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――いつまでも ずっと――<52>

 病室の前で呼吸を整える。ドアを開ける手が、緊張で震えた。
 中に入り、隼人の姿を確認する。
 以前よりも掛け布団の盛り上がりは増している。確かに回復しているようだ。
 繋がれた点滴のボトルから、チタ、チタ、と規則的に内溶液がその腕に吸収されている。
 俺は固唾を飲み、そっと隼人の顔を覗き込んだ。
 痩せこけていた頬は、以前の隼人よりはやや劣るものの、色付いて張りがある。
 色濃く落とされていた目の周りの隈も、今はすっかり消え失せて、穏やかな表情を携えていた。
「……隼人、良かったな。顔色が良くなった」
 頬に掌を添えて、その体温を確かめる。じんわりと伝わる温もりが愛しい。
 このまま、ずっと傍にいたい――。
 だが、残された時間は微々たるものだ。一分、一秒さえも惜しかった。
 俺はただ、隼人との思い出を廻らせ、点滴のされていない方の手を握り締め、その顔を覗き込んでいた。
 どれくらい時間が過ぎただろう。穏やかに過ぎ行く時間が止まってしまえばいい、そう思っている時だった。額に掛かる長くなった前髪をよけたら、ぴくりと隼人の眉が動いた。
 だた、刺激を受けた故の生理現象かと思って見ていたら、次第にその眉は中央に深い溝を刻む。そして「う……」と声が漏れた。
(……隼人? まさか、意識が……?)
 ――そんなドラマみたいな事など起こる訳がない。そう思うのに、期待で胸は高鳴る。
「隼人……」
 小さな声で名を呼んだ。
 俺の声に反応するように隼人は、その澄んだ鳶色の瞳をぱっと見開いた。
 開かれた瞳は、暫くの間、瞬きを繰返している。
 隼人が意識を取り戻した――――。
 暫く信じられなくて、椅子から立ち上がれずに見守っていた。
 足が震えて、ベットの縁に膝が当たると、点滴台が揺れてカタンと音がした。
 その瞬間、隼人の首がゆっくりと動き、視線がこちらに注がれる。
 奇跡的な出来事に、俺は夢現な気分になっていた。
 この世に神と言う存在があるのなら、声を大にして感謝の意を示しただろう。
 実感が次第に湧いてくると、俺は静かに椅子から立ち上がった。
 そうしてもう一度、名を呼ぶ。
「は……やと?」
 尚も注がれる視線に自然と涙が瞳を覆い、隼人の姿が歪む。
 暈やける視界が嫌で、何度も瞬きをした。
「分かるか? 俺だよ?」
 顔を覗き込み、そっと囁いた声が震えてしまう。
 じっと様子を伺うが、視線が向けられたままで反応は無かった。
 まだ隼人は気が付いていないのか、それとも前のように、ただ目を開けただけなのか……。
不安で揺れる鼓動を抑えきれず、頬を涙が伝って行った。
 じっと確かめるような視線に居た堪れなくなった俺は、何度か声を掛けてみようと思った。が、見つめる先の視線には、確かに俺が居る。
 隼人はもしかしたら、目覚めたばかりで声が出せないのかと、ポジティブに考えてみた。
 そうだ、この瞳には紛れもない、力強さが宿っている。
 そう思ったら、気持ちも昂って来た。嬉しさで全身が震える。
 隼人が瞬きをする。
 もしかしたら、何か俺に話したい事があるのかもしれない。
 俺が首を傾げると、また瞬きをした。
 そうだ、やっぱりそうだ!
 きっと目覚めたばかりで、声が出ないに違いない。
 隼人はアイコンタクトで応えてくれているんだ!!
「隼人、意識が戻ったんだね、良かった……」
 瞬きが繰返される。心なしか口許も少し動いたように感じた。
 無表情なのは多分、一ヶ月以上も寝たきりの生活を送っていたからだろう……。
 リハビリが始まったら、絶対元の隼人に戻れる筈だ!!
 嬉しさで跳ね回る心とは裏腹に、現実が圧し掛かると、俺の心は陰りを帯びる。
 隼人が意識を取り戻したとなれば、儀父母は更に俺を寄せ付けないだろう……。
 あの時の義父の顔が過ぎると、底なし沼に嵌ってしまったように気持ちが沈む。
 話せるのは、今しかないかも知れない……。
 気持ちが急いて、つい口が滑った。
「――隼人、実は……実は、俺たちの事……」
 でも、この事実を隼人が知ったら……。意識を取り戻したばかりの隼人に、この話は酷だったかも知れない……。
