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主に長編BL小説置き場です。BLの意味が分らない、または嫌悪感がある方は速やかにブラウザバックでお願いします。

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――扉を開けて――<35> 最終話

 翌朝、無理をさせてしまったせいか、涼太はまだ俺の隣で寝息を立てていた。
 長い睫毛を伏せて寝ている姿は、相変わらず可愛い。
 俺は涼太の頭に顔を埋め、硬めの髪の感触を愉しむ。
「ん……、あ、おは、よ」
 眠りから覚めた涼太が、少し掠れた声を出す。それは昨夜の情事の激しさを物語っているようで、俺の胸は高鳴ってしまう。
 しかし、朝っぱらからそんなこともしてられない。
「おはよ。よく眠れたみたいだな?」
 頬にキスを落とし、ベットから出るとキッチンに向かう。
 ペットボトルの茶を二本取り出し、また部屋に戻ると片方を涼太に差し出した。
「あ……、ありがとう」
 昨日の事でも思い出したのか、涼太は恥ずかしそうにしながらそれを受け取る。
 そんな涼太が可愛らしく愛しくて、髪にキスを落とす。
「どういたしまして」
 俺は涼太の隣に腰を下ろし、喉を潤すとスッキリと目覚めた。
 涼太もベットから上半身を起こし、それで喉を潤していた。
 二人して息をつくと、顔を見合わせて微笑み合う。
「涼太、今日仕事は?」
「ん、休み。隼人は?」
「俺も。なんだ、だったらまだ起きる事もなかったな」
 俺は涼太を抱き寄せると、唇をちゅっと軽く啄ばみ離れた。
 涼太は頬を染めながら
「そっか、じゃあ今日はゆっくり出来るんだ?」
「ん、そうだな。たまにはずっとベットで過ごすって言うのも、悪くないよな?」
 俺がそう言うと、涼太はクスクスと笑う。
「本当に記憶が戻ったんだな。前の隼人は遠慮がちで可愛かったのに」
「なんだ? 不満、なのか?」
「いや、そうじゃなくて……。本当に隼人なんだなぁって、実感してる」
 涼太は本当に嬉しそうに微笑んだ。それが『前の俺』に哀れみを感じさせた。
 あの時はあの時なりに頑張っていた俺だけど、やはり長い時間を共に歩んできた俺には敵わなかったらしい。嬉しいやら悲しいやら、複雑な気持ちになる。
「前の俺も、俺だけどな」
「隼人はさ、高校に入るまでずっとあんな感じだったのか? 最初は調子が狂っちゃったよ、敬語でしか話してくれないし……」
「ああ、そうか。いや、ずっとって訳じゃない。俺は目上には敬語で話すようにしてたからな。弓道の教えが身体に染み付いてて……それで敬語だった」
「それじゃ、俺を年上っぽく思ってたんだ?」
「そう、だな。仕方ないだろう、頭の中はガキだったんだから」
「そうだったんだ。俺はてっきり心を開いてくれてないのかなって……そう思ってた」
 涼太はそう感じていたのかと、初めて知って驚いた。
「そんな事はないよ。俺は態度で示してなかったか?」
「……ん~、どうだろう、よく分からなかった」
「俺は好きな人間以外、懐いたりしないぞ?」
 そこで涼太はハッとした顔をした。
「そう言えば……高校の時もそうだった。話す時の視線の鋭さが違ってた……」
「だろ? 俺は『大好きオーラ』出してたのに、気が付いてもらえなかったのか……」
 俺が大袈裟に肩を落とすと、涼太は苦笑いを浮かべて
「ごめん、ごめん。俺も隼人の事は言えないな。天然系かも」
「…………今頃、気が付いたのか?」
 二人で顔を見合わせると、クスクスと笑みを零す。
 こんなゆったりとした時間をまた二人で共有できる。その喜びに俺の胸は踊っていた。
 涼太もそれは同じように見えた。視線を合わせていると、涼太はふと思い出したように
「そう言えばさ、記憶を戻したらそれまでの記憶はなくなるって聞いたことがあるけど、その時の記憶も残ってるんだ?」
「ああ、全部覚えてる。ただ……吉岡の記憶が、海外に出張したすぐ辺りから無いんだ」
 涼太は目を瞬かせると、薄く笑みを浮かべて
「あの人なりに、気を利かしたんだろうね」と、呟いた。
「そうなのかな……」
 確かに記憶の中の吉岡は、気の利く優れた上司だった。もし波多との事がなければ、本来はあのままの人物だったのだろう。世間の冷たい目が、彼を狂わせてしまったのかも知れない。そう思っていると、ふと北海道での事が気になり、聞いてみることにした。
「ところで昨日聞きそびれたけど、あの波多と会ってる時、俺はどうしてた? 俺は昨日も言ったけど、麻里と晴に会ってたんだが……」
「ん、あの時はね、急に隼人の声色が変わって、口調も変わった。そして波多を抱きしめるから驚いたよ。でも、何となく吉岡が乗り移ったんじゃないかって思った」
「……ふーん? それで?」
「最初は波多も驚いて隼人から離れようとしてたけど、二人だけの出来事なんだろうな、その話を隼人がすると、みるみる表情を変えて……。吉岡は波多の頭を撫でながら、ずっと謝っていたよ。やっぱり吉岡は、波多の事が忘れられなかったみたいで……。俺にも頭を下げて謝ったよ。『桜井君にも、迷惑を掛けてすまなかったって、伝えてくれ』って言って……。最後に俺に断ってから、波多にキスをして……それでまた元の隼人に戻った」
「……そうか」
 やはり吉岡の心の中には、ずっとあの青年がいたのだろう。
 しかし、町全体による酷い誹謗中傷をされ、その関係を断ち切らざる得ない状況に追い込まれた。釣り人の話では高校の時らしいから、子供にはどうする事も出来なかったに違いない。だから力を付けたくて、都会に出て一流企業に就職し、異例と呼ばれる出世を繰返した。そこで出会った波多の面影がある俺に、吉岡はその大きな心の傷を埋めたくて執着したのだろう。
 しかし、傷は広がるばかりで、いつのまにか吉岡自身も気が付かない内に精神を蝕まれ、堕ちて行ったに違いない。元々求める者が違うのだから、満たされる訳がないのだ。
 そう考えると、吉岡は同性との恋愛で世間との温度差に苦しんだ、哀れな人物だったのかも知れない。親父が危惧していたのは、そう言うことだ。
 俺達だって、明日は我が身。だが、俺にはそれを乗り越えられる自信があった。
 俺は遠くを眺めながら、呟いた。
「吉岡も、辛い思いをしたんだろうな……」
「そう……だね」
「でも最後はやっと思いを遂げられた。死んでしまわなければ、今頃、幸せだっただろうに……」
「……うん、そうだね。だけど、凄く満たされた顔をしてたから、また生まれ変わったらあの人と……巡り合うんじゃないのかな。お婆さんも言ってただろう? 人は転生するって」
 人としての道を踏み外してしまった吉岡だが、最後には俺との思い出を消す事で罪滅ぼしをしたかったのだろうと思うと、許せる気がした。
「そうだな、麻里もそう言ってた。今度は幸せになれるといいな。俺も死ぬ事があっても……生まれ変わって、またお前と巡り逢いたい」
「俺だって、そうだよ? 隼人とまたこうして……」
 涼太は俺を引き寄せると唇をそっと重ね、すぐに離れると潤んだ瞳で見上げる。
「……巡り逢いたいよ」
 頬を染めて思いの丈を告げる涼太に、胸が高鳴る。
 こんなにも愛しい涼太を、もう二度と悲しませたりはしない。俺は気持ちを新たに、考えを巡らせ決意をした。
 涼太と俺が幸せに暮らせる方法、それを思い描き、期待に胸を膨らませた。
 だが今はそれを告げないでいよう。その前に言わなくちゃいけないことがある。
 俺は涼太と額をコツンとつき合わせて、微笑んだ。
「ただいま、涼太」
 涼太はその愛らしい黒々とした瞳を更に潤ませて、柔らかな笑みを携える。一滴の雫が頬を伝って、ぱたりと零れ落ちた。
「お帰り……隼人」




