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――いつまでも ずっと――<37>

 病院の正面玄関を通り抜け、目的の階に向かう。
 昨日、病院からは何も連絡が無かったのは、隼人に急な変化がみられなかった、と言う事だろう。
 ナースステーション前で、一人のナースに声を掛ける。
 揃えた書類を見せると、中に案内され、医者の話を聞くことになった。
「初めまして。私がMr.サクライの担当の、ホーネットです」
 中年くらいだろうか、その医者は顔に立派な髭を携えている。
「初めまして、Dr.ホーネット。義理の弟で、蓬田涼太と言います」
「ではMr.ヨモギダ。Mr.サクライは、今は意識不明の状態ではありますが、危険な状態は回避しました。バイタルサインは落ち着いてます」
 その言葉を聞き、ほっと安堵の息を吐く。
「しかし、この先、彼が意識を取り戻すかどうか……。運んで来た、日本人の医者の話によると、心肺停止していた時間が少し長かったようで……」
「えっ!? それじゃ隼人は、脳死……そう言う状態なんですか!?」
 俺は、心臓が止まりそうな衝撃を受けた。
「いいえ、それは違います。彼は自発呼吸しています。脳死に陥った場合、呼吸する機能も失われますから、脳死ではありません。ただ、意識を取り戻せないまま植物状態になる事は考えられます」
「――――そんな……」
 脳死ではないにしても、あまりに深刻な状態に、俺は言葉を失った。
 隼人の心臓が動き出して呼吸するのが分かったとき、安易にこのまま意識を取り戻すと思っていた。
 そんな自分の見解の甘さに、嫌気が差す。ぎゅっと拳を握り締めた。
 Dr.ホーネットは、俺の様子を気にしながらも説明を続ける。
「それで、彼は危険な状態を回避しましたが、かなり衰弱していますね。暫くは点滴で栄養補給が必要になると思いますが、このままこちらに入院しますか? ああ、日本とは違いましてこちらは医療の制度が違うんですよ。それで全て実費になりますが」
 幾ら危険な状態は脱したとは言え、意識不明で衰弱した状態の隼人を、また違う所に連れて行くのはリスクが高すぎる。
 移動させたとしても、そこでまた同じ事を言われるのは目に見えていた。
 だったらこのまま居た方が、隼人にとってもいいはずだ。
 暫く考え事をしていた俺の様子を見て、Dr.ホーネットは片方の眉を上げる。
 どうやら俺に、支払い能力はあまり無いようだと思ったらしい。
「どうします? 金銭面で不安があるのでしたら、私共も困りますから」
「いえ、お支払いします。引き続き……お願いします」
「分かりました。では、こちらが入院時の書類と、今までの請求書です。後で構わないので、サインをお願いします」
 書類を受け取り、請求書に目をやるとその金額に驚く。
 昨日運ばれて一泊、つまり二日分の請求額は、日本円で約百万円。
 一日集中治療室にいただけで、約五十万円だ。単純に計算しても十日も入院すれば、五百万円と言う金額が飛ぶと言う事だ。
 覚悟していた事とは言え、その金額の多さに絶望感が押し寄せる。
「病室は移しますから、多少は金額が下がりますけれど、あまり変わらないと思って下さい。何か日本で保険に入っていたのなら、連絡しておいた方が良いですよ」
 自分は保険に入っているにしても、隼人は入っていたかどうか、知る術が無い。
「では、私はこれで。面会は病室を移しましたら出来ますので。後でケアマネージャーに案内させますから、一階の待合室でお待ち下さい」
「はい……分かりました。ありがとうございました」
 医者の話が終わると、俺はナースステーションを出て、トボトボと階段を降りながら、溜息を吐く。
 一階に降り、空いている席に腰を下ろし、ケアマネージャーが現れるのを待った。

 それからニ十分くらいが過ぎた頃だろうか、医者とさほど変わらない格好をした女性が眼鏡の端を手で押さえながら、俺に日本語で話掛けてきた。
「失礼ですが、Mr.ヨモギダ?」
 日系なのだろうか、アジア的な見た目と、流暢な日本語が印象的だ。
「はい、そうです。初めまして」
「初めまして。私はケアマネージャーの、クリスティーナです。早速ですが、お支払いをお願いしたいのですが、宜しかったですか? その後の書類等の受け渡しもありますので」
「あ、はい。分かりました」
 まずは金を払え、という話らしい。
 この先、入院を継続させる為には、仕方の無い事だ。
 病院だって商売だから、金の無い奴を置いてくれるような、慈善事業じゃないのは知っている。親父の時に、痛いほどそれは味わった。
 支払いが滞った時に、転院を勧められたり、調子がそう悪くない時は、退院する事になったり。
 日本では、最低限の人権保障があるから、おいそれとは追い出されなかったが、日本とは違い、本当にこちらは顕著に金で動くようだ。

 カードで会計を済ませると、ケアマネージャーは安心したような笑顔を見せる。
「何か困った事が起きましたら、いつでも相談して下さい。では、ご案内します」
 待合室を抜け、エレベーターに向かい、乗り込んだ。
 その手に注目すると、五階の所のボタンを押した。
「ここの五二三号室が、Mr.サクライの新しい部屋です。角部屋ですから、日当たりはとっても良いですよ。あちらがデイ・ルームで……」
 終始ニコニコしながら、この病院の施設等説明する。
 俺は日本の病院しか知らない。当然、相部屋があると思っていた。
「そこは、個室ですか?」
「ええ、ここは全室個室ですが、何か?」
 ケアマネージャーは眼鏡の端を押さえながら、不思議そうに首を傾げた。
 やはりこちらはプライベート重視なのだなと、改めて国の違いを知る。
「いえ、何でも無いです」
「そうですか。気になる事があったら、言って下さいね?」
 決まり文句なのだろうか、ケアマネージャーは営業スマイルで言うと、エレベーターを降りて長い廊下を歩き出した。幾分早めの足取りを追従する。
 暫く歩いた後、その足取りが止まり、角部屋を掌で示した。
「こちらです。それではお大事に」
 ケアマネージャーは微笑むと、その場を後にした。

 いよいよ隼人との本当の再会だと思うと、胸が高鳴った。
 緊張して、握り締めた手に汗をかく。
 例え意識が無くとも、傍に居られるだけで良いと、意を決して病室に入る。
 病院独特の消毒液臭が漂う中、ベットの端が目に映り、人の寝ている膨らみが見える。
 近くまで来ると、俺は息を呑んだ。
 あまりにも痩せ細ったその姿は、一見すると隼人とは別人のように見える。
 布団を掛けているものの、盛り上がり方が以前の半分くらいだ。
 事件の時は夢中で、痩せたとは思っていたが、ここまで酷いとは気が付かなかった。
 しかし、寝息を立てている姿は、意識不明のものとは思えない。
 声を掛けたら、ぱっと目を開けそうな、そんな気がして思わず「隼人」と、呼びかける。
 だが隼人は微動だにせず、呼吸を繰り返すだけだった。
 そっと額に掛かる髪を避け、その顔に触れる。
 窪んだ目許に浮き上がる隈が痛々しくて、胸が締め付けられるのと同時に涙が頬を伝う。
 俺から零れ落ちた涙が、隼人の扱け落ちた頬に雫を蓄え、流れ落ちて行った。
 だけど、それにも全く反応が無く、俺は失望感に見舞われる。
 意識が無くても傍に居られたら、と思いはしたものの、顔を見ると欲が出る。
 もう一度あの微笑を俺に見せて欲しい、その声を聞かせて欲しいと……。
 しかし、そんな儚い願いは、虚しくも打ち砕かれた。
 隼人の掌から伝わる温もりはあるのに、ただ眠っているようにしか見えないのに、隼人の魂は、その身体には存在していないようだった。
 最期の吉岡の言葉が、脳裏を過ぎる――。
『――この抜け殻だけは返してやるよ』
 本当に抜け殻のようになってしまった隼人に縋り付き、声を殺して泣いた。



                 ――to be continued――

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――いつまでも ずっと――<36>

「有り難うな。カール、リチャード。君達には礼をいくら言っても足りないよ……感謝してる。でも、いいよ……自分から、ちゃんと話さないといけない事だから……」
 責任逃れをするのは嫌だった俺は、微笑みながらもカールの申し出を断った。
 笑っていたカールだったが、俺の方を見て座り直すと、真剣な眼差しを向ける。
「ん、そう言うとは思ってた。だけど涼太、これからどうするんだ? 恋人が入院となると、保険利かないだろ? 彼がそういう用意をしていれば別だけれど、君か、両親が支払う事になるんだよね?」
「いや、隼人の両親に払わせる訳には行かないから、俺が払うよ」
 あまりにも重い現実に、不安に駆られる。しかし、金の話じゃなかった。
 いざとなったら、全ての貯金を使っても良い。マンションだって売ったって構わない。
 それで足りなければ、借金だって厭わない。その分、必死に働けば、良いだけの話だ。
 隼人が助かってくれれば、俺はこれからどんな苦労をしても、構わない。
 それよりも、隼人の両親に、この事をどう話せば良いのか、それだけが心の中を占める。
 俺のそんな様子を察したのか、リチャードが口を開いた。
「だったらここに居るより、社員用の寮に移ると良いよ。勿論、お金は要らないから」
「そんな……、君のホテルで事件を起こして、それじゃなくても迷惑を掛けっぱなしなのに、そこまでして貰うなんて……」
 すると、カールとリチャードは顔を見合わせ、クスッと笑った。
 俺は意味が分からずに、きょとんとしていると、カールはにっこりと微笑む。
「いや、涼太。返って知名度が上がって、こっちは迷惑なんかじゃないんだよ? まぁ、確かにあまり良い知られ方じゃないけれど、そういう事件があった部屋に、興味深々で泊まりに来る、変わった連中も居るからね。もう既に問い合わせあったんだよ? 大丈夫、問題ないから」
「そうそう。ここは我がホテル最上級の値の場所だからね。ミステリーツアーに組み込まれて、ゴーストとか出たらまた話題になって、儲かるかもね?」
 リチャードそう言うと、カールに向かって微笑んだ。
 日本では、そんな事件など起きた部屋は、忌み嫌われるが、こちらではそうでも無いのか……。
 どちらにしても、カール達がポジティブなものの考え方をする人達で、良かったと、ほっと息を吐く。
「本当に、社員寮借りて……良いのか? リチャード」
「勿論、大歓迎だよ。食事も心配しなくて良いから、君は恋人の傍に居てあげなよ」
 カールも横で頷いている。俺は友達に恵まれて良かったと、心から感謝し言葉にする。
「本当に、二人とも……ありがとう」
 感極まって涙が溢れそうになった。
 二人はニッコリと微笑み、頷いた。
「涼太はね、家族みたいなものだから。オレ達も必要とされると嬉しいんだよ。さ、明日もやる事が沢
山あるだろう? 今日はもうオレ達も引き上げるから、ゆっくりお休み」
 食事を終えると「それじゃ、また明日」と、カール達は部屋を後にした。

 二人が帰った後の静まり返った部屋で、俺はベットに横になると携帯を取り出し、画面を見つめた。
 緊張で、胃がキリキリと痛くなる。
 ――隼人の両親に話さない訳には行かない。だけど、どう言って説明したら……。
 考えが纏まらずにいると着信音が鳴った。ビクッと身体が緊張で強張る。
 相手を確認し、震える指で通話ボタンを押した。
「……はい、涼太です」
『涼太君!! テレビは見たか!? 隼人が、隼人が……』
 義父の慌てぶりは、唯ならなかった。重態との知らせに、冷静で居ろと言う方が酷だ。
 暫く考えた末、俺は「いえ、まだ……」と、答える。
『すまないね、今、仕事中だったんだろう? でも、隼人が海外で、重態で発見されたとニュースで流れたんだ!! 私達は今日の便で現地に行こうと思ってる。君はどうする?』
「俺も、行きます。でも、急ぎの仕事が入ってしまって、手が離せないんです……」
 今、現地に居るとはとても言えなかった。
 嘘を言うのは心苦しかったが、適切な言葉が見付からない。
 それに今、本当の事を言って、無駄にパニックに陥らすよりマシだと判断した。
『そうか、それじゃ私達は先に行かせて貰う。向こうで会おう。病院の名前は、セントルイス・ホスピタルだ』
「はい、分かりました。お気を付けて……」
『涼太君も』
 義父はそう言うと、プツリと音声が途絶えた。
 暫くそのまま携帯を握り締めながら、自分の不甲斐なさを呪った。
 後から後から溢れ出す涙を、止める事が出来ないまま、眠れぬ夜を過ごした。翌日、荷物を纏めて、リチャードの運転する車に乗り込んだ。
 カールも助手席に身を置くと、車はゆっくりと発進する。
 昨日の宿泊料金は、結局、無料にして貰った。
 最初は支払うと突っぱねたものの、リチャードは頑なに受け取ってくれず、本当にいくら礼を言っても足りない、と感謝する。
「やっぱり、オレのペットになる? そうしたらもっと豪華に持て成してあげるよ?」
 カールは身を翻し助手席の椅子に掴まると、悪戯する子供のようにクスクスと笑った。
「それは……遠慮しておくよ」
 俺は苦笑いしながら答えた。
 これは冗談なのだろうけど、カールの眼差しを見ると半分くらい本気に見える。
 流石にペットとして扱われるのは、嫌過ぎるだろう。
「カール、冗談はそれくらいにしないと、涼太に失礼だよ?」
 リチャードに言われてカールは「はいはい、分かってますよ」と、小さく呟いた。
 笑いを誘おうとして失敗した、と言う感じで、カールは肩を落としている。
 やっぱり冗談だったよな、と、少し、罪悪感に駆られた。
 車が発進してから数分経った位の、ホテルからさほど離れていない場所に、その建物はあった。白い外壁の、割と新しいアパートメントだ。
 中に入ると、社員寮とは言っても広い室内に驚く。
 おまけに家具、その他諸々全部用意されていた。
「リチャード、本当にこんな立派な所、良いのか?」
 すると、リチャードは首を傾げ、不思議そうな表情をする。
「これが標準だよ? うちの寮は」
 ざっと見回しても、日本にある俺のマンションと変わりない。
 こちらはスケールが違うのか、と思いながら眺める。
「それじゃ、荷物を置いたら病院に出かけよう。これが君の部屋のキーだ」
 それを受け取ると、荷物をその場に置き、必要なものだけをセカンドバックに詰めてその部屋を後にした。
 病院の玄関前に着くとカールは、ウィンクを俺に投げて、微笑む。
「それじゃ、面会時間が終わったら迎えに来るよ。ギリギリの時間まで傍にいるんだろ?」
「うん、有り難う、二人とも。それじゃまた後で」
 手を振ると、二人を乗せた車は遠ざかって行った。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<35>

 ふと、人影が見えて頭を上げると、リチャードが飲み物を手に、ドア前に立っていた。
「涼太、私こそ君に謝らなければならないよ……。一瞬でも君を疑ってしまった。私はあの男の言う事を信じて、君がストーカーかと思ってしまった……。だから隙を突かれてしまって、君を危ない目に遭わせてしまったんだ。本当に申し訳ないよ……」
「そんな……俺だって立場が逆だったら、そう思っていたかも知れない。それ程に吉岡という人間は、人の心理を探るのが巧かったんだ……」
 俺が落ち込んでいると、カールは気まずい空気を払うように切り出した。
「ここで立ち話も何だからさ、まずは飯食おうぜ? オレ、向こうから飛んできて、まだ何も食ってないんだ」
 カールはおどけた表情をして、腹を摩りながら、首を傾げる。
「ご、ごめんカール、気が付かなくて……」
「いいって、いいって! さぁ、食おう?」
 ドアを閉めて、それぞれソファーに腰を下ろすと、リチャード達は、テーブルに持ち寄った食事を並べた。
「これ、オレ特製のスタミナバーガーなんだぜ? 美味いから食ってみろよ」
 カールはそう言うと、ハンバーガーを一つ手に取り「ほら、涼太」と、手渡す。
「うん、ありがとう……カール」
 それを受け取ると、香ばしい匂いが漂った。
 にっこりと微笑みながら、カールはそれを頬張る。
 リチャードも同じく手に取ると、微笑みながらカールを親指で示した。
「カールは調理場の監督も任されてるから、腕は確かだよ」
 彼等が見守る中、俺は一口それに噛り付く。
 芳醇な香が鼻元を掠めると、口いっぱいに濃厚な肉と新鮮な野菜の味が広がる。
「うん、凄く美味しいよ、カール」
「だろ?」と、カールはウィンクして微笑んだ。
 彼等が居なかったら、俺はまた食事も摂らずに眠れないまま、病院に足を運んでいたかも知れない。そうしたら医者の話もまともに聞けたかどうか……。
 気を使ってくれる彼らに感謝しつつ、それを頬張った。
 話したい事は山ほど有ったが、言葉が見付からずに、暫く無言のまま食事をしていた。

