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――いつまでも ずっと――<57> 最終話

「……それで、隼人はもう、日本に帰った……らしい」
 部屋には重い空気が漂う。壁に掛けた時計の音だけがカチコチと響いた。
 何度か衣擦れの音がする。カールは足を組み替え、天井を仰いでいる。
 リチャードは腕を組み、テーブルの上に置いてあるマグカップを凝視していた。
 きっと二人は俺の為に何か出来ないかと、考えているに違いない。
 それを申し訳なく思ったが、今の俺は言葉がうまく出てこない。ただ項垂れているだけだった。
 暫く時計の音だけを聞いていた。すると、時間を知らせるメロディーが静かに流れる。
 それを合図にしたように、リチャードはカールと顔を見合わせると頷き、俺に問う。
「涼太、君はどうしたい?」
 どうしたい――と聞かれても即答できる筈も無く、口篭らせた。
「……俺は、隼人がもうここにいない以上……君たちの世話になる訳にもいかない。でも、日本に帰っても……」
 まるで錆びたナットを必死に回して、部品を分解しようとしているようだ。
 いくら必死になっても、そのナットは回ろうとしないのと同じで、考えが固定されてしまい、ネガティブな思考に囚われる。
 日本に帰っても、隼人にはもう、俺は必要じゃないのかと――。
 俺は行き場を失った、沈没船にでもなった気分だった。
「日本に帰っても」
 リチャードが続きを言おうとした時、カールがそれを制し、口を挟む。
「涼太、オレも行くから」
 その言葉の意味が理解できずに、カールをじっと見つめる。
 リチャードは最初、驚いたように目を瞠っていたが、カールに笑顔を向けた。
「そうだね、君も一緒に日本に行ったほうがいい。正直私も、このまま涼太を一人にするのは気乗りしなかったんだ」
「だからオレもそう思って。どうせまた日本に研修に行かなきゃならなかったんだ。少し時期を早めたって良いよね?」
 カールはそう言ってリチャードに笑顔を向ける。
「え、いや、そうしたら君達は離れ離れになっちゃうじゃないか。そんなの……」
 カールはリチャードと顔を合わせると頷いて、オレに視線を移す。
「涼太、オレはね、どのみち研修に行く事になっていたんだ。本当は一年後だったんだけどね。だけど、時期を早めるのなんて大した事じゃないし、今までだってオレ達は距離的にはそんなに近いところにいた訳じゃない。だからそんな事は気にしないで、一緒に日本に行こう、涼太」
 カールは俺の手を握り締め、満面の笑みを浮かべる。
「だけど…………」
 チラリとリチャードを仰ぎ見たら、カール同様、笑みを浮かべて
「なに? カールが君に言い寄るとでも思ってる? それだったら心配要らないよ。私達の絆はそんなに浅いものじゃないからね」
 おどけた表情をして、カールにウィンクを投げた。
「そうだよ。オレ達はどんな障害も乗り越えてきた。確かにオレは涼太の事は気に入ってるけど、そういう意味の『好き』じゃないから、安心して」
 カールもまた同様にして、俺にウィンクを投げる。
 二人の気遣いは嬉しくもあるが、俺の為に二人が離れ離れになるのは心苦しい。それに、明日にでも身を投じようと決意した心が揺らいでしまう。
「カール、リチャード。本当にありがとう……でも、俺、一人で頑張ってみる。例え隼人とはこれから先、逢えなくなるとしても、出来るだけ前向きに考えるように……」
 こう言えばきっと、ついて来るとは言わないだろうと思った。
 そうしたら二人は俺が居なくなっても日本に帰ったと思い、探したりはしないだろう。
 だが予想に反し、二人は顔を見合わせた後、俺に視線を向ける。
 カールは俺の手を一段と強く握った。
「そう、か。でも涼太、少しの間、オレも同行しても構わないだろ?」
「どうしてそんな……。俺は一人で帰れるから、そこまでしてくれなくても……」
 カールは首を振る。
「さっきも言ったけど、どのみち日本へは行く事になっていたんだ。君にガイドを頼みたい。それでもダメ?」
 カールは困ったような笑顔を向ける。
 きっとそれは本心ではないのだろう。そう察しが付くのはカールが以前、日本に留学に来ていたと話していた事と、心配しているような瞳を俺に向けるからだ。
 リチャードはそんなカールを暖かい眼差しで見守り、俺に視線を向けた。
「涼太、私からも頼むよ。日本でカールをサポートして欲しい。慣れない土地で何かあったら、それこそ頼りにでるのは君だけなんだ。引き受けてはもらえないのかな?」
 リチャードの言葉は、カールを気遣っているようで俺に向けての言葉だった。
 彼らの親族が経営するホテルは、世界各国に支店がある大規模なものだ。
 その中で『頼れるのは君だけ』などと言う事は有り得ない。
 どうやら二人は俺の心中を察しているようだ。
「……君達はまるでエスパーみたいだ」
 思わず呟いた一言に、カールが答えた。
「それは違う。涼太はね、とても感情が豊かなんだ。だから、見ていれば分るよ。君の恋人も、涼太のそんなところに惹かれたんじゃないかな?」
 続けてリチャードも
「そうだね、君は本当に感情が豊かで人間味が溢れている。だからとても魅力的なんだ。大丈夫、カールがきっと君の力になってくれるはずだから、もうそんなに思い詰めた顔をしないで。ね?」
 やはり完全に見抜かれていた。この二人には敵わない――。
「――分ったよ、カール。リチャードも……ありがとう」
 ぽたりとカールの手に、俺の落とした雫が弾けた。
 カールはそっと俺の肩を引き寄せ、またハグをしてくれた。
 二人の暖かさに触れ、俺は新たに決意をする。
 もう何があろうと、決して自ら命を絶つ事を考えるような馬鹿な真似はしない、と。
 この異国の地で知り合った、何ものにも代えがたい友の為に――。
 例えどんな結果が待っていようとも、大切な人たちが教えてくれた愛情を胸に、俺は自分らしく生きて行く。いつまでもずっと隼人を想いながら――。