――エピローグ――


 初夏の爽やかな風が吹きぬける。
 初老の男性は車椅子に乗ったまま、一つの墓標に花を飾り、蝋燭に火を灯すと線香を上げて手を合わせた。
 墓の後ろには、鮮やかなマリンブルーが広がる。
 後から二人の男性もゆっくりとした足取りで、その男性の後ろに並び手を合わせた。
「早いもんだな、あれからもう、三十五年か……」
 一人の碧眼の男性が、銀色に染まった髪を風に靡かせながら言った。
「そうだね、あの後、君達がこっちで式を挙げたのが、昨日の事みたいだ」
 もう一人の深いブルーの目をした、ロマンスグレーの男性も懐かしそうに呟いた。
「……ああ、そうだな」
 初老の男性は、車椅子から黒々とした瞳を空に向けて、懐かしそうに視線を漂わせる。
 暫くの間、三人は空を眺めていた。
 時折吹き抜ける潮風が、優しく頬を撫で通り過ぎ、さわさわと周りの木々が木陰を揺らした。
「――もう少しで、俺もそっちに行くから、ちゃんと迎えに来いよ?」
 それに応えるように、周りの草花がさわさわと靡いた。

 誰も居なくなった墓標には、茶色の癖のある髪を揺らしながら佇む男性がいた。
「ああ、約束するよ。その時は『お帰り』って迎えてやる。あの時お前がそう言ってくれたように……。そしてまた同じ時を、一緒に刻もうな――」 
 その男性は口許に笑みを浮かべると、空気と溶けあうように姿を消して行った。



――最終章 扉を開けて  FIN――



話の途中で更新が滞ってしまい、本当に申し訳ありませんでしたm( _ _ )m
important as the sameシリーズはこれにて終了とさせて頂きます。
このキャラ達と共に歩んだ三年間、とても楽しいものでした。
BLの難しさ、楽しさを教えてくれたこの子たちに感謝しつつ、また創作に励みたいと思います。
それでは長い間ご愛読頂きまして、誠にありがとうございました!