 皆が押し黙ったままの空間で、テレビの音だけが聞こえていた。
 それをぼんやりと聞いていると、先程、見損ねたと思っていたニュースが流れる。
 俺達三人は、手を休め、その画面を食い入る様に見た。
 今日この場で起きた事件が取り上げられ、このホテルが映し出される。
 レポーターの女性は、簡潔に事件の容貌だけを伝え、邦人一人が死亡、一人は行方不明、残る一人は重態で、病院に運ばれたと告げた。
 そして、吉岡と坂上の顔写真と、隼人の顔写真が画面下に映し出される。
「――きっとこれ、日本にも流れてるだろうな……。直後から報道されてたから」
 画面を見つめながら、カールが口を開く。
「――そう、だろうね……」
 今日起きたばかりの事件だ、それは話題となって当たり前だろう。
 カールの発言から、既に何回かニュースで流れた事は察しがつく。
 俺の沈んだ顔を眺めながら、リチャードは少し躊躇った様子で話しかけてきた。
「君の恋人のご両親は、この事……知ってるの?」
 俺は首を横に振った。
「そう……。それじゃ、これから連絡を?」
「うん……そうしようと思ってる」
 項垂れる俺に、カールは励ますように肩に手を置き、
「涼太、大丈夫か? オレ、日本語少しは話せるから、オレから連絡しようか?」
 そう言ってカールは咳払いをすると、日本語で
「お早うございマス。わタシはカール・ウィルソン、デス。ヨロシクね。日本トッテモ好きデース……どウ? リョウ太、ナカナカのもの、だろウ?」
 カールが話す日本語を初めて聞いたが、あの外国人独特の、ちょっと発音が訛っている程度だった。
「カール、結構話せたんだね? 日本語」
「まぁね。学生の時にちょっとだけど留学してたんだ。結構、忘れちゃったけどね。涼太はもう英語ペラペラ喋れてたから、敢えて日本語で話さなくても良かったけどさ、一流のホテルマンとしては日本国語くらいはマスターしておかないと、ねぇ?」
 カールは意味ありげにリチャードを見た。
 するとリチャードは肩を竦ませ、視線を背ける。
 何だろう、と、俺が見ていると、カールはそれに気が付いたようで
「折角だから、涼太に聞いてもらおう? リチャードの日本語」
 ニヤニヤと笑いながら、リチャードを嗾ける。
 仕方ない、という顔をして、リチャードが口を開く。
「オ、オーファヨーゴザィル? ヴァータスィ、リチャード・アグレィ、イウノーネ……」
 お世辞にも巧いとは言い難い、リチャードの日本語だった。
 外見が端整であるだけに、そのギャップに戸惑う。
 カールは腹を抱えて、色白な顔を真っ赤にして笑っている。
 それにつられて俺も、クスッと笑ってしまった。
 リチャードは赤面しながら
「――カール、どうしていつも君は、私が日本語を話すのが一番苦手なのを知っててわざと……」
 カールはリチャードにウィンクして見せ「たまにね、聴きたくなるんだよ! それに、君のそんな困った顔も見てみたいし!」と、目配せをしている。
 彼なりの配慮なのだろう、暗い雰囲気を何とか明るくしようとしてくれている。
 それに気が付いたリチャードも、また日本語で話してくれた。
 カールは笑いながらも、フォローを入れる。
「オレよりも外国語話せるのに、日本語だけはダメなんだよな?」
 リチャードは、頭を掻きながら「聞く方は大体分かるんだけどね、うまく口がまわらなくて……日本の発音、難しいよ」と、照れ笑いした。
 そんな二人の優しさが、本当に嬉しかった。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<34>

 誰も居なくなった廊下に一人佇む。
 ピコンピコンと何かの機械音だけが鳴り響く中、俺はナースステーションに向かった。
 奥の部屋から頻繁にナース達が出入りしている。多分、あそこに隼人は居る。
 そこに一人のナースが、点滴のボトルやらがぶら下がっているワゴンを押しながら、部屋から出てきた。
「あの……、あそこの部屋に、日本人が運ばれたと思うんですが……」
 そのナースは怪訝そうな顔を向け、眉間に皺を寄せて溜息を吐いた。
「そうですけど、家族の方?」
 忙しいのに、と、言わんばかりに、不機嫌な表情を浮かべる。
「はい、義理の弟で、ヨモギダって言います」
「そうですか。でも、面会は無理ですね。書類等に記入して頂きたいのですが、今はもう夜間帯で人手が少ないので、また明日来て下さい」
 早口にそう言うと、そのナースはナースステーションに消えていった。
「あの、ちょっと待って下さい! 義兄の容態は……」
 その後を俺は、慌てて追いかける。
 ナースは更に不機嫌そうな表情をしながら、ステーションの窓口まで来て「何ですか?」と、俺と満足に目も会わせないまま、医療器具を準備している。
「義兄が心配なんです。容態はどうなんですか!」
 俺は必死に訴えた。
「今、身分が証明出来るものと、患者さんと血縁関係である書類はお持ちで? それが提示できるのでしたらドクターに掛け合いますが?」
 ナースは溜息混じりに冷たく言い放つ。
「いえ……。今は自分の身分を証明するものくらいしか……」
「では書類を用意してから明日また来た時に、ドクターに聞いて下さい。私たちナースからはお答え出来ませんし、個人情報ですから」
「それじゃ、せめて……せめて、病室の前で待たせて貰えませんか?」
 なんとか隼人の様子が分かればと、必死に食い下がる。
「それは出来ません。完全看護なので。何か有りましたら連絡入れますから、連絡先だけ教えてください」
 俺の顔など見ずに、メモ用紙とペンを無造作にカウンターに置いた。
「書き終わりましたら、そこに置いといて下さい。それじゃ私は急ぎますから」
 またそのナースは、ステーション内に姿を消した。
 あっさりとかわされ、失望の念を抱いた。が、しかし、これ以上ナースを引き止めて隼人の容態が悪化するのは本末転倒だ。
 俺は仕方なく、携帯の番号とホテルの名前を記入し、それを置くと、相変わらずバタバタと出入りの激しい部屋に後ろ髪を引かれる思いだったが、ホテルに戻る事にした。

 階段をトボトボと降りながら、玄関まで来ると車のライトに照らされ、眩しさに目を閉じた。自動ドアの開く音がするのと同時に、リチャードとカールの声がする。
「涼太!! お義兄さんは?」
 心配そうに見るカールとリチャードに
「詳細は教えて貰えなかった……。書類揃えて明日また来てくれって……」
 項垂れる俺の肩を、カールはポンと叩いて微笑んだ。
「一度ホテルに戻ろう? ここで立ち往生しても仕方ないよ。涼太、飯まだだろ?」
「でも……」
 躊躇してると、リチャードが口を開く。
「君が倒れたら、誰がお義兄さんの様子を見に来れるの? こんな時こそしっかり食べなくちゃ」
 カール同様、俺の肩を労わるようにポンと叩き、励ましてくれた。
「そうだよね……ありがとう。それじゃ、そうするよ」
 カール達が運転して来た車に乗り込むと、俺はホテルに戻った。

 ホテルに到着し、自分の部屋に戻ると全身の力が抜け、眩暈が起きる。
 フラフラとしながらソファーに凭れ掛かり、天井を仰いだ。
 暗い室内に月明かりと、反射した街明かりが差し込む。
昼間の出来事が、まるで幻のように感じた。
 ぼんやりとする意識の中、まだホテルの制服のままだった事に気が付き、着替える。
 またソファーに凭れ掛かると、テレビに視線が行き、無意識のうちにリモコンを手に取り、電源ボタンを押していた。
 すると、深夜番組のニュースが流れていた。見覚えのある建物に目が釘付けになる。
 その時、部屋のチャイムが鳴った。
 慌てて起き上がると、部屋の明かりを灯し、ドアの前に立つ。
「涼太、起きてるか?」
 カールの、アルトボイスより少し高めの声がした。
「うん、起きてる。今、開けるよ」
 ドアを開けると、カールは綺麗な金髪のセミロングの髪を揺らしながら、少し重たそうに、食べ物が入っているであろうボックスを両手に抱えていた。
 俺は片手を差し出し、それを受け取ろうと声を掛ける。
「それ、貸して? 持つから……って、あれ? リチャードは?」
「ああ、今来るよ。ちょっとここ開けて置いて?」
「うん、分かった」
 ドアの向こうに、今日隼人たちが泊まる予定だった部屋が見える。
 現場検証が済んだのか、黄色い《キープアウト》の文字が入ったテープは外されていた。
 俺がその部屋を、じっと見つめている事に気が付いたカールは、気を使った様子で俯き加減に話し掛ける。
「……涼太、大変だったな。リチャードから話は聞いたよ」
 俺は首を横に振った。そしてカールに頭を下げる。
「ごめん、カール……。一歩間違えば、君の大切な人まで大変な目に遭わせる所だった」
「けど、リチャードは傷一つ無かったよ。終わり良ければ全て良しって言うじゃないか」
 そう言ってカールはボックスを俺に渡し、リチャードと同様に、俺の頭を子供にするみたいに、クシャクシャと撫でた。



               ――to be continued――

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――いつまでも ずっと――<33>

 病院に着くと、柳瀬が玄関先で待っていた。
「ギダさん、大丈夫でしたか? 随分掛かりましたね?」
「うん、俺は大丈夫……。それより悪かったな、こんな遅くまで付き合って貰って」
「いや、別に構わないっすよ。こんな所で会えたのも、何かの縁っすよね」
 ニコっと柳瀬は、以前と変わらず笑う。
 その横で、先程隼人を助けてくれた医者が、不機嫌そうに立っていた。
「あ、すみません、先程はお世話になりました……本当に義兄を助けて頂いて、何てお礼をしたら良いか……それに遅くまで申し訳ないです」
 礼を言い、頭を下げる。それに対して医者は
「……いや、構わない。私は自分の責務を果たしたまでだ。君のお義兄さんは、今、ICUに入っている。意識はまだ戻っていない。面会もまだ無理だ」
 と、ぶっきらぼうに答えた。
「直哉! どうして、そんな冷たく言うんだよ!?」
 柳瀬の問いに、その医者は顔を背けた。
「ったく、すんませんギダさん……。普段はこんなんじゃないっすけど……」
 柳瀬は俺に頭を下げた後、その医者に向かって宥めるような口調で言った。
「そりゃ、救急車に金掛かるなんて知らなかったけどさ、払わせて悪かったけど……。でもそんなに怒る事は無いだろ?」
 柳瀬の言葉に俺は慌てて、財布を取り出し金額を聞く。
「生憎、そんな端金の事で怒るほど、私は困ってませんから」
 鋭い目つきで睨まれ、なんとなく予感がした俺は、金を柳瀬に手渡しながら話しかける。
「柳瀬、悪かったな。足りないかもしれないけど……」
「いや、いらないっすよ! ギダさん」
 柳瀬が両手を振りながら拒絶するが、敢えてその医者に見えるように柳瀬の両手を掴み握り締めさせた。
 するとその医者の表情は益々厳しいものとなり、舌打ちをすると背を向けた。
 その様子で確信した俺は、柳瀬に小声で耳打ちする。
「あのさ柳瀬、間違ってたらごめんな? もしかして彼、お前の事好きなんじゃ……」
 すると柳瀬は、途端に顔を真っ赤にさせ、目を丸くした。
「な!? どうして分かったんすか!?」
 そんなに敵対心を剥き出しにされたら誰でも分かるよと、心の中で呟く。
 それに気が付かない柳瀬は、もしかしたら隼人並みに天然かも知れない。
「……なんとなく。お前、付き合ってるんだろ? あの人と」
 柳瀬は耳まで真っ赤に染めて、コクリと頷いた。
 新たな恋人を見つけ、幸せそうで良かった、と安堵の溜息を吐く。 
 しかし、柳瀬達には悪いけれど、今はそれどころじゃなかった。
 面会謝絶にしても、せめて傍にいたいと思い、その医者に話し掛ける。
「あの、隼人は今、どの階に居るんでしょうか? せめて近くに……」
 するとその医者は
「三階だ。案内してやるから着いて来い」
 と、また不機嫌そうに答え、先にスタスタと歩き出した。
 柳瀬が怒った様子で、「直哉!!」と、その医者の後ろから声を掛ける。
 俺は、柳瀬の肩に手を掛けて首を横に振った。
 柳瀬は意味が分からないと言った、きょとんとした表情で俺を見る。
「お前、気が付いてないのか? 彼は……嫉妬してるんだよ?」
「へっ!?」
「そりゃ、そうだろう? 恋人が見ず知らずの人と、仲良く話していたら……」
「ええっ? 直哉が……?」
「俺が直哉さんの立場だったら、柳瀬が自分の知らない他の人と仲良さそうに話していたりするのを見るのは、やっぱり嫌だけど?」
 それを聞いた柳瀬は嬉しそうに微笑むと、その彼氏の許へと駆け寄った。
 やれやれと思いつつ、俺もその後を追従する。

 三階に着くと、広いフロア一体が厳重に各扉で覆われ、ナースステーションが、ぽつりと明るくそこだけを照らしていて、忙しく行き来するナース達の影が見えるだけだった。
「ここの一番奥に運ばれた筈だ。後はもう良いだろう?」
 医者はそう言うと、柳瀬を見た。
 俺は一礼し
「本当にありがとうございました。このお礼は必ずします。日本に帰ったら……」
 と、あとの言葉を続けようとした。
「いや、別に構わないと言った筈だ。隆にもう関わらないでくれ。君は、隆がどんな思いをしてきたか、知っているのか? やっとここまで立ち直ったんだ」
 険しい表情をし、俺を上から見下すような目付きをする。
「何言ってるんだよ! 直哉!! そんな昔の事なんか……」
 柳瀬が制止するのも構わず、医者は続ける。
「隆はな、生死の境を彷徨ったんだ。お前が振った後に、やけになった隆は、車で大きな事故を起こした。一命は取り留めたものの、酷い鬱になっていて、何度も自殺未遂を繰り返して……私が居なかったら彼は今頃、この世に居なかったかも知れないんだ!」
 その事実を聞き、胸が苦しくなる。
「――ごめん、柳瀬……そんな苦しい思いをさせていたなんて……」
「そんな、ギダさんのせいじゃないっすよ!! オレが弱かったから……でも、今はすんごく幸せすっから!!」
 そう言うと柳瀬は屈託の無い笑顔で、医者の腕に絡みついた。
「隆……」
 医者は少し照れたような表情をする。
 その顔を見て柳瀬は、満足そうに微笑む。
「ギダさんに振られて、あの事故が無かったら、直哉にも出会えなかったし、またこうしてギダさんに会わなかったら、直哉がこんなにヤキモチ焼きだって分からなかったし!! だから、逆に感謝したいっすよ」
 口を横に開き、二カッと屈託ない笑顔を浮かべた。
 その言葉に救われた気持ちになる。柳瀬が今、幸せなのは表情で分かった。
 彼の前で見せる屈託の無い笑顔が、何よりの証拠だ。
「だから直哉も、そんなに怒るなよなー。オレ、もう直哉以外、誰も目に入らないから」
 柳瀬はその医者に向かって、真直ぐな視線を送る。
 すると険しい表情をしていた医者は、一転して、とても優しい表情を浮かべ、柳瀬に微笑みかけた。
 彼の本来の姿は、その優しそうな微笑を携えた姿なのだろう。
 互いに、大切な相手なのだろうと察するには十分な光景だった。
「柳瀬、ありがとう。いくら礼を言っても足りないけれど……」
「いえ、そんなの気にしないで下さい! ギダさんに会えて良かったっす!! 彼氏、何も無いと良いすっね」
「うん、こんな遅くまで二人とも有難うございました」
「それじゃ私達はこれで失礼するよ。君も彼氏を大切に」
「はい、本当にありがとうございました」
 俺はその場で一礼すると、柳瀬達の影が見えなくなるまで見送る。
 二人の幸せそうな笑顔が、羨ましく感じた。



                   ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<32>

 全部のフォルダを見終わると、警部は俺に問いかける。
「んー、これは……どう言う状況か、説明して貰えるかな?」
 喉の奥が痙攣したようになり、なかなか声が出なかったが、やっとの思いで
「……隼人は、先程の――俺との情事の画像で、吉岡に脅されて、監禁されていたようです……。それで、世話役として居た男が、吉岡にこの映像を送っていたようです」
 警部は傍にあったティッシュの箱を、俺に手渡しながらまた質問した。
「なるほど、脅されていた、と。するとこの映像の男性、ハヤトさんは、同性愛者である事を知られるのが嫌で、弱みを握られた彼は拘束されていた、と言う事になるのか?」
「違います。俺を庇っていたんです……。俺の会社に、最初に流れたあの映像を流すと、吉岡に脅されていたようです。それに言う事を聞かなければ、俺を売るとも……」
 あまりにも卑怯な吉岡のやり方に、憤りを感じずにはいられなかった。
 頻回に俺との接触を図ってきたのは、この為だったのかと思うと、今はもう居ない吉岡ではあるが、憎悪が増す。
 しかしそれ以上に、吉岡の行動に気が付かずに、協力者などと呑気に構えていた俺自身への不甲斐なさに、消えてしまいたくなった。
「ふむ、なるほど……」
 警部は一旦、席を立つとUSBメモリを抜き、部下に手渡しながら「で、彼は、君といる時も薬を使っていたのかね?」と、パソコンの画面に視線を移した。
「いいえ! 彼はそんな事してません!!」
 俺が怒鳴るように言うと、警部は肩を竦ませて「それは、失礼」と、片眉を上げて首を傾げた。
「隼人は、かなり腕の立つ人物でした。彼が喧嘩で負けた所を、見た事が有りません。これは俺の憶測ですが、そんな彼に抵抗されない様に、吉岡が薬を盛ったのだと思います。それで常習性が出来てしまった隼人に、定期的にこうして、打っていたんじゃないでしょうか? 薬が切れると正気に戻り、逃げ出す可能性だってありますから……」
「ふむ……、それでそのヨシオカという人物は、この彼とはどんな関係だったのかね?」
「会社の上司です。最初のUSBに入っていたものは、会社の資料だと思うのですが、それは吉岡が言うには、開発途中の商品だったか……。その資料を他の会社に流してると、隼人はそのスパイの容疑を掛けられ、会社を退職させられました。しかし、今のところ事実は分かりません。でも、それはきっと吉岡がした事だと、俺は思っています」
「何を根拠に?」
「吉岡も同性愛者でした。俺と隼人の仲を引き裂くために、全て仕組んだ事だと……。自分がした事を隼人に押し付けて、会社に戻れなくなるように……。そうやって隼人の行き場所を無くして、自分の手から逃げ出さない様にし、俺を薬漬けにして売り飛ばすと脅して、無理やり言う事聞かせて……」

