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お話倉庫

主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――いつまでも ずっと――<48>

 シートベルトをすると中は狭くて、腕がぶつかりそうになる。
 またあのフレグランスの甘い香が室内に漂う。横顔が間近にあって、不意に目を背けた。
 それを横目で眺めていたスージーだったが、気にしない様子でアクセルを踏むと、車はゆっくりと走り出す。
「……どうして、俺なんか誘うんですか? 一体、何が目的で……」
「ちょ、ちょっと黙ってて貰えるかしら? 私、運転あんまり得意じゃないのよ……。集中しないと凄く危ないの。ごめんなさいね?」
 確かに、あまり運転が得意じゃないようだ。緊張のためか、前傾姿勢でガチガチになっている。この車に乗ったのは、間違いだったかも知れない――。 
 俺は自分の身の安全も考え、車内での会話を諦めた。それにしても、どこまで連れて行かれるのだろうか、と言う不安が胸中を占める。気を紛らわせるため、流れる車窓からの景色を眺めていた。
 十分くらい走っただろうか、さほど病院から離れていない場所に車は停まる。
 何棟か同じような建物が並んでいた。クリーム色の外壁からすると、アパートのようだ。
「……はぁ、今日も無事に着いたわ。神よ、感謝します」
 ほっと安堵の息を吐くと、スージーは呟く。俺も小さく同様の息を吐いた。
 どんだけ運転怖いんだよ、なら運転しなきゃ良いのに、と思っていると
「私、朝が弱くて……遅刻しそうになってばっかりいて、タクシー使うのが多くて、ちょっと金銭的に余裕がなくなっちゃったのよ。だから仕方なく車買ったの」
 まるで俺の思考が読まれてるような感覚に陥り、背筋が寒くなる。
 そんな俺の事など気にもせずに、スージーは車から降りると、真直ぐにそのアパートに足を運んで二階へと上って行き、突き当りの玄関に向かうと鍵を開けた。