次回は投稿して結果が出ているものを載せようかな~とか考えてます^^
もしかしたら改稿して、どこかに送ることもあるかと思います。
その時は予めその旨をお知らせしてから削除する形になりますが、どうかご了承願いたいと思いますm( _ _ )m

それから作者都合で大変申し訳ないのですが、またこのように更新が滞ることが出てくるかと思います。
なるべく途中で話が切れないように、自動更新機能を使おうと思っているので、お返事も遅くなる事も多くなるかもしれません。その時は本当に申し訳ないですが、暖かく見守って頂けたらと思う次第です^^;

それでは、次回更新は月曜日の予定です。
新しいお話を楽しんでいただければ幸いです^^
前回の動画に拍手をありがとうございました。楽しんでいただけたみたいで良かったです(*´ω`*)



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――扉を開けて――<34> R-18

 突然、パンと軽快な音を響かせて、記憶の扉が開いた――まさにそんな感じだった。
 バラード調の曲に乗って今まで思い出せなかった記憶が、まるで早送りされているドラマのように、一気に蘇る。
「隼人……、どうした?」
 呆然と立ち尽くしていたのだろう、心配そうな視線を向けられる。
 眩しさで目を細めていた俺は、一瞬、誰か判別がつかなかった。
「――涼太……か? これ『LOOKA BOM』の曲だろ? 懐かしいな。どこにあった?」
「……え? 隼人……分るのか?」
「ああ……、思い出したよ、全部。この曲のお陰で」
「……全部?」
「そう、これはお前との出会いの切っ掛けをくれた曲だ。お前だって憶えてるだろう?」
 涼太は眉根を寄せて黒々とした瞳を潤ませ、身体を震わせながら俺に抱きついた。
 バラード調の曲は、俺が一番好きな曲だった。この曲が販売されたのは高校に入って直ぐ位の頃で、インディーズで解散してしまったバンドの、最後の曲だった。
 発売枚数があまりにも少なくて、幻のCDと呼ばれていたものだ。
 これを聞いていた涼太に声を掛けたのが切っ掛けで、俺達は親しくなった。
 それからの思い出が目まぐるしく駆け巡り、現在までの記憶で止まる。
 思い出せずに悩んでいた日々が、まるで嘘のように感じた。
 俺は涼太を強く抱きしめる。
「待たせたな、涼太……。お前には色々気苦労を掛けてしまって、すまなかった……」
 涼太は首を横に振り、涙をポロポロと零しながら見上げる。
「そんな……の、なんと……な……」
 しゃくり上げながら答える涼太が、愛おしくて堪らない。
「嘘を付くな。俺は全部って言っただろ? さっきまでのやり取りまで覚えてる。だから、本当にすまなかったな、涼太……」
「はや……と」
 次から次から溢れ出す涙を、俺は指で拭いながら涼太の顎に手を掛け、その唇を塞ぐ。
 柔らかな感触を堪能しながら、下唇を食み歯列をなぞって舌を忍ばせる。触れ合った舌先を絡め取り、深く味わっていく。
「……ん、ふっ……んん……」
 甘い吐息を零しながら、涼太も俺を味わう。何度も角度を変えて感じる所を突いていくうち、涼太の膝の力が抜けた。
「あ、ふ……」
 俺は唇を一度離し、じっと涼太の瞳を見つめる。
「涼太、お前が欲しい。俺が記憶を戻したって事を教えてやるよ」
 その言葉に涼太の腰が跳ねた。どうやら反応してしまったようだ。
 記憶を失くす前もそうだった。俺の言葉一つで愛くるしい反応を見せる。
 俺の心は煽られ、何にも替えがたい大切な者を、この手の中に収めたくなってしまう。
 再び口付け、腰に手を伸ばし支えながら、背中をなぞりシャツを脱がして行く。
 舌先を吸い上げ巻き込み蹂躙を繰返すと、涼太はもう立っていられないようだった。全てを剥ぎ取り横抱きに抱えると、涼太の雄は形を変えている。
「もっと気持ちいいこと、しような?」
「ばっ……! そんな恥ずかしいこと……いうなっ!」
 瞳を泳がして顔を真っ赤に染めオロオロする姿は、涼太が期待してる証拠だ。
 口では強がっていても、案外、快楽に弱い所がある。普段はあまり性的に積極的じゃないせいか、一度火を点けてやると、その燃え上がり方は激しい。
 乱れる姿は艶美で、堪らないほどに情欲をそそる。
 俺はその姿を思い浮かべながら、風呂場に向かった。
 一旦、脱衣所で涼太を降ろし、俺も服を脱ぎ捨てるとまた優しく抱き上げ、一緒に湯舟に浸かる。キスを交わしながら徐々に胸へと手を伸ばし、その小さな尖りを片方を捏ねながら、もう片方を啄ばむ。
「あっ……」
 背中と腰を摩りながら気持ちを昂らせてやり、雄の部分に触れるとビクりと跳ねた。
「んあっ……、あ、……」
 裏筋の勃ち上がった括れをグリグリと指の腹で擦り上げながら、二つの袋にも刺激を与えると涼太は身悶えしながら腰を揺らす。
「あ、はあ……っあ……あ、あ、……ぃ……」
 ここが涼太の弱い所だ。俺はその感覚を思い出し、更に刺激を与え続ける。
「はぁ……あっあ、……や、ぁ、……ん、、ぅ、だ……めだ……」
「駄目じゃないだろう? もっと気持ちよくなっていいんだ」
「ぁう……は、や……とぉ……」
 呂律が回らないほどに快楽を貪っている涼太に、キスを落としながら下にも手を伸ばし、指の腹で後ろとの境を円を描くように強弱をつけて擦り、全体を満遍なく掌で弄ぶ。
「あ、も……、んぁ、や、ぁ……あっ……!」
 耐え切れなくなったのだろう、湯船に白濁を散らした。
 追い討ちをかけるようにそれを扱きあげると、ガクガクと腰を揺らす。
 その表情はもう既に蕩けていて、涼太の欲望を充分に引き出していることが窺える。
 俺は湯船から涼太を抱えて出ると、身体を軽く拭いてバスタオルに包みベットに向かう。
 腰の抜けた状態の涼太をそっとベットに降ろし、うつぶせにさせると枕の下からローションを取り出した。