 話をしているうちに、涙が後から後から溢れ出して来た。
 俺は例えこの画像が会社に流れたとしても、逃げ出さなかっただろう。
 関係が知れたとしても罵りたい奴は罵れば良い、そう思っていた。
 なのに、隼人は俺の名声を気にして庇ったばかりに、こんな目に遭わせてしまった……。
 きちんと隼人に告げていなかった自分が情けなくなり、目の前が霞んで見えなくなる。
 警部は溜息を吐くと「なるほど、男同士の痴情の縺れ、か」と、呟き、席を立った。
 その少し呆れたような物言いに、俺は嘆かわしくなる。
 しかし、こちらでもやはり、同性愛者は異端者なのだ、と、いう事実を突きつけられた気がして沈鬱になった。 
 そんな俺の様子など気にも留めず、警部は大きく伸びをして「すまなかったね君。ありがとう、協力感謝します」と、取調べの後の決まり文句を言った。
 それに俺が返事をせずにいると、さすがにマズイとでも思ったのか、慌てて
「それでは病院まで送らせていただきます。また話を伺うかも知れませんが、今日はこれで帰っても宜しいですよ」と、作り笑いをしながら言った。
 俺は、悔しさに駆られながらも「……お願いします」と、返答する。
 本当は、このままタクシーで行きたい所だが、余計な出費は控えたかった。
 隼人がこんな状態の今、いつまで滞在するか分からないからだ。
 入院して医療費がどれ位嵩むのか、保険などはどうなるのか、その辺も分からない。

 俺は、取調室から出ると直ぐに、携帯の電源をオンにした。
 途端に着信音が鳴り、通話ボタンを押す。
「はい……うん……うん。わかった。ありがとう柳瀬。今から行くよ」
 日本語は分からない、と、言った様子で、警部は首を傾げながら
「一応、私どもの病院に行くように言ってあったが、変更がありましたかね?」
「セントルイス・ホスピタルって、そうなんですか?」
「そうそう。事件が絡んでいる時は、必ずそちらに向かうようになっているんですよ」
「そうですか、それでは宜しくお願いします」
「ああ。君の恋人が無事だと良いな」
「……ええ」
 何時間も拘束しておいて言う台詞か! と、いささか頭に来たものの、一刻も早く隼人に逢いたかった俺は、我慢して送って貰う事にした。
 パトカーの中で、まだ容疑が晴れていないので、一応連絡先を教えて欲しいと言われ、携帯電話の番号を、赤外線で送る。
 自分に容疑が掛かっている事よりも、隼人の容態の方が気掛かりだった。
 車窓から流れる景色を眺めながら、俺はずっと隼人の無事を祈っていた。




                      ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<31>

 それはまた、動画のようだった。幾つかの中の一つを警部は選び、再生する。
 すると今度は隼人だけが映し出されていた。椅子に腰をかけたまま、動かない。
 見覚えの無い部屋だ。生活感の無いその部屋は、ホテルの一室のようにも見える。
 拉致された直後だろうか、髪の毛が短かくて、肌蹴たシャツから覗く胸板は、逞しいままだった。しかし、手足はベルトのようなもので拘束され、眼鏡が外されている。
 少し間を置いて、それとは別に、痩せ細った腕が映し出された。
 その腕は先程見かけた、坂上のものに似ている。
 カチャカチャと、何か、スプーンで皿を擦る様な音がして、その後に坂上の声がした。
『ほら、食べないと身体に毒ですって。吉岡様が最高級の食事を用意してくれて……』
 坂上は日本語で話していた。警部は首を傾げながら画面を見ている。
 隼人はスプーンを口許まで持って来られると、一点を睨み付けた思ったら、頭を横に振り拒絶する。 と、スプーンが顔に当たって落ちてしまい、カチャリと音を立てた。
『あーあ、もう!』
 ブツブツ文句を言う声と、ガサガサと何か音がする。
 坂上が落とした食べ物を片付けているようだ。隼人は項垂れたまま動かない。
『吉岡様が今、ここに居ないからって、拗ねないで下さいよぅ』
 どうやら、吉岡が日本で仕事の時は、坂上に世話をさせていたらしい。
 その様子が、流れる音声で把握出来た。
『言うこと聞かないとあの映像、キタローの会社に流すってさー。アイツがどうなっても知らないぞ? あっ、と、じゃなくて、知りませんよ……っと』
 その言葉を聞いた隼人は、ふと顔を上げ、坂上が居るであろう方角を睨んでいた。
 そしてまたスプーンが口許に置かれると、仕方無さそうに小さく口を開く。
『もっと大きく口、開けて下さいよ。そうそう、その調子ですよーって、また口閉じちゃ駄目じゃないですか!!』
 坂上は一向に進まない食事介助に、苛々としている様子で声を荒げるが、何かに気が付いたように咳払いをして、また平静を装ったような声を出す。
『あーもう……吉岡様が送ってくれる映像、見せてあげるから、お願いですから言う事、聞いてくださいよ?』
 そう言うと坂上は、ノートパソコンを隼人の傍に置いた。
 隼人はそれを見つめていたかと思うと、ふと、俺に向けて見せていた、あの優しい笑みを浮かべた。
 食事を促されている時の殺気立った空気とは全く別の、柔らかい雰囲気が隼人を纏う。
 察するに、先程の盗撮されていた、俺の日常風景でも見ているのだろう。
 坂上は《吉岡が送ってくれる映像》と言っていた。もしかしたらライブで流されていたのかも知れない。
 だから、似たような映像であるにも関わらず、そこのフォルダの数が多いのは、ライブで見ながら録画されていたと言う事だ。
 推測するに、俺の無事を確認出来しなければ隼人は、全て拒否していたのだろう。
 そんな隼人を見たら、胸が締め付けられ、今にも泣き出しそうになる。

 坂上は小さく溜息を吐くと、吉岡様にもそんな顔してやりゃ良いのに、と、呟いた。 
『――ほらね、キタロー元気そうにしてるでしょ? 吉岡様だって、ちゃんと約束守ってるんだから、桜井様もね、言う事聞かないと……。じゃないと、キタローの奴、ヤク漬けにして、売り飛ばすって言ってましたよ?』
 坂上の言葉を聞き、隼人は眉根をぴくりと動かすと、それっきり無表情になってしまった。
 暫く人形のように、ただ口を動かす隼人が映し出され、そして最後の一口を隼人が飲み込むと、坂上の溜息が聞こえ、何やらごそごそと音がする。
 ぶつぶつと小さな声で呟きながら、坂上は注射器を取り出した。
『それじゃ褒美にこれ、打っちますよぉって……あっ!! バカ! 動くな!! あ、いや、バカじゃなくて……動いちゃ駄目ですよぉ、桜井様』
 隼人は注射器を見た途端、必死にもがき出す。縛り上げられた手首に薄らと血が滲み、それは掌を伝って零れ落ちた。痛々しいその姿に、俺は目を背ける。
 目の端に、坂上が隼人を押さえつけ、注射している姿が映る。
『ふー……ホントにもう、子供より手が掛かるな、桜井様は』
 またゴソゴソと音がして画面に視線を戻すと、坂上が隼人の手首を消毒していた。
 注射で打たれた薬が効いてきたのか、隼人はぼんやりと正面を見つめている。
 その視線は定まらずに宙を彷徨い、やがて、瞼を閉じて項垂れてしまった。
『あーあ……面倒臭ぇな……。じゃなくて、仕方ないですね、桜井様は……。ちょっと汚れちゃったんで、着替えますからね?』
 坂上は隼人を縛り付けているベルトを外し、椅子から下ろしてその場に寝かせると、着替えさせていた。
 吉岡に叱られるからなのか、何度も言い直しながら、隼人に対して坂上は、口調は面倒臭そうにしているものの、甲斐甲斐しく世話をしているように見える。
 先程の手首の所に、坂上は丁寧に包帯を巻いていた。
 そう言えば高校の時、坂上は隼人の事を親友だと、クラス中に公言していた。
 本当はコイツも、隼人と仲良くなりたいと思っていたのかも知れない。
 どう言う経緯で、吉岡の奴隷のようになっていたのかは知らないが、坂上も吉岡に利用された、哀れな奴なのかも知れないと思い、画面を眺める。
 綺麗に身支度を整えられた隼人は、そのまま眠ってしまったようで、動かなかった。
『吉岡様、桜井様はこの通り退屈してます。早くこちらに来てください』
 ぷつり、と、そこで再生は終り、静粛が訪れる。

 終始、隼人の声は聞こえなかった。多分、これは吉岡宛のビデオレターだ。
 隼人の事だから、意地でも声を出さなかったのだろう。吉岡を喜ばせない為に……。
 その後に開いたフォルダーも、皆、同じような感じではあったが、月日が重なるごとに隼人の髪が徐々に伸び、痩せ細って行き、そして段々薬に侵されて行く様が映し出された。
 最近の映像だろうか、隼人の眼は虚ろで、もう起きる事すら困難なように見えた。
 その姿が痛々し過ぎて直視出来ずに、途中から坂上の声だけを聞いていた。
 しかし、隼人が食事を拒否してる様子が、坂上の話かける言葉から聞き取れ、ふと顔を上げ、その様子を見る。すると隼人が、何か呟いたのが口の動きで分かった。
 また同じように坂上は、ノートパソコンを隼人の傍に置くと、溜息を吐く。
 虚ろだった隼人の目に光が宿る。そして一言『涼太』と、俺の名を呼び微笑んだ。
 それを見たら画面が歪み、掠れて見えなくなっていた。
 殆ど動けない状態で居るにも拘らず、それでも隼人は俺を護ろうと必死だったのだろう。
 ずっと俺の安否を確認しなければ、全てを頑なに拒否していたようで、坂上はブツブツ文句を言っていた。そして、吉岡はそんな隼人を心配していると、坂上は悲しそうな声を出し隼人に告げる。しかし、それには全く反応しなかった。
 皮肉な事に俺はこの映像で、隼人にこんなにも強く想われ、護られていたのだと知った。




                     ――to be continued――


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27-28の間が抜けてました^^;;;

おはようございます、竜樹です^^

すみません、27-28の間に入る話が抜けていました><
新たに28として載せましたので、良かったらご一読下さい^^;;

もしまたどこか抜けていたり、おかしい所があったら教えて頂けると助かります^^

Sさま、コメントありがとうございました、本当に助かりました^^*

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――いつまでも ずっと――<30>

 俺も後を追おうと駆け出した時だった。
「君、少し話を聞きたいのだがね?」
 肩を掴まれ振り返る。制服からして、どうやら警察の人のようだった。
「でも隼人が心配で……せめて、病院に運ばれたのを確認してからでも」
「しかしだね、事件全貌を知っているのは、君だろう?」
「それは……でも俺は、彼の家族でして……」
 俺が困惑しているのを見た柳瀬が、その医者に話の内容を訳して貰っているようだった。
 話を理解したのだろう、柳瀬は、俺の肩を叩くと日本語で「ギダさん、携帯の番号変わって無いっすよね?」と、聞いてきた。
「え? ああ……」
「じゃあオレ、直哉に付いて病院に行くんで、後で場所教えますよ」
 警察官は怪訝そうな顔で伺っている。
 これ以上渋ると、容疑者にされかねない。
「……悪いな。助かるよ、柳瀬」
「いえ、それじゃ後で」
 以前のようにニッと屈託の無い笑顔を浮かべると、柳瀬は医者の後を、ぱたぱたと駆け足で追い、その場を後にした。
 ふと目の端に人影が映り、顔を上げると、リチャードが俺に近寄って来ていた。
「……涼太、ごめんなさい。一瞬でも、君の事を疑ってしまった……」
「そんな、謝らないで下さい……。謝るのは俺の方だ。君の大切なホテルで、こんな事件を起こして、君を危険な目に遭わせてしまって……」
 俺はリチャードに頭を下げた。しかし、リチャードは首を横に振る。
「そんなのは大丈夫。君達が無事で何よりだよ。カールに怒られなくて済むね」
 ニコっと微笑み、リチャードは俺の肩をポンポンと叩いた。
 噂をすれば何とやらで、そこに勢い良くカールが飛び込んできた。
「リチャード、涼太!! これは一体!?」
 カールは、検視官達が現場検証をしている様子を見て、青ざめる。
「カール、後で詳しく話すよ。私達はどうやら取調べを受けなくてはいけない様だから」
 リチャードは答えながら視線を移すと、警察官は待ちくたびれたような表情をしていた。
「もう、話は済んだかね? 私達も暇じゃないんでね」
 厭味を一通り言うと、警察官は「では、話を聞かせて頂きましょうか」と、ホテルの外に出るようにと、俺達を指示した。



 警官に連れられ外に出ると、用意されたパトカーへと促される。
 俺はリチャードと一緒に乗り込み、警察へと連れて行かれた。
 個室に案内されると、二人組の刑事らしき人に交互に色々と尋問された。
 質問内容からすると、どうも俺に容疑が掛かっているようだった。
 そして、数時間が経過した頃だった。ノックの音がして振り返る。
「警部、検証していただきたい品が……」
 一人の若い婦警が、腹の出ている警部とやらに耳打ちし、USBメモリを何個か手渡すと、俺をチラリと見て、意味ありげな笑みを浮かべ去って行った。
 婦警の態度が気になりつつ、警部の手にしているUSBに視線を移す。
 そのUSBを手で玩びながら、警部は「どうも、日本語らしくてね、君に翻訳して貰いたいんだが」と、俺を見た。
「それは構いませんけれど……。あの、リチャードさんはまだ居るんですか?」
「ん? ああ、彼にはもう帰って頂いたよ。特に情報になるような事は、知らなかったみたいだったからね」
 警部の言葉に内心ホッとする。迷惑を掛けてしまった上に、事件の容疑が掛けられてしまっては、協力してくれたカールに申し訳なさ過ぎる。
 警部はそれとなくジェスチャーして、部下らしき人に視線を投げた。
それに応じて中肉中背の男が、ノートパソコンを持ち出すとUSBメモリを挿し込み、フォルダーを開いた。
 すると企業の内容だろうか、文字がびっしりと並んでいる。
 これには見覚えがあった。
 吉岡を自宅マンションに招待した時に、隼人の財布に混じって入っていたものだ。
 前と同じく顧客の名前らしきものが書いてある。
 もし、あの時の吉岡の言葉が本当ならば、間違いなく企業スパイ関係のものだろう。
「……これは、人の名前が書いてあるとだけしか……俺にはハッキリとは分かりません。会社に問い合わせたほうが、良いと思います」
「そうか、それじゃこちらも見てみようか」
 そう言うと、もうひとつのUSBを挿し込み、同じようにフォルダを開く。
 俺はそれを見た瞬間、固まった。
(どうしてこんなものがっ……!!)
 部下は眉間に皺を寄せて、俺の方を見る。
 それは……。
 ――俺と隼人の情事の最中の映像だった。

 俺が視線を背け俯くと、警部は気を利かせて再生を止める。
「い、いや、すまなかったね……はは、私も一応仕事だから見ない訳には行かなくてね」
 混乱する意識の中、どう答えて良いか分からなかった。
 しかし、音声が入ってないのがせめてもの救いだったが、恥ずかしさで身が焦れた。
 ふと、先程、婦警が意味ありげな笑みを浮かべのは、これのせいだったのか、と思ったら、顔から火が出るような羞恥心に見舞われ、更に動けなくなる。
「もしかしたら、次のやつもそうかも知れないけれど、すまないが……。自殺したヨシオカという人物が所有していたものでね。これが証拠になれば君だって解放されるんだ。一緒に見てくれるかね?」
 その言い方は半ば強制的で、俺に選ぶ権利はないんだ、という感じであった。
 だがしかし、隼人の許に一刻も早く行きたかった俺は、仕方なく「……ええ」と、返事をすると、間を空けずに次のも容赦無く再生された。
 俯き加減でそれを眺めると、見覚えのある部屋が映し出される。
 それは俺のマンションにある、隼人の部屋だった。
 俺が掃除をしている様(さま)や、寝る時の様子などが、ただ黙々と流れていた。
 その映像には、一切、隼人の姿は映し出されていない。隼人の部屋なのに、だ。
 繰り返し同じような画面が映るのを見ながら俺は、ある時期と一致する事に気が付いた。
 吉岡が、最初にマンションを訪れた時だ。
 俺はあの時、僅かに席を外した。その時に隠しカメラでも仕掛けたのだろう。
 そして、その前の情事の映像は、何らかの形で盗撮されたに違いない。
 フォルダーには、それぞれの日付が記されており、最近のものまであった。
「これは、君の部屋のようだね?」
「ええ……。多分、盗撮されていたんだと思います」
 警部は日付が新しくなる順に再生しているようだったが、そのフォルダーには俺しか映っていなく、似たような場面しか出て来なかった。
 違う事と言えば、リビングやキッチン、本当の俺の部屋が映し出されていた位だ。
 吉岡は俺の自宅に訪れる度、隠しカメラを仕掛けて行ったのだろう。
 切に油断ならない相手だったと、背筋がゾッと寒くなった。
 暫く画面を眺めていた警部だったが、飽きたのだろうか、短く溜息を漏らした。
「なるほどね……。じゃあ別のも見てみよう」
 マウスポインタを違う名前のフォルダーに合わせ、カチリと押すとフォルダーが開いた。



