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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――いつまでも ずっと――<53>

 廊下を駆けて、階段を転げ落ちるように降りると、デヴィットが驚いたように夜間通用口に立っていた。
「どうした!? 何かあったのか?」
「……ごめんなさい、今は……何も……」
 デヴィットは俺の様子を察してくれたのだろう、静かに背中をあやす様に摩った。
「……すみま……」
 声が震えて、うまく言葉に出来ない。
「……また、来るといい、リョウタ。俺も協力するから」
「あ……ありがと……ござ……」
「今日はゆっくり休むがいいよ、気をつけて、な?」
「……はい…………」
 デヴィットは通用口の鍵を開けると、心配そうに見送ってくれていた。
 俺はその視線が気になりつつも、隼人の事だけが頭を支配し、何も出来ずにいた。
 蹲って泣きたくなる衝動を、必死に堪えて病院を出ようと正面玄関前を歩いていた時だった。一筋のヘッドライトが見えて、その横を過ぎる。
「涼太!」
 不意に声を掛けられて、その車を確認すると赤いロータス・エリーゼ・111Rが見えて、誰かと運転席に目をやる。
 ウィンドウが下がりその顔を見た途端に、不甲斐なく泣き崩れてしまった。
 笑顔だったカールの表情は、驚いたように瞠目する。
「りょ、涼太!? どうした、何かあったのか!?」
 カールは慌てて運転席から降りると、俺をそっと助手席に案内した。
 助手席に身を置くと、溢れ出る涙を止められずに拳を握る。
 カールはそんな俺を気遣って、暫くは無言だったが、ぽつりと口を開いた。
「……バス、もう無いと思ったから、迎えに来たんだ。今日、リチャードは当番で出られないからって連絡あって……。涼太……恋人に逢えなかったのか?」
 その問いに、首を横に振った。
「……そうか。何かあったんだな?」
 コクリと頷いた。話そうと思っても喉が痙攣して、声が出ない。
 カールはそれからハンドルを握るとエンジンを掛ける。
 スポーツカーの心地良い振動が伝わった。
「取りあえず、家に帰ろうな」
 ギアを入れると車はゆっくりと走り出す。車内は、家に着くまでずっと、エンジン音と排気音が聞こえるだけだった。

 寮の前に車を停めると、カールは助手席のドアを開けて俺を支えながら玄関前に立つ。
「涼太……オレで良かったら話してごらん?」
 カールの顔をまともに見られないまま、頷いた。
 ぼんやりとする視界を拭い、ポケットに手を入れて鍵を取り出すと扉を開ける。
 カールはそのまま部屋に入ると、俺をソファーに座らせ、向かい合わせの席に腰を下ろす。
「……カール、ごめんな……」
 震える喉をやっとの思いで抑え込み、蚊の鳴くような声で言うと
「……大丈夫だよ。落ち着くまで待ってるから。ちょっと冷蔵庫、見ていい?」
 俺が頷くと、カールは席を立ち、キッチンに向かった。
 少ししてから香ばしい紅茶の匂いが沸き立ち、ミルクの香が漂う。
 マグカップを一つ俺に手渡すと、カールはまた向かいに座りそれを一口含む。
「ホットミルクは落ち着くけど、オレ、ミルクだけってのは苦手でさ。ごめんな」
「……いや、俺も同じだから……。ありがとう」
 微笑むカールに促され、俺もそれを口に含んだ。
 芳香な紅茶の香りと、まろやかな風味が心地良く喉を通る。
 俺はカップを両手で包むと、ぽつりと声を発した。
「隼人が……目を覚ましたんだ……」
「そうか! 意識が戻ったんだね?」
「でも……記憶が……。俺の事……、憶えてなかった……」
 それ以上話せなくなって、下を向いた。
「……涼太……」
 カールの哀れんだ声が、頭上から聞こえた。
「でも……一時的なものかも知れないよ? また、そのナースに逢わせて貰うようにオレが掛け合おうか?」
 俺は首を振った。
「涼太……気持ちは分かるけど、このまま……って言うのは……」
 心配そうに覗き込むカールに、はっとして
「違う、よ。それは勿論、自分でスージーさんに言うから……」
「そう、か」
「問題は……意識を戻した隼人を、儀父母がどうするか……」
「ああ……」
「まだリハビリが必要になると思うし、急にはどうこうしないとは思うけど……」
「そうだね。でも、その間に記憶を取り戻せるように、涼太が通えば良いよ」
「……でも、中には入れてもらえない」
「だから。声だけでも聞かせるんだよ」
 カールの発言に、はっとした。前に見た医療系の番組で、意識の無い人が家族の声には反応する、と言うものがあった。
 症例は違うかも知れないけれど、声で思い出してくれるかも知れないと、思い直した。
「……そっか、そうだよな?」
 一人では悶々としてしまいそうだった。またネガティブに囚われて、止まってしまいそうだった思考を取り戻す。
 カールが居てくれた事に深く感謝した。
「ありがとう……カール。君のお陰で、少し、希望が持てたよ」
 そうは言っても、やはり不安な気持ちは払拭できない。
 それが表情に出ていたのだろう。カールはソファーから立ち上がると
「……涼太、本当にどうして君ばかり、こんな目に……」
 綺麗な碧眼を潤ませて、俺にハグをした。
 砕けてしまいそうだった心を暖めてくれる、カールの温もりが嬉しかった。
 それからカールは心配だからと、俺の部屋に留まってくれた。
 独りでいたらまた、悶々としてしまっていただろう。
 カールとリチャードは生まれこそ違うけれど、自分の兄弟のようにも感じる程になっていた。
 この二人に出会っていなければ、俺はこの重い現実を、乗り越えられなかったかも知れない。



               ――to be continued――


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