 それを掌に塗し、腰をグイっと持ち上げて秘部を晒すと、涼太は恥ずかしそうに首をふるふると振って、枕に顔を押し当てた。きっとその顔は真っ赤なことだろう。
 耳朶が真紅に染まっているのが見える。顔を隠していてもバレバレだ。
「……相変わらず、本当に可愛いな、涼太は」
「か、……可愛いとか……いうな……」
 きっと言葉では抵抗してみたいのだろう。しかし、されるがままになっている。
 そんな所も変わっていない。俺は思い出をかみ締めると胸の内が熱くなった。
 ヒクヒクと俺を欲しそうに蠢いている周りから解していくと、涼太の声色が変わる。
「ひぁ……あ、あ……ん、あ……」
 一度は果てた涼太の雄も、それに伴い頭をもたげる。周りから焦らしてゆっくりと解して行くと、弾力のある窄まりはその固い蕾を綻ばせる。まるで甘い蜜で誘うような華を咲かせる食虫植物のように、俺の指を咥えこむ。
 涼太をここまで開発するには、かなり時間がかかった事を思い出していた。
 最初は知識も何もなかったから、がむしゃらに探っていた。同じ男だからと思っていたが、やはり人それぞれ感じる所は違う。互いに悦いところを教え合い、二人だけの蜜事を繰返して築き上げてきた。
 そうして俺達は、心も身体も繋げて来たのだ。
 もう誰も俺達を引き裂く事なんて出来ない、そう思うと感動もひとしおだ。
 記憶の欠けた頃の俺は、多分、感覚的にそれを分っていた。
 だからあんなにも気落ちしたのかも知れないと思いつつ、悦びに咽ぶ涼太を可愛がる。
 前と後ろを同時に刺激して、背中にキスのシャワーを降らせると内腿が小刻みに震える。
 くちゅくちゅと掻き回しながら指の数を増やして行き、鍵状にして良い所を何度も擦りあげる。
「んぁ……あっ、あ……はぁ……ん……」
 こうなったらもう、涼太は嬌声しか上げられない。
 俺は耳穴に舌を這わせて、舌なめずりをする。それが俺の合図『お前の中に挿りたい』。
 それに反応して涼太は、半開きになり潤んだ瞳を向けて『欲しくて堪らない』そう訴えて来る。言葉にしなくても通じ合うことに、心が喜びで打ち震える。
 脇腹から掌を這いまわし、胸の尖りへと移動させるとふるるっと身体を震わせた。
 涼太が快感に浸れば浸るほど、俺は満たされて行く。
 あられもない姿を晒すのは、恋人である俺にだけなのだから。
 北海道旅行の時にも肌を重ねたけれど、その時とはまるで反応が違う。
 どこかよそよそしく、ぎこちなっかた。それを思うと、こんなにも乱れた姿を晒すのはやはり完全に気を許している証拠だ。記憶を取り戻した嬉しさに満たされながら、愛撫を繰返す。涼太は嬌声を抑える事無く、俺に身を委ねる。
 快楽に支配された涼太は、素直で、ねだる仕草も愛らしい。焦らしていたせいか、堪らなくなったのだろう。誘うように腰をくねらせ、より高く突き出してくる。普段の涼太からは、絶対想像出来ない仕草だ。
「お前の顔が見たいから、こっちに向こうな」
 仰向けに向きを変えて脚を高く持ち上げると、期待満ちた涼太の雄はヒクヒクと脈を打つ。そこからつーっと糸を引いたような蜜を垂らし、自分の腹を濡らしていた。
「ん、ぁ……」
「……前の俺じゃ、満足できなかっただろ? ごめんな」
 涼太は首を振り、瞳を潤ませながら微笑を浮かべ
「そんなこと……ない、よ……」
 健気にもそう告げる。本心はきっと満足できていなかっただろう。
 涼太は滅多な事じゃ自分からは誘わない。気遣いが出来る人だから、俺が疲れていたり、記憶が欠けていた時みたいに気後れしてると、それを察してしまう。
 涼太だって男だし、それなりに性欲も持っている。だから多分、その間は自分で慰めていたのだろう。そう考えると、俺の心は複雑に入り乱れる。
「……今から、その分を取り戻して行こうな」
 俺は涼太に覆い被さると、熱を宛がい深いところを目指す。
「ああっ……!」
 涼太は俺が侵入しただけで達してしまったようだ。白濁を腹に散らしたまま、後ろを小刻みに窄ませる。それほどまでに感じてくれているのかと思うと、俺も堪らなくなる。
 俺は涼太の髪を梳きながら、熱に浮かされた唇を耳に押し当てる。
「涼太の中、暖かくてうねってて、気持ちいいよ」
「……俺も、隼人ので埋められて、凄く感じてる……」
 そんな事を言われては、俄然やる気が沸いてきてしまう。もっと涼太に悦びを与えたい、限界が来るまで可愛がってやりたいと。
「そう、か。でも、もっと……俺を感じてくれ」
 回すように腰をくねらせてから最奥を突くと、涼太は息を呑む。
 抽送に緩急をつけ、寸での所から押し込むようにすると、涼太はひっきりなしに嬌声を上げ、シーツを掴み乱れに乱れる。何度も達したのだろう、腹や胸に散った白濁は量を増し、ついには脇を伝って流れ落ちて行く。先からも途絶える事無く溢れ出し、涼太は気を失う寸前のようだった。
「あ……あぁ、隼人、す、き……、愛……して……る」
 うわ言のように繰り返し告げながら、壮絶な色香を放つ涼太に俺の心も乱され、抽送を速め頂点へと駆け上がっていく。壊れそうなくらい高まる心音と上がる息に、そろそろ限界が見えてくる。
「りょ……太、俺、も、あい……してる、一緒にイ……こう?」
 とろんと蕩けきった瞳で眉根を寄せながら、涼太はコクコクと頷いた。
 俺はまた寸での所から深く突くと、小さく呻いて最奥に精を放つ。
 注がれる熱に反応して、中が熱く蠢いた。
「はぁ……あ、あっ……っ!」
 涼太も勢いは無くしたものの、薄くなった白い体液をぱたぱたと零し、身体を弓なりに逸らせたまま小刻みに震わせていた。
 そこで涼太は意識を手放したのだろう、カクンと全身の力が抜ける。
 俺は涼太の頬にキスを落とし、そっと離れると温かいタオルで涼太の体を綺麗に拭いてやり、自分も汗を流してからベットに戻ると、布団を被って腕枕を施した。
 規則正しく刻まれる吐息に愛しさを感じながら、俺も意識を手放した。