                     ――to be continued――

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――いつまでも ずっと――<29>

 隼人の痩せて肋骨が浮き上がった腹が、せわしく上下しているかと思った瞬間、それはゆっくりとなり、やがて止まってしまった。
「隼人っ!!」
 吉岡が悲鳴にも似た声を上げる。
 室内にチャイムが鳴り響く。坂上は慌てふためき、おろおろと部屋中を歩き回っていた。
 俺は心臓が破れそうな位、胸が苦しくなるのを堪え、急いで駆け寄った。
「吉岡、どけろっ!!」
「煩いっ!! 隼人に触るなっ!!」
 吉岡は隼人を抱きかかえ、俺の手が隼人に触れるのを阻止する。
 まるで取られそうになったおもちゃを、ひったくるように。
「今はそんな事を言ってる場合じゃないっ!! 早く心臓マッサージをしないとっ!!」
 俺の言葉にハッとなり、吉岡は隼人をその場に寝かせると、慌てて心臓マッサージを始める。俺はそれに合わせて人工呼吸を開始した。
「蓬田!! 俺の隼人に何をするっ!!」
 吉岡はまた俺を突き飛ばそうとした。しかし、寸前の所でかわす。
「だからっ!! そんな事言っている場合じゃないっ!!」
 吉岡はまるで小さな子供のようだった。
 人が生死の境を彷徨っていると言うのに、嫉妬心剥き出しだ。
 しかし、これが奴の本当の姿なのだろう。
 海外に監禁していた隼人と共有の時間を得るためには、労働しなければ成り立たない。
 例え貯金があったとしても、吉岡は贅沢志向だ。すぐに底をつくだろう。
 捩れて歪んでしまった精神を、労働する事で必死に保っていたに違いない。
「隼人……隼人……」
 髪を振り乱し、隼人の名を呼び続ける吉岡に、以前の姿を思い浮かべる事など出来なかった。
 そこに居るのは、ただ、恋に溺れた狂人――。

 その時、部屋の鍵が開き、支配人らしき人が入ってきた。
「こ、これはっ!!」
 パニックを起こした坂上は「ひぃぃー」と、情けない悲鳴を上げながらその横をすり抜け、逃げ出してしまった。
 リチャードが拘束されているのを目にして、支配人らしき人は慌ててそれを外す。
「大丈夫か!? リチャード!! なぜ……」
「話は後だ!! 父さん、大至急館内放送をっ!! ドクターを!!」
「分かった! 今、そうさせる」
 リチャードは走って部屋を出て行った。
 支配人が電話をすると、間もなく館内放送が流れた。

「――だめだ……戻ってこない……」
 涙をぼろぼろと零しながら吉岡が呟いた。
「隼人……隼人……お願いだ、俺を独りにしないでくれ……」
 愛おしそうにその身体を抱きしめた。
「諦めるなっ!! 今はそんな事をしている場合じゃないだろう!!」
 俺は吉岡の幼稚な行動に憤りを感じつつ、一向に回復の兆しを見せない隼人に焦燥感を募らせていた。
 吉岡は隼人の胸元に頬を寄せ、涙を溢れさせた。
「だめだ、鼓動が……鼓動が聞こえない」
 俺は吉岡の言葉で更に焦燥し、隼人の耳元で大きな声を出した。
「――隼人っ!! 何してる!! お前はこんな事位で逝くほどヤワじゃないだろう!! 戻って来いっ!!」
 俺は必死に人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す。
 すると吉岡は、隼人の手を握り締め、ぼんやりと天を仰いだ。
「もうだめだ……もう何しても、彼は戻ってこないよ……指先がほら、こんなに冷たい」
 掌を包むように握りながら、吉岡は力なく笑った。
「諦めたらそこで終わりだっ!! 吉岡、お前それでも隼人を愛してると言えるのか!! お前だって隼人が愛しいんだろう!?」
 俺の言葉など届いていないようだった。
 吉岡は脱力して微笑むと、虚ろな瞳で隼人の耳元で囁く。
「隼人……愛してるよ、ずっと……。俺もすぐに逝くよ、独りでなんて逝かせやしないから。寂しくなんて無いよ、ね? だけどせめて、一度だけでも名前で呼んで欲しかったな。そっちに逝ったら『晃』って、呼んでくれるよな?」
 吉岡は傍に置いてあった銃を自分のこめかみに突きつけ、引き金に指を伸ばした。
「なっ!? 早まるな、吉岡!!」
「もう、何も心配は要らない。お前に奪われるんじゃないかと、肝を冷やす事もね。だって隼人と俺は、これからはずっと……永遠に一緒に居るんだから。最期の情けだ……この抜け殻だけは返してやるよ」
 ふっと微笑み、吉岡は引き金を引いた。パン、と、鈍い銃声が部屋中に轟く。
 止める隙など無く、あっけなく吉岡はその場に倒れこんだ。
「――――っ、どうして……」
 俺は呆然としながら転がる吉岡を見下ろした。幸せそうに微笑み、事切れている。
 最初に、協力してくれていたと見せ掛けていた頃とは違う、本当に満足したような、穏やかな笑みを湛えながら……。
 次第に生暖かい血液が俺の膝元を濡らしていった。

 吉岡は、本当に隼人を愛していたのだろう。
 こんな形で会わなければ、もっと理解出来たかもしれない。
 正々堂々と来られたなら、正直、俺に勝ち目があったか……。
 だけど、吉岡は愛し方を間違った。人として、してはいけない事をしてしまった。
 俺は、そんな彼を哀れとは思っても、やはり許すことは出来ない……。
 しかし、横たわる吉岡に同情している暇は無かった。
 こうしてる間にも隼人の体温は下がっている。
 助かる可能性がある方を優先するのは、当然だと自分に言い聞かせながら心臓マッサージと人工呼吸を、必死に交互に繰り返す。
 俺の掻いた汗が、隼人の顔面に滴り落ちるが、ぴくりとも動かない。
 それでも繰り返し続ける。戻って来いと祈りながら……。

 すると見慣れない一人のアジア系の男が近寄ってきて、そしてもう一人、見覚えのある人物が、俺に声を掛けてきた。
「ギ……ギダさん!?」
「お前は、柳瀬!?」
 その男性は、柳瀬の方を怪訝そうに眺めながら
「隆、知り合いか?」
「え、うん……元、職場の先輩……。お願いだよ、直哉!! 助けてあげて」
「……そうか、手は尽くす。しかし、救急車は呼んでおけ」
 支配人は「もう呼びました」と、おろおろと俺達を見守っていた。
 そこにリチャードが勢い良く部屋に飛び込んできた。
 その腕には、AEDが抱えられている。
「父さん!! ドクターは?」
 息を切らしながら、支配人に詰め寄った。
「こちらの方が、ドクターだそうだ」
 支配人が目線で示すと、リチャードはAEDをその男性に預けた。
「お願いします、どうか……」
「分かった、君達は下がっていなさい」
 直哉という男性は、手早く準備すると「君も下がって」と、隼人の背中に板のような物を入れると、AEDのスイッチを入れてパットを隼人の胸に貼り付ける。
 キィーンと何かの高音が聞こえた。
 医者はAEDに付属している画面に目を遣り、スイッチを押した。
 バチッと音がして、隼人の身体が仰け反る。
 しかし、隼人はそれからピクリともしない。医者はまた画面に目を遣る。
「……まだだ、心臓マッサージ繰り返すぞ、君も協力したまえ」
「――はいっ!!」
 俺は必死にその人に合わせ、人工呼吸を繰り返す。
 細かく波形は出ているものの、医者は難しい顔をしている。
 どうやら、それだけでは駄目なようだ。
 頑張れ! 頑張れ!! と、心で唱える。
 AEDを使用してから何度目かの時だった。
 微かに隼人から呼気が吐き出される。と、同時に医者の声がした。
「……よし! 動き出したっ!!」
 汗だくになりながらその医者は、画面に映し出された波形を見ると笑顔になり、俺の肩を叩いた。
「良く頑張った。しかし、まだ油断は出来ない、何時止まってもおかしくない状態だ」
 ほっと息を吐き出すと、涙が滲んだ。
(隼人、良かった……でもまだ油断はできない。頼む、頑張ってくれ!!)
 祈るように隼人を抱き締めた。先程まで血の気を失っていた頬が血色を取り戻し、力強く胸を上下させ呼吸し、心音が規則正しく聞こえた。
 そこにタイミング良く、担架を持っった救急隊員が隼人に駆け寄り、医者の話を聞きながら、ばたばたと手早く準備すると、隼人は運ばれて行った。



                   ――to be continued――

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――いつまでも ずっと――<28>

「吉岡……それ以上、涼太に何かしてみろ。貴様をこの場で殺す」
 先程までベット上に全裸で横たわって、人形のように動かなかった筈の隼人が、ズボンを着衣し髪を束ね、眼鏡を装着して、吉岡の頭部を拳銃で捕らえていた。
「は……隼人?」
 吉岡は驚きに満ちた表情で、隼人を凝視した。
「言った筈だ。俺はどうなろうと構わない。但し涼太に手は出すなと!!」
 隼人のその言葉に、吉岡は不敵な笑みを浮かべると
「フン、今のお前に何が出来る? まだこんな奴の肩を持つつもりか!? いい加減俺のものになれっ!!」
 力ずくで隼人の拳銃を奪おうとする吉岡に、隼人は容赦なく引き金を引く。
 銃声が部屋に木霊すると、吉岡のこめかみ辺りから僅かに流血が滴り落ちた。
「貴様は約束を破った。今度は、外さない」
 隼人は強い眼差しで吉岡を睨みつける。
 呆然と立ち尽くす吉岡を尻目に、俺に近寄ると口に当てがっていた布を外した。
「涼太、大丈夫か? お前を助ける機会を伺っていた……。すまない、痛い思いを何度もさせてしまって……。今、自由にしてやるからな」
 先程まで焦点が定まっていなかった瞳に俺の顔が映し出されると、隼人は懐かしい力ある優しい笑みを浮かべた。その変わらない瞳に胸が熱くなる。
 しかし、呼吸は荒く、小刻みに震える身体を、やっとの思いで保っている様子だった。
 俺を助けようと必死な隼人の姿に、いつのまにか涙が頬を伝っていた。
「隼人、ごめん……俺……」
 隼人はそっと掌で俺の涙を拭うと、力なく微笑んだ。
「心配させて、悪かった……」
 縛られている俺の手に触れ、愛しむように指でなぞる。
 そして、哀しげな表情を浮かべて眉根を寄せ、ロープに手を掛けた。
 痛みが殆ど無く、隼人は丁寧に外してくれているようだ。
「それじゃ、やっぱり吉岡の言う事は、全部デタラメだったんだよな?」 
「……当たり前だろう。俺が愛しているのは、涼太、お前……だけだ」
 隼人の顔面から汗が滴り落ちて、段々と声も小さくなって行った。
 立っているだけでも辛そうだった隼人は、会話する事さえ儘ならないようだ。
 それでも、懸命に話しかける。
「でも――もう、俺の事は忘れろ。俺は、お前に愛される資格など失ってしまった……。ここから……逃げるんだ。吉岡はお前の手に負える相手じゃない」
 手足が開放されると、一気にそこに血液が流れる。
 ジンジンと痺れる両手で、隼人を抱き締めた。
「資格とか、そんなの関係ないっ!! 俺は隼人が好きだ! 今だって愛してるっ!!」
 すると隼人は、力なく首を横に振り、声を曇らせた。
「お前は、吉岡の本当の怖さを知らない。あいつは本当に恐ろしい奴だよ……。だけど、俺さえ傍に居れば、そんな無謀な事もしない。そういう約束をしたし、吉岡はそれをずっと守っていた。もしここで俺が戻ったら、あいつはお前の命すら狙ってくるだろう。だから、忘れてくれ……」
「そんな約束、反古(ほご)すればいい!! 吉岡だっていい加減、目が覚めただろう!!」
「あいつは……そんなまともな輩じゃない」

 吉岡を見ると、ショックからかブツブツと何かを呟き、銃口を俺に向けて、引き金に指を掛ける寸前だった。
「――っ!! お前さえ居なければっ……!! 消え失せろっ!!」
 それよりも早く反応した隼人は、銃を構える。
 俺は一瞬焦った。隼人が人殺しをしてしまうかも知れない――。
 幾ら正当防衛とは言え、麻薬に侵された隼人を見た警察は、それを信じないだろう。
 俺は隼人の動きを止めようとして、手を伸ばしたが、ふと、隼人の狙った先を見ると吉岡の腕辺りだった。
「大丈夫だ、涼太。殺しはしない」
 隼人は躊躇無く、引き金を引く。『パン』と、また、銃声が室内に響いた。
 弾き出された弾丸は、吉岡の手にしていた銃に当たり、銃は宙を舞う。
 その射的の腕は、武器が変わっても正確だった。
 隼人は精一杯の声を出し、吉岡を制する。
「吉岡、落ち着け!! 俺はお前と一緒に、ずっと一緒に居てやる!!」
 その言葉を聞くと、吉岡の表情はパッと明るくなり、瞳を輝かせた。
「――本当だな? 本当に、だな?」
「あ……あ。但し、このまま涼太と……そのボーイ……を無傷で帰して、それか……ら、一切関わらない事、そ……れが条件だ」
 隼人は息が上がり、話すのもやっと、と言う感じになっていた。
「あ? ああ、勿論。分かった、約束する」
「もし涼太に……何かあった場合、俺は……死ぬ」
 そう言って、隼人はこめかみに拳銃を当てた。
「分かった、分かったから! もう良い!! 隼人さえ傍に居てくれたら……」
 先程までの吉岡とは思えない。焦燥して隼人の言い成りになっていた。
 隼人は銃を下ろすと、俺に哀愁の眼差しを向ける。
「俺の……身体はもう、この通りボロボロだ……。お前を護……り通してやるだけの余力は、残っていない。だ……から――。約束、守れなくて……ごめ、んな……。最後……に逢えて良か……った」
「何言ってるんだよ!! 隼人!! 一緒に帰ろう!!」
 と、隼人の瞳が急に曇り、瞼を閉じたかと思うと、全身の力が抜け落ちた。
「は、隼人? どうしたんだ!?」
「……りょ……にげ……ろ」
 掛けていた眼鏡が、床に落ちて砕け散る。
 隼人は俺に身体を預けたまま、ぐったりと膝を落としてしまった。あまりにも突然で、
俺も倒れ込みそうになるのを必死に堪え、そっと床に隼人を寝かせた。
「おいっ! どうしたんだよ、隼人!! しっかりしろ!!」
 俺が必死に声掛けをしていると、頭上から「桜井、いい加減にしろよ!! お前、吉岡様の玩具のくせにっ!!」と、喚き散らしながら、坂上が注射器を手にして佇んでいた。
「なっ!! 坂上!! 隼人に何をしたっ!!」
「少し薬が足りないみたいだったから、足してやったまでよ」
 吉岡が顔面を蒼白にして坂上を突き飛ばすと、隼人に駆け寄り、屈み込む。
「この馬鹿者がっ! 隼人はギリギリの状態だったんだっ!! そんな事をしたらっ!!」
「しかし吉岡様、お言葉ですが……」
「黙れ!! この下郎がっ!! もし隼人に何かあったら、殺してやるっ!!」
「そ、そんなぁ……俺は、吉岡様の為に……」
 坂上は、ぐったりとその場に崩れ落ちていた。
 そんな坂上の様子など気にも留めず、吉岡は隼人を抱き起こした。
 隼人の顔面は血の気を失い、呼吸も先程より更に荒く、汗が大量に流れ落ち、ガタガタと身体を震わせている。それは痙攣しているようにも見えた。
 俺は危機感に見舞われ、思わず大声を出した。
「隼人、しっかりしろ!! お前はそんなにヤワじゃないはずだっ!!」
 俺が声を掛けると、薄目を開けるものの、また直ぐに目を閉じてしまう。
「煩いっ!! よけろ貴様!! 邪魔だっ!!」
 吉岡は俺を突き飛ばすと、心配そうに隼人の顔を覗き込む。
「隼人、しっかりするんだ!! 何て事だ……っ!! やっと……やっと俺のものになったと言うのにっ!! 今、病院に運んでやるからな!!」
 吉岡は必死になり、手にしたタオルで隼人の全身を摩りながら、揺さぶっている。
「――ああ、隼人、俺の愛しい隼人……どうしてこんな事に……。何をしている、淳也!! 救急車だっ!! 早く救急車を呼べっ!!」
 あのクールで、知性を漂わせていた吉岡とは、まるで別人のようだった。
 半狂乱状態に陥り、形振り構わず隼人を心配している。
 こめかみから流れる血の事など、気にもせずに……。