 それから間もなく、俺とカールは日本へと飛び立った。


important as the same ――いつまでも ずっと――   涼太編 FIN


長らくご愛読いただきまして、誠にありがとうございました^^*
これで『important as the same――いつまでも ずっと――涼太編』は終了となります。
この子は語りがとても遅かったので、本当に苦労しました^^;
長かった……本当に長かった><
途中何度挫折しそうになったことか(遠い目)
暫く寝かせていた期間もあって、最初の方と中篇と最後の方で、なんか文章が変わってきちゃって、読みにくかったと思います^^; 
しかし、無事に終えることが出来まして、本当に感謝感謝です!
これはひとえに、読んで下さる皆様が居たお陰です。
本当にありがとうございました!

次回は最終章、隼人編になります。
最後までこの子達の物語を見届けて頂けると、作者冥利に尽きます><///
それでは、また近いうちにお逢いしましょう^^ノシ 

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――いつまでも ずっと――<56>

 スージーの家を出てから、どうやって帰って来たのかも覚えていない。
 薄明かりの射す部屋に、ただぼんやりと座っていた。
 どれくらい時間が過ぎたのだろう、気が付けば部屋の中は真っ暗になっていた。
 俺は何もする気が起きないないまま、カーテンが引かれていない窓の外を眺めていた。
 自分の姿が不透明に映る。
 その瞬間、隼人との思い出が駆け巡った。
 麻里に言われて、二人が互いの想いに気が付いた日も、静かな夜だった。
 あの日は、ちょうどこんな風に膝を抱えて、同じように外を眺めていた。
 約束していた小林は来なくて、代わりに隼人が現れた時には本当に動揺し
た。堕ちた俺を見て、きっともう愛想を尽かされたと思っていた。それなのにあいつは、そんな俺を心配して……。
 隼人や麻里の気持ちを知った時、俺はどんなに救われただろう。
 麻里には申し訳ない気持ちもあった。
 きっと俺は最初から、隼人の事が好きだった。
 だけど同性だからと、本心を見ないようにしてたんだろう。無自覚のうちに――。
 それは隼人も同じだったみたいだ。
 案外、俺たちは違うようで、似ているのかも知れない。
 いや、似ていた……それはもう、過去形になってしまった――。
 意識を取り戻した隼人は、まるで別人だった。俺を見ても全然分らない様子で……。
 あんな他人行儀な隼人を見たのは、初めてだった。あれは演技なんかじゃない、紛れもなく本心だろう。薬に侵されていた時でさえ、俺の事は覚えていたのに――。
 何が原因なんだろう……。やはり薬の影響なのだろうか。
 それよりも――。このまま隼人とは……もう逢えないのだろうか。
 逢ったとしても、隼人の記憶が戻るとも限らない。俺の記憶が無い隼人はきっと、あの日のように戸惑うだろう。
 そうしたら俺はただ桜井家に迷惑を掛ける存在でしかない。
 せっかく助かった命なのに、また俺が関わる事で何か起きないとも限らない。
 俺は……きっと義父の言うように、疫病神だ……。
 ならいっその事……ここで諦めた方が隼人のためにも――――。
 そして日本に帰らないまま、この地で果ててしまえば、この苦しみからも解放される。