               ――to be continued――

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――扉を開けて――<33>

 怒涛の北海道旅行が終わり、あれから三ヶ月ほど過ぎた。ようやく夏の残暑も薄れ、秋の気配が漂っている。それからの日々は至って平穏だった。
 俺はもう、吉岡の霊に悩まされる事もなくなり、病状も回復して薬も処方されなくなった。今ではアルバイトではあるが勤め、蓬田さんも定職に就き、お互いそれぞれの日常を歩んでいる。長かった髪もばっさりと切り落とし、蓬田さんが作ってくれる食事が旨すぎて、身体も元の体格に戻った……らしい。
 見た目は多分、以前の俺に近いと思う。だが、結局、記憶は戻る事はなかった。
 それでもあの悪夢のような日々を考えると、幸せだった。
 今日もアルバイトを終えた俺は、家路へと急ぐ。
 車の免許を再取得し、俺が乗っていた車は蓬田さんが整備してくれていたお陰で、今も軽快な走りをしてくれる。
 マンションに着き、着替えを済ませると蓬田さんが用意してくれている夕食を温めて、それをよそうと玄関のチャイムが鳴る。
 俺は帰ってきたご主人様でも迎えに行く犬のように駆け出し、その扉を開けた。
「ただいま、隼人」
「お帰りなさい、蓬田さん」
 いつもオイル塗れで帰って来る蓬田さんは、やはり車が好きなのだろう、いつも上機嫌そうだ。その笑顔を見ているだけでも幸せな気分に浸れる。