                      ――to be continued――

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――いつまでも ずっと――<27>

 俺は直視するのに我慢が出来ず、首を横に思いっきり振ると、力一杯、身体を揺らした。
「わ! バカ!! そんな事したらっ……!!」
 坂上が制する間もなく、椅子ごと床へと叩きつけられた。
 手足が引っ張られ激痛が走る。
 それでも、それを見るよりはずっとマシだ。
「何をしている淳也!! しっかり見張っていろと言った筈だっ!!」
 興が殺がれたのか、吉岡は怒りを坂上にぶつける。
 溜息を吐きながらこちらに近寄り、坂上に平手打ちした。
「す、すみません吉岡様……」
 チッと舌打ちし、坂上の首元を掴み
「使えない奴だ!! 今度そんな事があったら捨てるぞ!!」
 と、まるでゴミでも見るような、蔑んだ視線を落とす。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
 坂上は怯えきって、震え出した。
 その様子で少し怒りが収まったのか、掴んでいたシャツを放すと、今度は俺に、身も凍て付く様な視線を投げ、屈み込んだ。
「――それに、お前も往生際が悪いっ!!」
 髪を鷲掴みにされ、グイッっと勢いよく頭を引き上げられた。
 ブチブチと嫌な音を立て、何本か毛が抜ける。
 痛みに耐え、吉岡を睨みつけると、唾を吐き掛けられた。
「……全く、クソ生意気な奴だ。黙って見ていろっ!!」
 声を荒げる吉岡に、坂上は震えながら目を丸くして凝視する。
「吉岡様が……こんなに怒る姿を見るのは初めてだ……」
 小さな声で、独り言のように囁いた。
 坂上のその言葉に、俺は、吉岡の冷静さを欠いた行動だと気が付く。
 坂上に対しても、普段は冷静で温厚なのだろう。多分そう言うことだ。
 吉岡からは俺に対して何か、ライバル心と言うか、嫉妬が見え隠れしているような気がしていた。
 特に隼人を名前で呼ぶな、などと怒る辺り、隼人に対しての執着が伺われる。
 それに隼人が吉岡を好きだとは、とても思えなかった。
 頬を上気させているのは吉岡だけで、隼人はまるで人形のように虚ろに、どこを見るとでもなく視線は固定されたままだ。
 やはり隼人は何か弱みを握られて……考えがそこに辿り着いた。
 それならば、辻褄が合う。
 吉岡は、俺が無反応なのが気に入らないのか、更に声を荒げた。
「お前、それ以上何かしてみろ。今度はお前も薬漬けにしてやるっ!!」
 吉岡の憎悪に満ちた声が部屋中に響く。

 その時、部屋の電話のベルが鳴った。
 チッと舌打ち混じりに、俺の髪を放ち「……淳也出ろ」と、低い声で指示する。
「は、はいっ!!」
 坂上は電話に出ると、ぺこぺこと頭を下げていた。
 吉岡はその様子を見て「何だ?」と、坂上に声をかける。
 坂上は受話器に手を当てて、おずおずとしながら答える。
「あ、フロントからで……。下の部屋からパーティなら他所でしてくれ、と、苦情が入ったそうでして……」
 その会話に敏感に反応したリチャードは、思いっきり身体を揺すると、俺と同様に床に倒れこみ、派手な音を響かせると叫び声をあげた。
「んなっ!!」
 吉岡は慌てて、リチャードのところに駆け寄り、その髪を掴むと声を荒げながら
「貴様っ!! 死にたいのかっ!!」
 吉岡はよほど慌てていたのだろう、その声は電話に筒抜けだったようだ。
 坂上が蒼白になりながら、裏返った声で吉岡に声を掛ける。
「よ、吉岡様!! フロントの人が、様子を伺いに来ると……」
「お前がとっとと電話を切らないからだっ!! クソがっ!!」
 吉岡は苛立ちながら、リチャードを掴んでいた手を離すと
「おい、淳也! 手伝えっ!!」
「は、はいぃっ!!」
 坂上は慌てて受話器を下ろすと、吉岡の下に駆け寄った。
「取りあえずは、コイツ等をこのまま見えない場所に移動する。まずは椅子を起こせ。そして、あの大きいボーイは二人じゃないと無理だ。蓬田は俺がやる。全く、手間を掛けさせやがって!!」
 怒りに満ちた表情で、俺の腹を思いっきり蹴飛ばし、短い溜息をつく。
 まともに喰らって、息が出来なかった。ゲホゲホと咳き込んでいると、吉岡の後ろで、あの懐かしい声がする。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<26>

 鼻の辺りにツンとした刺激を感じて、目を覚ました。
「――う……ん?」
(俺は……どうした? リチャードは……)
 どれ位時間が経過したのだろうかと、朧気な意識の中、顔を上げた。
 すると吉岡が嫌な笑みを浮かべながら、目前に顔を寄せていた。
 意識がはっきりとし、吉岡に掴みかかろうとした。
 が、しかし、途端に手足に痛みが走る。
「ぐっ!!」
 見ると椅子に縛り付けられ、口には布が当てがわれ、言葉も発せなかった。
 もがいてみるが、ガタガタと嫌な音を立て椅子は揺れるだけで、解けそうも無い。
 同じようにリチャードも隣に並んでいる。
 俺と目が合った途端、リチャードは俯いてしまった。
 きっと誤解されてしまったに違いないと思い、吉岡を睨みつける。
 ニヤリと口の端だけを上げ、吉岡は不敵な笑みを浮かべると、ポケットに手を入れたまま上体を起こす。
「フッ、これは、これは。素敵なギャラリーがお揃いで」
 パンパンと拍手をしながら、馬鹿にしたように嘲笑い、俺達を見下す。
 いかにも勝ち誇ったような、その吉岡の態度に、怒りが込上げる。
 しかし、それ以上に何も出来なかった上に、リチャードまで危険な目に遭わせてしまった自分に憤りが溢れ出し、悔し涙が零れ落ちた。
「いいザマだな、蓬田涼太。これからたっぷり、隼人が俺の恋人だって事を教えてやるよ」
 吉岡は、舌なめずりをしながらシャツのボタンを、目の前で外していく。
 肌蹴たシャツから覗く吉岡の身体は、鍛え抜かれたものだった。
 細身に見えたが、実は引き締まった無駄の無い、筋肉の固まりだったのだ。
 俺にそれを見せ付けると、満足そうに笑みを浮かべ、ベットへと向かって行った。
「――美しい、相変わらず……」
 坂上の声がして視線を移すと、俺の斜め後ろに立ち、頬を上気させて物欲しそうな表情で吉岡を眺めていた。
(コイツもゲイか? だけど前は女好きだったはず……吉岡は相手にしてないようだけど、コイツは吉岡の一体何なんだ?)
 吉岡の動向に伴い視線を移動させると、ベットの上には全裸に剥かれた隼人がいた。
 肋骨が浮き出て、見るも無残なその姿に、俺は目を背けた。
 すると、強制的に頭を捕まれ、視線を戻される。
「ほら、ちゃんと見ないと。現実ってやつを、さ」
 俺の頭を押え付けながら坂上は、俺の横に顔を並べ、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。

 吉岡はシャツをその場に脱ぎ捨てると、隼人に覆い被さってキスを落とす。
 隼人は人形のように身動ぎもせず、ただ天井を見つめている。
 その様子に俺は、違和感を感じる。
 隼人が本当に吉岡の恋人ならば、あんな表情はしない。
 多分、俺に向けていたように、熱い眼差しを相手に送るだろう。
 それに先程の隼人の涙、俺に向けて掌を宛がおうとした行動……。
 やはり、何かが引っかかる。
 だが、坂上は、そんな俺の考えとは裏腹に
「もう、桜井は、お前に用は無いってよ」
 ニヤニヤと変わらず、嫌な笑みを浮かべている。
 すると、吉岡がそれを制するように「淳也……」と、低い声で唸るように言い放ち、坂上を射抜くような眼差しで睨んだ。
「――っ、あっ、すみません、吉岡様……。桜井『様』でした……」
 坂上は怯えたように震え、しょぼくれて項垂れている。

 それにしても一体、コイツら本当にどんな関係なんだ、と疑問に駆られる。 
 坂上は、吉岡の事を様付けで呼び、その上、隼人の事まで様付けで、召使のように振舞うなんて、まるで陳腐なご主人様ごっこだ。
 それに、それを強要してこんな事を目前でするつもりの吉岡の精神は、どうかしている。
 本来ならこんな秘め事は、誰にも見られたくない筈だ。
 いや、見られると興奮が増す……と、いう性癖があるのか?
 だからギャラリーとして、坂上を置いている、とか?
 いずれにせよ、吉岡はかなりの変質者で、完全にネジが飛んだ狂人である事は、間違いない。

 隼人はそれで良いのだろうか?
 あいつは本当に変わってしまったのだろうか……。
 コイツらと過ごす内に、正常な判断が出来なくなってしまったのだろうか?
 それとも薬のせいなのか……。
 疑問が次々に湧き起こる。
(――だけど、そんな隼人の姿なんか……見たくない……)
 ぎゅっと硬く目を瞑った。
 しかし、微々たる抵抗を虚しく、目を無理やりこじ開けられる。
「ほら、ちゃんと見てやれよ。吉岡様に抱かれて悦ぶ、桜井様の姿を」
 目をこじ開けられたまま顔面を固定され、身動きが取れなくなる。
「っーーーっ!!」
 唸ることしか出来ない自分が情けなくなり、涙が滲む。
 しかも目前では隼人があられもなく肌を曝け出し、今にも吉岡に抱かれようとしている。
 これが生き地獄以外の何だというのだ。
 いっそこのまま殺してくれた方がマシだ……。
 悔しさと情けなさで、涙が頬を伝った。
「あれ? そう言えばお前、片目じゃなかったっけ?」
 坂上は俺の顔をしげしげと眺めながら、吉岡に聞こえないような小声で話し掛ける。
「まぁ手術でもしたのか、別にどうでも良いけど。それにしても、吉岡様の想い人が桜井で、お前が桜井とくっついてたっての、凄く驚いたなぁ、マジかよって思ったね」
 ククッと笑うと坂上は、俺を蔑んだように見る。
 こんな奴にまで蔑まれると、消えてしまいたくなる程に屈辱だ。
 悔し涙が、後から後から零れ落ちていく。
 そんな俺の様子を見て、吉岡は満足そうな笑みを浮かべる。
 そして、隼人を上から舐め回すように眺め、溜息混じりに「可愛い、隼人」と、呟き、
その唇へと重ね、長い間、何度もキスを繰り返す。
 こんなにも愛し合っているのだと言わんばかりに、執拗に何度も何度も……。
 ようやく離れた吉岡は、うっとりと瞳を潤ませながら隼人を見つめ
「ああ、本当に可愛いよ、隼人……。さあ、あの分からずやに教えてやろうじゃないか?俺達が本当に愛し合っているって事を」
 吉岡は隼人の身体を抱き起こし、俺の反応を愉しむように視線を投げながら、胸の辺りを弄り隼人が一瞬身を捩ると、そこを執拗に責め立てる。
 隼人の苦痛とも、熱を帯びたとも取れる表情を目の当たりにして、気が動転する。



                   ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<25>

騒ぎに気が付いてか、ベットの上がのそりと動いた。
 ノロノロと隼人が起上がり、こちらに近寄って来るのが見えた。
「り……涼太? そこに居るのか?」
 心臓が早鐘を打つ。あの懐かしい、優しい声――。
 しかし、目の端に映った隼人の姿は、以前のものとはおおよそかけ離れたものだった。
 そのやつれ方は尋常では無く、頬がコケ落ち、逞しかった身体は見る影も無いほどに肉が削げ落ち、シャツがブカブカで、サイズが合っていない。
 眼鏡を外した目元は窪み、色濃く影を落としていた。
 まるでホラー映画に出てくる屍――……。
「隼人っ!!」
 名を呼ぶと、隼人はこちらに顔を向け、近寄って来る。
「隼人、駄目じゃないか、休んでいないと……」
 猫撫で声のような甘い声を出し、吉岡は隼人に触れようとした。
 まるでこちらに来るのを阻止するように。
 しかし、それを手で払い退け、隼人はゆっくりと歩いてくる。
「……吉岡っ!! 嘘も大概にしたらどうだっ!! 隼人が逃げ出さないようにする為に、こんな惨(むご)たらしい事しやがってっ!!」
 俺は胸が締め付けられ、涙が零れ落ちそうになるのを堪えつつ、吉岡に銃を向けたまま、後ずさりしながら隼人に近付いた。
 近くまで来ると、背中まで伸びた髪は、緩やかなウェーブを保ちながら揺れていた。
 隼人は、立っているのもやっと……そんな状態だった。
「涼太……なのか?」
 こちらを見るが、目の焦点が合っていない。
 元々隼人は近眼だが、それだけではない様子だった。
「隼人、助けに来たよ、一緒に帰ろう!!」
 胸が締め付けられ、涙が溢れそうになる。
 早く、一刻も早く連れ出したい。
「――――どうして……来た」
 俺の意に反して、隼人はそう言うと俯いてしまった。
「隼……人?」
 その様子を見て吉岡は喉をクックと鳴らし、嫌な笑みを浮かべる。
「本当に君はおめでたいな。だから言っただろう? 隼人は君に逢いたく無かったんだ。それにこうなったのも、彼が望んだ結果だと何度言えば君の脳は理解できるのか……隼人が逃げ出したくなる気持ちも良く解るよ」
「黙れっ!!」
 怒鳴ったものの、隼人にそんな態度を取られ、動揺は隠せなかった。
「仕方ない、口で説明しただけでは君は理解できないようだからな。証拠を見せてやろう」
「う、動くな!!」
 吉岡は俺の言葉を無視すると、靴音を鳴らし、軽快に隼人に近寄る。
 そして、その痩せた身体を優しく包み込むように抱き締め、キスを落とす。
 俺に見せ付けるように、音を立てながら視線はこちらに向けたまま、勝ち誇ったように何度も……、しつこいくらい、何度も繰り返す。
 ――信じられない光景だった。
 悪夢なら早く醒めてくれ……。
 これが隼人が自ら望んだと言うのか? 
 本当に隼人は、もう俺の事など何とも思っていないのか? 
 絶望感が押し寄せる――。

 脱力し、銃を下ろした時だった。
 後ろから凄い衝撃を受け、立ち上がれなくなる。
「くっ……っ!!」
「さっさと下ろしてりゃ手加減してやったモンをよぉ。バカだな、お前」
「坂上……っ!!」
 ニヤリと不適な笑みを浮かべ、その手にはリチャードが握っていたはずの銃があった。
 慌ててリチャードが居た場所を確認すると、リチャードも同じく床に横たわっている。
「リ、リチャードっ!!」
「う……すまない涼太、隙を突かれた……」
 取りあえず返事があったことに安堵し、息を吐く。
 だがしかし、事態は悪化した。
 俺の握っていた銃は吉岡の足元に転がり、それを拾い上げると吉岡は高らかに笑う。
「大人しく帰っていれば、こんな目に遭わなくても済んだものを……」
 吉岡は俺の腕を踏みつけた。
「ぐっ!!」
 ゆっくりと体重を乗せ、愉しむように踏みにじる。
 痛みに耐えるのに必死で、声すら出ない。
 クククと満足げに笑い、吉岡はその足を退けた。
「淳也、こいつらを縛り付けておけ。口にも忘れるなよ。さて……これから楽しいショウでもお披露目しましょうかね?」 
 クックッと喉の奥で低く笑う吉岡に、憎悪と嫌悪感が増す。
「誰が、お前なんかの好きにさせるかっ!!」
 立ち上がろうとした時、もう一度衝撃を喰らい動けないでいると、紐のようなもので足を縛り上げられた。足元に視線を移すと、ニヤリと坂上が笑うのが見えた。
 違う気配がして支線を戻すと、吉岡が手に注射器を持って近寄ってきた。
「君は少し……いや、かなり頭が悪いようだからね、まぁ、短絡的で女のような思考しか出来ない哀れな男だから、仕方無いけれど。実力行使させて貰うよ」
 吉岡が屈み、俺は背筋が凍りつき、悪寒が走った。
「な、何をっ!!」
 怯える俺の姿を見て、満足そうに嘲笑う吉岡。
「少し眠って貰うだけだよ? 準備が整うまでね。それとも、ヤクの方が良いのか?」
 クククとまた嫌な笑い声を上げ、俺の袖を捲くり注射器を腕に当てる。
「止めろ!! 放せっ!!」
 力一杯抵抗するが、吉岡はそれ以上に力を篭もらせ、押え付ける。
 俺は普段、力仕事をしていたから、腕力には自信があった。
 しかしその差は歴然で、まるで猫と人間ほどの力の差だった。
 スレンダーな見た目とは相反し、その力量の差に、俺は、その場にだらしなく身を置かざる終えない状況になる。
 悔しくて涙が滲むと、吉岡はククッと見下しながら笑う。
「俺に抵抗出来るとでも? バカは死ななきゃ直らないって本当だな」
 そう言いながら針を刺し、何かの液体を俺に注入した。
「――っ!!」
「涼太!!」
 リチャードの心配そうな声が部屋に響き、吉岡の顔が歪んで見えた。
 微かに隼人の声がした気がして、朦朧としていく意識の中で見上げると、悲しそうに俺を見る隼人がそこに居た。
「は……や……と」
 途切れそうな意識を必死に保っていると、隼人は瞳に涙を認めていた。
 隼人の掌が俺に向かって伸びた時、吉岡に抱き抱えられ、連れて行かれてしまった。
 ――そこで俺は意識を失った。