 どうせ俺みたいな人間の一人くらい、いてもいなくても構わないはずだ。
 世の中には沢山の人が居るんだ。俺一人が消えたくらいで、何が変わる訳じゃない。
 明日にでもここを出て、海でも川にでも身を投じてしまえばいい――。
 そんな事を考えていたら、不意に携帯が鳴る。着信の相手をぼんやりと見ると、それはカールからだった。
 携帯のボタンに指を乗せるが、誤って落としてしまい、そのまま着信音は途絶えた。
 落ちた携帯を眺めていたら、また着信音が流れる。
 それを拾い上げようとしたら、視界が滲んでよく見えない。
 気が付けば床に頬から伝った涙が、ポタポタと零れ落ちている。それを拭う事も出来ないまま、揺れる視界の中で点滅するランプを眺めていた。
 そうしているうちに、いつのまにか着信音は途絶えてしまっていた。

 暫くして、玄関のチャイムが鳴る。
 その前に車の排気音が聞こえたから、多分、カールが心配して来てくれたのだろう。
 鉛のように重たい身体を引きずり、ドアを開けた。
「っ!」
 カールの息を呑む音が聞こえた後、身体をぎゅっと抱きすくめられる。
「涼太、そんな酷い顔をして……また、何かあったんだね?」
 カールの温もりで徐々に頭がハッキリしてくると、自然に涙が頬を伝っていた。
「っ……俺、もう……どうして良いか……、分らな……っ」
 カールは俺の言葉に頷きながら、あやす様に背中を摩ってくれた。
 頭に温かい掌がふわりと乗せられる。カールとは別の大きな掌だった。
「涼太、良かったら私達に話を聞かせてくれないか?」
 リチャードの声が頭上から聞こえた。二人とも、心配して駆けつけてきてくれたようだ。
 いつも心配ばかり掛けさせてしまい、情けなさも重なると涙が止まらなくなってしまっ
た。嗚咽を漏らす俺を、二人は落ち着くまでそっと見守っていてくれていた。
 人の温もりと言うものが、こんなにも安心するとは思っていなかった。
 俺は小さい時から、父や母に抱きしめてもらった記憶が無い。だから、初めて温もりを知った時は、幸せで胸が一杯になったものだったけれど、それは大体、恋愛の中の出来事であって、こんな風にただ抱きしめられるという事は皆無だった。
 俺はまるで子供に返ったみたいに、泣きじゃくっていた。
 背中を摩られているうちに、段々と落ち着きを取り戻す。いつも甘えてばかりで、申し訳ないという気持ちが胸中を占めると、ようやく涙を堪える事ができた。
 俺は掠れる声で
「……ごめん、中に入って。今、コーヒー淹れるから」
 それだけ言うのが精一杯で、キッチンへと向かう。
 ぐずぐずになった顔を洗い、コーヒーをマグカップに注ぐとリビングへと足を運ぶ。
 二人の前にそれを差し出し、向かい合わせのソファーに腰を下ろした。
 カールが心配そうに俺を見た。
 俺は錆び付いた頭を必死に動かして、言葉を紡ぐ。
「いつも甘えてばかりで……ごめん」
「そんなのは気にしないでいいから。それより何があったんだ? オレ達に出来る事はある?」
 カールとリチャードの優しさが伝わると、また泣きそうになってしまう。
 だけどそうしたら、更に心配を掛けてしまうだろう。
 震える喉を押さえつけるように、俺は病院であった出来事を、ぽつり、ぽつりと話した。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<55>