 ざっと身体の汚れを落とした蓬田さんが、テーブルに着く。
「いつもありがとうな。さ、飯にしよう?」
「あ、はい。でも俺は温めただけですけどね?」
 そう言うと蓬田さんはクスッと笑みを零す。
「でも進歩したよ。皿を割らなくなっただけでも、進化してると思うよ?」
「……物凄い遅い進歩ですけどね」
「いや、前だって隼人は……」
 そう言い掛けて蓬田さんはハッとして口を噤んだ。
 俺はそれにどう接して良いのか困惑しつつも、笑顔を向けた。
「あー、前の俺も、こんな感じでした?」
「あ、うん……そうだね。……それじゃ食べようか?」
「はい。それじゃ、いただきます」
 俺は何事なかったように挨拶をし、食事をする。蓬田さんの気を遣わせないために。
 きっと彼も無意識に、以前の俺の事を話してしまうのだろう。
 あの北海道での出来事で記憶が戻らなかった事が、残念だったのだとは思う。
 可能性が見えていただけに、その心残りは計り知れない。
 だが、それは俺も同様なのだ。記憶が戻らない歯痒さで、落ち込むこともしばしばだ。
 しかし、戻らなかったものは仕方ない。この先の軌跡を、二人で築いて行くしかないのだから……。
 夕飯を済ませると、俺は洗物をする。その間、蓬田さんは風呂の準備をしてくれる。
 何気ない日常――。だけど、俺はやはり過去の自分に勝てない。
 それがコンプレックスとなってしまい、北海道旅行のあの日以来、蓬田さんと肌を重ねる事もなかった。
 俺から誘えば、きっと応えてはくれる。だけど、変なプライドが邪魔をして、誘うのも躊躇われた。深い息を吐き、洗物を終えると、紅茶を淹れる。
 カールさんのようにうまく茶葉から淹れられない俺は、市販のティーパックを使う。
 それでも蓬田さんは美味しいと飲んでくれた。
 蓬田さんの優しさに触れるたび、俺は切なくなって行く。
 このまま――記憶を失くしたまま、これから一生、蓬田さんの側にいても良いのだろうか……。そんな時、ふと麻里の言葉を思い出した。
『一つだけお願いがあるの』――。
 俺はあの出来事のゴタゴタに紛れ、それをすっかり忘れていた。そして俺があちらの世界に飛ばされていた時の話にも興味があり、蓬田さんが戻ったらその話をしようと思っている矢先、リビングの扉が開き、当人が姿を現す。
「あ、紅茶入りました。良かったらどうぞ」
「ん、ありがとう。もう少しで風呂が沸くから、先に入って良いよ」
「はい。ありがとうございます……。ところで蓬田さん、あの時、俺はどうなっていたんでしょうか?」
「……あの時?」
「ええ、北海道で波多さんと……」
「ああ、あの時ね。そう言えば、隼人はそこの記憶は?」
「無いです。その時俺は、どうやら霊界にいたらしくて」
「……霊界?」
「ええ。麻里と晴くんに会って来ました」
「そうなんだ。それで?」
 俺はその時の話をした。
 麻里が言っていたメッセージを言い終え、少しの間沈黙が訪れる。
 そこにタイミングよく、風呂が沸いたと知らせるアラームが鳴った。
 蓬田さんは上の空のようだった。きっと何か考えているに違いない。それを聞こうかとも思ったが一度、話を終わらせてからの方が良いだろうと思った。
「じゃあ、先にお風呂使いますね?」
「あ、ああ。どうぞ」
 ぼんやりと考えに耽る蓬田さんを後に、風呂に浸かると考えを巡らせる。
 蓬田さんは麻里の話を聞いて、どう感じただろう。
 そして記憶がない間、何が起こっていたのだろう。
 そんな事を考えつつ風呂から上がると、聞き慣れないメロディーがリビングに流れていた。アップテンポのそのメロディーは、蓬田さんの好みじゃないような気がした。
 だがその曲は、どことなく聞いた事があるような感じだ。記憶を手繰ると、俺が中学二年くらいから嵌っていた、バンドの曲調に類似している。
「珍しいですね、蓬田さんがこんな曲を聴くなんて」
「え、ああ……ちょっとね」
 蓬田さんは複雑そうな眼差しで宙を仰ぎ、その音楽に耳を傾けているようだった。
「あの……、ヘビメタ、好きなんですか? なんか意外ですね」
「あ? ああ……中学の時の友達の親がね、このバンドを組んでいて……」
「そうだったんですか。俺、ヘビメタ系好きなんですよ。この曲も良い感じのノリですね」
 俺はアップテンポの曲調に機嫌を良くし、満面の笑みを向けた。
 ところが蓬田さんは寂しそうに口の端をあげる。
「……でももう、捨てなきゃって思って……」
 曲調が変わり、バラード調の曲が流れ出す。
「え、どうしてですか?」
「……うん、それは後で話すよ……。それじゃ、俺も風呂に――――」
 曲のサビの部分が流れた時、蓬田さんの声が遠ざかった。
 瞬間、俺は今まで錆び付いて解けなかった鎖が壊れるような衝撃を頭に受けた後、目の前がおびただしい光に覆われ目を細めた。



