」
「……だから、気分がどうこうじゃなくて、どうして俺はこんな所にいるのか、説明して下さい」
「それでは、今は、気分が悪いとか、そう言うことは無いですね?」
「ええ……。身体は少しだるいですけど」
「そうですか。では説明しますね」
 鉄格子の扉を開けて、二人は中に入ってきた。横に立つ白衣の女性は、ポケットから鍵を取り出すと扉を閉める。その鍵はベルトから紐のようなもので繋がっていて、色々な種類の鍵が幾つも連なっていた。ジャラジャラと音がしたのはこれだったのかと思い、膨らんだポケットの辺りを眺めていた。
「どうされました、桜井さん」
 白衣の女性は訝しげに俺を見る。脱走でも企んでいるとでも思っているのだろうが、今の俺にそんな力は無い。身体が思ったよりも酷くだるくて仕方が無かった。
「いえ、何でも……。すみません、寝てても構いませんか?」
「ええ、どうぞ。楽な姿勢で聞いて下さい」
 俺が布団に潜り込むと、白衣の女性は安堵の表情を浮かべ、早川と名乗る医師は説明を始める。その横で女性は、俺の血圧やら体温やら脈やらを測り、記録していた。
「貴方はあちらの……ロサンゼルスの病院に居た事は覚えていますか?」
「はい。でも……どうして入院しているのか、分りませんでしたが」
「そうですか。では順を追って説明しましょう。貴方は事件に巻き込まれ、薬物に侵されて命を落としかけて、その病院に運ばれました。そこまでは良いですか?」
「事件って一体……。どんな事件だったんですか?」
「そうですね、その話は後ほど」
「後程って……、何か言いにくい事なんですか?」
 その医師は困ったような表情を浮かべ
「それは治療が進むにつれて思い出す事もあるでしょうし、今はそれよりも、もっと大切な事を説明したいのですが……」
「そう、ですか。……分りました」
 幾分、腑に落ちなかったものの、ここがどういう所なのか知りたかった俺は、耳を傾けた。
「それで、今も尚、薬は貴方の中から抜け切っていない様子です。幻覚症状が著しく、このままでは普通に生活することができません。それに、身体的なリハビリも必要でしょう。そう言う訳で治療の為に、ここの病院に運ばれました。お分かりいただけました?」
「ここは病院だったのか……。大体は分りましたが、でもなぜこんな独房みたいな所に?」
「そうですね、驚かれたでしょう? ここは保護室と言いまして、症状が急性期、あるいは、幻覚などの弊害により他者に危害を加える可能性が高い場合や、自殺などの予防に使われます。貴方の場合、薬物による離脱症状が激しいために、ここへ入室となりました。これはご両親も承諾済みです」
「そうだったんですか……」
 複雑な心境だった。病院と言われても、どこをどう見てたところで、独房のようだ。
 俺は気になっていたトイレに視線を移すと、その医師も視線を追って気がついたように
「ああ、トイレにはレバーが無いので、用が済んだら教えてください」
「えっ、そんな! こんな便器丸出しで、しかもレバーが無いってどういう事ですか!? これじゃプライベートも何もあったもんじゃない!!」 
 俺が語気を強めると、ナースは身構えた。だが、早川医師は穏やかな口調で告げる。
「それは大変申し訳ないのですが、自殺予防のためなんです。トイレの水ですら自殺に使われる事もありまして、こちらでも仕方なくそのようにしてます。急性期の方や自殺の可能性がある方は、時にこちらが予測しない行動を取るものです。それを監視するためにプライベートな事にまで干渉せざる得ません。カメラでも中の様子は随時、見させていただいてます。命に関わる事ですので、ご不便を掛けますが、どうか理解をお願いします」
「……そう、ですか――」
 正直、ショックだった。まさか自分の身にこんな事が起きるとは思ってもみなかった。
 離脱症状というのは多分、薬が抜けるときに何かあるのだろう。
 小説の中でしか読んだ事はないが、ジャンキーが暴れる様子が書かれていたような気がする。今、俺はその状態なのだ――。
 なにがどうしてそうなったのか、今ある記憶では辿る事すらできない。
「桜井さん。薬が完全に抜けたら、あちらの……ここよりは自由な部屋へ移動できますから、頑張って治して行きましょうね。多分、ここ一週間くらい薬の影響が出るとは思いますが、それを乗り越えれば後は徐々に回復して行くでしょう」
 早川医師は、ニッコリと微笑んだ。この医師なら信用できるかも知れない。
「――はい、よろしくお願いします」
 俺の返事を聞いた医師は、笑顔のまま「それではまた何かありましたら、声を出して知らせてくださいね」と言い、その場を後にした。それに続いてナースも引き上げる。
「お食事はこちらの方から入れますので、終わったら外に出してくださいね。最初のうちは私達も様子を見に来ますが、こちらで大丈夫そうだと判断した時には、セルフになりますので」
 ナースは鉄格子に鍵を掛けながら、足元を掌で指す。
 見てみると、食器が通るくらいの可動性がある鉄格子があった。
 本当に刑務所の独房のようだ。
 こんな所から一刻も早く出たい。そう思った。



               ――to be continued――


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