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――いつまでも ずっと――<24>

 二人とも、俺がいる事には、気が付いて無いようだった。
 隼人はもう、自分で食事すら出来ない程弱っているのか、と、焦りが高まる。
 俺はリチャードに目配せをし、懐に仕舞ってあった拳銃に手を伸ばした。
 リチャードも頷き、同じように準備する。
 その時、隼人がベットの上で力なく動き、唸り声にも似た声を上げる。
「君達、少し作業が遅いようだが……早くしてくれないかね?」
 そう言うと吉岡はベットに向い、こちらに背を向けた。
「淳也、グズグズするな! 隼人が吐きそうだ、手伝え!!」
「はい! 吉岡様、只今!!」
 坂上は慌てて、吉岡の傍に駆け寄り、タオルを用意している。
 一刻も早く救出しなければ、隼人の身が危険であると感知した俺は、リチャードと目を合わせると同時に、二人に駆け寄ると拳銃を各々の背中へと突き付けた。
「動くな!! 手を頭の上に置け!!」と、リチャードは威嚇する。
 その声は少し震えているようだった。
 しかし、手元はしっかりと銃を構えている。
「な、何だ!?」
 坂上は事態が飲み込めず、俺が当てている背中の銃の感触に怯え、震えている。
「……どう言う事かな? 君達は客をそう扱うように習っているのかね? それともチンケな物盗りか……」
「早くしろ!!」と、威嚇するリチャードに臆する事無く、吉岡は振り返った。
 すると、坂上の後ろに立っている、俺の正体に気が付いたようだ。
「……誰かと思えば、遠路はるばるご苦労様、蓬田君」
 鼻でふっと嘲笑いながら近寄って来る。
 俺は慌てて吉岡に照準を合わせた。
 するとそれに反応したリチャードは、坂上へと銃を向け、間合いを詰める。
「吉岡……貴様、隼人に何をした? 何の恨みがあるって言うんだ!! 隼人を返せ!」
 銃を顔面に向けるが、それに怯えた様子は見せず吉岡はクスクスと笑い、蔑んだ目で俺を見下しながら
「恨み? 返せ? 君は少し勘違いしている様子だな」
 首を横に振り、『呆れた』と言うような表情をする。
「動くなと言ってる!!」
「フン、馬鹿馬鹿しい。これは彼が望んだ事だ。君が口を挟む問題じゃない。桜井君は疲
れているんだ、騒がしくするな。今なら無傷で帰してやってやる。銃を下げろ!」
 早口での日本語でのやり取りに、リチャードはハッキリとは状況が掴め無い様子だった。
「涼太! どうなってる?」
「リチャード、そのまま照準を合わせいてくれ! 今、この男は俺を撹乱しようとしているんだ、日本にいた時と同じように!!」
すると吉岡は、意外だと言う表情を浮かべた。
「これは失敬、蓬田君がこんなに英語を話せるとは思わなくてね、君にも分るように話そ
う。これは隼人が望んだ結果だ。今ならお互い誤解もあった事だから、銃を下げたらこの無礼は無かった事にしてやる、と言った迄だ。君も銃を下ろしなさい」
「リチャード、騙されるな! 奴は二枚舌なペテン師だ!!」
「ほほう、何を根拠に人をペテン師扱いするのかなぁ?」
 ニヤリと口の端を上げ笑う吉岡に、悪寒が走る。
「じゃあ何故、隼人が行方不明だと言った! そして今まで、俺の動向を探るような事をして……どうして俺に今日、此所に来る事を隠した!!」
 俺の問いに、吉岡はクックと喉の奥で笑いながら
「君は……憐れだな。真実が知りたいか?」
「隼人を拉致監禁しておいて、何が真実だ!!」
 俺の反応を見て吉岡は、高らかに笑い出す。
「ははは、本当にどこまで妄想癖が激しいんだろうね、君は!! 女のように媚を売る事しか出来ない、淫乱なゲイに見限りをつけたんだよ、彼は!!」
「涼太、どう言う事だ? 君は彼の恋人なんじゃ……?」
 リチャードは混乱している様子だった。
 吉岡はフッと鼻で笑い、リチャードに向かって肩を竦めながら
「元、な。まぁそれも、一方的にしつこく迫っていたようだがね。彼が嫌がって逃げ出したのにも気が付かず、捨てられた事も認められず、追いかけて来た哀れな輩だよ」
 首を横に振り、いかにも『俺がストーカー行為をしているんだ』と、言うような口調で言い放った。
「涼太……そうなのか? これは一体……」
 俺にしたような饒舌ぶりで、吉岡はリチャードが動揺するように仕向けている。
 ここでリチャードに疑われては、身も蓋も無い。
 本当に奴は恐ろしい、天性の詐欺師だ。
 ――このままでは言い包められてしまう。
「何を出任せばかり!! 隼人と俺は今だって!!」
 わざと声を大きくして、隼人に自分の存在を示す。
 すると一転、吉岡は表情を険しくして、声を荒げた。
「ったく、さっきから何度もっ!! 隼人、隼人と勝手に気安く名を呼ぶなっ!! 彼はもう俺の恋人だ!! 不正を働いた事を許して欲しい、俺を愛するが故に、俺の役に立ちたかっ
たと告白して来てね。君のストーカーぶりは耐えられないと泣き付いて来たのさ」
 先程の吉岡の行動から推測した通り、奴は隼人の事を狙っていたのだ。
 女にモテるのをいい事に、吉岡は自分が、同性愛者という事を隠して来たに違いない。
「馬鹿なっ!! そんな出任せばかり、いい加減にしろっ!!」
「隼人は、ほんの遊び心で君に手を出しただけだ。君があまりにも不幸で可哀相だと思ったから、ちょっと相手をしてやっただけなんだよ! だが予想外にも君は恋人気取りで、手に負えない、匿って欲しいって言われてね、俺はそんな隼人が可哀想になって、匿っていただけだ。君の動向を探っていたのも、そういう訳さ」
俺まで頭が混乱してきた。
 しかし、どう考えても隼人はそんな不正をする奴じゃない。
 しかも俺に向けた恋愛感情は本物だった。
 あれが偽の訳がない。誰よりも一番隼人を知っているのはこの俺だ。
 やはり吉岡が嘘を言っているとしか考えられなかった。
 隼人、早く俺の傍に来てくれ――。
 祈るような気持ちで、ベットを目の端で捕らえる。



                       ――to be continued――



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――いつまでも ずっと――<23>

エレベーターが止まる音がして、ワゴンがゴロゴロと音を立てながら近寄ってきた。
 部屋の前でその音が止むと、チャイムが鳴る。
「リチャード?」
「そうだ。涼太、準備は良いか?」
「……ああ」
 部屋を出て、二人でワゴンを押しながら、300527号室のドアの前に立つ。
 制服の帽子を目深に被り、胸元に手を当てて銃の位置を確認すると、深く息を吸った。
 リチャードは、俺に目配せをして、俺が頷くと部屋のチャイムを押した。
 カツカツと、ドアの向こう側から近付く靴音が、緊張を走らせる。
 あの軽快な足取り……。多分、吉岡だ。
「どちら様?」
 案の定、吉岡の声がした。
 リチャードは「ルームサービスの品をお届けに上がりました」と、平静を装い言うが、手元が震えていた。
「どうぞ」
 カチャリと鍵が開く音がして、扉が開く。
 目深に被っていた帽子のせいで、その表情は読み取れない。
 今にも心臓が飛び出しそうになるのを、必死に堪え、中に入った。
 広い室内に、見覚えのある人物が、テレビを眺めながら寛いでいる。
 高校の時とは別人の様でもあるが、魔女のような鼻先は変わらず、扱け落ちた頬に浮かべる笑みは、あの時と何ら変わらない。
(あれは……坂上? どうして一緒に居るんだ!?)
 思考が混乱する中、食事をテーブルの上へと飾り付けて行く。
 二人に悟られ無いように、目だけで隼人の姿を探した。
 すると、ベットに横になっている人が居る事に気が付く。
 しかし隼人とは髪型があまりにも違う。
 ウェーブの掛かったロングの茶髪は、一見すると、ロックバンドでもやっている人のようにも見える。
 でも先程した声は隼人のだった……。
 ふと、前に言っていた隼人の言葉を思い出す。
『伸ばすと多分、レゲェのオッサンみたくなるんじゃないか?』
 レゲェまでは行かなくても、くるくると綺麗なウェーブを認めている。
 天然パーマで、明るめの茶髪は地毛だった。間違い無い、あれが隼人だ。
 焦る気持ちを抑え、機会を伺う。
 気も漫ろに食器類を並べていたら、それに気が付いたリチャードがベットに視線を移す。
「お客様、あちらの方、先程も顔色が優れないようでしたが……もし具合が宜しく無いのでしたら、医者をお呼びしますが……」
 いかにも心配してます、と言った声を出して吉岡に言うと
「……さっきも言ったが、少し休めば楽になると言って寝ているだけだから、心配要らないよ」
 吉岡は舌打ちして、不機嫌そうに答えた。
 それは嘘だと直感で分かる。隼人はそんなにヤワじゃない。
 もし本当だったとしてら、そんなになる程、体力が無いと言う事だ。
 気持ちばかりが逸る。
 坂上は食事の匂いに誘われたのか、テーブルへと移動して来た。
 ジュウジュウと音を立てているステーキが盛ってある皿に、その尖った鼻先を近付けて、日本語で話す。
「うーん、旨そうだ……吉岡様、俺、先に食べたら駄目ですかね?」
 帽子の隙間から見えた坂上の姿は、やつれて窪んだ目が澱んでいる。
 こいつもきっと麻薬の常習者に違いない。
「……好きにするがいい。但し、隼人のは俺が食べさせるから、自分の分だけ先に避けておけ。全く、卑しい……」
 吉岡はそう日本語で言うと、冷たい視線を坂上に投げる。
 坂上は、その言葉と視線に恐縮したのか、項垂れていた。
 そして小声で「何だろう? 今日は随分機嫌が悪いなぁ……」と、呟いている。
 吉岡は、隼人が寝ているベットへと視線を移した。
 坂上を見る時とは、全く別の視線だ。
 心配しているような、優しい眼差し――。
 段々と嫌な予感は、確信へと変わって行く。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<22>

カツカツと靴音が近付いて来たかと思うと、俺の部屋のチャイムが鳴る。
「お客様、お荷物をお届けに上がりました」
 リチャードの声がして扉を開けると「しっ!」と、人差し指を唇に当て、声を出さないで、と言う仕草をした。
 黙って頷くと、扉を閉め、リチャードは用心深く小声で話す。
「涼太、あいつらは今、部屋に入った。オーナーに許可を取って、あそこの部屋は私が担当している。あの様子からしたら外出はしないで、ルームサービスを取るだろう。その時がチャンスだ。これに着替えて待機していてくれ」
 そう言うとリチャードは、俺に鞄を手渡した。
 中を開けて見るとリチャードと同じ制服が入っている。
「分かった。ありがとう、リチャード……」
「それと、これも」
 リチャードは胸ポケットから、護身用と思われる小さめのピストルを出した。
 俺は初めて見る本物の拳銃に戸惑い、呆然としていると、腕を掴まれ、それを手に持たされる。
「日本人はこういうの慣れてないかも知れないけど、一応念のために。さ、ぐずぐずしていたらチャンスを逃すかも知れない。私は一度フロントに戻って、奴等の動向を探ってくるから」
 リチャードは踵を返すと、部屋を出ようとした。
 俺はその腕を掴み、引き止める。
「リチャード……これから先は俺一人で大丈夫だ。君を危険な目には遭わせられない」
「涼太……悪いけれど、これは君一人では無理だ」
「でも……カールの大切な人に何かあったら、俺は……」
 リチャードはふっと微笑むと、そっと俺の頭を、子供にするみたいに撫でた。
「……先程は、はぐらかして悪かったね。本当の理由は、私が関わっていたのに、事前に阻止する事が出来なくて申し訳ないという気持ちと、カールの兄が亡くなった話は聞いただろう? 状況がね、とても似ているんだ。何も出来なかった自分達が悔しくて、哀しくて仕方無かった。目の前に同じような状況に置かれた人がいるのに、放って置けなんて、無理な話だよ?」
 その言葉に俺は胸が熱くなり、じわりと涙が滲む。
「さ、そんな顔してないで、本番はこれからだよ? 気を引き締めて行こう」
「本当に……ありがとう」
「お礼は、お客様団体で宜しくね? 勿論、カールの所にも」
 ニッコリと微笑み、リチャードは部屋を後にした。

 再び静粛が訪れた中、俺は、リチャードから受け取った制服に身を包む。
 リチャードの配慮からか、それともここのホテル最高級の値段のせいなのか、吉岡達が訪れた後は、他に訪れる客は居ないようだった。
 部屋から出て様子を伺いたい衝動を、必死に堪えた。
 折角のチャンスを、ここで台無しにしてしまったら、リチャード達に申し訳ないのと、何よりも隼人に二度と逢えなくなる可能性が高くなる。
 二年もの間、俺を騙してきた吉岡の事だ。
 俺がここに居ると知った時点で、奴ならきっと用意周到に逃げてしまうだろう。
 それにしても、吉岡の先程の言動が気になる。
 どうして、ただの部下であるはずの隼人を名前で呼び、労う様に優しく言葉を掛けていたのか……。
 それに吉岡が不正していたとして、それを知っている隼人に対し、そんな扱いをするだろうか……? 
 ――――何か、何かが……おかしい。
 じりじりと焦燥感が込上げ、眩暈が起きる。
 暫くの沈黙の中、俺はリチャードからの連絡を唯ひたすら待った。
 一刻も早く隼人に逢いたい、この手で抱きしめたい……。
 思いを巡らせているうち、気が付けば窓の外から赤々とした夕日が差し込んでいた。
 はっと我に返り、そろそろ夕食の時間かも知れないと思い、時計を見た。
 携帯の時計は、18時を過ぎている。
 いつでも出られるように、リチャードから渡された拳銃を、胸の裏ポケットに収める。
 本物の銃に緊張し、鼓動が早くなった。 
 すると、部屋の備え付けの電話が、けたたましく鳴る。
 その音に、心臓が飛び出しそうになりながら出ると、リチャードからだった。
「涼太?」
「リチャード、何かあった?」
「奴等は案の定、ルームサービスを頼んできた。用意は良いかい?」
「……ああ」
「それじゃ、部屋まで行くから待っていてくれ。幸運を祈ろう」
「ありがとう、リチャード」
 受話器を置き、リチャードが現れるのを待った。
 緊張が全身を覆い、カタカタと震え出す。冷や汗が額を滑り落ちていった。
 それと同時に、期待が膨らむ。
 いよいよ、隼人に逢える。ずっと探していた彼に――――。



               ――to be continued――

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――いつまでも ずっと――<21>

 扉が開くとリチャードは
「ここのホテルの最上階、今日彼等が泊まる場所だ」と、案内する。
 綺麗に清掃された大理石の廊下を歩くと、二人の足音がコツコツと響いた。
 途中で見えた窓からの景色は、絶景だった。多分、料金も最上級に違いない。
 贅沢志向の吉岡が好みそうな所だ。
 300505号室の前で立ち止ると、リチャードは「ここだよ」と、掌で示した。
 そして此処とは別の、さほど離れていない部屋を指差した。
 こちらからは見通しが良いが、あちらからは、置いてある観葉樹が邪魔して、この部屋が陰になるような感じだった。
「あの部屋、300527号室が、今日、その男達が泊まる部屋だ。こちらの動きが悟られないように配慮しておいたよ。君の大切な人が無事だと良いな……」
 部屋の鍵を開け、荷物を中に運び入れながら、リチャードは言う。
「ありがとう助かるよ、リチャード。この恩は必ず返すから……」
「どういたしまして。カールに泣き付かれては、私も弱くて……」
 カールが、どうしてそこまで俺にしてくれるか、本当の所、不思議だった。
 まさか、と、思ったが、その考えを否定する。
 カールには、こんなに素敵な恋人がいる。
「それでは、直ぐにでも君に協力出来るように、オーナーに相談してくるよ」
「本当にありがとう……」
 すると、リチャードは首を横に振り
「カールが君の事を、とても気に入っていた訳が、会ってみて分かったよ、うん」
 俺は意味が分からず、きょとんとリチャードを見上げた。
「ああ、その顔。本当にそっくりだね」
 リチャードはまた、瞳を輝かせニッコリと微笑む。
 先程のエレベーター前の仕草といい、嫌な予感がして
「まさか……とは思うけど――。アザラシに似てる……とか?」
「そうそう。ゴマフアザラシの赤ちゃんね! 本当に目が黒々としていて大きくて! それで身体がもっと太くて全身白い服でも着ていたら、間違えてしまいそうだよ! ベリーキュートね」
 やっぱり……と落ち込む。
 一応、俺、人間なんですけど――。その言葉を飲み込んだ。
 しかし、理由はどうであれ、協力してくれるのは有り難い。
 かなり悲しい気持ちにはなったが、今は落ち込んでなどいられないと思っていると、ふと、そんな理由だけで協力してくれる、リチャード達に疑問を抱く。
「――でも、君の立場が危うくはならない? 顧客の情報を流した上に、協力までして貰って……もし、クビにでもなったら……」
 すると、リチャードは微笑み
「それはご心配無く。ここのオーナーは、私の父だから」
 その答えに驚いた俺は「え……? じゃあ、君はここの御曹司?」と、声が上擦ってしまった。
「……と、いう事になるのかな?」
 ふふっと微笑むと、リチャードは
「そしてカールは……本当は、私の従兄弟になるんだ。なので将来、この系列のホテルは私達が経営する予定で、今は互いの受け持つホテルのボーイをして、客層を見ながら勉強中なんだ。だから、大丈夫。安心して下さい、ね?」
 従兄弟同士でそういう仲なんだ、という事実にも驚き、目を丸くする。
「そう……だったんですね。でも、そんな人を巻き込む訳には……どうして、俺に協力してくれるんですか?」
「理由は簡単。カールが君の事を気に入っているからだよ。それに、会ってみて私も、君の事が気に入った、それじゃ駄目かい? さ、グズグズしていると彼等が来てしまうよ? とにかく私は色々と確認してくるよ、連絡は室内に設置してある電話でするから」
 そう言いながら部屋に荷物を置くと、リチャードは足早に去っていった。
 リチャードが言った言葉に、カールが俺にペットになれと言ったのは、まんざら冗談でも無かったのかと、複雑な心境になった。