 ようやく定時に上がれて、急いで身支度を整えるとバスに乗り込む。
 見慣れた道を駆け足で走り抜け、病院に着いて一息ついた時だった。
 人影が目の端に映り、振り返るとスージーがそこに立っていた。
 いつもの白衣ではなく、私服で俯いている。
 その様子が俺の胸中に、どんよりと薄黒い影を落とした。不安な気持ちを振り払うように、勤めて明るく声をかけた。
「あ、スージーさん。今日はデビットさんとデートでも?」
 スージーはハッとして俺を見上げた。
 俺は微笑んで見せようとしたが、口の端が少し引き攣ったようになってしまった。
 でも、そんな俺の姿など見ていないようで、視線を落としたまま首を横に振る。
 俺の不安は更に広がる。
「待ってたの。リョウタ、外で……話しましょう?」
「え……?」
 スージーの声が曇っていた。心なしか震えてるようにも聞こえる。
 雰囲気で嫌な予感を察した俺は
「隼人に……何かあったんですね?」
 辺りをキョロキョロと窺い、誰もいない事を確認してからコクリと小さく頷くスージーに、俺の意識が遠のいて行った。
 仕事に気が乗らない時に、いっそ休みを貰って病院に行けばよかったと後悔しても、時既に遅しとはこの事だ。
 軽く眩暈を起こし、その場に倒れ込みそうになるのを、必死で堪える。
「リョウタ……顔色が悪いわ。大丈夫?」
「ええ。それよりスージーさん、もしかして、ずっと俺が来るのを待っていてくれたんですか?」
「そう。貴方の連絡先、分らなかったから。携帯の番号を聞いておけば良かったわね」
 そう言って、ぎこちない笑みを浮かべる。
「すみませんでした、俺も気が付かなくて……。でも、隼人の入院の時に、ここの病院に連絡先を渡した筈なんですが……」
「ええ。でもそれはもう抹消されていたから……」
「そう、だったんですか」
 スージーは自分の職場で個人情報を漏洩する事が、どんな結末を迎えるか承知の上で来てくれたのだろう。
 それも俺がいつ来るかも分らないのに、ここで待っていてくれた。
 スージーは辺りを窺うと、小声で
「それより……、もうここを出ましょう?」 
 気が動転して、そこまで気遣う事ができなかった自分を恥じ、頷いた。
 俺はスージーの後に付き、縺れる足と戦いながらその場を後にした。

