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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――いつまでも ずっと――<37>

 病院の正面玄関を通り抜け、目的の階に向かう。
 昨日、病院からは何も連絡が無かったのは、隼人に急な変化がみられなかった、と言う事だろう。
 ナースステーション前で、一人のナースに声を掛ける。
 揃えた書類を見せると、中に案内され、医者の話を聞くことになった。
「初めまして。私がMr.サクライの担当の、ホーネットです」
 中年くらいだろうか、その医者は顔に立派な髭を携えている。
「初めまして、Dr.ホーネット。義理の弟で、蓬田涼太と言います」
「ではMr.ヨモギダ。Mr.サクライは、今は意識不明の状態ではありますが、危険な状態は回避しました。バイタルサインは落ち着いてます」
 その言葉を聞き、ほっと安堵の息を吐く。
「しかし、この先、彼が意識を取り戻すかどうか……。運んで来た、日本人の医者の話によると、心肺停止していた時間が少し長かったようで……」
「えっ!? それじゃ隼人は、脳死……そう言う状態なんですか!?」
 俺は、心臓が止まりそうな衝撃を受けた。
「いいえ、それは違います。彼は自発呼吸しています。脳死に陥った場合、呼吸する機能も失われますから、脳死ではありません。ただ、意識を取り戻せないまま植物状態になる事は考えられます」
「――――そんな……」
 脳死ではないにしても、あまりに深刻な状態に、俺は言葉を失った。
 隼人の心臓が動き出して呼吸するのが分かったとき、安易にこのまま意識を取り戻すと思っていた。
 そんな自分の見解の甘さに、嫌気が差す。ぎゅっと拳を握り締めた。
 Dr.ホーネットは、俺の様子を気にしながらも説明を続ける。
「それで、彼は危険な状態を回避しましたが、かなり衰弱していますね。暫くは点滴で栄養補給が必要になると思いますが、このままこちらに入院しますか? ああ、日本とは違いましてこちらは医療の制度が違うんですよ。それで全て実費になりますが」
 幾ら危険な状態は脱したとは言え、意識不明で衰弱した状態の隼人を、また違う所に連れて行くのはリスクが高すぎる。
 移動させたとしても、そこでまた同じ事を言われるのは目に見えていた。
 だったらこのまま居た方が、隼人にとってもいいはずだ。
 暫く考え事をしていた俺の様子を見て、Dr.ホーネットは片方の眉を上げる。
 どうやら俺に、支払い能力はあまり無いようだと思ったらしい。
「どうします? 金銭面で不安があるのでしたら、私共も困りますから」
「いえ、お支払いします。引き続き……お願いします」
「分かりました。では、こちらが入院時の書類と、今までの請求書です。後で構わないので、サインをお願いします」
 書類を受け取り、請求書に目をやるとその金額に驚く。
 昨日運ばれて一泊、つまり二日分の請求額は、日本円で約百万円。
 一日集中治療室にいただけで、約五十万円だ。単純に計算しても十日も入院すれば、五百万円と言う金額が飛ぶと言う事だ。
 覚悟していた事とは言え、その金額の多さに絶望感が押し寄せる。
「病室は移しますから、多少は金額が下がりますけれど、あまり変わらないと思って下さい。何か日本で保険に入っていたのなら、連絡しておいた方が良いですよ」
 自分は保険に入っているにしても、隼人は入っていたかどうか、知る術が無い。
「では、私はこれで。面会は病室を移しましたら出来ますので。後でケアマネージャーに案内させますから、一階の待合室でお待ち下さい」
「はい……分かりました。ありがとうございました」
 医者の話が終わると、俺はナースステーションを出て、トボトボと階段を降りながら、溜息を吐く。
 一階に降り、空いている席に腰を下ろし、ケアマネージャーが現れるのを待った。