 一人になり一息吐くと、窓の外の景色を眺めた。
 流石に最上階だけあって見晴らしが最高だ。街並みがパラレル写真のように見える。
 流れる雲を目で追いつつ、想いを巡らせる。
 この二年、ずっと探していた隼人。
 あの日も、何も変わらずに手を振っていた。
 何故、こんな事になってしまったのか……。
 俺が……愛する者を不幸にしてしまうのだろうか?
 ネガティブな感情に囚われそうになった時、部屋の電話のベルが鳴る。
 リチャードからの連絡かと、緊張が走った。
「はい……」と、受話器を挙げ、返事をすると、やはりリチャードからだった。
「涼太、私だ。彼等は今、到着した。タクシーを降りて、エントランスに入いろうとしている。痩せた茶髪のやつと、多分、君のお義兄さんも一緒だ。見た目が、随分変わってしまったが、きっとそうだと思う」
 ヒソヒソと小さい声でリチャードは話す。フロントに居るのだろう、他の人の話し声も聞こえる。
「それで!? 隼人は、大丈夫そうなのか?」
「いや……あまり調子が良さそうとは思えない。君の知り合いと言う男に、凭れ掛かるようにしながらタクシーを降りた……立つのも辛そうだ」
 俺は、そのリチャードの報告を聞き、気が昂る。
「リチャード、俺も……俺も、様子が見たい!!」
「待ってくれ、涼太。部屋から出ないで。今、鉢合わせしたら、救えるものも救えなくなってしまう……耐えるんだ」
「……でもっ!!」
「涼太の気持ちは分かる。だけど、助けたいんだろう? 私に考えがある。機会を伺うんだ」
 逸る気持ちを抑える事が出来ず、思考が短絡的なっていた俺は、リチャードのお陰で我に返る事が出来、冷静さを取り戻した。
「分かった……ごめん、リチャード……」
「いや……。悪い、一度切る!! また後で」
 焦っている様子から、リチャードは、隼人達の接客をするのだろうと察した俺は、また連絡が入るのを、唯ひたすら待った。

 暫くすると、部屋の外から人の話し声がして、聞き耳を立てる。
 リチャードは大袈裟に、このホテルの良い所など説明していた。
 それは俺に、吉岡達がそこに居る事を知らせる為だろう。
 その好意に感謝しつつ、ドアに張り付き、神経を集中させた。
 心拍数が上昇し、今にも心臓が飛び出しそうな勢いで、その音が鼓膜に木霊し、よく聞こえない。
 深呼吸を繰り返し、鼓動を落ち着けると、必死に声を探った。
 足音が止まると、リチャードが隼人に対して、質問しているようだった。
『お客様、顔色が優れないようですが、大丈夫でしょうか?』
『彼は車酔いをしただけでね、心配は要らないよ、な?』
『……ええ』
 あれは吉岡の声だ。流暢な英語で不機嫌そうに答えていた。
 そしてあの懐かしい声がした。間違い無い、隼人だ!! 
 俺は、溢れそうになる涙を必死で堪えた。
『さぁ、部屋に入ろう、隼人。疲れただろう?』
 吉岡はリチャードに対する声と違い、優しい声を出し、今度は日本語で話していた。
 俺はそこで違和感を覚える。
 ――何故、隼人を名前で呼ぶ? 
 しかも、そんな気遣っているような、優しい声で……。
 何か途轍もなく、嫌な予感がした。
 バタン、と扉が閉まる音がして、辺りに静粛が訪れる。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<20>

 やはり気持ちが昂っていたせいで、ろくに眠れなかったが、飛行機は予定通りに目的地へ降り立った。
 空港内で時間を確認する。機内でこちらの時刻にあわせた時刻は、14時を過ぎた頃だった。
 日本との時差は約17時間で、昨日のカールの話からすれば、今日に吉岡さんらしき人達が、そのホテルに泊まる予定となる。
 しかし、まだチェックインは出来ない時間帯のはずだ。
 空港でカールに連絡を入れて、事前にリチャードに会えるようにしてもらった俺は、緊張しながらタクシーを拾い、目的地を告げると、会社に連絡を入れ忘れた事を思い出す。
 慌てて会社にまた休むとメールをした。しかし、日本時間では21時だ。
 もしかしたら、これで会社をクビになるかも知れない。
 でも、今はそんな事よりずっと、隼人の方が大事だ。
 最悪、このままこちらに転職してしまっても構わないと思いながら、車窓を眺めた。

 タクシーを降りるとホテルのロビーに向かった。
 フロントに立ち、カールの恋人、リチャードを呼び出してもらう。
 するとカールの言う通り、背のすらっと高い端正な顔立ちをした、ボーイの制服が良く似合う金髪の男性が、こちらに近寄って来た。
 リチャードは俺を見ると、爽やかに微笑んだ。
「お義兄さんを探してるって人ですね? カールから話は聞いてます」
「ええ、涼太っていいます」
「初めまして、涼太さん」
「よろしくお願いします、リチャードさん」
 握手をすると、彼は改まった表情になり
「例の男達は、まだこちらに到着していません。今日、泊まる予定の部屋の近くに、あなたの部屋を用意しました。さ、その人達が来ない内に……荷物はお持ちします」
 俺はキーを受け取ると、荷物をリチャードさんに手渡し、部屋へと向かった。
 広いエントランスを横切り、足早にエレベーターへと急ぐ。
 それに追従しながら、俺はリチャードさんに話し掛けた。
「あの、有難うございます。こんな顔も知らなかった俺の為に……」
「いえ、カールから色々聞きましたよ。カールの友達は、私の友達でもあります。堅苦しいので呼び捨てで構いませんよ? 私も、君の事を涼太と呼ばせて貰いますから」
 ふと微笑んだ碧眼に、一瞬身じろいだ。
 カールが言っていた意味を理解する。
 リチャードには何か漂う気品と男性の色香があり、そんな気が全く無くてもドキドキしてしまう。
 一種、芸能人を目の当たりにした感覚に似ている。

 彼はかなりモテるのだろう。カールが心配するのも分かる気がした。
「じゃあ、リチャード、宜しくお願いします」
 改まって言うと、リチャードはクスッっと笑い
「君は本当にカールの言う通りの、真面目な人だ。それに……」
 リチャードは俺を上から下まで眺めると、その碧眼をキラキラと輝かせて、何か可愛らしい動物でも見たような顔をする。
「……カール、何て言ってるんですか? 俺のこと……」
「ふふ、それは内緒。こちらこそ宜しくね、涼太」
 意味ありげな笑顔を向けられ、俺はまた嫌な予感を抱えつつエレベーターに乗り込んだ。

 エレベーターの中で二人きりになると、先程の談笑が嘘のように沈黙が訪れる。
 リチャードは俺にふと視線を合わせ、独り言のように呟いた。
「あの時、変異に気が付いていれば……君のお義兄さんは、行方不明にならずに済んだかも知れない……」
 俺は何故、リチャードが落ち込んだ表情をして、自責しているのかと、不思議に思っていると、リチャードは俺の事を、すまなそうに見下ろしながら
「麻薬っぽい臭いがしたんだ。私は慌てて息を止めたけど、その私と同じ位の背の男性は平気そうな顔をしていたから、多分、常習者だと思う。食事を運んだ時に、短髪の男性はとても具合が悪そうだった……。きっと麻薬とは、気が付いていなかったんだろうね。その短髪の人が、君のお義兄さん……なんだろう?」
 リチャードの言葉を聞き、俺は愕然とした。
「え……? 麻薬って……?」
「あの甘いような、独特の臭いは大麻だと思う。しかし証拠が無い以上、なんとも言えなくて、あの時は……もし、大麻だとしたら、麻薬常習者と言うのは、色々なものに手を出すから、それだけでは済まない可能性が高いんだ」
「そんな……隼人は麻薬で……?」
「そうだね、なんとも言い難いけれど……。その臭いがしたのは最初の日だけで、後はしなかったから、何かアジア的な香料だったのかと思ってしまって……。でも、その日を境に、短髪の男性はベットに横になっている事が多くて……。4日目の朝に、その男性だけがチェックアウトしたから、私は体調不良で先に帰ったものだとばかり思っていたんだ。今、考えてみると、違う麻薬で身動きを取れなくして、別の場所に移動させたのかも……」
 ――何という事だ……。
 あまりの衝撃的な発言に、俺は、思考が混乱した。
 隼人を拉致監禁していたのは、吉岡さんだった。その事実に、目の前が真っ暗になる。
 信じていた人物に裏切られ、それでも尚、信じようとした自分に反吐が出そうになった。
 と、同時に激しい怒りに、身が震え出す。
(やっぱり……隼人を監禁していたのは吉岡だったんだ!! くそ! 本当に何て間抜けなんだ、俺はっ!! どうして怪しいと疑わなかった!!)
 今までの出来事が、走馬灯のように思い出され、後悔の念に駆られる。
 幾つも怪しい点はあった。
 しかし、それを感じさせない吉岡は、相当な切れ者だと認めざる得ない。
 悔しくて叫びだしたくなる気持ちを、必死に抑えた。
 それにしても、もう一人は一体誰なんだ? 
 会社関係か? 
 いや、会社関係では、何か有った時に、立場が不利になるはずだ。
 吉岡ならそんな間抜けな事はしない……。
 と、すると、プライベートで雇った監視役か? 
 麻薬……隼人は薬漬けにされて……。
 それだったら、隼人ほど腕の立つ人間でも、間単に監禁できるはずだ……。
 命に関わると言うのも……。全て合致する。
(畜生!! そんな奴に頼っていたなんて、どうかしてるっ!!)
 俺が黙り込んでいるのを見て、困ったような、悲しそうな表情を浮かべながらリチャードは「……涼太」と、声を掛ける。
 リチャードを見上げて、俺は震える拳を握り締めた。
「リチャード、お願いだ。協力してくれないか? 俺はどうしても隼人を助けたい。隼人は、危ない状況かも知れないんだ……。でも、もしかしたら、君にも危ない思いをさせるかも……。無理にとは言えないけど……」
 するとリチャードは、俺の目を見て何かを悟ったように
「……彼を愛しているんだね?」
 その問いに、俺は黙って頷いた。
「分かったよ、涼太。私も愛する者が居る。君の気持ちは痛いほど分かるから」
「ありがとう、リチャード。助かるよ……カールを大切に」
 するとリチャードは、はっとしたような表情になり、それから少し頬を朱色に染める。
「……カールに聞いた?」
「昨日、電話で……」
 チン、と音がしてエレベーターが止まる。見ると30階、このホテルの最上階だ。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<19>

俺は自宅のマンションに着くと、早速、飛行機の予約をしようとパソコンを立ち上げる。
 予約受付の最終手続きをしようとした時、携帯の着信音が鳴った。
『ハイ! 涼太。さっきの事だけど、邦人が三人、泊まっているそうだよ』
「本当か!? それでその三人の名前とかは……?」
『スズキ、タカハシ、サトウって人だったよ。全員男だ。しかもそいつらは一つの部屋を借りて泊まっている』
 俺はそれを聞いた時に、予感がした。
 日本でありふれている苗字を使うのは、偽名であるのだろうと。
 それに男三人が同じ部屋と言うのも奇妙だ。
「分かった、カール。悪いけれど、もう一つ頼まれてくれないか? そこに予約を入れて欲しい。しかも今回は偽名で……」
『ちょっと待て、涼太。最後まで話しを聞けよ』
「え?」
『そいつらが泊まるのは、今日までだ』
「あ……じゃあ、その後の消息は……」
 俺はせっかく掴んだ手掛かりを逃したと思い、愕然とする。
 するとカールは意に反して明るい声で
『安心しろ、涼太。さっきメールに書いた友達から連絡があったんだ。明日からそいつらは、そこに泊まるらしいよ』
「本当に!?」
『ああ、間違いないよ。だから涼太は、そのホテルで待機してた方が良いと思う』
「ありがとう、カール!! 何から何まで……、このお礼は必ず……」
『困った時は、お互い様だよ、涼太。オレは兄貴を失った時に、色々な人に助けられた。だから、今度は俺がそう言う人を助ける番なんだと思ってる。オレは仕事でそっちには行けないけれど、代わりに友達が助けになってくれると思う』
「カール……ありがとう、この恩は必ず返すよ」
『ふふ、それじゃ、オレのペットになるっていうはどう?』
 その冗談としか取れない、カールの発言に俺は戸惑った。
「は……? え……?」
『あははは! 冗談に決まってるだろ!』
「……だよな、びっくりさせるなよ、カール……」
『あんまりにも畏まってるからさ、つい、ね。君は真面目過ぎるんだよ。もう少し、肩の力を抜いたらいいよ』
「はは、そうだよな……」
『そこがまた魅力的ではあるんだけどね! 涼太はさ、何だか癒し系の動物っぽいんだよね。例えばそう、ゴマフアザラシの赤ちゃんとか? その可愛らしさで、オレの恋人に手を出したりしたら許さないからね?』
「へ? 何言ってるんだ、カール……アザラシってちょっと失礼じゃないか? それに手を出すも何も、何処に居るかも知らない君の恋人なんて、どうやったら……」
 カールの彼女は、可愛いものが好きなのか? 
 確かに、カールは青年と言うよりは、少年的な雰囲気がある。
 色白で長い睫毛や、眩しいほどの美しい金髪で、セミロングの髪型は彼女の好みなのか、などと思いながら話していると
『ははは! ごめんごめん。でも本当に君は可愛らしいからね、心配になるよ。今回そいつらが泊まるロイヤルプラザホテルのボーイ、リチャード・アグレィがオレの恋人。背が高くてスマートなハンサムだから、すぐに分かるよ。色々情報をくれたのも彼なんだ。そして君の手助けをしてくれるはずだ』
 カールのまたも驚き発言に、俺はどう答えて良いか分からず、黙っていた。
『涼太?』
「いや、うん、そうか、そうだったんだ……」
『隠さなくていいよ、君も同じだろ?』
 カールにそう言われ、ドキッと心臓が脈打った。
『君の義兄さん、その人が君の恋人なんだろ? 涼太は顔に出やすいみたいだからね、すぐに分かったよ』
「……そう、なのかな?」
『うん、そうだよ。だからリチャードに会って、君の恋人より好みだったとしても、くれぐれも、色目なんか使うなよ?』
「色目って……」
『君は自分で自覚してないみたいだけどね、相当可愛いよ? こっちだったら直ぐに喰われそうだ』
 くすくすと笑いながらカールは話す。
 時計を見ると、そろそろ飛行機の予約をしないと間に合わなくなる時間だった。
「悪い、カール……もうそろそろ飛行機の予約しないと、そっちに間に合わない」
『あ、そうか。ごめん涼太、それじゃまた何かあったら連絡するよ』
 カールに言い当てられ、ドキドキしつつ電話を切った。
 しかし、カールが連絡を入れてくれたお陰で、ブラジル行きの飛行機を予約しなくて済んだのは、とても有難かった。
 キャンセルしたら往復のキャンセル料をまるまる請求される所だった。
 手痛い出費を免れ、ほっと一息を吐き、パソコンの画面に目を落とすと、予約を終えた。
 それにしてもあちらはその趣向の人が多いとは聞いていたが、まさか知り合いが、と思うと何か不思議な感じがした。
 だがしかし、同時にカールに親近感を覚える。
 大っぴらな国とはいえ、やはり異端の目で見られるのは辛いだろうなと思った。
 それにしても、そんなに俺は男から見て可愛いのだろうか? 
 それともその趣向の人だけなのだろうか?
 前に柳瀬にも言われた事を思い出すが、自分では良く分からない。 
 はっきり言ってこの発言は、男の俺にとっては、何も嬉しくない。
 それどころか落ち込むだけだ。
 男として劣っている、と、言われてるようで……。

 吉岡さんも俺をそんな風に、情けない男として見ていたのだろうか……。
 そして俺を騙すのなんて、他愛も無い事だと思っていたのだろうか……。
 ――こんなの俺の邪推であって欲しい。
 でも、麻里は敵だと言った。
 それが本当なら、俺は一生、彼を許す事は出来ない……。
 ふと我に返り、時計を見ると、予約した飛行機の時間が迫っている。
 手荷物を持ち、駅までタクシーを拾うと駅に向かい、電車に飛び乗ると腰を落ち着けた。
 逸る気持ちを抑えつつ、空港へと向かう車窓から外を眺める。
 カールは、男三人が泊まっていると言っていた。
 一人が吉岡さん、そしてアジア系の男……。
 メールには二人で何処かに行ったと書いてあった。
 俺の推測が間違っていなければ、多分その極楽鳥の宿に一人、誰かは不明だが、そこに泊まっていて、合流したのだろう。
 ――その人物が、隼人だとしたら? 
 でも、疑問が残る。監視状態にある隼人一人を置いて、二人が行動するだろうか?
 そうしたら隼人は逃げ出すに違いない。
 でも、ここで老婆が言っていた言葉を思い出す。
 監禁されているという事は、何かで拘束され動く事が出来ない、という事では?
 そうだとしたら、一人で置いていっても、逃げ出す事は無理だろう。
 しかし、仮にもホテルだ。人が居ない訳じゃない。
 拘束した人物を一人で置いていくには、リスクが高すぎる。
 と、すると……。
 あの老婆は麻里が、隼人は命の危機に面していると告げた……。
 嫌な考えに辿り着いた。俺は眉間に皺を寄せると、拳に力を込める。
 丁度その時、電車のドアが開き、人が雪崩れるように降りて行った。
 そこで終点に着いたことに気が付いた俺は、慌てて荷物を持ち降りると、空港へと急ぎ足で向かった。
 搭乗手続きをして、飛行機に乗り込む。
 また、十時間程の長旅に備え、毛布に包まり、隼人に逢えるかも知れないと昂る気持ちと、不安で落ち着かない感情を抑え、眠りに就いた。 



