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お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――扉を開けて――<5>

 気が付いた時には、また天井が見えた。今度は夕日か朝日かどちらかは分らないが、オレンジ色の日差しが差し込んでいる。
 周りに目を向けると、初老の女性が心配そうに見つめていた。
「――母さん?」
 母は驚いたように目を瞠り、大粒の涙を流す。
「は、隼人……私が分かるの?」
「ああ、分るよ。でも随分痩せて……どこか悪い? 身体は大丈夫?」
 俺が手を差し伸べると、母はその手を取って
「ええ、ええ……、お母さんは大丈夫よ。良かったわ、あなたが無事でいてくれて……」
 涙で顔を濡らし俺の手を握り締めながら、気丈に笑って見せた。
 皺が増えたように感じる、母の手を見つめながら
「なぁ、母さん。ここはどこ……いや、病院なのは分るけど、どうして俺はこんな所に? それと親父は仕事だとしても、麻里は?」
 気丈に笑っていた母の顔が歪む。
「……はや……と?」
「母さん、だいぶ老けたように見えるんだけど……、やっぱり、どこか具合が悪いんじゃないの?」
 母は困ったように宙を仰いだ。そして俺の目をじっと見つめる。口許が歪んでいるように見えた。今にも泣き出してしまいそうな表情をして「なんて事なの……。どうしてこんな……」と、ぽつりと呟いた。
 その状況から俺は、やはり記憶の全てを取り戻してはいないのだろうと思った。
 なんとか記憶を手繰ろうとした時、誰かの声が窓から反対の方角から聞こえた。こちらからは見えないが、多分出入り口付近だろう。
「……お義母さん、失礼を承知で来ました。でも、俺、諦められないです」
 あの声は確か、黒目が印象的な青年の声だ。
 お義母さん? そう言えばナースが義理の弟だと言っていた。そうか、麻里は結婚してたんだな。と言う事は、あの人が麻里の夫なのだろうか。
 だとしたら麻里は、多分、妊娠か子育てかで忙しくて、ここには居ないんだな。
 そんな事を考えている時だった。
「隼人。俺、来たよ。早く体調、戻すように頑張れよ」
 その言葉を聞いた母は怒りの形相になり、ツカツカと入り口付近に向かって歩き出す。
 どうも様子がおかしい。
「……涼太くん、お願いだから……もう、来ないで……」
 母の苦しそうな声が聞こえる。
 何がどうなっていると言うのだろう?
 俺は鉛のように重たい身体を動かし、やっとの思いで上半身を起こした。
 母の様子を見ようとしたら、また涼太という青年の声がした。
「…………ごめんなさい、お義母さん。俺には、隼人が……掛け替えのない人なんです。
だから、せめて声だけでも……」
「……あなたが、そんなだって知っていれば……麻里をお嫁に出したりしなかったのに! 麻里は何のためにあなたに尽くしたの? あの子が可哀想過ぎるわ……」
 二人の会話を反芻してみると、どうやら涼太という人は麻里の夫ではあるが、うちの母からは歓迎されていないらしい。
 しかも麻里が可哀想とか、俺が掛け替えのない人とか、全く理解不能だった。
 また頭が割れそうなほどの頭痛に見舞われ、起きていられなくなった俺はベットに横たわる。その途端にぐるぐると部屋の空気がうねった感じになり、ムカデのようではあるが見たことも無い大きな虫が、無数に天井にへばりついているのが見えた。
「っ!」
 息を呑みその動向を探っていると、その虫達は蠢きながら壁を伝い、頭の方からベットへと侵入しようとしている。
「……もう、帰ってください!」
 母の怒りに満ちた声が響き渡ったのを合図にしたかのように、虫は一斉に襲い掛かってきた。
「う……うわぁぁぁぁぁっああーーーーーっ!!」 
 俺は必死に虫を払おうと、手足をばたつかせた。
「隼人! どうしたの!?」
「虫がっ!! 虫がベットの中にっ!!」
「虫なんか居ないわよ、落ち着いて!」
 母の言葉に周りを見たが、虫は俺に幾重にも覆い被さり、足だか触覚だか、訳の分からないもので、俺の身体に進入しようとしていた。爪の先や、血管を狙っているようだ。
 それを阻止しようと、腕を掻き毟っていたら、母が慌ててナースコールを押した。
 必死に虫と戦っていると、サイドベット置いてあった花瓶が落ちて、砕け散る。
「ああ、隼人どうしちゃったの? お願い、落ち着いて……」
 母の涙声が聞こえたが、俺はそれどころじゃなかった。ムカデみたいな虫は、どんどん俺の中に進入している。その触覚がミミズ腫れになって皮下で蠢いているのだ。
「っ、ああああっ!! 虫がっ、虫がぁーーーっ!!」
 身体から追い出さなければ、と懸命に体中を掻き毟った。