 病院の玄関前には、スージーのミニクーパーが停まっていた。
 運転席にはデヴィットが座っている。スージーは助手席側のシートを前に倒し、後ろに座るように促した。
「狭いけど、ごめんなさいね」
「いえ……。お邪魔します」
 デヴィットも浮かない顔をしている。俺の心境はそれだけで、地に落ちてしまいそうだった。
「リョウタ……家に行くから」
 それだけ言うと、デヴィットはハンドルを握った。
 車窓から流れる景色を見るともなしに眺めていると、スージーのアパートに着く。
 無言のままの二人に、部屋の中へと促される。ソファーに座るように言われ、それに従った。押し黙る二人に耐えられなくなった俺は、意を決して声を出す。
「……隼人に何があったんですか?」
 スージーは暫くデヴィットに視線を送っていたが、デヴィットが頷くと同時に重い沈黙から口を開いた。
「……リョウタ、気をしっかり持ってね?」
 ゴクリと唾を飲み込んだ。嫌な予感しかしない。まさか、と思い恐る恐る問う。
「まさか……、隼人の容態が変わったん……ですか?」
 声が掠れて震える。その様子を見ていたデイビットは首を横に振って「いや、それは無いから……」と、フォローを入れる。その言葉に安堵の息を漏らしつつ、スージーに視線
を向けた。すると困ったように眉根を寄せ、囁くように話す。
「あのね……Mr.サクライは、転院したのよ」
「え? どういう事ですか、それ!」
 驚きのあまり、ソファーから立ち上がる。
「どうして、そんな事に……?」
「リョウタが帰った後、彼は幻覚症状を発症してしまって……。うちでは診られないってDrが家族に話したら、日本に連れて帰るって……」
 意識を回復したからと言って、すぐに動けるような状況じゃないのは、素人の俺でさえ分る。隼人は一ヶ月以上寝たきりだったのだ。
「え……、そんな無茶な! 隼人はまだ目覚めたばかりで」
「ええ、勿論Drは止めたわ。他の病院を紹介するからって。でも……。今日の、午後の便で……」
 そうまでして隼人の両親は、俺に会わせたくないと言う事だろうか――。
 絶望感に打ちひしがれ膝が折れたようになり、ガクンとソファーへと腰を下ろした。
 スージーは俯き「力になれなくて、ごめんなさい」と、呟いた。
 俺は首を横に振るしか出来ずにいた。まるで夢の中の出来事のように、身体が重い。
 そんな俺を励ますように、デヴィットは肩をポンと叩く。
「リョウタ、でもMr.サクライは意識が戻ったんだ。これから記憶を取り戻すかも知れない。君も帰国した方が良いんじゃないかな?」
 確かにデヴィットの言う通りなのだが、多分、隼人の両親はそれを危惧して引っ越してしまうだろう。
 携帯電話は既に違う番号になってしまって繋がらないし、帰国したとしてもまた一から出直しだ。
 俺は途方に暮れて、返事すら出来なかった。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<54>

 次の日も仕事を終えた後病院に足を運び、いつもの花屋に寄り、隼人が好きそうな花を選ぶ。
 カールが言っていた様に、ドア越しでも良いから声を掛けようと思った。
 もしかしたら記憶が戻らないかも知れないけど、それでも何もしないより可能性はあるはずだ。
 自分に言い聞かせ、病室の前に立つ。
 緊張で手足が震えるのを堪えて、そっと呼びかけてみた。
「……お義母さん、失礼を承知で来ました。でも、俺、諦められないです」
 当然、返事は無い。それでも、呼びかけた。
「隼人。俺、来たよ。早く体調、戻すように頑張れよ」
 花束をその場に置き立ち去ろうとしたら、中で物音がした。
 心拍数が上がり、高揚する気持ちを抑えながらその場に留まる。
 コツコツと靴音が近付き、ドアの前で止まった。
「……涼太くん、お願いだから……もう、来ないで……」
 掠れるような義母の声だった。
 頭から血の気が引き、眩暈を覚える。
 確かに義母の心情を想うと、自分がしている事が正しいか分らない。
 ――それでも。
「…………ごめんなさい、お義母さん。俺には、隼人が……掛け替えのない人なんです。だから、せめて声だけでも……」
「……あなたが、そんなだって知っていれば……麻里をお嫁に出したりしなかったのに! 麻里は何のためにあなたに尽くしたの? あの子が可哀想過ぎるわ……」
 その言葉を聞いた時、視界がブラックアウトした。
 何も言えずに佇んでいると
「……もう、帰ってください!」 
 義母はそれだけ言うと、靴音は足早に遠のいていった。
 俺はもう一度、声を掛けようとした。が、中で隼人の叫び声が聞こえた。
 何事かと耳をそばだて居ていると、暴れているのだろうか、何かが割れる音が聞こえる。
 心配になり、俺はドアにへばり付くように様子を伺っていた。
 バタバタと廊下から足音が近付いてきて、隼人の病室前にナースが立つ。
「あなたは?」
「俺は……」
 それを中で聞いていたのだろう、義母は叫びにも似た声で
「早く先生を! 隼人が暴れているんです!! その人は無関係ですから、決して中には入れないで下さい!」
 それを聞くとナースは俺を睨み付ける。
「治療の邪魔になりますので、お引取り下さい」
 そう言い残し、足早にステーションに戻って行った。
 隼人が暴れてると聞き、心配で仕方が無かった。しかしどうする事も出来ずに、仕方なく俺はその場を後にして、病院を出た。