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<18>

 俺は急いで車に戻ると、携帯からパソコンのメールをチェックした。
 カール宛に書いた内容をチェックし、先程言われたメモの場所を調べると、慌ててカールに電話を掛ける。
『……ハイ、涼太。どうした? こんな時間に……何かあったのか?』
 カールは電話で起こされたのだろう、アルトボイスより少し高めの声が掠れていた。
「ごめんカール、朝早くから……メール読んだ?」
『ん? いや、まだ……』
「そっか、それないら良いんだけど、悪いけどさ、メールに書いた内容で『その人は俺の知り合いで連絡したいからと、その友達に伝えて欲しい』って書いたんだ。それを取り消して欲しいんだよ」
『ああ、それは構わないけれど……どうかしたのか?』
「今は仮説の話しか出来ない……だけど、その知り合いに俺の行動が知られると、不味い状況になったんだ。だから詳細が分かったらまた連絡するよ」
『そうか、分かった。何があったかは知らないけど、もしこっちに来る事があれば、宿の予約入れとくよ?』
「ありがとうカール。まだそっちに向かうかは分からないけど、頼りにしてるよ!」
『任しておけ! 涼太』
 会話を終わらせようと思った時、ふと、老婆の言葉が過ぎった。
「あ、そうだ!! ブラジル方面のリオ・デ・ジャネイロ州の方に、極楽鳥の宿って名のホテルがあるらしいんだけど、何か知らないかな?」
 その手の名前のホテルなんか、きっと沢山あるだろう。それに、カールの住む地域は北欧辺りだから、知る訳ないよな、と、ダメ元で聞いてみた。
『リオ・デ・ジャネイロ? ああ……確かにあるよ』
「え、本当に!?」
『うん。オレ、小さい頃、南米に住んでいてさ。叔父さんが経営してるホテルが同じ名前だけど……それが?』
 俺はこの偶然を、心から喜んだ。気が高揚し、思わず声が大きくなる。
「カール!! 悪いけど至急調べて欲しいんだ!! そこに邦人が泊まってるか、内密に聞いて欲しい!! 出来れば名前も」
『分かった、何か手掛かりが掴めたようだな。それじゃまた後で連絡を入れるよ』
「頼んだよ、カール! 俺も、至急そちらに向かう手配するよ」
『グット・ラック! 涼太』
「ありがとう!! カール」

 携帯の通話ボタンを切り、車のエンジンをかけると、自宅への路を気も漫ろに運転する。
(あのお婆さん本物だ、凄い……。こうも言い当てられると、背筋が寒くなる……。それにしても、吉岡さんが敵? それに監禁されてるって……まさか、そんな……)
 嫌な考えが頭を掠める。あんなに良くしてくれた吉岡さんが敵だとは考えたくなかった。
 しかし、麻里が嘘をついているとは、到底思えない。あのお婆さんにしても詳細は知らないから、嘘を言う理由も無い。
 消去法で行くと、やはり疑いは吉岡さんにかかる。
 そう言われてみれば、おかしな所はあった。例え優秀な部下だったにしても、あそこまで親身になって探すだろうか……。仕事の関係だけならば、そこまでする必要が無い。
 それに、俺にまであんなに親切にする必要は、無かったんじゃないか?
 何か……そう、例えば、隼人と立場が逆だったら?
 そうだ……吉岡さんが企業スパイで、隼人がそれを知ってしまったとしたら、間違いなく隼人は上司と言えども、警告するだろう……。
 危機感を抱いた吉岡さんが、隼人を監禁しても何ら不思議ではない。
 そして俺が見つけ出せば、隼人は会社に告発するだろう。裁判だって起こす筈だ。
 そうなったら、吉岡さんの社会的地位は奪われる事になる。

 吉岡さんは、俺の動きを監視していたのか? それならば納得出来る。
 俺の動向が分かれば、隼人を見付けられない様に隠すのは容易い事だ。
 俺を丸め込んでしまえば……。
 でも……出来ればそんな事、あって欲しくない。
 信号待ちで、首を横に振る。
 今なら、その仮説を本当かどうか、確かめる事が出来るかも知れない。



               ――to be continued――

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――いつまでも ずっと――<17>

 ほとんど人が居なくなった店の前に立つと、老婆が「お入り」と、中に促した。
 小さな店の中は、占いの道具がびっしりと棚や机の上にあり、電話がひっきりなしに掛かってくる。
 見かけは怪しいものの、かなり有名な占い師らしく、見るとカレンダーには予約の客だろうか、名前が書ききれない程、ずっと先の月にまでメモされていた。
「ああ、ちょっと待っていておくれ、これじゃ話に集中できないよ」
 そう言うと、老婆は電話の配線を抜き、自分の席に腰を落ち着けた。
「ぼーっと突っ立てないで、そこに座りなさい」
 老婆は、コーヒーを机の上に置き差し出すと、促した。
「あの……すみません、先程は何かご迷惑を掛けたみたいで……」
 俺は、落ち着かない部屋で、そわそわとしながら椅子に座る。
「いや、アタシもあんな風に騒がれちゃ堪らないからね、無料券で騒ぎが収まりゃ安いもんだよ。さぁて、麻里ちゃんも一息ついたみたいだし、どこから話せば言いかね?」
 老婆は、また誰も居ない所を眺めながら、独り言を呟く。
「――ふん、ふん、成る程ねぇ……そりゃ大変だったね。え? 何だって? そうかい、そんなにあんたのお兄さんは……。イカンね、こりゃ急を要する訳だ。分かったよ、今話すから、ちょっと待っておくれ」
 老婆は麻里と話を終えたのだろうか、俺の方を真剣な眼差しで見ると
「さて、お兄さん。涼太くんだっけ? まぁそれは良いとして、あんたが信用するもしないも勝手だがね、お義兄さん危ないよ。今、海外に居て、監禁されてるって」
(監禁!? 向こうで何かの事件に巻き込まれたのか?)
 俺は固唾を飲んで、老婆の話に耳を傾けた。
「相当身体をやられていて命の火が消えかかっている。それを必死にこの子が繋ぎ止めてやっと持っていると言う状態だそうだよ。この子はすぐにでも、お兄さんの許へ戻らなければならない、と言っているよ」
(どうしてそんな事に!?)
 老婆の話に、全身の血の気が引いて行った。
 麻里の事や隼人の事を言い当てられたのもあるが、『隼人が危ない』
 その言葉に、身が凍るような感覚を覚える。
 俺は焦燥感に駆られ、形振り構わず老婆に質問した。
「場所は? 場所はどこですか!? 隼人は今、どこら辺にいるんですか!!」
「それは……ちょっと待っておくれ」
 老婆はそう言うと、大きな水晶玉を覗き込んだ。
「ん~、アタシゃ海外は疎くてね、ちゃんと見えてはいるんだけど……ホテル? ん~、何だか観光地みたいな所に、ポツンとホテルが見えるね」
「それじゃ分からない!! もっと詳しくは!?」
「アンタが探していた場所の空港から南……かなり遠いよ。はいはい、分かったよ麻里ちゃん。ちょっと待って……え? 豚汁?? なんだい? よく解らないよ、それじゃ……このババにも解る様にもう少し詳しく……え? そうかい……もう行くのかい? 頑張りなさい、お前さん達も」
「えっ……!? 麻里は?」
「お兄さんがギリギリの状態だから、晴ちゃんだけではどうにも出来ないと、今、晴ちゃんが迎えに来てね……戻って行ってしまったよ」
「そんなっ……! そんなに隼人は……それで、場所は!? ブラジルのどの辺りなんですか!? せめてホテルの名前が分かれば……」
 目を細めながら、じっと水晶玉を見つめ、老婆は
「何だか……さっぱり分からん! 近くに空港が二つあって、何だろうね海の近くだネェ、ここは。んー……私は英語が読めなくてね……あ! そうだ!!」
 そう言うと突然立ち上がり、 紙と筆記用具を持ってきた。
 また座り直すと水晶玉を一生懸命睨み、何かを書き出した。
『The inn of the bird of paradise』と、もう一つ『Aeroporto Santos-Dumont』
 慣れない文字を必死に書き写したのであろう、文字が歪んでいたが、メモ帳にはっきりとそれは書かれていた。
「――極楽鳥の宿とサントスドゥモント空港? それが隼人の居る場所ですか!?」
「建物の看板にはこう書かれていたよ……」
 そう告げる老婆を見ると、顔面は蒼白になり、かなり疲労しているように見えた。
「すまないね、お兄さん……アタシゃそろそろ限界だよ……。恋愛話ならこれほど力を使わなくても済むんだけどネェ……」
 ぐったりと机に伏す老婆に、これ以上は望めないと思った俺は、財布の中にあった有りっ丈の札を、その皺くちゃの手に握らせる。
「お婆さん、ありがとうございました! それじゃ急ぐので!!」
 老婆はそれを見ると、驚いたような表情をして
「こんなには要らないよ! アンタ、これからお金使うんだろう? お礼は麻里ちゃんに言いなさい、頑張るんだよ」
 力なく微笑み、大きい札を俺に戻すと、残りの小さな札だけをいそいそとバックの中に仕舞った。
 そしてメモ帳を破り、文字を書いた所の切れ端を手渡してくれた。
 会釈だけして急いで部屋を出ようとする俺に、老婆は慌てた様子で声を掛けてきた。
「ちょっとお待ち! 麻里ちゃんが言ってたよ! 吉岡は敵だ、注意しろって!!」
「えっ……?」
 俺はその言葉に驚き、立ち止まった。
「吉岡さんが、敵……? それってどういう事ですか?」
「さぁ、詳しくは分からないよ。なにせ飛び立つ前に、そう言って、行ってしまったからねぇ……」
 老婆は困った表情をして、首を傾げるだけだった。
 麻里がいない今、これ以上は得られる情報も無いと思い、会釈してその場を後にする。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<16>

 街中の一角にある、何処も同じ馬鹿っ高い駐車料金のパーキングに車を止め、人が溢れんばかりに行き交う雑踏の中、俺は、人を避けながら目的地に急ぐ。
 途中、若い女性ばかりが集い、長蛇の列を作っていた。
 視線を移すとその先には、小さな看板が掲げてあり、占いの文字が記してある。
 俺は、下らない事に時間を費やすものだと半ば呆れつつ、その横を通り過ぎる。

 一通り買い物を終え、車に向かう為に、またその横を掠めようとした瞬間だった。
「ちょっと、お兄さん!! 待っておくれ!!」
 何か引っ張られるような感じがして見ると、背丈の小さな老婆が、俺のジャケットの端を掴んで、呼び止めていた。
「あの……俺、急いでますから……」
 見るからに怪しい出で立ちをした老婆に、俺はそう言うと立ち去ろうとした。
「お待ちなさいな、お兄さんさ!! こっちは商売あがったりなんだよ! さっきからアンタの後ろに憑いていた女の子が煩くてね! 勘弁して欲しいのはこっちなんだよ」
 俺は訳が分からず、眉間に皺を寄せながら、その老婆を見る。
「お兄さんさ、さっき店の前を通ったんだろう? その時からその子が私の耳元で『涼ちゃんを引き止めて!! 話をして!!』って、何度も何度も煩いんだよ。お陰でこっちは集中出来なくて、他の人の占いどころじゃ無いんだよ、分かるかい?」
 俺は驚き、目を瞠った。何故俺の名前を知ってるんだ、と疑問に思う。
 しかし、何かの詐欺かも知れないと思い「そんな女の子なんて、知らないですよ」と、シラを切り、やり過ごそうとした。
 その老婆は溜息を吐き、誰も居ない所に向かい視線を落とすと、独り言を呟いた。
「この子、可愛そうに……。元、天使だったんだろうねぇ、もう羽がボロボロでアンタの前にすら姿を現せないほど衰弱してるよ……。ああ、分かったから、ちょっと待ってておくれ、麻里ちゃん。アンタの旦那様は、相当、疑い深いみたいだからねぇ」
 その言葉を聞いて俺は、頭から背筋に向かって、電流が流れたような衝撃を受けた。
 余りの唐突な出来事に、無言で老婆を凝視していた。
「やれやれ……やっと話を聞く気になったみたいだね、お兄さん。今、他のお客さん帰すから、ちょっと此処で待ってておくれ」
 老婆は、しっかりとした足取りで小さな看板の店に立ち、長蛇の列に頭を何度も下げていた。そして一度店に戻ると、手に何かを持って配っている。
 それが終わると、準備中の札をドアの前に掲げた。
 すると長蛇の列は、まるで蜘蛛の子を散らすように、どこともなく消えていった。
 しかし、二人組みの女子高生と思しき一人が俺を睨み付け、肩に力を入れながら、これ見よがしに、俺の横をゆっくりと通り過ぎながら大声で喚く。
「ったく!! 信じらんなーいっ!! 遠くからわざわざこんな所まで来たのにィィ!! ここのおばぁちゃん、良く当たるですんごい有名だから、予約大変だったのにさぁー!! ホント、マジ勘弁だよねっ!! 超ムカツク!! 何ぃ、この人だけ、ずるくない?」
 不満を俺にぶち撒けてもスッキリしない、そんな表情をする。
 それに賛同してか、相方も俺をひと睨みすると、鼻息を荒くしてフン、と、顔を横に背け、もう一人と目線を合わせながら、これまた、周りに響くような声で話す。
「ホント、信じらんなーい!! 私達すごく楽しみにしてたのにぃ!! こんな割引券ぐらい
じゃ割に合わないよねっ!!」
 何事かと、周りの人が注目する中、老婆がちょこちょこと早足で、その娘達に近寄ると何か紙切れのようなものを差し出し、日にちを記入していた。
 それを見た二人の表情が変わる。
 怒りに満ちた表情をしていた二人だったが、途端に笑顔になり、声までもが変わった。
「やった!! お兄さんのお陰で得しちゃった!! サンキュ!!」
 キャッキャとはしゃぎながら、長い髪を揺らすと、足早にその場を去っていった。
 老婆は「やれやれ」と、短く溜息を吐き、俺を見上げた。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<15>

長いこと更新が滞り、申し訳ありませんでした。
諸事情により更新する事が難しい事態に陥り、今日まで放置してしまいました……。
楽しみにして頂いている皆様には、大変申し訳なく感じております。
この話も無事に全て完結しました。よって、今まで通りお昼の自動更新に戻したいと思います。
楽しんでいただければ幸いと思います。
それでは続きをどうぞ^^



************************************** 

 北風が身に染みる季節。吐いた息が白む。
 街はまた華やかにネオンに彩られ、クリスマスが近い事を知らせていた。
 隼人が失踪してから、もう、二年と言う月日が過ぎようとしていた。
 仕事を終え帰宅すると、誰も居ない居室に電灯を灯す。
「ただいま……」
 返答が無いのを承知で呟く。『お帰り』と、隼人の声を心の中で思い出しながら……。
 挫けそうになる。全てを投げ出し、楽になりたいと思う時もある。
 でも忘れられない。隼人がくれた幸せだった日々を……。
 一緒に過ごした日々は、僅か一年足らずだった。
 だけどその年月は、俺の人生の中で、麻里と晴がくれた日々も合わせて、人生の全てだったと言っも過言ではない。
 桜井兄妹は、俺にとって、何よりも大切な存在だった。
 ――――涙が頬を伝う。
(俺、随分泣き虫になったな……これじゃ晴に笑われるよな、しっかりしないと!)
 涙を拭い、いつものようにパソコンを開ける。
 メールチェックしてみると、現地で親しくなったカールからメールが届いていた。
 カールは、俺がよく利用したホテルの従業員で、自分も兄弟が行方不明になり亡くなったからと、俺の事を気にかけてくれるようになっていた。
 早速、メールボックスを開き、内容を確かめる。

<<涼太、元気か? 最近こっちに日本人が訪れることが多くなったよ。
 ところで、話は変わるけど、君の兄貴とは違うが、前にその兄貴と一緒に居た人がこっちに来ていると、ボーイをしている友達から連絡があったんだ。
 前に凄い額のチップ貰ったからよく覚えてるって。だから、これは間違いないと思うよ。
 その人が泊まってるホテルに、もう一人、痩せていて、背丈はそう大きくない、ラフな格好をしたアジア系の男が後からやって来て、どこかに行ってしまったと言っていたよ。
 何か手掛かりになるといいな。それでは幸運を祈る!  カールより>>

 俺は、その内容を何度も復唱した。
 隼人と一緒に居た人と言えば、吉岡さん以外に思い浮かばない。
 でももう一人、アジア系の男がいる。
 俺の中で、何かが引っかかった。
(今回の事は吉岡さんからは聞いてない……。急な出張か、それともプライベート?)
 吉岡さん本人に聞こうとも思ったが、急な仕事で俺に知らせる暇が無かったのかもと思い、取りあえずカールにメールの返信をする。

<<カール、俺は元気だよ。いつもありがとう、助かるよ。
 ところで、その人達は何処に行ったか、詳細は分からないのかな? 
 ホテルに戻ってくる予定は? もし戻る予定があるなら、何時頃なのか、教えて欲しい。
 その人は俺の知り合いで、連絡したいからと、その友達に伝えて欲しいんだ。友達にもチップは弾むから! 
 近いうちにまた、そっちに行くかも知れないから、よろしく頼むよ。 涼太より>>

 パソコンの電源を落とし、もしもの時に備えて海外へ行くための準備をする。
 もしかしたら、吉岡さんが何かを掴んで、現地に赴いた事も考えられる。
 しかし、俺に糠喜びさせないように、わざと連絡しなかったのかも知れない。
 旅行用鞄を開けると、足りないものが幾つもあった。その中の一つは海外用の変電器だ。
 前に行った時に忘れて来てしまったらしく、カールに聞いてみたが、無いと言われ、荷物を探ってみたのだが、失くしてしまっていたようで見当たらなかった。

 それは街中にしか売っていない品物で、ノートパソコンを使うには必要なものだった。
 最初の渡米から帰った時に、携帯も海外対応のものに買い換えてはあった。
 しかしパソコンが無いとかなり不便だ。
 面倒だと思いながらも、財布だけをジーンズの後ろポケットに突っ込み、車に乗ると買い物へと出かけた。



                     ――to be continued――


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