               ――to be continued――

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――扉を開けて――<32>

「それでその因縁のある先祖が、今度は成長したお兄ちゃんを狙ったらしいの。お兄ちゃんはあの事件で命を落とす予定だった。だけど、それを護ってくれたのが涼ちゃんなんだ。涼ちゃんは自分の運を下げる事で、私達を生き長らえさせてくれた恩人なの」
「え、運を下げるって、そんな事できるのか? 自分の意思で?」
「涼ちゃんはね、誰かを好きになる事でその力を発揮する、特異体質らしいの。それを自分で分ってないから、疫病神だなんて思ってる。でも涼ちゃんは、一人の人しか護れないみたい。きっとあたしも護られていた。だけど、晴が産まれてその力が分散しちゃったから、あたしと晴は命を落としたんだと思う。確かに護られてはいたけど、きっともっと想われていたら……。悔しいけど仕方ないよね。だから、ちゃんと最後まで一緒に居てあげてね?」
「そう、だったのか……。でも蓬田さんは今も、麻里や晴くんを大切に想っている。現にそのために必死になって行動してくれてただろう?」
「うん、分ってるよ。だけど、あたしは結局、お兄ちゃんに負けたちゃった。けど、お兄ちゃんだから許せる。あたしもお兄ちゃんが大好きだから」
 麻里はそう言って微笑んだ。
 俺は複雑な気持ちになりながらも、麻里に笑みを返す。
「まだ人生の旅が続けられるのは、みんな涼ちゃんのお陰なの。結果的には私達の代で終わってしまう事にはなったけど、お兄ちゃんがまだ現世で経験を積めるようにしてくれたのは、涼ちゃんなんだからね。人は肉体が滅んだ時、全ての記憶を神に返す。現世でのその経験は神の記録に刻まれた後、リセットされる。そしてまた違う経験をするために、転生を繰返す。そうやって人間は巡っているんだよ。だから『桜井隼人』として生まれた人生は一度きりだから、残りの人生を楽しんでね」
「そっか……。色々教えてくれてありがとうな、麻里」
 俺は麻里と晴くんを抱きしめた。麻里は照れたようにしながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「お兄ちゃん……あたしの分まで、涼ちゃんを幸せにしてあげてね?」
「ああ、分ってるよ。でも、先祖がどうこうじゃなくても、麻里に言われなくても、俺はずっと蓬田さんの側にいるつもりだ」
 麻里は口を大きく横に広げて、とっておきの笑顔を見せ、羽を広げる。
「もーやだ、のろけ? ま、良いけど。あ、そろそろ終わったみたい。私も天に戻らなくちゃ。暫く他の仕事サボってたから、怒られちゃう」
「悪かったな麻里……」
「いいのよ。吉岡みたいな迷ってる人を導くのが、あたしの仕事でもあるの。ホントあいつ頑固だったから、手間が掛かっちゃっただけ。だけど……あいつも根は悪い人じゃないから……。さ、お兄ちゃん、もう帰って。涼ちゃんが待ってるから」
 麻里にそっと背中を押され、俺は白い雲を突き抜け下に落ちていく。
 最後に麻里の声が聞こえた。
『桜井家の人々と涼ちゃんに出会えて、幸せだったよ。またどこかで会おうね』と。
 俺は心の中でそっと応えた。
『俺も麻里に出会えて、幸せだった。生まれ変わってもまた、晴くんも含めて家族になろうな』と――。

 気がついた時は、俺は波多を抱きしめていた。
「晃……あきらぁ……」
 波多は泣きながら吉岡の名を呼んでいた。
 吉岡と波多は和解したのだろう、俺はそっと波多から離れる。
「あき……ら?」
「すみません、吉岡さんはもう離れたみたいです……」
 俺がそう言うと、波多は俯きながら「そうですか……」と答え、俺から離れた。
「……蓬田さん、晃は本当に……いたんですね。疑ったりして、すみませんでした……」
 涙ぐむ波多に向かい、蓬田さんも目を赤くして、泣いていたのだろう、目許を擦ると首を横に振る。
「いえ、俺も占いのお婆さんに聞くまで、確信は持てませんでしたから」
「……占い?」
「ええ。この場所が分ったのも、そのお婆さんのお陰なんです」
「そうでしたか……。来てくれて……ありがとうございました」
 波多は俺と蓬田さんに向かって、深々と頭を下げた。最初の印象とは大きく変わり、実直な好青年に見えた。
 きっと吉岡と話すことで、心に蟠った大きな傷を癒やしたに違いない。
 さわさわと潮風が吹き、吉岡の墓石の花を揺らした。蓬田さんはその花を眺めながら
「こちらこそ、会えて良かったです。吉岡さんも、もうこれで苦しまなくて……」
「はい、なんて礼を言ったら……。先程は、本当に失礼をしました。桜井さんにも……辛い思いをさせてしまって……。晃ももう、あなたを解放してくれると思います」
 何が起こっていたのか分らないが、きっと吉岡はここに留まるのだろう。
 なんとなく波多さんの側に立っているような気がした。
 俺は波多さんに視線を合わせると、頷いた。
「そうですね、もう彼も間違ったりしないと思います」
「……そう言って貰えると……あなたには申し訳なかったけれど、嬉しいです。僕はこれからもずっと、晃と共にここで生きて行きます。晃が迎えに来るその日まで――」
 潤んだ瞳で見上げながら微笑む姿は、吉岡が恋したであろう、凛としたものだった。
 波多さんの言葉に応えるように、潮風が吹き抜けていく。しばしの沈黙が続いたのち
「それじゃ俺達はこれで……。波多さんも身体に気をつけて」
 蓬田さんはそう言うと、波多さんに礼をした。俺も一緒に頭を下げる。
「あなた達も気をつけて……。これから幸せになって下さい」
 俺達は再び波多さんに頭を下げると、その墓地を後にした。