 それからは隼人の様子が気になって、うわの空で仕事も手に付かない。
 アメリカという国は、州によって車検制度が異なる。俺がいる州は排気ガスのみの点検が義務つけられているだけで、後はオーナー任せだ。自己流でメンテナンスする人も結構いる。中にはただの使い捨てと考えている人もいるようだ。
 その日持ち込まれた車は最悪の状況だった。エンジンオイルなんか殆ど交換していなかったのだろう、部品が溶けて焼き付く寸前だった。他にもブレーキパッドの消耗が激しかったり、電気系統の不具合など、とにかく日本では車検がとても通るような状況ではない。よくここまで来れたと思うくらい、ボロボロだった。
 買い換えた方が良さそうな状況にも関わらず、そのオーナーは愛着があるからと修理を依頼してきた。俺はその車を担当する事になり、丸二日を費やした。
 部品の交換とオイル交換を済ませて、そのオーナーへ無事に引き渡した……つもりだったのだが、翌日、クレームが付いた。
 オイルドレーンの閉め忘れだろう、ボルトが外れていてオイルが大量に漏れ出してしまっていた。そのお陰でエンジンが一部、焼きついてしまっていた。
 ボルトは一度手で回してから、工具で締める。その、工具で締める作業をすっかり忘れていた。こんな初歩的なミスをしてしまうくらいに、俺の意識は散漫だったのだ。
 今回はオーナーに部品代を出させる訳にはいかない。
 全て手作業でオーバーホールするハメになった。
 それから残業続きになって面会時間に間に合わない日が続いていた。自分のミスを他にフォローさせる訳にも行かず、ただ焦燥感だけが募って行く。
 車を持ち込まれてから三日を過ぎた頃、修復が完全に終わった。俺は約五日、病院に行く事が出来ずにいたのだった。



               ――to be continued――


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――いつまでも ずっと――<53>

 廊下を駆けて、階段を転げ落ちるように降りると、デヴィットが驚いたように夜間通用口に立っていた。
「どうした!? 何かあったのか?」
「……ごめんなさい、今は……何も……」
 デヴィットは俺の様子を察してくれたのだろう、静かに背中をあやす様に摩った。
「……すみま……」
 声が震えて、うまく言葉に出来ない。
「……また、来るといい、リョウタ。俺も協力するから」
「あ……ありがと……ござ……」
「今日はゆっくり休むがいいよ、気をつけて、な?」
「……はい…………」
 デヴィットは通用口の鍵を開けると、心配そうに見送ってくれていた。
 俺はその視線が気になりつつも、隼人の事だけが頭を支配し、何も出来ずにいた。
 蹲って泣きたくなる衝動を、必死に堪えて病院を出ようと正面玄関前を歩いていた時だった。一筋のヘッドライトが見えて、その横を過ぎる。
「涼太!」
 不意に声を掛けられて、その車を確認すると赤いロータス・エリーゼ・111Rが見えて、誰かと運転席に目をやる。
 ウィンドウが下がりその顔を見た途端に、不甲斐なく泣き崩れてしまった。
 笑顔だったカールの表情は、驚いたように瞠目する。
「りょ、涼太!? どうした、何かあったのか!?」
 カールは慌てて運転席から降りると、俺をそっと助手席に案内した。
 助手席に身を置くと、溢れ出る涙を止められずに拳を握る。
 カールはそんな俺を気遣って、暫くは無言だったが、ぽつりと口を開いた。
「……バス、もう無いと思ったから、迎えに来たんだ。今日、リチャードは当番で出られないからって連絡あって……。涼太……恋人に逢えなかったのか?」
 その問いに、首を横に振った。
「……そうか。何かあったんだな?」
 コクリと頷いた。話そうと思っても喉が痙攣して、声が出ない。
 カールはそれからハンドルを握るとエンジンを掛ける。
 スポーツカーの心地良い振動が伝わった。
「取りあえず、家に帰ろうな」
 ギアを入れると車はゆっくりと走り出す。車内は、家に着くまでずっと、エンジン音と排気音が聞こえるだけだった。