 バタバタと騒がしい足音が近付いてきた時、母は叫ぶ。
「早く先生を! 隼人が暴れているんです!! その人は無関係ですから、決して中には入れないで下さい!」
 入り口付近から足早に遠ざかる靴音と、ドアが開く音がした。
 ナースが中に入ってくると、瞠目したが、すぐに俺の全身を押さえつけた。
「お母さん、ナースコールで応援を呼んでもらえませんか? 申し訳ないですが、緊急措置として拘束させて貰います」
「は、はい、分りました」
 母は戸惑いながらも、コールを押した。その様子を見て愕然とする。
 なぜこんなにも虫が体中を這い回っているのに、止めようとするのか。毒でも持っていたら、命に関わるというのに……。
 俺は必死に抵抗を試みた。やはり、痩せたとは言え、力は俺の方が上らしい。
 ナースはバランスを崩し、ベットの下へと尻餅をついた。
「Mr.サクライ、落ち着いてください! お母さん、あなたも手伝って!」
 か細い腕が、俺の腕を捕らえた。
「隼人……ごめんね、ごめんなさい……」
 母は泣きながら、力なく俺を押さえつけようとする。
 そんな姿を見てしまったら、俺は胸が締め付けられた。むずむずと蠢いている腕から目を逸らし、力を抜いた。そこに数人のナースとドクターが現れる。
「どうしたんだね?」
 ドクターは渋い表情をしながら、足元を懸命に抑えていたナースに問う。
「Mr.サクライが全身を掻き毟っていたので、それを抑えていました」
「……そうか」
 ドクターはそう言うと、俺に視線を向ける。
「Mr.サクライ。どうされました? また虫が中に?」
「はい、今度はムカデみたいな虫が……」
「そうですか、分りました。それでは虫によく効く薬を出しますので、そのまま少し待っていて下さい。くれぐれも掻き毟らないように。良いですね?」
「そんなのあるんですか!? っだったら早くその薬を下さい!」
 こんな虫に効く薬があるのかと安心した俺は、全身の力を抜いた。途端に倦怠感がどっと押し寄せて、俺はただ天井を見つめていた。
 ドクターが傍にいたナースに何か指示を与えて、俺の側に寄って腕をチェックする。
「……これは酷いな。そこの君、処置の道具も持ってきてくれたまえ」
 首を横に向け視線を落とし見てみると、相変わらず腕はもぞもぞと何か這い回っている。
そして、自分が掻き毟った傷口からは、滴るほどに血が滲んでいた。
「先生、早く薬を! まだ虫が腕の中を這い回っていて、気持ちが悪い!」
 必死に訴える俺に、ドクターは頷いた。
 ガラガラとワゴンを押す音が聞こえ、ナースが薬の入っているだろう注射器を渡す。
 だが俺は、なぜかその注射器が怖くて仕方が無い。
「注射は嫌です! 何か別なものは無いんですか?」
 その言葉に、ドクターは眉を顰めてじっと俺を見据えたかと思うと、注射器を眺める。
「これじゃないと虫は駆除できないんだが……注射器が怖いんですか?」
 子供じゃあるまいし、注射が怖いとは言いたくなかった。黙っていると怪訝そうに見つめられ、宥めるような口調で話しかける。
「Mr.サクライ。正直におっしゃって下さい。私たちは貴方を治癒するのが目的です。針が嫌なのですか? それとも注射器が嫌なのですか?」
 そう言われては答えない訳には行かず、仕方なく「……どちらも」と呟いた。
「分りました。針は使わないので安心して下さい。その点滴の分岐からこの薬品を体内に注入します。良いですか、これは虫によく効く薬です。そして私はドクターです。私がきちんと処方しました。素人が打つ訳ではありません。それだったら問題ないでしょう?」
 なぜかドクターは『私はドクター』という所を強調して言った。どうしてそこを強調するのか不明ではあるが、確かに白衣姿で注射器を持っている姿に、先程よりも恐怖心は薄れている。これなら大丈夫かも知れない。そう思い、頷いた。
 ドクターは点滴の繋がれた方に回り込み「それじゃ今、薬を入れますからね」と、俺に確認をとった後、数分でまた俺の前に立ち、今度は腕の治療を始めた。
 それを眺めているうちに、徐々に眠気に襲われる。目を開けていられなくなり瞼を閉じた。ぼんやりとした意識の中でドクターと母の声を聞いていた。
「お母さん、ちょっとお話が……」
「はい……」
「この様子では転院をされた方が、今後の回復にも宜しいかと思われます。身体の方は徐々に回復へと向かっていますが……幻覚症状が酷いようです。薬物依存症の専門の病院を紹介しますので、ナーススーテーションに……」
 幻覚……? 薬物依存って……俺が?
 そこまで聞くのが精一杯で、俺はまた深い眠りに付いた。



               ――to be continued――

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