「さ、入って。あまり綺麗じゃないけど」
 言われるまま部屋に入ると、確かに綺麗とは言い難かった。
 慌てていたのか、洋服があちこちに散乱している。
「やだ! 朝忙しくて、そのままだったわ!! 今、片付けるからそこに座ってて?」
 俺はリビングのソファーに腰を下ろすと、スージーの様子を眺めていた。
 慌てながら散らばっている服を掻き集め、クローゼットに押し込むとキッチンに向かい、冷蔵庫を開けて、中を物色する。
「コークで良い? それとも他のものにする? 後はオレンジ、アップル……ミルク?」
「別に何でも……」
「そう? じゃあコークにするわね」
 空のグラスを手にして、それを俺に渡す。
「ところで、さっきの……」
「そうそう、ごめんなさい。強引に連れて来ちゃって」
 スージーは俺の真向かいに腰を下ろすと、コーラをグラスに注いだ。
「俺を彼氏の嫉妬の対象にする為に、ここまでわざわざ呼び付けたんですか?」
 厭味たっぷりに言うと、ふふっと意味ありげに笑い、スージーはそれを否定した。
「あれは口実よ。じゃないと、カレンに疑われるから」
「どうして、そんな嘘を?」
「貴方、彼に……Mr.サクライに逢いたいんでしょ?」
 俺は一瞬、言葉に詰まった。
 またそれで釣るつもりか? 一体何が目的なのだろう……。
 先程、金銭の余裕が……とか言っていたが、まさか強請り?
 だが、有り得ない事じゃない。
 スージーの不可解な発言に、俺は疑心暗鬼のまま、ただ黙っていた。
「今度の夜勤、彼女と一緒なのよ。Mr.サクライに逢わせる為にはね、あなたが私に夢中になっちゃって、病院まで押しかけちゃったって思われてた方が、都合が良いの」
「どうして、俺を隼人に逢わせようと? 貴女は何が目的で?」
 するとスージーは真剣な眼差しをして俺を見たが、ふと視線を落として俯く。
「……私、元『男』なの。その事実を隠して、今の職場に就いたから、誰にも知られたくないのよ。特に同僚の娘には、ね」
「え……?」
 言っている意味が、直ぐには理解できなかった。なぜならスージーは、どこをどう見ても女性そのものだったからだ。
 小柄な身体、豊満な胸、くびれたウエストに張りのある腰……。声だってキンキンと高くは無いが、低くも無い。
 俺はてっきり隼人の話かと思っていたので、拍子抜けする。
 病院では話せない話とはこの事なのか、と思いつつ、上から下まで目線を泳がせていたせいか、スージーは顔を赤らめながら
「やだ、そんなに見ないでよぅ。恥ずかしいじゃない……」
 モジモジと、居心地を悪そうにしている。
「あ、ああ……ごめん、でも、信じられなくて……」
 俺は、そう言われても信じられなくて、疑いの眼差しでスージーを見た。
「そりゃそうでしょうよ。全部、綺麗にしてもらったから。名前も変えたし、戸籍も今は『女』よ」
「そう、なんですか……?」
 まだ疑いの眼差しで見ていたせいか、スージーは溜息を吐くと椅子から立ち上がり、本棚からアルバムを持って来て、その中から一枚を取り出し、俺に手渡すと、腕を組みながらただ黙って見下ろしていた。俺は写真に目をやる。
 その写真には男の子の正装をした、可愛らしい子供が写っているが、かなり不機嫌そうだった。しかし、顔を良く見てみるとスージーの面影がある。幼い頃の写真だろうか。
 そして、裏を返してみると『ジョージ・五歳』と記してある。
「ね? 私、男だったのよ。でも、他の人にそれを見せる時は、死んだ弟なのって言ってるけど、私本人よ。弟なんていないし」
 確かに名前は男の子だった。だが、一見すると女の子のようだ。女の子が男装させられてる可能性だってある。それに、こんな小さな頃じゃ判別が難しい。
「私ね、小さい頃から自分は女の子だと思っていたから、男の子って言われるたび違和感があって……。その服も嫌々着たのよ? 本当は隣に飾ってあった、ピンクのフリルがいっぱい付いたドレス着たかったのに」
「――そうだったんですか」
 それでこんなにも不機嫌な表情をしていたのかとは思ったものの、それでもまだ、俺は信じられないでいた。
 本当に亡くなった弟さんかも知れない、と、スージーを見上げる。
「ふふ、その様子じゃ、まだ疑ってるわね? それほど私は完璧に女に見える事でしょ? 嬉しいけど、こんな時は困るわね……後の写真は全部処分しちゃったし……。仕方無いわ、とっておきの証拠、見せてあげる」
 スージーは腕組を外すと、今度は奥の部屋に姿を消した。
 ガタガタと何か、大きな荷物を下ろすような音と『ああ、もう! どこかしら?』と、怒ったような声を出している。
 暫くすると、スージーが埃まみれになって戻って来た。
「お待たせ! 私も暫く振りに前の自分の姿見たけど、やっぱりちょっとゴツイわね」
 苦笑いをしながら手にしていた学生証、それと封筒に入った書類をテーブルの上に置いいて、それを掌で示すと、首を傾げて『見て』という仕草をして、椅子に腰掛けた。
「これ、見ても良いんですか?」
「どうぞ? だって貴方、相当疑り深いから、これ見ないと信用しないでしょ?」
 髪に付いた埃を払いながら、少し怒ったような表情をして俺を見る。
 俺はまず、テーブルに置かれた学生証を手に取り、それを見る。
 スージーはこちらを窺うように、じっとその様子を見ていた。
 ハイスクール時代のもので『ジョージ・シングレア』の名前だが、顔写真を見ると、スージーが写っている。
 本人が言うように、短めの髪で角ばった額と、その丸い目の上の眉は太くて、男性的ではあるが、間違いなく目の前の人物だった。
 そして封筒を開けその中身を見ると、書類が入っていた。一つは病院の診断書、そして戸籍謄本が二通。
 病院の診断書に目を通すと『性同一性障害』の文字が見えた。
 戸籍謄本は男だった頃のものと、女に変わってからのものだった。
 名前も変わって『スージー・シングレア』になっている。
 俺はそれを見て、やっと納得する事が出来た。



               ――to be continued――
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