 寮の前に車を停めると、カールは助手席のドアを開けて俺を支えながら玄関前に立つ。
「涼太……オレで良かったら話してごらん?」
 カールの顔をまともに見られないまま、頷いた。
 ぼんやりとする視界を拭い、ポケットに手を入れて鍵を取り出すと扉を開ける。
 カールはそのまま部屋に入ると、俺をソファーに座らせ、向かい合わせの席に腰を下ろす。
「……カール、ごめんな……」
 震える喉をやっとの思いで抑え込み、蚊の鳴くような声で言うと
「……大丈夫だよ。落ち着くまで待ってるから。ちょっと冷蔵庫、見ていい?」
 俺が頷くと、カールは席を立ち、キッチンに向かった。
 少ししてから香ばしい紅茶の匂いが沸き立ち、ミルクの香が漂う。
 マグカップを一つ俺に手渡すと、カールはまた向かいに座りそれを一口含む。
「ホットミルクは落ち着くけど、オレ、ミルクだけってのは苦手でさ。ごめんな」
「……いや、俺も同じだから……。ありがとう」
 微笑むカールに促され、俺もそれを口に含んだ。
 芳香な紅茶の香りと、まろやかな風味が心地良く喉を通る。
 俺はカップを両手で包むと、ぽつりと声を発した。
「隼人が……目を覚ましたんだ……」
「そうか! 意識が戻ったんだね?」
「でも……記憶が……。俺の事……、憶えてなかった……」
 それ以上話せなくなって、下を向いた。
「……涼太……」
 カールの哀れんだ声が、頭上から聞こえた。
「でも……一時的なものかも知れないよ? また、そのナースに逢わせて貰うようにオレが掛け合おうか?」
 俺は首を振った。
「涼太……気持ちは分かるけど、このまま……って言うのは……」
 心配そうに覗き込むカールに、はっとして
「違う、よ。それは勿論、自分でスージーさんに言うから……」
「そう、か」
「問題は……意識を戻した隼人を、儀父母がどうするか……」
「ああ……」
「まだリハビリが必要になると思うし、急にはどうこうしないとは思うけど……」
「そうだね。でも、その間に記憶を取り戻せるように、涼太が通えば良いよ」
「……でも、中には入れてもらえない」
「だから。声だけでも聞かせるんだよ」
 カールの発言に、はっとした。前に見た医療系の番組で、意識の無い人が家族の声には反応する、と言うものがあった。
 症例は違うかも知れないけれど、声で思い出してくれるかも知れないと、思い直した。
「……そっか、そうだよな?」
 一人では悶々としてしまいそうだった。またネガティブに囚われて、止まってしまいそうだった思考を取り戻す。
 カールが居てくれた事に深く感謝した。
「ありがとう……カール。君のお陰で、少し、希望が持てたよ」
 そうは言っても、やはり不安な気持ちは払拭できない。
 それが表情に出ていたのだろう。カールはソファーから立ち上がると
「……涼太、本当にどうして君ばかり、こんな目に……」
 綺麗な碧眼を潤ませて、俺にハグをした。
 砕けてしまいそうだった心を暖めてくれる、カールの温もりが嬉しかった。
 それからカールは心配だからと、俺の部屋に留まってくれた。
 独りでいたらまた、悶々としてしまっていただろう。
 カールとリチャードは生まれこそ違うけれど、自分の兄弟のようにも感じる程になっていた。
 この二人に出会っていなければ、俺はこの重い現実を、乗り越えられなかったかも知れない。



               ――to be continued――


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