                ――to be continued――

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――扉を開けて――<31>

すみません、文字数の関係でちょっと変な切れ方をしてます^^;


 俺はまた白い空間に投げ出され、漂っていた。
 何が起こったのか分らず、周りを見回してみると麻里が微笑んでいた。
 消えかけていた身体はすっかり元に戻り、くっきりとその姿を現している。
「ま、麻里!? 無事だったのか?」
「お兄ちゃん、ありがとう。あたしは見ての通り、大丈夫」
 その言葉に安堵し、深い息をついた。
「でも、どうして俺はここに?」
「今、吉岡がお兄ちゃんの身体を貸して欲しいってね、言って来て。あいつ、やっと目が覚めたみたいだから、特別に許可してあげたわ」
 ぶわっと白い大きな羽を広げ、全身に輝きを増した麻里は、天使そのものだった。
 俺がそれに見とれていると、麻里は笑みを零す。
「羽も戻ったし、これでまた天に戻れるわ。お兄ちゃんのくれた羽、とっても役に立ったよ。天使まで昇格してなかったら、あたしは誰も護る力も無かったし、とっくに消えていたから」
「そうか……そこの記憶は無いんだけど、背中にあったアザか?」
「うん、そうだよ。あれは天使の羽だったの」
「そっか……。ところで、俺はどうなるんだ?」
「大丈夫、肉体にはちゃんと繋がってるから。足元を見てみて?」
 確かに前にも麻里が言ったように、足元には透明なひも状のものが繋がっていた。
「んー、これはどういう状態なんだ?」
「身体に魂は二つも入れないの。それで一次的に避難場所としてお兄ちゃんはここに居るってわけ」
「……でももし、吉岡が俺の身体から離れなかったら、俺はどうなるんだ?」
「死霊はね、元々肉体がないから、一時的に乗り移る事ができるけど、肉体のマスターが居る限り、ずっとは無理。せいぜい三十分ってところかな」
 それを聞いて安堵の息をつく。そこに「ママ!」と晴くんが駆けて来る。
「あー、晴! 心配させてごめんね、でもママ強かったでしょ?」
「うんっ!! ママ凄かった! 僕も大きくなったらあんな風になれるかな?」
「そうねー、あと三回くらい転生して、経験を積まないとね」
 麻里は満面の笑みで晴くんを抱える。晴くんは俺を見てニッコリと微笑んだ。
「おじちゃん、ママを助けてくれて、どうもありがとう!」
「いや、お礼を言うのは伯父ちゃんの方だよ。ママと一緒に戦ってくれて、ありがとうな」
 頭を撫でると嬉しそうに微笑む。
「……麻里もありがとうな。今まで辛い思いをさせて、すまなかった」
 麻里は首を横に振る。
「だって、お兄ちゃんはあたしの大切な家族だもん。現世で縁があって結ばれた兄妹だから……。そして涼ちゃんも家族だから」
 麻里の気持ちが嬉しくて、気がつけば俺の頬は濡れてた。
「ありがとうな、麻里」
「やだ、泣かないでよ! そんなんじゃ涼ちゃんに嫌われちゃうんだからね?」
 麻里はおどけた顔をして笑みを浮かべる。俺は掌で涙を拭い、笑顔を向けた。
「そうだな、しっかりしないとな」
「そうだよ。それでなくても中身が子供なんだから、しっかりしないと!」
 麻里の言葉に俺は、疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。
「なあ、俺の記憶は戻るのか?」
「……それはあたしにも分らないわ、ごめんなさい」
 麻里は申し訳無さそうに俯いた。俺はかなり気落ちしたものの、こうして麻里が無事だっただけでも良かったと思い、首を横に振る。
「いや、良いんだ。お前が無事だっただけで」
 麻里は微妙な表情をしながら微笑んだ。
「だけど、お兄ちゃんは涼ちゃんから好かれてるから、きっと大丈夫だよ。この先、記憶が戻らなかったとしても……。あのねお兄ちゃん、一つだけお願いがあるの」
「ん? なんだ?」
「涼ちゃんがね、自分は疫病神だなんて思ってるんだけど、それは違うって教えてあげて」
「どういう事だ?」
「簡単に話してしまえば、私達の生まれた桜井家って、本当は物凄く短命なの。なんか先祖の因縁らしくて、あたし達の代で終わる事になってるんだって。あたしも実はここまで生きられたのが奇跡だって神様に言われたよ。あの川で溺れて死ぬ予定だったみたい」
「そうだったんだ?」
「だけど桜井家の先祖がそれを阻もうとお兄ちゃんに羽を渡したんだけど、結局生きてる人間にはそれは使えない。だからあたしが貰ったの。お兄ちゃんも一度、あたしが生まれる前に命を落としかけた。小さい頃だから憶えてないと思うけど。でもその時はまだ小さくて、天界に近かったから何とか難を逃れたんだ」
 麻里の話を、ぼんやりとしながら聞いていた。現実的な事にしか、実感がわかない。
 そんな不思議な事もあるのかと思いつつ、相槌を打っていた。



               ――to be continued――

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