 それからニ十分くらいが過ぎた頃だろうか、医者とさほど変わらない格好をした女性が眼鏡の端を手で押さえながら、俺に日本語で話掛けてきた。
「失礼ですが、Mr.ヨモギダ?」
 日系なのだろうか、アジア的な見た目と、流暢な日本語が印象的だ。
「はい、そうです。初めまして」
「初めまして。私はケアマネージャーの、クリスティーナです。早速ですが、お支払いをお願いしたいのですが、宜しかったですか? その後の書類等の受け渡しもありますので」
「あ、はい。分かりました」
 まずは金を払え、という話らしい。
 この先、入院を継続させる為には、仕方の無い事だ。
 病院だって商売だから、金の無い奴を置いてくれるような、慈善事業じゃないのは知っている。親父の時に、痛いほどそれは味わった。
 支払いが滞った時に、転院を勧められたり、調子がそう悪くない時は、退院する事になったり。
 日本では、最低限の人権保障があるから、おいそれとは追い出されなかったが、日本とは違い、本当にこちらは顕著に金で動くようだ。

 カードで会計を済ませると、ケアマネージャーは安心したような笑顔を見せる。
「何か困った事が起きましたら、いつでも相談して下さい。では、ご案内します」
 待合室を抜け、エレベーターに向かい、乗り込んだ。
 その手に注目すると、五階の所のボタンを押した。
「ここの五二三号室が、Mr.サクライの新しい部屋です。角部屋ですから、日当たりはとっても良いですよ。あちらがデイ・ルームで……」
 終始ニコニコしながら、この病院の施設等説明する。
 俺は日本の病院しか知らない。当然、相部屋があると思っていた。
「そこは、個室ですか?」
「ええ、ここは全室個室ですが、何か?」
 ケアマネージャーは眼鏡の端を押さえながら、不思議そうに首を傾げた。
 やはりこちらはプライベート重視なのだなと、改めて国の違いを知る。
「いえ、何でも無いです」
「そうですか。気になる事があったら、言って下さいね?」
 決まり文句なのだろうか、ケアマネージャーは営業スマイルで言うと、エレベーターを降りて長い廊下を歩き出した。幾分早めの足取りを追従する。
 暫く歩いた後、その足取りが止まり、角部屋を掌で示した。
「こちらです。それではお大事に」
 ケアマネージャーは微笑むと、その場を後にした。

 いよいよ隼人との本当の再会だと思うと、胸が高鳴った。
 緊張して、握り締めた手に汗をかく。
 例え意識が無くとも、傍に居られるだけで良いと、意を決して病室に入る。
 病院独特の消毒液臭が漂う中、ベットの端が目に映り、人の寝ている膨らみが見える。
 近くまで来ると、俺は息を呑んだ。
 あまりにも痩せ細ったその姿は、一見すると隼人とは別人のように見える。
 布団を掛けているものの、盛り上がり方が以前の半分くらいだ。
 事件の時は夢中で、痩せたとは思っていたが、ここまで酷いとは気が付かなかった。
 しかし、寝息を立てている姿は、意識不明のものとは思えない。
 声を掛けたら、ぱっと目を開けそうな、そんな気がして思わず「隼人」と、呼びかける。
 だが隼人は微動だにせず、呼吸を繰り返すだけだった。
 そっと額に掛かる髪を避け、その顔に触れる。
 窪んだ目許に浮き上がる隈が痛々しくて、胸が締め付けられるのと同時に涙が頬を伝う。
 俺から零れ落ちた涙が、隼人の扱け落ちた頬に雫を蓄え、流れ落ちて行った。
 だけど、それにも全く反応が無く、俺は失望感に見舞われる。
 意識が無くても傍に居られたら、と思いはしたものの、顔を見ると欲が出る。
 もう一度あの微笑を俺に見せて欲しい、その声を聞かせて欲しいと……。
 しかし、そんな儚い願いは、虚しくも打ち砕かれた。
 隼人の掌から伝わる温もりはあるのに、ただ眠っているようにしか見えないのに、隼人の魂は、その身体には存在していないようだった。
 最期の吉岡の言葉が、脳裏を過ぎる――。
『――この抜け殻だけは返してやるよ』
 本当に抜け殻のようになってしまった隼人に縋り付き、声を殺して泣いた。



                 ――to be continued――

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