 口を付いた言葉をうまく紡げなくて、俺は俯いて握り拳を作った。震える体を何とか抑えようと必死に力を篭める。
 ごそっと動く気配がして、はっと顔を上げると、隼人は起き上がろうとしていた。
「っ――! 起き上がって、大丈夫なのか?」
 やはり、ショックだったのだろう――――。
 俺は慌てて隼人の身体を支えた。
「隼人……でも、俺はそれでもお前を護るから……。隼人が俺を護ってくれたように、今度は俺が……」
 まだ身体も思うように動かない隼人を支えながら、精一杯、思いの丈を告げた。
 何も心配しなくていい、今度は俺が――。
「――……隼人って、俺の事……ですか?」
 隼人の声だった。一瞬、何を言われたのか分らなくて、視線を合わせる。
 が、隼人はじっと見つめたまま、俺の様子を窺っている。
 まるで知らない人を見つめる視線だ。その事実に気がついた時、頭から血の気が失せた。
「え……、今、なんて……?」
「隼人って、俺の事なのでしょうか、と聞いたんです。それに貴方は誰ですか?」
 目の前が真っ白になって行く。
 やっと、逢えたと思っていたのに。
 意識を戻していたと思ったのに――――。
「――そんな、嘘だ……、隼人、何言って……」
 混乱する頭で、縋るように隼人を見つめた。一時的なものであって欲しい、このまま元に戻らなかったら、その後は奇跡でも起こらない限り、俺を他人として見るだろう――。
 そんなの……そんなの、嘘だと言ってくれ!
 やっと愛しい者が、この手の中に戻ってきたと言うのに!!
 絶望感に打ちひしがれて、隼人の異変に気が付くのが遅れた。
 苦しそうに俯いた途端に、嘔吐してしまった。
「大丈夫か!? 今、ナースを呼ぶから」
 今ならまだ、スージーの勤務帯の筈だ。俺はナースコールを握ると、ボタンを押す。
「隼人、気持ち悪くないか?」
 ベット脇の棚に置いてあったタオルを手に取り、隼人の顔を拭う。
 まだ吐き気が収まらない様で、嘔吐(えず)く背中を摩る。
 途方に暮れながら、ただ、ぼんやりと隼人の姿を見ていた。
「すみません、もう良いですから……」
 目の前の彼は、本当に隼人なのだろうか……。
 人違いでは無いのだろうか……。
 出来ればそうであって欲しい……そう思うのに。
 目前の人物は、紛れも無く俺の最愛の恋人だ。その眼差し、優しく響く声――。
 思い出が全部、彼だと認識する。十年以上、ずっと傍にいた隼人だと認識してしまう。
 視界が滲み、隼人を直視できない。
「――本当に……俺の事、分からないのか?」
 隼人は懸命に俺を見ていた。眉を顰めて記憶を辿っているようにも見えた。
 しかし、気分が悪くなるのだろうか、また嘔吐きが始まる。
 隼人にこれ以上、無理をさせちゃいけない――。
 そう思った俺が、口を開けかけた時
「悪いですけど、何も覚えていない。貴方が何処の誰で……俺が『隼人』という人物だと言われても、分からないものは分からないんです。考えても気分が悪くなるだけで……。申し訳ないけれど、一人にしてくれないですか?」
 隼人の口からその言葉を放たれた時、全身が凍てつく感覚が俺を襲う。
 溢れ出る涙を止められずに、ただ、隼人を見つめた。

 早めの足音が近づき、ドアが開いたのと同時に、スージーが姿を現す。
「どうしたの……あっ、意識が戻ったのね? 良かったじゃない !!」
 満面の笑みでスージーは俺に視線を落とす。
「はい……。でも、隼人の様子が……」
「えっ? ああ、吐いちゃったのね? 今、バイタル測ってから……」
「――記憶が……隼人の記憶が戻っていない」
 俺はボロボロと涙を流し、その場に佇んでいた。
「えっ!?」
 スージーは、隼人の腕に測定する機械を装着させながら、驚いたように振り向いた。
「……まずいわ、ドクターに連絡入れないと……。ごめんなさい、これ以上は……」
 スージーは俺に視線を向けると、すまなそうにしていた。
 俺は慌てて、涙を自分の服で拭い、頷いた。
「ありがとうございました、スージーさん……」
 はち切れそうになる心を持て余し気味に、足早に病室を後にした。



               ――to be continued――

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